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柏崎刈羽原発〔PHOTO〕gettyimages
こんなときに「東電柏崎原発」再稼働計画かよ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32839
2012年06月25日(月)週刊現代 :現代ビジネス
日本も世界も変わったのに、変わらないのはこの国の中枢だけ(2)
本気でやるつもり これで政権が潰れても知ったことではない 国民の意見には聞く耳を持たない これぞ原子力ムラの常識
■すべてはカネのため
「東京電力は福島原発事故の容疑者のような存在で、しかも公的資金を投入されている禁治産者=Bそれなのに国民の生命や安全を考えず、儲けのために柏崎刈羽原発の再稼働に踏み出そうとしているのですから許されません。政府も財界も儲けるために協力しているだけ。政官財の癒着です」(ルポライター・鎌田慧氏)
東電が策定し、経産省が認定した「総合特別事業計画」。今後の組織改革や事業運営など、東電の将来的なあり方をまとめた青写真だ。あらましは、全68ページの「総合特別事業計画の概要」にまとめられているが、そこに以下の一文がごく小さな文字で差し込まれている。まるで見つけられないことを願うかのように。
〈柏崎刈羽原子力発電所については、今後、安全・安心を確保しつつ、地元の御理解をいただくことが大前提ではあるが、今回の申請における3年間の原価算定期間においては、2013年4月から順次再起動がなされるものと仮定して原価を算定〉(傍点・編集部)
つまり東電は、停止または点検中の柏崎刈羽原発1~7号機(新潟県)を来春から「順次再起動」させるという前提のもとで事業計画を作成したわけだ。今年7月1日から家庭向け電気料金を10・28%値上げするというのも、原発再稼働が前提になっている。
東電はまた、原発の再稼働が行われなかった場合、家庭向け電気料金は15・87%の値上げが必要になるという試算まで公表している。東電の原発再稼働を認めなければ利用者の負担はさらに増える―東電は国民生活を人質にして、原発再稼働を目論んでいるのだ。
なぜ、東電はそうまでして再稼働にこだわるのか。「再稼働について、銀行や政府の要求があった」と、東電関係者が内情を漏らす。
「事業を継続していくためには、つまり金融機関からおカネを借りるためには、柏崎刈羽原発の再稼働と電気料金の値上げはセットでマストでした。国と金融機関と東電の三者の話の中で、それがなければカネは貸せないということになったのが正直なところなんです」
だが、柏崎刈羽原発はこれまで何度もトラブルが報じられてきた不良施設≠ナあることを忘れてはいけない。'02年と'07年には炉心隔壁のひび割れなどの情報隠蔽が発覚。'07年の中越沖地震では、微量ながらも放射性物質が漏洩した。さらに同年、原発の近くに活断層があるという調査結果を隠していたことも明らかになっている。このようないわくつきの原発を、あの東電がカネのために動かそうとしていることは、3・11を経験した我々にとって正気の沙汰とは思えない。
事故の当事者ではない関西電力の大飯原発再稼働でさえ、地震対策の不備が指摘され、その安全性が疑問視されている。福島第一原発の原発事故を受けてつくられた安全対策85項目のうち、大飯原発はまだ31もの項目が完了していないのだから当然だろう。施設の直下にある断層の再調査に関しては、「予定なし」という無責任さだ。それでも夏の電力需要に間に合わないということで、再稼働ありきで強引にすすめる原子力ムラのやり方に国民の批判が高まっている現状がある。
その状況下で、さも当たり前のように柏崎刈羽原発が来年春には再稼働していて、だからカネを貸してください、電気料金も最低限の値上げで済みますという東電。まともな神経の持ち主なら、怒りを覚えるに違いない。東大名誉教授の井野博満氏はこう言う。
「そもそも福島第一原発は、津波でやられたのか、それとも揺れの段階で壊れていたのか、まだ原因が分かっていません。それなのに、津波対策だけで柏崎刈羽原発を再稼働しようとしている。地震については、考慮されていないのです」
柏崎刈羽原発の付近には多数の活断層がある。地震対策は、当然、万全でなければいけない。ところが現実は、そうなってはいない。井野氏が続ける。
「東日本大震災でマグニチュード(M)9・0が記録されたばかりだというのに、東電が柏崎刈羽原発で想定している地震はM7クラス止まりです。原発付近の活断層が動けば、もっと大きな地震が起こる可能性がある。神戸大学名誉教授の石橋克彦さんら地震学者は、M7・8から8の地震が起こり得ると警鐘を鳴らしています。東電は、最低でも東日本大震災並みのM9を想定すべきなのに、彼らは『地震の想定はM7であり、原子炉はそれに耐えられる』としか言わないのです」
東電の身勝手な計画とそれを追認した国に対して、地元にも不信感が渦巻く。柏崎市の市議、矢部忠夫氏が、思いの丈をこう話す。
「地元議会や住民に何の説明もなく、一方的に来年度から順次再稼働したいと東電が言い、国がそれを認定した形になっている。そこまで地元をないがしろにするのかと、東電、国の態度に憤りを感じています。
運転を再開するのであれば、少なくとも柏崎刈羽原発の健全性、および耐震安全性評価を改めてから検討するのが最低条件でしょう。ところがそうした方針すら出ていない中で、いきなり来年度から運転再開なんて、ありえないし、当然認められるものではない」
原発のある自治体が、国や電力会社などから注ぎこまれるカネで潤ってきたことは否定できない。だが、そうして恩恵を受けてきた住民でさえ、この再稼働計画には首を傾げる。
柏崎市内でホテルを長年営むオーナーが漏らす。
「お客さんの8割は原発絡み。そのお客さんが激減しているから、そりゃ再稼働はしてもらいたいですよ。
ただ、福島第一原発の事故前は『原発は安全』という言葉を信じていたけど、今は考え方が変わりました。何よりも不安なのは、あの事故を引き起こした東電が原発を動かすということ。東電に任せて大丈夫なのかと思ってしまいます」
こうした批判や反対が出てくるのは、東電も百も承知のはずだ。にもかかわらず、強引に再稼働に動くのは、先述のように再稼働しないと銀行からカネが借りられず経営が破綻するという「経済的」理由からだ。
■政府保証≠ェあるから大丈夫
ここで簡単に東電の財務状況を見ておこう。
東電は原発事故後に、金融機関から2兆円の緊急融資を受けている。3メガバンクの融資額はそれぞれ三井住友銀行が6000億円、みずほコーポレート銀行が5000億円、三菱東京UFJ銀行が3000億円。東電が破綻すれば、当然それらの融資は焦げ付く。しかも主要金融機関は東電の株主かつ、多額の社債を保有しているので、東電破綻というシナリオは絶対に避ける必要があった。
「経産省が金融庁に『銀行が東電に追加融資するように言ってくれ』と圧力をかけたんです。経産省にしてみれば、東電が破綻すると原子力政策を推し進めてきたこれまでの電力行政が失敗の烙印を押される。そうすれば当然、失敗の責任を取らせるために『経産省解体論』が出てきてしまう。
銀行にしてみると、経産省に東電を潰す気がないことがわかれば、それが暗黙の政府保証≠ノなった」
こう語るのは、経済ジャーナリストで『東電国有化の罠』(ちくま新書)の著者の町田徹氏だ。
つまり東電、銀行、経産官僚たちが互いの保身や利益のために作ったのが、柏崎刈羽原発再稼働を前提にした事業計画だったのである。
この事業計画が銀行の意にかなったものということは、東電の主要取引銀行である三井住友銀行のコメントからも明らかだ。
「柏崎刈羽原発の再稼働を前提とした東電の事業計画を、どう評価しているか」という本誌の質問に同行広報部が書面で回答した。
〈東京電力の総合特別事業計画が政府によって認定されたことを踏まえれば、計画の確実な履行という観点から、政府をはじめとする関係機関において、万全の取り組みを進めて頂くことを期待している〉
持って回った言い方だが、要は銀行も原発の再稼働に賛成、期待しているということなのである。
一方、国民には電気料金の値上げという厳しい要求を突きつけながら、東電は自分たちがこれから支払うべき費用をあまりにも低く試算している。
東電は事故の責任者として被害者への賠償、汚染地域の除染、福島第一原発の廃炉を行わなければならない。ところが、東電が発表した'12年3月期決算等によれば、現状で個人に支払っている賠償額は約9000億円にすぎない。法人等も含めて今後2兆5000億円の賠償金の支払いを見込んでいるが、10万人の住む所を奪ったことを考えれば、この金額ではまったく足りない。また、廃炉に向けて今期に計上したのはわずか3000億円程度で、除染については1円も計上していない。
「最終的に東電が負担するべき金額は、合計で200兆円を上回ってもおかしくありません。今回の値上げはあくまで火力発電で使用した燃料代が理由ですから、これからの賠償などを考えれば電気代を3倍にしないと間に合わない。料金に転嫁するか、税金でまかなうか、いずれにしても国民負担しかないわけです。ところがそうした不都合な真実≠ヘ隠している。政府と東電、銀行すべてがグルなのです」(前出・町田氏)
自分たちが起こした事故のツケを国民に回し、しかも原発再稼働で危険までも押し付ける。到底、納得できるものではない。政府与党の民主党内で「脱原発」を訴える谷岡郁子参議院議員も、こう言う。
「東電は事実上の債務超過に陥っています。そこで『粉飾決算もどき』をして、費用を低めに見積もっているんです。東電が用意している資金では、事故の後始末ができるわけがありません。にもかかわらず、一応の会計上の整合性はとりながら、あの手この手でごまかしている」
■儲けるためなら何でもやる
東電が国民の怒りを無視して原発再稼働に突き進むもうひとつの理由を前出の鎌田氏が解説する。
「柏崎刈羽原発の減価償却がすでに終わっているからです。だから電気を作れば作るだけ儲かる。電力不足だから動かしたいわけではないのです。火力発電を止めてでも、儲けるために原発を動かしたい。それが柏崎刈羽原発を選んだ最大の理由です」
ただし、これも目先のカネに目の眩んだ愚かな考えだ。原発は儲かるというのも、長い目で見るとフィクションにすぎない。鎌田氏が続ける。
「たしかに儲けは出るけれど、稼働させるほど、処理できない核廃棄物が貯まっていく。不良債権が山積みになるのと同じで、最後は結局赤字になるのです」
福島第一原発の事故後、「想定外」という東電の主張がウソだったことが次々と明るみに出た。地震の可能性も以前から指摘されていたし、東電の想定より巨大な津波がくる可能性も示されていた。
ところが、国も東電も、それを無視した。見事なまでの国民不在ぶりだが、『「東京電力」研究 排除の系譜』(講談社)を上梓したジャーナリストの斎藤貴男氏は、背景に徹底した無責任体質があると断罪する。
「なぜ再稼働に突き進んでいるかというと、政府も東電も財界も、一切の責任を認めたくないという心理で動いているからです。もしこれで再稼働は危ないから見合わせようということになったら、今まで『絶対安全』と言い続けてきたことの間違いを認めることになる。それは絶対に避けたいというわけです」
各種世論調査によると、原発の再稼働には60%近くの人が反対している。にもかかわらず、野田佳彦首相は「自分が責任をとる」と言って再稼働に踏み切ろうとしている。だが、原発事故は個人が責任をとれるようなものではない。
であるならば、再稼働を阻止することが政治家の最低限の役割ではないか。
「週刊現代」2012年6月30日号より
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