55. 2012年6月03日 10:13:27
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<42. 「チェルノブイリ原発事故による一般の人々の健康被害が、死者9ないし15人程度とされる小児甲状腺がんによる犠牲者以外は無かった」 とのことですが、それと大きく反するヤブロコフらの報告をどう考えますか?またセシウムの心筋への影響についての児玉龍彦 教授の意見はどう思いますか? 参照:http://www.asyura2.com/11/genpatu17/msg/707.html⇒チェルノブイリ原発事故により広範囲に飛び散ったヨウ素による被ばくで、甲状腺がんを発症した子供は5000人に上り(2006年時点)、このうち9人が死亡しました。事故から25年を数える2011年では、約6000人ががんの手術を受け、うち15人が亡くなっています。甲状腺がんは治療から5年後の生存率が95%以上と高く、「治るがん」の代表と言えるものです。 放射能や放射線という言葉に対し、ロシアでも「怖い」「危険」のイメージがあります。欧州でもそうです。そのせいか欧州には「チェルノブイリでは10万人が死亡したのに、政府はその事実を隠したままだ」といった主張もありますが、「チェルノブイリ原発事故による一般市民への健康影響は、小児甲状腺がんの増加だけ」というのが国際的な合意です。 チェルノブイリでのセシウムによる全身の被ばく量は、高線量汚染地の27万人は50ミリシーベルト以上、低線量汚染地の500万人は10〜20ミリシーベルトの被ばく線量と計算されています。しかし、セシウムによる発がんは、25年以上経過した現在まで確認されていません。 児玉龍彦氏(東大)は「チェルノブイリで膀胱癌が増えた」と国会で証言したが、放射線医学総合研究所はこれは間違いだと指摘した。小児甲状腺癌以外の癌は増えていない。 話題になっていた東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授の衆議院厚生労働委員会での証言だが、放射線医学総合研究所が「尿中セシウムによる膀胱がんの発生について」を公表し、その内容について問題点を指摘し、「チェルノブイリ事故では小児甲状腺癌以外の放射線被ばくによる健康影響のエビデンスはないと結論付けられており、これが現在の世界的なコンセンサス」だと確認している。 http://www.nirs.go.jp/data/pdf/i5_4.pdf 福島の食事、1日4ベクレル 被曝、国基準の40分の1 http://www.asahi.com/national/update/0118/TKY201201180799.html 家庭で1日の食事に含まれる放射性セシウムの量について、福島、関東、西日本の53家族を対象に、朝日新聞社と京都大学・環境衛生研究室が共同で調査した。福島県では3食で4.01ベクレル、関東地方で0.35ベクレル、西日本でほとんど検出されないなど、東京電力福島第一原発からの距離で差があった。福島の水準の食事を1年間食べた場合、人体の内部被曝(ひばく)線量は、4月から適用される国の新基準で超えないよう定められた年間被曝線量の40分の1にとどまっていた。 調査は昨年12月4日、全国53家族から家族1人が1日に食べた食事や飲んだものをすべて提供してもらい行った。協力家族の居住地は、福島県が26、関東地方(群馬・栃木・茨城・千葉・埼玉・東京・神奈川)が16、中部(長野・愛知・岐阜・三重)、関西(大阪・京都)、九州(福岡)など西日本が11。普段通りの食材で料理してもらった。福島では、地元産の野菜などを使う人が多かった。 1日の食事から取り込むセシウムの量は、福島県内に住む26家族で中央値は4.01ベクレルだった。この検査法で確認できる値(検出限界)以下の正確な値がわからないため、平均値ではなく、検出値を順に並べて真ん中に当たる中央値で分析した。 この食事を毎日1年間、食べた場合の被曝線量は0.023ミリシーベルトで、国が4月から適用する食品の新基準で、超えないよう定めた1ミリシーベルトを大きく下回っていた。福島でもっとも多かったのは、1日あたり17.30ベクレル。この水準でも年間の推定被曝線量は0.1ミリシーベルトで、新基準の10分の1になる。原発事故前から食品には、放射性のカリウム40が含まれており、その自然放射線による年間被曝線量は0.2ミリシーベルト(日本人平均)ある。セシウムによる被曝線量はこれを下回った。 調査した京都大医学研究科の小泉昭夫教授は「福島のセシウム量でも十分低く、健康影響を心配するほどのレベルではなかった」と話している。 <42. 福島ではヨウ素の「被害は最小限に食い止められました」とのことですが、福島県の子供の約35%に甲状腺のしこり(のう胞や結節)が観察されたことをどう考えますか? 参照:http://www.asyura2.com/12/genpatu23/msg/353.html
⇒既に今回の事故に関連して、いくつもの医学的な調査がおこなわれている(余談だが、しっかりしたものもあるが、かなり胡散臭いものも少なくないようだ)。それらの中で、わざわざ 2011 年 3 月のこの調査のことだけを単独の解説で取り上げる理由については説明が必要だろう。 放射線被ばくの健康への影響は明確にはわかっていないとされる。しかし、何がおきるかほぼ確実にわかっている場合もある。ヨウ素 131 の内部被ばくによる小児甲状腺ガン発症の増加はその一例だ。そして、いわゆる「主流」の専門家の見解を信じるかぎり、今回の原子力発電所事故による被ばくのために有意な健康被害が生じる可能性がありえたのは、ほぼ、初期のヨウ素 131 の吸入による小児甲状腺ガンだけだと言ってよいようである(「主流派」は安全よりに過ぎると考えている人は、「主流派の考えでさえ、被害の可能性があり得た」と読んでください)。 そうなると、実際の被ばくによって本当に被害が見込まれるのかどうかは、同じ日本に暮らす者としては、きわめて気になるところだ。さらに、ヨウ素 131 は半減期 8 日で崩壊するので、事故から何ヶ月か経てば、もはや被ばくの程度を直接に定量する手段はなくなってしまう。 そのような状況を考えれば、2011 年 3 月末に福島県で実際におこなわれた調査のもつ重要性がわかると思う。この調査は、初期のヨウ素 131 による内部被ばくの程度を知るための、ほぼ唯一の情報源だ。さらに、SPEEDI の計算結果を信頼するなら、日本中のどこであってもヨウ素 131 の内部被ばくによる小児甲状腺ガンの心配をする必要がないことを示してくれる実に貴重な(そして、うれしい)情報源なのである。 2011 年 3 月の事故の際に原子力発電所から放出された放射性物質の動きについて、SPEEDI によるシミュレーションがおこなわれた。その結果、人々が避難しなかった地域の一部でも、有意なヨウ素 131 の内部被ばく(甲状腺等価線量 100 mSv 以上)が生じ得た可能性を示す計算結果が出た。そのため、原子力安全委員会・緊急助言組織は 3 月 25 日に「被ばく線量評価に伴うモニタリングの強化について(付録 1 の資料 5 の 3 ページ)」という文書で、現地災害対策本部に小児の甲状腺線量の実測を依頼した。 http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/thyroidscreening.html#A http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan067/siryo1.pdf 現地災害対策本部の依頼を受けた広島大学の田代聡教授らが福島に出かけ、3 月 26 日から 30 日までのあいだに、いわき市保健所、川俣町公民館、飯舘村公民館の三カ所で、合計で 1000 人を超す児童の甲状腺線量の測定をおこなった(付録 1 の資料 4 などを参照)。これは、甲状腺等価線量で 100 mSv を超える被ばくをした可能性のある児童をみつけるためのスクリーニング検査である。 http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/thyroidscreening.html#A 調査の結果、スクリーニングレベルを越える被ばくの兆候を示した児童は一人もいなかった。測定とスクリーニングレベルの設定が適切であれば(そして、以下でみるように、これらは大筋でほぼ適切だったと考えてよさそうだ)、これは調査された地域で小児甲状腺ガンの発生を心配しなくてよいことを意味する。さらに、SPEEDI の計算結果を信頼するならば、調査の行なわれなかった地域でもやはり心配は無用ということになる。 http://www.nsc.go.jp/ad/pdf/hyouka.pdf 当時、政府や現地対策本部のとった対策が妥当だったかどうかといった大局的なテーマに踏み込むつもりはないが、少なくとも(やり方が最適だったかどうかは別として)甲状腺被ばく量の調査を実施したことは高く評価すべきだと考えている。そして、日本中が大きく混乱していた時期に現地に赴いて困難な測定を実行した田代教授らのチームには心から敬意を表したい。 調査結果は、3 月 29 日に原子力安全委員会の web ページに記載されたようだ。ただし、それは児童のプライバシーに関わるものだったらしく、8 月 1 日には削除されている(付録 1 の資料1)。 http://www.nsc.go.jp/ad/20110801.html 5 月 12 日に原子力安全委員会から「福島県における小児甲状腺被ばく調査結果について(付録 1 の資料 3、または、資料 5 の 6 ページ)」という正式の報告が発表され、 http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan031/siryo4-3.pdf http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan067/siryo1.pdf 小児甲状腺被ばく調査を実施した 0 歳から 15 歳までの 1,080 人の小児については、スクリーニングレベル 0.2 μSv/h(一歳児の甲状腺等価線量として 100 mSv に相当)を超えるものはなかった、と結論づけられた。 8 月 17 日から 21 日には、いわき市、福島市、川俣町で、調査を受けた児童の保護者に、個別の測定結果と結果概要を説明する会がおこなわれた。この際の資料が内閣府原子力被災者生活支援チームから「小児甲状腺被ばく調査結果説明会の結果について(付録 1 の資料 5)」として発表されている。この資料が、今のところ、この調査についてのもっとも詳しい公式の文書である。 http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan067/siryo1.pdf <42. 「電力需要を賄うには再生可能エネルギーと化石燃料だけでは無理」とのことですが、日本の全エネルギー消費のうち電力は25%、その内で原子力は高々30%、つまり全エネルギー需要の7.5%しか賄っていなかったことをご存じですか? 参照:http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20110724 また天然ガスの調達コストおよび発電コストに関する石井彰氏の意見についてどう思いますか? 参照:http://www.asyura2.com/09/eg02/msg/645.html
⇒2011年12月に内閣官房のエネルギー環境会議の中に置かれたコスト検証委員会の報告が発表された。2004年の検討以来、公式の数字がなかった電源別の発電コストを福島第一原発の事故を踏まえて見直した数字の発表だ。 http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_soc_jishin-higashinihon20111213j-07-w300 この報告内容を伝える報道の多くは、原発の発電コストが2004年の数字から大きく上昇したと伝えたが、今回、発表されたコスト試算を見ると火力発電のコストの上昇額がより大きい。2004年当時より化石燃料価格は大きく上昇しているので当然の結果だ。 原発の事故の可能性を想定し、その費用も原発のコストに上乗せしているが、数十年に1回の頻度で事故が起こるような設備であれば、運転することは無理だろう。対策費用を見積もる以前の問題だ。対策費用を含めても原発のコストは最も安い。1kw時当たりで10円を切る電源は原子力と石炭火力しかない。 火力発電所と原発の運転コストの大きな違いは、燃料費だ。原発は設備投資額は大きいものの燃料費はほとんどかからない。一方、火力発電所では、コストのかなりの部分を燃料費が占める。このため、原発は停止しても、削減されるコストがあまりない。一方、火力発電所は停止すればコストの大半は不要になる。 もし、原発を停止したまま稼働しなくても、発電コストは下がらないが、代替電源として稼働する火力発電所の燃料費の負担が発生する。燃料費はほぼ純増の負担になり、電力料金に上乗せされる。 2010年度の地域電力会社の原発の発電量2713億kw時を火力発電で代替する場合、燃料費はいくら必要だろうか。十分な量の発電を行う設備があることが前提だが、最も燃料費が安いのは石炭火力だ。歴史的に見ても、化石燃料の中では石炭が常にカロリー当たりで最も安い燃料である。理由の一つは石炭を産出し、輸出を行っている国が世界に広く分布しており、供給源が多様化されていることだろう。産油国のOPECのような組織は産炭国にはない。しかも、北米、豪州、南アフリカ、インドネシアなど政治的に安定した国が多い。もう一つの理由は、石炭は固体ゆえ取り扱いに手間がかかることだ。燃えカスの灰の処理などで石油、ガスとの比較では費用がかかるために、その分、価格が安くなっている。 石炭で原発の発電量をすべて代替する場合は、2011年10月の輸入価格を基に計算すると、燃料代の負担は約1兆円になる。この費用を電力全需要家が均等に負担すると、1kw時当たり約1円、電力料金が値上がりする。約6%の値上げとなる。 石炭の次に安いのは液化天然ガス(LNG)だ。天然ガス価格は、シェールガスの採掘が数年前から本格化したため、下落している。一方、日本の電力会社が購入しているLNGの価格は下がっていない。日本の電力会社はコスト意識がなく、高いガスを購入していると非難する声があるが、そうではない。電力会社にコスト意識がないのではなく、天然ガスとLNGは別の商品ということだ。少し複雑な理由がある。 日本のように天然ガスをパイプラインではなく、外航船で輸送するには、産ガス国でマイナス162℃で液化し、容積を圧縮する必要がある。この液化のためのプラントの建設費が数千億円に上る。輸出地で液化設備への投資を行う事業者は、当然、長期にわたる引取数量と価格を要求する。将来の引取見通しが不透明なままでは投資する事業者はいない。このため、シェールガスの増産により天然ガスの価格が下落しても、すぐにLNG価格に反映されることにはならない。2011年10月のLNGの輸入価格を基に、原発をすべてLNG火力で代替する場合、必要な燃料費は2兆4000億円となる。1kw時当たりでは約2.4円の値上がりになり、15〜16%の料金値上げになる。 最もコストが高いのは石油火力である。原発をすべて石油火力に置き換えると1kw時当たりでは約3.8円の値上がりになる。これは、24〜25%の料金の値上げとなってしまう。 化石燃料による発電量を増加させる場合は、温室効果ガスの排出増という問題も出てくる。温暖化防止対策の費用も燃料費の負担に加えて、必要になってくる。そして、最も怖いのは、原発を火力発電で代替えする時の将来の燃料費がどれくらい高くなるか分からないことだ。インドや中国など新興国を中心に化石燃料の需要が増大するのは確実だ。当然ながら、化石燃料価格は上昇することが予想される。化石燃料価格の上昇は電力料金の値上げに直結する。原発という選択肢をなくし、化石燃料中心の発電にした場合は、燃料価格次第で将来の電力料金が不安定になる。これが最大の問題である。 家計や産業のコストに直結する電力料金は、安定している方がいい。それには将来のコストを見通すことができる電源が望ましい。原発を停止すると、電力料金の不安定化が引き起こされ、生活と産業に大きな影響が生じる可能性がある。 |