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「すべての原発が停止」原発「廃炉」と「最終処分(使用済み燃料)」この遠き道のり これは終わりでなく始まりである
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32551
2012年05月20日(日)週刊現代 :現代ビジネス
原発は止まった。だが、止まれば安全というわけではない。事故で使用済み核燃料が露出すれば、爆発・広域汚染の危機。廃炉には天文学的なコストがかかる。なぜこんなものを作ってしまったのか。
■再処理はできない
5月5日、国内で唯一稼働していた北海道電力・泊原発3号機が停止したことにより、日本は実に42年ぶりに「原発ゼロ」の状態になった。
ただそれは、「終わり」ではない。もしも原発が再稼働することがなく、日本が「脱原発」に完全に舵を切ることになっても、それはまた、遠く遥かな道のりの「始まり」である。
運転停止した原発から出る、大量の核のゴミ、使用済み核燃料、放射性廃棄物―。その安全な処分の方法を見出し、廃炉の莫大な費用負担に耐え、実行していく茨の道のりだ。
昨年起きた福島第一原発の事故以前から、とっくに日本の原子力産業は行き詰まっていた。
立命館大学名誉教授の安斎育郎氏はこう語る。
「現在、多くの使用済み核燃料は、行き場がないので原発の貯蔵プールに保管されている状態です。しかし、このままにしておくのは非常に危険です。
燃料集合体は、水から出したとたん、人間が近づけないほどの放射線を出します。各原発のプールは、いちおう耐震設計がなされていますが、建物の老朽化が進んでいる。福島第一原発の事故で分かったように、大地震が来れば崩壊する危険を孕んでいます」
トイレのないマンション。原発はそう呼ばれてきた。有り余る電力を作り出すが、気づくと廃棄物≠捨てる場所がない。そしてその廃棄物は厳重に管理し、処理しなければ即座に国を滅ぼしかねない恐ろしい物質なのだ。
一般的に原発では、ウランを濃縮してできた燃料棒を使用し、核分裂で発生する高い熱を使ってタービンを回して発電する。だが、核分裂を始めた燃料は、使い終わった後も崩壊熱が残り、強い放射線を発していて近づくことはできない。
「日本の原発においては、1日あたり1・4tもの高レベル放射性廃棄物が発生しています。2009年の時点で、各原発の敷地内などに保管されている廃棄物の量が1万2840t。これは、フランスやイギリスなどに使用済み核燃料の再処理を依頼した約7000tを除いての量です」(元日本環境学会会長で大阪市立大学大学院特任教授の畑明郎氏)
日本では、大量に発生する使用済み核燃料を、再処理してリサイクルする方針を進めてきた。再処理することでウランやプルトニウムを抽出し、再度、原発で使用する。資源のない日本にとっては理想的だと持て囃されてきたが、実はこれが大きな間違いだった。
「そもそも、使用済み核燃料を再処理する技術は非常に難しく、日本でも青森県・六ヶ所村の施設などで研究を進めてきましたが、トライ&エラーの繰り返しでまともに動いたことがない。
再処理工場というのは、ふつうの原発よりさらに高い放射線が出ており、非常に危険です。どんな機械でもメンテナンスが必要ですが、再処理工場は放射線が強すぎるため、人間が近づいて修理することもできない。少しのトラブルで、すぐに対処不能に陥ってしまう」(元東芝・原子炉格納容器設計者の後藤政志氏)
■もう満杯、溢れ出す
六ヶ所村では現在、日本原燃が使用済み核燃料の再処理施設を建設中。ところが、試運転の段階からトラブル続きで、'97年操業開始の予定がすでに15年も遅れている。今年末に施設が完成するという予定も示されているが、それも不透明だ。
元京都大学原子炉実験所講師の小林圭二氏も、こう語る。
「平常時の原発が1年かけて出す放射線と同じ量を、再処理では1日で放出してしまいます。それほど、危険性が高い作業なのです。また、再処理の過程では事故も起こりやすい。その過程で出てくる溶液は、化学的に爆発を起こしやすい性質を持っています。また、再処理ではプルトニウムを抽出するわけですが、プルトニウムは少量でも臨界を起こす恐れがあります」
使用済み≠ニいうと、何か出がらしのようなイメージを持ってしまうが、核燃料は、そんな生易しいものではない。使い終えた核燃料は高熱を放出しており、水中に沈めておかないと、人間が数mの距離で即死する放射線を発する。万が一、災害や事故で空気中にそれが露出すれば、過熱して火災や大爆発を起こす可能性もある。
そしてなんとか再処理をしても、ウランやプルトニウムを分離した後に残る溶液や、それを固めたガラス固化体は、不安定で危険な「高レベル放射性廃棄物」であり、扱いが難しい。引き続き、膨大な手間と時間、コストをかけた厳重管理が必要になってくる。
使用済み核燃料とは、われわれの想像を絶する厄介なシロモノだ。しかも六ヶ所村には、再処理を待つ使用済み核燃料が全国の原発から集められ、大量に保管されているが、3000tのキャパシティのうち、すでに2800t以上が埋まっており、今にも溢れ出しかねない満杯≠フ状態だ。
通常の原発以上の安全性と管理体制が求められる再処理工場が、もしも大地震の直撃を受けたらどうなるか。昨年3月11日、六ヶ所村の施設でも、一時電源を喪失するという危機的な状況に陥っていた。だが、非常用電源が何とか作動して事なきを得た。もし、六ヶ所村で福島第一のような全電源喪失が起きていたら?福島を大幅に上回る壊滅的な事故に発展した可能性が高い。
問題はまだある。六ヶ所村の施設が飽和状態のため、各原発では使用済み核燃料を敷地内で保管しているが、それも限界に近い。内閣府の資料によれば、再稼働が議論になっている関西電力・大飯原発で、貯蔵割合は69%。四国電力・伊方原発は63%、九州電力の玄海原発は78%、東京電力の柏崎刈羽原発は79%に達する(2011年9月現在)。
これらは各原発で専用のプールなどに沈められ保管されているが、飽和状態で危機が起きると、どうなるかを如実に示したのが福島第一原発だ。
福島第一では、使用済み核燃料の貯蔵率がなんと93%にも達していた。そこを直撃したのが東日本大震災。結果として、建屋が崩壊した4号機のプールなどに、いまでも大量の使用済み核燃料が残されたままになっている。
この、実質的に放置状態の使用済み核燃料を一刻も早く移送しないと、再び日本は滅亡の危機に晒される。
■廃炉1基に3兆円
「福島第一の近くでまた大地震が起き、プールの水が漏れたりプール自体が崩壊したりしたら、燃料被覆がエキソサーミック・リアクションと呼ばれる発熱反応を始めて発火したり、水素爆発が起きたりして大量の放射性物質が飛散する可能性があります。
試算では、4号機のプールが崩壊して火災が発生した場合、放出されるセシウム137の量はチェルノブイリ事故の10倍に達します。さらに、福島第一全体にある使用済み核燃料を総計すると、その量は85倍にもなるのです」(使用済み核燃料問題研究の第一人者で、元米国エネルギー省長官の上級政策アドバイザー、ロバート・アルバレス氏)
いつ次の大地震が来るのか、日本中が戦々恐々とする中、まさに事態は一刻を争う。ところが、いざ使用済み核燃料を移送しようとしても、それも現実には難しいという。京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏はこう話す。
「核燃料をプールから取り出すには、キャスクと呼ばれる100tにも及ぶ構造物(容器)を水に沈め、それに燃料集合体を入れてフタをし、空気中に吊り上げます。ところが4号機の場合、キャスクを運ぶ大型クレーンなどが爆発で吹き飛んだ上、瓦礫がプールの中に沈んでおり、それも取り除かなければならない。
燃料集合体が損傷している可能性があるので、従来のキャスクに収納できない恐れもあります。そうなると、今度はキャスクそのものも新たに設計しなければならなくなる」
この過程で、事故が起きて燃料が露出したら、すぐに大爆発の危機……。そんな作業が、放射線量が高くいまだまともに人が近寄れないような場所で、果たしてできるのか。
そして、もしも関係者の努力でこれらの難関がクリアできたとしても、次には使用済み核燃料の「最終処分」と、「廃炉」という、さらに気が遠くなるような作業が待っている。
「茨城県東海村の原発は廃炉になり、2001年に解体作業などが始まりましたが、作業が終わるのは10年後とも30年後とも言われており、いまだ手探り状態です。廃炉には莫大な費用がかかります。トータルで1基あたり10年間で3兆円以上という試算もありますが、それで済むかどうかも分からない」(原子力工学に詳しい共産党原発・エネルギー問題委員長の吉井英勝氏)
事故で1~4号機までが崩壊し、そのうち3つはメルトダウンしている福島第一の場合、そもそも廃炉自体が可能なのかも分からない。廃炉とは、使用済み核燃料を取り出し、原子炉を安全に解体し、それを処分して初めて達成されるが、複数の炉で、しかも完全に溶けてしまった核燃料を除去できるかどうか、それからして、実現性に疑問符が付いている。
加えて、最後には原発から持ち出した核燃料や瓦礫などの放射性物質を、どこに「最終処分」するのかという壁が立ちはだかる。
■処分する場所がない
前出の畑氏はこう語る。
「使用済み核燃料や、再処理後の高レベル放射性廃棄物などの最終処分を始めようとしているのは、世界でもまだフィンランドしか存在しません。そのフィンランドにしても、2020年をメドに地中深く廃棄物を埋めて直接処分するというものですが、放射性物質が安全になるまでに10万年とか100万年という単位の時間が必要なため、『そのときまで人類が存在するかどうかも分からないのに責任をもてるのか』と議論が起きています」
想定されている「最終処分」とは、使用済み核燃料や、再処理してできるガラス固化体などの高レベル放射性廃棄物を、300m以上の地中深くに埋めてしまおうという極めて乱暴なものだ。
日本列島のように、数万年どころか数百年、数十年単位で地震・噴火などの大災害が頻発する場所で、将来何が起きるか分からない「地層処分」を行うことに対しては、安全上の疑問が提示されている。
当然、国内ではその候補地すら決まっておらず、「最終処分」とは言いながら、処分のメドなどまったく立っていないのだ。
「安全な処理法などないのに、それを埋めると言われて受け入れる自治体はないでしょう。今、福島など被災地の瓦礫の受け入れを巡って議論が起こっていますが、放射性廃棄物は、瓦礫とはケタ違いの放射線を出します。そんなものをどこに埋めるというのか」(前出・後藤氏)
処分の方法がない、処分する場所がない。そうなると、原発は停止しても、そのまま莫大なコストをかけながら、管理という名の放置をするしかないのか。目眩がするような話だが、それも現実になりかねない。
前出の安斎氏は、
「国が本腰を入れて脱原発を決め、六ヶ所村などに集中管理施設を作るしかない。国民にも、それを受け入れる覚悟が求められる」
と指摘する。政府は、事故が起きた福島第一の周辺に、中間貯蔵施設を作る計画を公表し周辺自治体に「理解」を求めている。
だが、福島をスケープゴートにして、他はいままで同然に暮らしていくことは、許されるのか。その一方で、自分の住む町に最終処分場ができるとなった場合、それに納得できるのか。これからは国民それぞれが、否応なく、そうした厳しい選択に直面しなければならない。
しかし一つだけ言えるのは、ここで原発を完全に止めなければ、核のゴミの増大に歯止めが利かなくなり、いっそう、苦しくなるだろうということ。
「これ以上、ツケを将来に回すようなことをしたら、日本は本当に終わりです。仙谷由人・民主党政調会長代行は、『原発を再稼働しないと集団自殺』と言っていますが、再稼働こそ『緩慢なる自殺』に他なりません」(前出・後藤氏)
今さえ良ければそれでいい。そんな時代は3・11で終わったのだ。たとえそれが困難な道でも、新たな一歩を踏み出さないと、この国に未来はない。
「週刊現代」2012年5月19日号より
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