87. 2012年4月15日 07:23:04
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テレビや雑誌で活躍する有名な学者で「宮城から神奈川までの野菜は買わない」と公言した人がいます。放射性物質に汚染された野菜を食べることによる内部被ばくが恐ろしい、と言いたいのでしょう。2011年10月、食品安全委員会は、健康に影響を及ぼす食品による被ばく量を生涯累計でおおよそ100ミリシーベルト以上、とする評価書をまとめました。市場に流通している食品を摂取する限りは、この数値の範囲内で収まるので心配はいりません。 放射線による被ばくには2種類あります。放射線を体の外から浴びる外部被ばくと、体内に取り込んだ放射性物質によって体の内側から放射線を受ける内部被ばくです。 外部被ばくは、衣類や皮膚に付着した放射性物質から放射線を浴びることで起きます。内部被ばく大気中の放射性物質を吸い込んだり、食べ物に含まれる放射性物質を取り込んだことで起きます。 どちらが怖いかと聞くと、多くの人は内部被ばくを怖がる傾向があります。悪さをする物質を体の中に取り込んだら最後、体内に’沈着’し、生涯にわたって悪影響を与え続けるというイメージでしょうか。 これには伏線があると思います。日本で公害の原点となった水俣病です。水俣湾に棲む魚が有害な水銀を取り込み、高濃度に水銀がたまった魚を人が食べる食物連鎖によって、痛ましい被害が出ました。恐らく、内部被ばくは水俣病の悲劇を連想させるのでしょう。 しかし、放射性物質は水銀のような重金属と異なり、体内に取り込んでも代謝や排泄によって体の外に排出されます。これは重金属との決定的な違いです。 内部被ばくを怖がる感情はわかりますが、1ミリシーベルトの内部被ばくが1ミリシーベルトの外部被ばくより危険ということはありません。影響はまったく一緒です。そもそもシーベルトという単位は、身体に与える影響を示すもので、一般住民の場合には、発がんを増やす指標と言えるものだからです。 内部被ばくの影響は体内で起きるため、見えませんが、数字で影響がどれくらいあるかを示す「預託線量」があります。 放射性物質を内部に取り込んだ場合、すべてが体内に残るわけではありません。時間が経つにつれ代謝や排泄で外部に出ていきますし、半減期によって放射能も弱まります。預託線量とは、このように時間とともに影響が弱まることを見込んで、摂取から一生の間に受ける内部被ばくの線量を一括して、摂取時にあらかじめ示すものです。「いつまで続くかわからない」内部被ばくの「脅威」をはっきり示してくれます。 私たちが日常的に口にする食べ物の中にも、放射性物質があります。 ホウレンソウなど野菜に含まれるカリウム40という放射性物質があります。生命の維持に欠かせない物質で、人は野菜などの摂取を通じて、日頃からカリウム40を取り込んでいます。取り込んでも代謝や排泄によって出ていきますが、また野菜を食べると体に入るので、体重60kgの成人男子で約4000ベクレル、量にして0.012グラムの放射性カリウムが常に体内にあります。 カリウム40によって、年間0.2ミリシーベルト程度の内部被ばくが起こります。100年生きると、20ミリシーベルトにも達します。野菜を食べるほど、内部被ばくが増えるわけですが、野菜はがんのリスクを大きく減らすことが知られています。このことからも、カリウム40による内部被ばくを心配する必要がないことがわかります。 原発から放出された放射性物質には、わずかながらストロンチウムなどもあります。しかし健康に影響を与えるほどの量ではないため、問題になってくるのは事実上、ヨウ素とセシウムだと言えます。そして、半減期が8日のヨウ素は今となってはすでに消滅しましたから、いま問題となっているのはセシウムです。 このセシウムが国の規制値を超えて検出された牛肉や静岡のお茶など、食品への不安が高まっています。原発から出た放射性物質が首都圏を飛び越え、静岡に到着したのも、やはり風の影響です。 原発事故で放出された放射性セシウム137は、半減期が30年という長さを持つ物質です。体内に入るとほぼ100%が胃腸から吸収されます。ただし、身体の細胞は常に入れ替わっていますから、セシウムの場合は、大人ではだいたい2か月から3カ月で半分が排泄されます。乳児の場合は10日で半分になります。 チェルノブイリの経験から考えてみます。 原子炉の爆発でヨウ素とセシウムは広範囲に飛散しました。その結果、牛乳の摂取を通じてヨウ素による小児甲状腺がんの増加は確認されました。 チェルノブイリでは、食品の規制が行われませんでしたから、セシウムによる内部被ばくも起きてしかりです。現地入りした科学者たちが、子供を中心に約20万人の体内セシウムを調べたところ、事故を境にセシウム137が数百ベクレルから数万ベクレルに増えています。 しかし、何らかの病変があったかというと、セシウムが原因と考えられる発がんは確認されていません。ヨウ素による小児甲状腺がんがわかったのみで、セシウムによる影響は認められていないのです。 なお、セシウムは同じアルカリ金属のカリウムと似た物質です。福島で検出された放射性セシウムよりはるかに多い放射性カリウムが私たちの身体に存在します。セシウムによる内部被ばくを過剰に心配する必要はないと思います。 |