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相も変わらぬ「SPEEDI隠し」 文科省、滋賀への提供先延ばし
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4月29日 東京新聞「こちら特報部」:「日々担々」資料ブログ
国が東京電力福島原発事故時にデータを隠蔽(いんぺい)した緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)。激しい非難を浴び、反省したかと思いきや、所管する文部科学省は関西電力大飯原発3、4号機の再稼働に批判的な滋賀県への情報提供を渋っている。国に不信感を募らす同県や民間団体からは、独自の放射能拡散予測図を作成、公表する動きも出てきた。 (佐藤圭)
「原発銀座」の福井県若狭湾沿岸で福島級の事故が起きた場合、滋賀県はどうなるのか−。同県はSPEEDI情報の提供を文科省に再三要請してきたが、ズルズルと先延ばしにされている。
対象の原発には、政府が再稼働を急ぐ大飯原発も含まれている。それだけに、同県では「事故時に関西全域が汚染される結果になるのは目に見えている。結局、再稼働への影響を恐れているのではないか」といった声も上がっている。
滋賀県は従来の原子力防災対策重点地域(原発から半径八〜十キロ圏)には入っておらず、SPEEDIの情報提供対象外だった。しかし、福島事故で東日本全体に放射性物質がばらまかれたことを考えれば、敦賀原発から最短で十三キロに位置する同県も「立地自治体並み」の態勢を構築しなければならない。
近畿千四百万人の水源である琵琶湖を抱えている点も固有のリスクだ。東日本大震災直後から地域防災計画の見直しを検討していた同県としては、拡散予測シミュレーションは基礎データとして欠かせなかった。
同県の嘉田由紀子知事は昨年五月二十三日、SPEEDIの運営を委託されている財団法人・原子力安全技術センター(東京)を訪ね、情報提供を求めた。だが、一週間後に文科省から返ってきた答えはこうだった。
「提供対象外なので安全技術センターに指示を出すことはできない」
同県は文科省への働きかけを続ける一方、独自の予測シミュレーションを試みた。国を当てにしていては防災計画の見直しが進まないからだ。
利用したのは、県琵琶湖環境科学研究センター(大津市)にある光化学スモッグの拡散予測システム。同センターの前身である旧琵琶湖研究所の研究員だった嘉田知事が直接指示した。
このシミュレーションでは、大飯原発、美浜原発、高浜原発、敦賀原発で、それぞれ福島事故と同規模の放射性ヨウ素131などが六時間放出されたと想定した。
二〇一〇年の気象データに基づき、滋賀県に影響が出やすいとされる北風が緩やかに吹く日を選び、計百六パターンの予測図を作成。昨年十一月末までに公表した。
それによると、県内の半分以上で屋内退避か、甲状腺の被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤の服用が必要になるという結果が出た。いずれの原発での事故でも、琵琶湖の広い範囲が汚染される可能性を示していた。
ようやく文科省がSPEEDIの情報提供対象自治体に滋賀県などを追加したのは、今年二月三日のことだ。
防災重点区域を半径三十キロ圏に広げることに伴う措置だ。ところが、この方針は昨年十一月の原子力安全委員会作業部会ですでに決まっていた。こうした同省の“自治体・住民軽視”の姿勢は、その後も滋賀県を翻弄(ほんろう)し続けた。
同県は早速、独自の拡散予測シミュレーションと同じ前提条件で、計百六パターンのSPEEDI予測図の作成を依頼しようとした。ところが、この要望に対し、文科省の返答は「たくさん言われても困る」だった。
防災計画の改定が三月末に迫っていた。仕方なく文科省の言い分を受け入れ、県に最も影響がある八パターンを厳選。同月一日、文科省にデータを送った。すると、今度は「SPEEDIの運用を見直しているので、時間がほしい」。結局、SPEEDI情報が得られないまま、防災計画の改定が正式決定した。
文科省は現在も提供時期について「なんとも言えない」と繰り返す。同県原子力防災チームの田中弘明・主席参事は「独自シミュレーションの精度をSPEEDIで確かめたかったのに残念」といらだちを隠さない。
二〇一二年度のSPEEDI運営経費は、前年度比二割増の約九億三千万円。周辺の放射線量から放出量を逆算したり、予測範囲を拡大するなどの機能強化を図るためとしている。
一方、経済産業省原子力安全・保安院も一二年度、米国で開発された予測システム「MACCS(マックス)2」を導入する。予算資料では「マックス2は年間予測の実績が豊富。SPEEDIでは、年間の気象データを反映するのは困難」と優位性を強調する。費用は委託先の独立行政法人・原子力安全基盤機構(東京)が運営交付金約二百六億円の中で賄う。
ただ、自治体や住民が利用できなければ、税金の無駄遣いにすぎない。保安院も文科省と同様、福島の事故時にSPEEDI情報を入手していたのに公表しなかったという“前科”がある。
保安院は、マックス2の提供対象範囲について「原則的に原発立地自治体」と説明。滋賀県などの隣接県は対象外になりかねない状況だ。
民間の環境シンクタンク「環境総合研究所」(東京)の青山貞一所長は「道路や橋のみならず、システム開発も利権化している。国が研究所や業者とつるんで予算額をつり上げている。しかも結果は問われない。今回のSPEEDIのように、実際に試されたケースは例外だ」と批判する。
同研究所は二十年前から独自の予測モデルをパソコンで開発し、この一年は原発事故に対応させてきた。使用しているパソコンは五万円台だ。
「二百五十キロ四方の広域を一キロ単位、しかも複雑な地形や建築物を三次元で考慮したシミュレーションだ。性能は百三十億円も投じたSPEEDIと同じか、それ以上のことが、頭を使えば市民価格でも実現できる」
ちなみに大飯原発で福島級の事故が発生した場合の予測図では、近畿一帯が幅広く汚染される状況が一目瞭然となった。青山所長はこう語る。
「国が情報を隠すのであれば、私たちがやるまでのこと。原発がなくなることが一番いいが、再稼働されてしまえば、自己防衛するしかない。日ごろから予測図を確認しておけば、いざという時に役に立つはずだ」
<デスクメモ> 中国や北朝鮮をひどいという。だが、この国の中枢も五十歩百歩ではないか。検事がねつ造文書で特定の政治家をはめる。米軍再編協議の発表にある海兵隊員の数も妙だ。東電再建策には案の定、再稼働がうたわれた。そして滋賀県には露骨な嫌がらせか。ここまで品位が落ちるとは「想定外」だった。(牧)
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