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長谷川幸洋「ニュースの深層」
2012年06月15日(金)
フィルター付きベントも防潮堤もないのに「事故を防止できる対策と対応は整っています」と大飯原発再稼動に踏み切る野田首相。
政治と官僚の迷走、ここに極まれり!
大飯原発再稼動の方針を発表した野田首相〔PHOTO〕gettyimages
関西電力・大飯原発3、4号機の再稼働が秒読み状態になった。今回の再稼働は多くの点で「先に結論ありき」の乱暴な決定だが、肝心の安全面に絞って問題点を詰めておきたい。まず6月8日の野田佳彦首相の演説をふりかえる。野田はこう述べていた。
「福島を襲ったような地震、津波が起こっても事故を防止できる対策と体制は整っています。これまでに得られた知見を最大限に生かし、万が一、すべての電源が失われるような事態においても、炉心損傷に至らないことが確認されています。これまで1年以上の時間をかけ、IAEA(国際原子力機関)や原子力安全委員会を含め、専門家による40回以上にわたる公開の議論を通じて得られた知見を、慎重には慎重を重ねて積み上げ、安全性を確認した結果であります。
もちろん、安全基準にこれで絶対というものはございません。最新の知見に照らして、常に見直していかなければならないというのが、東京電力福島原発事故の大きな教訓の一つでございます。そのため、最新の知見に基づく30項目の対策を、新たな規制機関の下での法制化を先取りして、期限を区切って、実施するよう電力会社に求めています」(読売新聞6月9日付による)
一国の首相にこうまではっきりと断言されると、さすがに「総理が嘘は言わないだろう」と思ってしまうだろう。ところが、これは最初の結論がデタラメである。5月25日付けコラムで「シロアリ発言」の嘘を指摘したが、それに匹敵するといっても過言ではない。
■ 仕方なく保安員の対策をフレームアップ
まず、上の演説はそもそも自己矛盾に陥っている。野田は前段で「事故を防止できる対策と体制は整っています」と言いながら、すぐ後段では「安全基準に絶対はない」として「最新の知見に基づく30項目の対策を期限を区切って実施するよう電力会社に求めている」と述べている。典型的な自家撞着だ。
対策がすでに整っているなら、どうして電力会社にまだ対策を求めるのか。対策ができていないから「期限を区切って」早くやれと要求しているのだろう。将来の対策を要求するのは、現在は対策が整っていないからにほかならない。
こういう子供でも分かるような矛盾した論理を平気で総理に喋らせるのは、野田自身の能力の低さもさることながら、演説を書いた官僚なり側近のデキが悪いからだ。この部分は演説の冒頭近くにあるが、ここを聞いただけで「こりゃダメだ」とがっくりきた。
では、演説に出てくる「30項目の対策」とは何か。これをまとめたのは原子力安全・保安院である。
本来、原発の安全性チェックは保安院の役割だが、野田の前任である菅直人前首相は「保安院は事故で国民の信頼を失った」という理由でストレステスト(安全評価)の実施を決めた。当時の枝野幸男官房長官(現・経済産業相)ら三閣僚は文書で「保安院による安全性の確認について疑問を呈する声も多く・・・」と信頼失墜を認めていた。
ところが、本格的なストレステスト実施となると、時間がかかって再稼働が大幅に遅れてしまう。そこで急きょ、簡易版の一次評価と二次評価に分けた。これならOKかと思いきや、安全委の班目春樹委員長が「一次評価だけでは不十分。二次評価もやるべき」と2月20日の記者会見で表明し、ストレステスト→再稼働路線が暗礁に乗り上げてしまった。
そこで野田が持ち出したのが、保安院による安全対策だ。それがまとまったのは、班目会見直前の2月16日である。一次評価で安全委のお墨付きが出れば、それでGOとなるはずだったと思われるが、期待に反して班目が抵抗したので、仕方なく保安院の対策をフレームアップする作戦に出たのではないか。
いずれにせよ、菅政権がいったんダメ出しした保安院を再び持ち出して、今度は「保安院が対策を決めるので大丈夫」というのは完全な逆戻りである。「保安院はダメだ」という文書に署名した枝野はいったい、どう考えているのだろうか。
しかも、前々回のコラムで指摘したように、細野豪志原発事故担当相は再稼働に反対していた滋賀県など自治体に配慮して「いまの国の基準は新しい原子力規制庁ができるまでの暫定基準」と言っている。それでは野田演説との整合性がとれない。迷走も極まれりというほかない。
■ 安全規制は法規制にして厳格に要求すべき
そこで30項目の中身に入る。これは保安院のサイトで原文が読める。最終案になる前の案を読むと、興味深い記述がいくつもある。
たとえば、冒頭には次の一文がある。
〈 今回の検討は、事故の発生及び進展の過程で生じた個々の事象について、現時点で得られている情報等を基に工学的な観点から出来るだけ深く分析することに努めた。しかし、事故後の放射性物質による汚染などのために現場の確認を行うことが難しい設備・機器が多く、また溶融・落下した炉心の状況など事象の解明が十分に進んでいない部分やまだ分析が不十分なところも残されているため、今後検討対象を拡大するとともに、更に分析を加え内容の充実を図っていく必要がある。 〉
そのうえで外部電源、所内電気設備、冷却設備、閉じ込め機能設備、指揮・計装制御設備及び非常時対応の5分野30項目の対策(別掲・最終案)を列挙し、最後にこう記している。
〈 前章までに分析してきた東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた技術的知見は、これまでの安全規制体系の考え方の変更を必要とするものであり、今回の技術的知見と世界の知見から新しい安全規制を構築しなければならない。
昨年6月の「原子力安全に関するIAEA 閣僚会議に対する日本国政府の報告書」でも指摘されたように、アクシデントマネジメント対策は第一発電所においても導入されていたが、役割を果たすことができず、不十分であった。また、アクシデントマネジメント対策は基本的に事業者の自主的取組みとされ、法規制上の要求とはされておらず、整備の内容に厳格性を欠いた。シビアアクシデント対策については、事業者による自主保安に委ねるのではなく、これを法規制上の要求にする必要がある。 〉
どういうことかといえば、この30項目の対策をまとめた当の保安院自身が実は、事故の全体像が分かっていないから不十分な分析に基づいたものだ、と認めている。そのうえで、これまでの安全規制体系の考え方自体も不十分で、改める必要がある、かつ事業者に自主的対策を求めるのではなく、法規制にして厳格に要求すべきだ、と指摘しているのである。
別の部分では、保安院の失敗を認めて、次のように反省を述べている。
〈 津波による電源系統設備の共通要因故障が長時間の全電源喪失を引き起こし、アクシデントマネジメントが不十分であったことなどから、結果としてシビアアクシデントを防止できず、大量の放射性物質が環境中に放出されたことについては、原子力安全・保安院は、原子力安全規制担当機関として深く反省しなければならない。 〉
保安院が自分たちの失敗と不十分さを認めたうえで、新しい安全規制を作る必要を訴え、当面の手立てとして30項目の対策をまとめたにすぎない、と正直に言っているのだ。
それを野田は「30項目の対策を電力会社に求めたから大丈夫」と強弁している。これでは、自分たちの責任である法規制はどうなったのか。本来なら、まず厳格な法規制を整えてから再稼働を考えるという手順であるはずだ。しかも、フィルター付きベントの設置や防潮堤の整備は数年先である。
こうみると、保安院のほうが野田より真摯に反省しているだけまだマシ、とさえ思えてくるほどだ。保安院は不十分ながら暫定的な対策を考えて法規制を求めたが、肝心の首相が「これで安全」とばかり、電力会社に自主的努力を求めただけでさっさと再稼働に動いてしまった。まさに政治の責任放棄としか言いようがない。原発をめぐる政治と官僚の迷走=協調の失敗は、事故の後も続いている。
(文中敬称略)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32792
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