20. 2012年5月13日 07:29:33
: FJPzrakN9s
世界の総発電量のエネルギー源別の内訳 化石燃料:13,700TWh(67.5%)「石炭8,300TWh(41%)、天然ガス4,300TWh(21%)、石油1,100TWh(5.5%)」 原子力:2,700TWh(13.4%) 水力:3,200TWh(15.9%) その他:570TWh(2.8%) リスク管理の専門家は1テラ・ワット・アワー(TWh)当たりの犠牲者数を比較します。テラというのは1兆倍を表す単位の接頭語です。 世界の大気汚染による死者数には様々な統計がありますが、WHO(世界保健機関)は年間115万人ほど死亡すると報告しています。 化石燃料を燃やして、1TWhの電力を生み出すのに何人犠牲になるのかざっくりと計算してみましょう。計算を簡単にするために数字を丸めて、世界の大気汚染で毎年100万人が死亡するとしましょう。火力発電所からの大気汚染物質が原因なのは、その3割の約30万人です。 この30万人を化石燃料による年間の発電量の約1万4000TWhで割ると、1TWh当たり21人になります。つまり火力発電で1TWhのエネルギーを生み出すのに21人の命が犠牲になるということです。化石燃料でも、石炭が特に危険で、次いで石油、そして一番安全なのが天然ガスなのですが、ここでは一括りに化石燃料としておきましょう。石炭は危険ですが、最も安価で経済効率のいいエネルギー源でもあるので、世界や日本の発電所で広く使われています。 次に原子力発電所の死亡者数を考えてみましょう。過去の原子力発電の事故で多数の死亡者が出たのはチェルノブイリだけです。チェルノブイリ原発事故では、WHOとIAEAの調査研究で将来4000人ほどの人が癌で亡くなる可能性があるとされました。しかし20年以上にわたる国際連合科学委員会の包括的な追跡調査では「放射能汚染による犠牲者をほとんど確認できなかった」とも述べています。ここでは多めの推計値である4000人を使いましょう。原子力発電の歴史は50年ほどありますから、死者数4000人を50年で割れば、原子力発電による年間死亡者数80人が導かれます。 また、核燃料を作るためのウランの採掘でどれだけの人が犠牲になるのかも見積もらなければいけません。しかしウランというのは石炭などの採掘と違って人が掘り出す必要がありません。インシチュリーチング法といって、酸またはアルカリ溶液をウラン鉱体に注入して、溶かしたウランをポンプで汲み上げるだけなので、遥かに安全で人が犠牲になることはほとんど考えられません。しかし、どんな工事でも多少の危険性がありますから、仮に人が犠牲になるとしても、今回の計算ではその数は少なすぎて誤差の範囲になります。なぜならば核燃料は石炭などの化学的な燃料と違って、エネルギー密度が桁外れに大きいからです。同じ重さの石油や石炭と比較した場合、ウランは石油の150万倍、石炭の300万倍のエネルギーを生み出すのです。よって、そもそも掘り出さなければいけない量が、化石燃料より桁外れに少ない量で済んでしまうのです。 原子力の犠牲者数の80人/年を1TWh当たりに換算するため、原子力による世界の年間の発電量2700TWhで割って、80÷2700=0.03人/TWhになります。つまり原子力発電の歴史を見る限り、原子力により1TWhの電気エネルギーを生み出すのに0.03人の犠牲だけだということです。さらに原子力の安全性は年々進歩していますから、現在の原子力発電所はこの数字よりも高い安全性を実現できるでしょう。 石油も石炭も天然ガスも、もちろんプラントの事故によって亡くなる方もいるのですが、今回の計算には含めませんでした。なぜ含めなかったかというと、大気汚染の犠牲者が多すぎるので、プラント事故による死亡者数は、計算上は無視できるほど小さくなるからです。ところが原子力は、事故が起こらなければ死亡者が出ないので、事故の死亡者数や採掘による死亡者数を注意深く見積もる必要があったのです。 現在、日本では脱原発が盛んに議論されていますが、急進的な原発廃止が進み、日本の老朽化した火力発電所がフル稼働して、原発の電力不足分を補う場合、どれぐらいの人が犠牲になってしまうのでしょうか。 日本は年間1,100TWh程度の電力を生み出します。これらの3割が原子力によるものなので、原子力の発電量は330TWh程度です。これを火力発電に置き換えた場合、先ほど計算した火力発電の犠牲者数の21人を使うと、約6,900人の人が毎年亡くなります(21×330=6,930人)。一方で原子力の方は、平均値で考えると、330TWhでは10人ほどの死者が見込まれます(0.03×330=9.9人)。これはあくまで平均値なので、原子力発電の性質上、ほとんどゼロで、事故があった年だけ死者数が増えるということになりますが、6,900人の増加に対して、原発を止めることにより潜在的に10人の犠牲者を減らせます。10人は誤差の範囲なので、日本で急進的な脱原発が進んだ場合、年間に6,900人も死者が増えてしまう可能性があります。 しかし日本の火力発電所は環境規制が厳しく、汚染物質を取り除く技術が非常に高いと言われています。よって世界平均で計算した火力発電の1TWh当たり21人よりも少なくなると思われます。 WHOの調査によると、日本ではだいたい33,000人〜52,000人の人たちが毎年、大気汚染が原因で亡くなっています。 幸いなことに、日本の火力発電所の環境規制が他国より厳しく、アメリカの火力発電所に比べると、単位発電量当たりでは16分の1程度の硫黄酸化物や、6分の1程度の窒素酸化物しか出さないようです。 OECDのデータを見ると、火力発電所の環境対策に関しては、やはり日本はアメリカよりも優れているようです。硫黄酸化物と窒素酸化物の平均で見ると、アメリカでは大気汚染物質の4割〜5割程度が火力発電所から出ていますが、日本は1割〜2割程度です。 WHOの推計による日本での大気汚染で死亡する人数は33,000人〜52,000人なので、ここでは平均値を使い年間42,000人として、その内の15%が火力発電所が原因だとします。すると約6,300人(42,000人×15%)が火力発電によって起きる大気汚染で毎年死んでいることになります。日本の電力の6割が火力で3割が原子力です。脱原発によって、この6割の火力が9割になり、3割の原子力がゼロになるわけなので、6,300人×3÷6=3,150人になります。つまり大気汚染で死亡する日本人は、だいたい年間で3,000人ぐらい増えます。日本の火力発電所は世界の平均よりも優秀なので、先ほど世界平均を使って計算した年間6,900人よりも少なくなりました。 福島第一原発事故により、日本では定期点検中の原発が稼働できず、電力会社は、老朽化して使っていなかった火力発電所を復活させることにより、電力不足をしのいでいます。最新の環境性能の高い火力発電所を建設しているわけではありません。経産省も環境アセスメントの免除など、環境規準を大幅に緩めて、老朽化した火力発電所の稼働や増設を助けています。よって、放出される大気汚染物質はこれよりかなり多くなるでしょう。おそらく3,000人以上の死者が毎年出るでしょう。 多くの人は、原発をなくせば日本はもっと安全になる、と考えているようですが、このように健康被害を冷静に考えると、原発をなくすことで増すリスクも存在します。そしてそのリスクは、原発のリスクよりも遥かに大きいようです。 反原発運動家は、ことさらに放射線による健康被害の悲惨さを強調しますが、致死的な呼吸器系の病気は、ひどい喘息や肺癌など、大変な苦痛を伴う悲惨な死に方です。そして、その数は放射線に関連する癌患者よりも圧倒的に多いのです。 原子力が「不安」でも、客観的に見れば明らかに火力よりも「安全」なので、人命の観点から、安易な脱原発には反対せざるを得ません。火力と原子力の比較では、死者数が3桁から4桁も違うので、モデルの近似精度やデータの信頼性で順番が入れ替わるような問題ではありません。現在までに世界で起きたあらゆる原発関連の災害を考慮しても、現時点では原子力は火力に比べて圧倒的に安全だということになるのです。
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