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原発収束作業の現場から
〜ある運動家の報告〜
[注]1F→福島第一原発
2F→福島第二原発
反貧困の社会運動に長年とり組んできた大西さん(仮名)が、現在、福島第一原発と第二原発の事故収束作業に従事している。 昨年末から今年2月にかけて、いわき市内で大西さんにお話をうかがった。話は多岐にわたるが、4つの章に整理した。
T.被ばくすることが仕事
U.中抜きとピンはね
V.地元労働者と新たな貧困層
W.原発労働と反原発運動のかい離
特にW章では、原発労働者の立場から、反原発・脱原発運動の現状にたいして、鋭角的な問題提起がなされている。
大西さんのとり組みは現在も進行中なので、掲載に当たっては、特定を避けるための編集をしている。
T.被ばくすることが仕事
▼3・11の衝撃
―どうして原発労働に入ろうと考えたのか
社会運動をずっとやってきたんですけど、3・11と原発事故という事態に衝撃を受けたということです。
もともと、反原発・脱原発の運動には、チェルノブイリ事故(1986年)あたりまでしか関わっていませんでした。3・11が起こって、「反対運動を継続してこなかった」という自己批判ですね。そして、「自分が関わるとしたら、中途半端には関われないな」という気持ちからです。
また、反原発運動をやる場合、やっぱり原発労働の実態を知らないのはおかしいのではないか。現場に実際に入らないとわからないことがたくさんあるだろう。隠されていることがいっぱいあるだろう。これはもう、働くしかないな。働いている中で調べるしかないな―ということから、原発労働に従事することを決意しました。
さらに言えば、1F〔福島第一原発〕の事故収束から廃炉作業には、これから、数十万人、百万人単位の人が必要になる。そのとき、新たな原発労働者の層は、プレカリアート〔※〕といわれている人びと、貧困に陥った若年労働者になります。この人たちが危険な現場に入ったらどうなるのか。
僕は、労働運動をやっているので、その観点で、少しでも現場を見ておかなければならないと思って入りました。
※プレカリアート:新自由主義の下で、就労も生活も心境も不安定な状況にさらされている労働者の層を指す造語。
▼放射線管理員として
―大西さんの仕事は
放管(ほうかん)です。放射線管理員。
現場から戻ってきた作業員や車両のサーベイ〔survey 放射線測定〕と除染、それから作業現場のサーベイ。
簡単にいうと、そこら中が汚染状態なので、免震重要棟〔対策本部がある〕とかJビレッジ(20キロ圏の境にある出撃拠点)に汚染物質をいれないために配置されています。
昔は原発の建屋の中がとにかく危険で、それが拡散しないように、放管が配置されてサーベイをしていた。今は逆です。
全てが放射線管理区域の状態で、この建物の中に、汚染物質を入れないために配置されているんですね。もちろん免震棟も線量は高いんですけど、外は全て危険だから、建物の中だけでもなんとか守り切る。最後の砦を守る仕事です。
―放射線管理員とはどういう資格か
一応、放射線作業従事者に当るので、その教育を必ず受けなくてはいけないです。僕の会社は、20年間、放管をやってきた人がいたので、詳しくいろいろ教わりました。 今がどれだけ異常事態かっていうことについても、毎回毎回、説明してくれました。
ただ、今は、そういう教育受けてない人も放管をやっています。だから、数値の意味を知らないという人もいますね。
―生活していた場所は
湯本(いわき市)の旅館ですね。
元々は温泉街だけど、今は、一般客はほとんど泊めていない。あらゆる企業が飯場代りに使っているんです。だから雰囲気が違っています。
―朝起きるのは何時
4時半ぐらい。5時くらいには出発してます。
車は、会社の車だったり、元請けの車だったり。東電のバスで通勤するところもある。 朝6時に二つ沼公園〔Jビレッジ直近、東芝などの作業拠点になっている〕に着きます。
そこで乗り換えて、30分くらいで1F・2F〔福島第二原発〕の中に入って、作業の開始です。
―現場に到着すると
交代制ですから、班ごとに、どういうローテーションで、何をやっていくのか、みんなで打ち合わせをします。
まず、どういう交代で、どういう休憩のとり方をするのかというのが一番大きい。
あとは、当日の作業内容の打ち合わせを綿密に。
現場の作業に出ると必ず線量を浴びるので、浴びる前に「これをこうして、こうして」ということを、あらかじめ事前に想定して、みんなで話し合いをします。実際の作業以上にシミュレーションに時間をかけます。
そうしないと、現場でモタモタしたら、それだけ被ばくしてしまうから。
現場に着いたら、サッと持ち場に着いて、ビュッと仕事をまとめて、サッと現場を出るという形です。
―その指示をする人は
それぞれ一つの作業について、チームリーダー、グループリーダーがいるので、その人の判断で最終的に決まります。例えば、「今日は、ここは線量が高いから、この作業については中止だ」といった判断です。
―放管は、「線量が高そうだ」というところに、最初に行く
そうです。「ここはこれだけの線量がある」ということを事前に把握して、「今日は向こうの方はだめだから」とか、「今日はここだけだったらいいですよ」ということを作業者に伝えます。
あとは、パトロールって言ってるんですけど、どれだけ放射線があるかっていうのを、隅々まで測っています。
▼服を着る労働
―作業時の服装は
1Fのときは、Jビレッジの中でタイベック〔※〕に着替えます。
※高密度ポリエチレン不織布〈タイベック〉でつくられた防護服
2Fの場合は、着替えないでそのまま入ります。2Fは、比較の問題ですが、「安全」ですから。
―2Fに行くときは着替えないのか
もともと管理区域というのは、私物はパンツ一丁以外、一切身に付けてはいけないんです。しかし今は、2Fは、もう自分の服でそのまま作業してますよ。
1Fも、自分の服はとりあえず脱ぐけど、作業服はそのまんま着て、その上にタイベックを着てマスクしてという感じです。
あれだけの人数と放射線量、それにあれだけの交代制の中で、追いつかなくなっています。服についても、3・11以前と以後では、ほんとに感覚がおかしくなっています。
―3・11以前は
原発労働に入って一番最初に何を言われたかというと、「原発労働は服を着るということ自身が仕事だよ」と。服を着替えること自体が、もうすでに仕事の一環に組み入れられているという特殊な仕事という意味です。
3・11以前の話も聞かされました。
服を何回も何回も着替えて、着替えるごとに、だんだん危険な区域のレベルが上がって行く。黄服、青服、赤服と着替えて、A区域、B区域、C区域、D区域という形で、炉心近くに行く。
そのレベルが上がるたびに、その前の服を脱いで、危険なところに行くための新しい装備に着替えますが、放管は、その人がそのレベルに見合った装備をしているかをチェックするのです。
とくに炉心に向かう赤装備のときは、補助員が必要です。補助員が、服や靴下やゴム手袋を順番に装着し、密封するために桃色のテープをぐるぐる巻いて、マスクをはめてやります。
逆に脱ぐときも、補助員が、マスクを取って、ヘルメットを取って、アノラックを取って、キムタオル〔紙製のタオル〕で拭いてあげて、手袋も取ってあげて、それから、ようやく自分で脱げるようになったら、自分で脱いでいきます。
こうしてようやく赤服だった作業員と補助員が、同格の汚染レベルになります。そうすると今度は、作業員と補助員が次の区域に行って、そこにも補助の人がいてという具合。これを3回繰り返してようやく表に出ることができます。
装備を最高レベルにするために1時間近くかかります。だから「服を着ること自体が労働」というのです。手袋をはめるのも労働です。手袋だって、綿手袋をして、その上にゴム手袋を2枚します。
また、例えば、汗が出ても拭いちゃだめなんです。放管教育では、眼が一番、被ばくしやすいと教わります。だから、汗は拭けません。安全な場所に行って、補助員が、顔をキムタオルで拭いてあげるのです。
―まるで宇宙空間に送り出すような感じ
そう、本来そういう世界のはずですよね。
それがいまや、全域が炉心付近の状況になっています。例えば、1Fの1号機、2号機、3号機の周辺が、もう完全に炉心と同じレベル。
2Fに至っては、もう私服ですから。私服といっても、それぞれの会社の服ですけど。汚染物質が付着した作業服を、家に持って帰って洗わなくちゃいけない状況は、異常ですね。
―3・11以降は、そういう基準が崩れている
そう、崩れています。タイベックを着てそのままコンビニに行ったら、何の意味もないです。
―どうしてそういうことが起きているのか
管理することを、東電が投げていると思います。
これだけ膨大な人が、炉心作業と同じような状態で、働いているわけです。
今までなら、一人を炉心に送り出すのに、宇宙飛行士を送り出すようにやっていたけど、今その基準でやったら、どれだけの人がいるのかという問題になって、「もう無理、管理しきれない」と、完全に感覚が麻痺してしまっているように思います。
―仕事は24時間体制ですか
1F(福島第一原発)も2F(福島第二原発)も24時間、動いてますから。 とにかく稼動している冷却システムに、24時間、人を配置し続けていないと、また大変な事態になってしまいます。
原発の正常運転時でも24時間ですけど、今は、悪化させないために、とにかく人が入り続けないといけない構造になっています。
生産性のない労働なんですけど、それがないと収束もしないという状況なのです。
もしかすると人類初めての作業かもしれないですね。チェルノブイリとはまた違うと思います。
―チェルノブイリとは違う
チェルノブイリの場合は、石棺にしました。しかも作業員が死ぬことを前提に人を投入した。ソ連という体制もあったと思いますけど。
日本は、いまのところ、石棺という道を選んでいないので、あらゆる手立てを尽くして、冷やして、冷やして、最終的に、30年後、40年後に、核燃料を回収するという壮大な世代を超えた仕事に取りかかっているのです。
―拘束時間は
いまの原発作業は、3交代と2交代と、おおまかに2つのシステムがあります。
放管(放射線管理員)の作業も、3交代の部分と2交代の部分があります。だいたい14〜15時間、現場に拘束されます。もしくは3交代の人は10時間拘束されます。
ただ実働時間はすごく短いです。
―それは被ばく線量との関係
そうです。 14時間の拘束であっても、実働が4時間ぐらい。あとは休むのが仕事。服を着るのと同じで、その場所にいること自体も仕事なんです。
要するに、原発労働では、いくつものグループがあって、それが順番に同じ作業をやっていきます。交代制をとるのは、被ばく量を平準化するためです。そのために、たくさんのスペアを用意しながら、人を回転させていくのです。
あと、もし何かあったとき、緊急的に対処できる要員という意味合いもあります。実際3・11のときもそうなりました。
「大きな事故があったら、それなりの対処をしてもらう代わりに、何もないときは労働時間は短いけど、普通の人と同じ給料を払いますよ」、ということです。そういうリスクを背負いながらするのが原発労働です。
―汚染の状況は
まず、1Fの作業に入っている車の被曝量がすごくて、問題になっています。
事故前は、カウント数(cpm=counts per minute 1分間当たりに計数した放射線の個数)で、2千とか2千5百くらいが基準。いまは、もう6千が基準。 車の被ばくが1万とか2万もある。それを、6千まで下げるのが大変。拭きまくって除染します。
だけど、実は肝心なところを計測してないのです。ラジエーターまわり。あと車の裏。車が埃を舞いあげて、それをラジエーターで吸気しています。だからほんとはそこを一番やりたいんだけど。それは無理ですよね。
通勤している人は、とにかく終わったら早く帰りたいから、「(値が)少し高いんで、ちょっと待って下さい」と言うと、「何やってんだ」と怒鳴られて、ケンカになるなんてしょっちゅうあります。
そういうケンカを防ぐために、除染をやっている人も、7千くらいだったら、「まあ、いいや」という風にやっていますね。
―車両のサーベイと除染はどこで
2Fは、構内でやっています。 1Fの場合は、Jビレッジの脇の除染場です。そこに一番線量の高いところから車が出てきます。
まずサーベイして、高いところがあったら、とにかく水を掛けたり、拭いたりして、除染します。
―除染に使った水は
結局、流します。世間では除染と言ってますが、僕らは、笑って「移染だよね」と言っています。
―汚染水は排水溝から海へ
それ以外ないでしょう。
―アレバ社の汚染水処理装置は
あれはもっと超高濃度の汚染水の話です。そっちは、配管で循環させる装置が稼働しています。それは、炉心にあった水をやっているだけなのです。
それ以外は、流して、最終的には海に行くのです。
(つづく)
以上、『未来』100号、101号
http://kakukyodo.jp/12mirai.htm
より引用。
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