49. 2012年7月10日 07:29:32
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メディアは世界の自然エネルギーへの取り組みなどを紹介し、あたかも世界のエネルギー供給源のひとつになり得るかのように報道しています。特に太陽光発電は人気があるようで、原発をソーラーで置き換えるべきと主張する政治家も出てきました。 しかし、世界の総エネルギー消費のうち、自然エネルギーの占める割合は現在1.3%ほどです。その自然エネルギーの内訳は、風力が一番多くて、全体の0.7%ほどです。エタノールなどのバイオ燃料は半分近くの約0.5%を占め、ソーラーはエネルギー消費全体の約0.1%ほどになっています。資源エネルギー庁の資料によれば、日本では太陽光発電、太陽熱利用、バイオマス直接利用、風力発電、地熱発電などを全てを足しても、これら自然エネルギーは日本のエネルギー消費全体の0.3%ほどにしかなりません。 まず、これが現状だということを知っておく必要があるでしょう。原子力や化石燃料を自然エネルギーで置き換えていくと簡単に考えるのは、どれほど楽観的に見ても、前途多難だと言えるでしょう。 日本が今まで自然エネルギーに全く取り組んでいなかったのならば、今後、ある程度の伸び代も期待できるかもしれません。しかし、日本はすでに世界有数の自然エネルギー大国です。太陽光発電施設の総容量の国別のシェアを見ると、日本はドイツ、スペインにつぐ世界第3位です。ちなみにこの世界第3位の太陽光発電施設を誇る日本ですが、ソーラーは日本のエネルギー消費の0.1%も満たせません。 世界の1次エネルギーの内訳 石油33.6%、石炭29.6%、天然ガス23.8%、水力6.5%、原子力5.2%、自然エネルギー1.3% 自然エネルギーの内訳 風力0.66%、バイオ燃料0.49%、ソーラー0.13%、地熱0.04% 太陽光発電能力の国別割合 ドイツ47%、スペイン16%、日本13%、アメリカ6%、イタリア5%、韓国2%、ドイツ・スペイン・イタリア以外のEU:7%、その他4% 1970年代のオイルショック以降、日本国政府は太陽光発電に莫大な税金を投じてきました。サンシャイン計画、ニューサンシャイン計画、ムーンライト計画など、兆単位の国民のお金が投入されてきたのです。実際に欧米でバブル景気が始まると2005年ぐらいまで、日本は太陽光発電の分野で質・量ともに圧倒的な世界一でした。 ところが金融バブルで好景気に沸いていたヨーロッパ諸国が、太陽光発電に巨額の補助金を投入し始めました。そして、ソーラーパネルの生産量でも、日本企業はナンバー1の地位をヨーロッパに明け渡すことになったのです。 シャープや京セラなどのソーラーパネルの生産でトップを走っていた日本企業を、鮮やかに抜き去ったのがドイツのQセルズというベンチャー企業です。 2005年ソーラーパネル製造のメーカー別シェア(世界生産量:1759MW) シャープ(日本)24.3%、Qセルズ(ドイツ)9.1%、京セラ(日本)8.1%、三洋電気(日本)7.1%、三菱電機(日本)5.7%、RWEショット(ドイツ)5.4%、BPソーラー(アメリカ)5.1%、その他35.2% 2007年ソーラーパネル製造のメーカー別シェア(世界生産量:4279MW) Qセルズ(ドイツ)9.1%、シャープ(日本)8.5%、サンテックパワー(中国)7.9%、京セラ(日本)4.8%、ファーストソーラー(アメリカ)4.7%、モーテック(台湾)4.1%、ソーラーワールド(ドイツ)4.0%、三洋電気(日本)3.9%、その他53.0% ところが一時は100ユーロを超えていたQセルズの株価は、2011年12月現在では、わずか0.5ユーロです。何と株価は200分の1になってしまったのです。自然エネルギーに積極的だったスペインなどが、金融バブルがはじけて財政破綻してしまい、発電の足しにならない太陽光発電などの自然エネルギー推進プロジェクトへの補助金をカットせざるを得なくなったからです。 また、2011年8月には、アメリカ第3位のソーラーパネル製造メーカーのソリンドラも連邦破産法第11条を申請し、破綻しました。ソリンドラは政府から融資を受けるために、経営状況や自社製品の性能や将来性に関して、虚偽の報告をしていたのではないかと疑われており、2011年12月現在、FBIに捜査されています。 世界同時金融危機、そしてその後のギリシャ危機などで、欧米のグリーン・テック・バブルが崩壊し、現在の欧米には自然エネルギー関連企業が死屍累々と横たわっています。 やはり政府の財政が厳しくなってしまうと、補助金ビジネスである自然エネルギーへの税金の投入はすぐに切られてしまうようです。年金や医療費をカットしようという時に、誰もソーラーの補助金を増やそうとは思いません。 もうひとつの理由は、中国メーカーの躍進です。欧米のメーカーは中国と競争できなくなってしまったのです。自然エネルギーに力を入れるドイツの電気代は非常に高くなりました。ソーラーパネルは製造に大量の電気が必要なので、皮肉なことに自然エネルギーに力を入れている国では、ソーラーパネルを製造できないのです。 現在は、中国のサンテックパワーなどが、ソーラーパネル製造の市場を席巻しています。 実は、日本のメーカーは欧米がグリーン・テック・バブルに沸いていた頃、過剰な設備投資に慎重だったのです。さらなる設備増強をしてナンバー1の地位を維持するという選択もできましたが、補助金が止まれば過剰設備を抱えることになり、バブルに乗るのは危険だと判断したのです。あくまで結果論ですが、日本のメーカーは正しい判断をしたようです。 自然エネルギーは環境にやさしい、と思われがちですが、残念ながらいくつかの環境破壊を引き起こしてしまうのも事実です。 風力発電では、低周波による騒音や、風車が周期的に太陽光を遮るストロボ効果による周辺住民への健康被害、野鳥を風車が撥ねてしまうバードストライクなどがよく知られています。 太陽光発電も環境破壊とは無縁ではありません。菅直人前首相が国際公約してきた日本のソーラー1000万戸計画ですが、有毒物質を多数含む蓄電池を、管理の行き届かない1000万戸もの一般家庭に取り付けるというのは、電池の寿命や、故障した時の産業廃棄物の観点から言えば、非常にやっかいな問題になるでしょう。 ソーラーパネル自体は、現在、シリコン系とカドミウム・テルル系の2種類が主流ですが、いずれにしても寿命が来れば大量の産業廃棄物を生み出します。特にカドミウムは、日本の4大公害のひとつであるイタイイタイ病の原因物質であり、強い毒性があります。また、蓄電池には、希少な金属が多数使われており、これらの資源の問題もあります。 風力や太陽光は、発電コストの点で火力や原子力に太刀打ちできませんが、地熱に関しては火山国のアイスランドが、その豊富な地熱資源を利用して経済的にも成り立つ電気エネルギーを生み出すことに成功しています。アイスランドでは豊富な地熱を利用して、大量の電気を消費するアルミニウムの精錬工場を誘致しているほどです。しかし、日本の場合、地熱発電に適する場所が温泉街と重なってしまいます。やはり温泉の良質や、湯量への影響などが心配されます。温泉で生計を立てている地元住民の了解を得て、地熱発電所を建設するのは非常に困難でしょう。日本では、用地買収や地元の説得など、原発建設と同じような困難があると言ってよいでしょう。 太陽光や風力のような自然エネルギーはアクシデントがなくても、より多くの土地を消費してしまいます。これは太陽光や風力は空間に漂う非常に低密度のエネルギーを利用しなければいけないという、どうしようもない物理的な限界のためです。この極めて小さいエネルギー密度が、自然エネルギーが世界で普及しない最大の理由なのです。太陽光や風力は、同じ面積、あるいは同じ体積から搾り取れる電気エネルギーが、極めて少量のウラン核燃料から莫大な電気エネルギーを作り出せる原子力と比べて、極端に小さいのです。このエネルギー密度という概念が、エネルギー源の経済性を考える上で非常に重要になります。 100万KW級の原子炉1基を太陽光発電で置き換えた時に必要になる面積は約67㎢(山手線の内側面積とほぼ同じ)、原子炉1基を風力発電で置き換えた時に必要になる面積は約248㎢(山手線の内側面積の約3.7倍)となります。また、原子力発電所は原子炉を3〜5基程度併設するのが普通なので、実際には日本の標準的な原子力発電所を置き換えるには、さらにこれの3〜5倍程度の土地が必要になります。しかも発電できるのは、ソーラーは天気のいい昼間だけですし、風力は風が吹いている時だけです。 原子爆弾を想像してもらえば容易に理解できますが、核エネルギーの圧倒的なエネルギー密度と、日常生活の中で我々が直に接している太陽光や風力との違いが如実に表れてしまうのです。そしてこれは物理的な限界なのであって、多少発電効率が上がったところで解決しないのです。 なぜならばエネルギー保存則という物理学の絶対的な法則があり、太陽光や風力の持っている光や風のエネルギー以上の電気エネルギーは絶対に生み出せないからです。つまり発電効率は100%を超えることは絶対にあり得ず、エネルギー密度が低い太陽光や風力を利用する限り自ずと限界があるのです。実際のところエネルギーは熱のような質の低いものにどんどん変わっていってしまうという熱力学の第二法則により、発電効率は30%に達するのも極めて困難です。 よく「これだけの太陽光発電施設や風力発電施設を作れば全ての原発を置き換え可能」などといった自然エネルギーをアピールするキャッチ・フレーズを見かけますが、少々、誤解を招く表現だと思います。太陽光や風力は文字通り「天気まかせ」「風まかせ」の発電方法なので、当然ながら気象条件に左右されます。現状では大きな電力を蓄えることが可能な蓄電池は現実的なコストで作ることが出来ないので、電気というのは、需要に合わせてうまく発電して供給していくしかないのです。 自然エネルギーは、必然的に火力発電や原子力発電と組み合わせる必要があるのです。つまり自然エネルギーだけで全ての電気を供給することは出来ないのです。夜には全く発電しないソーラーパネルを考えれば明らかでしょう。 電力供給とは、刻一刻と変化する電力需要に対して、様々な電力源を活用して需要よりもわずかに大きい電力供給を正確に実行していく、高度な制御技術なのです。つまり、次の式を満たすように発電設備を設計しなければいけません。 電力需要の最大値<発電キャパシティーの最小値 発電能力は、その平均値や最大値ではなく、むしろ最小値で評価されてしまいます。この点から、安定した供給が出来ない自然エネルギーの利用はとても難しいのです。現実には、不安定な電源は、利用するコストが非常に高ので、日本では風力発電などで作られた電力は補助金だけ払ってそのまま捨てているのが現状です。また、ヨーロッパ諸国など、自然エネルギーの育成に積極的な国では、こういった不安定な電源の性質を補うために、空焚きした火力発電所のバックアップが必要になり、かえってCO2の排出量が増加したという報告もあります。 2006年11月、ドイツなどの風力発電設備からの電力供給が予測から大きくズレたため、送電網に大きな負担がかかり、欧州の1500万世帯にも及ぶ、欧州大停電を引き起こしています。その後、風力や太陽光の不安定な電源を扱うため、欧州では送電網のスマート化に多大な投資を続けています。スペインなどは、風力発電の割合が高く、発電量が急激に上昇しそうな時は、直ちに送電網から切り離し、陸続きのフランスから電力を引き入れるというような、綱渡りのオペレーションを続けているのです。 非常に低いエネルギー密度と、この不安定さが、自然エネルギーの普及を大変難しくしているのです。 2011年8月に完成したメガソーラーで、川崎市と東京電力が炭素フリー社会を目指して作った、11ヘクタールの敷地面積を誇るモンスター級の浮島太陽光発電所があります。最大出力は7,000KWで、順調に行けば年間740万KWほどのエネルギーを生み出します。 2011年12月に、近くの埋め立て地に、敷地面積23ヘクタール、最大出力13,000KWで、年間約1,370万KWの電力を供給出来る扇島太陽光発電所が完成しました。この二つの太陽光発電所を合わせて国内最大のメガソーラーになりました。 最新の原発の出力は130万KW程度なので、菅直人前首相が支持率の回復を狙って突然停止した浜岡原子力発電所の5号機の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)が1基で、浮島と扇島の34ヘクタールの敷地を占有し、1年間かけて生み出す電力量を約16時間で賄える事になります。浮島だけなら5時間半です。原子力発電所には複数の原子炉が併設されるので、浜岡原子力発電所全体ではものの数時間で、この国内最大の浮島・扇島太陽光発電所が1年間かけて生み出す電力量を作ってしまう事になります(浮島だけなら小1時間)。 やはり今のところ自然エネルギーは、原子力や火力と比べると、圧倒的に非力だと言わざるを得ないようです。 「今はそうでも、将来の技術革新で何とかなる」という自然エネルギー推進論者も多くいます。その可能性はゼロではありませんが、楽観視出来ません。太陽光発電や風力発電は、何か新しい技術ではなく、何十年も前からある枯れた技術です。今後も、多少は技術革新があるでしょうが、それは非常に緩やかなものになるでしょう。ビジネスとしても、ソーラーパネルや風車などの製造は、人件費や電気代の安い中国が中心になっていき、日本のような先進国で雇用増は見込めません。 また、エネルギー密度の低さと電源の不安定さのために、原子力や火力と経済性で競争することは出来ません。 要するに、自然エネルギーというのは政府の補助金が頼りの産業で、補助金が打ち切られたら次々と破綻していくというそれだけのことなのです。 日本でも、2011年8月に再生可能エネルギー特別措置法が成立し、太陽光や風力で発電された割高な電気を電力会社が強制的に購入させられる事になりました。誰でも自然エネルギー事業に参入でき、その電気を電力会社に高値で売ることが可能になります。しかしこのような方法が本当にいいのか、大変疑問に思っています。「素人が作った納期も品質も保証出来ない商品を、棚に乗せた時にはとにかく市場価格の何倍で買え」などといったことが本当にいい事なのでしょうか。電気代に転嫁されるにしろ、政府が補助金を渡すにしろ、それは国民一人一人の大切なお金です。 「たかがお金」というのはまともに働いた事がない人の言う事です。お金を得るために、皆必死になって朝から晩まで働いています。貴重なお金はもっと有効に使いたいものです。 |