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風知草:宙に浮く燃料プール=山田孝男
http://mainichi.jp/select/seiji/fuchisou/
毎日新聞 2012年4月2日 東京朝刊
大震災以来のおびただしい批判、検証、反省もむなしく、原発の安全をチェックする行政は後退し続けている。
その証拠に、今週から原子力安全・保安院と原子力安全委員会の予算はゼロ。取って代わるはずの「原子力規制庁」は法案が国会に滞留し、発足できない。つまり、監督官庁の存在感がさらに薄らいだ。
予算は「その目的の実質に従い、執行できる」(予算総則14条2)から、暫定存続の旧組織は新組織の予算を流用できるとはいえ、士気は上がらない。各府省のもたれ合い、与野党の不決断、何ごとも東京電力任せの実態は相変わらずだ。
福島第1原発4号機の核燃料貯蔵プールが崩壊する可能性について考えてみる。震災直後から国内外の専門家が注視してきたポイントである。
東電は大丈夫だというが、在野の専門家のみならず、政府関係者も「やはり怖い」と打ち明ける。どう怖いか。
4号機は建屋内のプールに合計1535本、460トンもの核燃料がある。建屋は崩れかけた7階建てビル。プールは3、4階部分にかろうじて残り、天井は吹っ飛んでいる。
プールが壊れて水がなくなれば、核燃料は過熱、崩壊して莫大(ばくだい)な放射性物質が飛び散る。アメリカの原子力規制委員会もフランスの原子力企業アレバ社もこの点を強く意識した。
「福島原発事故独立検証委員会」(いわゆる民間事故調)報告書は、原発事故の「並行連鎖型危機」の中でも4号機プールが「もっとも『弱い環』であることを露呈させた」と書く。政府がまとめた最悪シナリオ(同報告書に収録)も4号機プール崩壊を予測。さらに各号機の使用済み燃料も崩壊し、首都圏住民も避難を迫られるというのが最悪シナリオだ。
震災直後、原発事故担当の首相補佐官に起用された馬淵澄夫元国土交通相(51)は、4号機の地下からプールの底までコンクリートを注入し、チェルノブイリの「石棺」のように固めようとした。が、プール底部の調査で「強度十分」と見た東電の判断で見送られ、支柱の耐震補強工事にとどめた。
当時の事情を知る政府関係者に聞くと、こう答えた。
「海水を注入しており、部材の健全性(コンクリートの腐食、劣化)が問題。耐震強度の計算にも疑問がある。応急補強の間にプールから核燃料を抜くというけど、3年かかる。それまでもつか。(石棺は)ダムを一つ造るようなもので高くつく。株主総会(昨年6月)前だったから、決算対策で出費を抑えようとしたと思います」
原発推進は国策だが、運営は私企業が担う。政府は東電を責め、東電は「国策だから」と開き直る。「国策民営」の無責任体制は変わらない。
民間事故調の報告書は市販開始3週間で9万5000部出たそうだ。1冊1575円もするというのに。体面や営利に左右されない体系的説明に対する国民の飢えを感じる。
東北・関東で震度5級の地震が続いている。最悪の事態を恐れる者を「感情的」と見くだす不見識を受け入れることはできない。リスク軽視で経済発展を夢想する者こそ「現実的」という非常識に付き合うわけにはいかない。
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