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原発事故の放射性物質
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2012年3月9日 ワードBOX 西日本新聞
東京電力福島第1原発事故では、汚染水の流出に加え、水素爆発による放出後に直接落下したり、地上に落ちた後に雨や雪で洗い流されたりして放射性物質が大量に海に入った。ヨウ素131や、セシウム134と137が代表格。ヨウ素131は半減期が8日と短いが、セシウムは134が2年、137が30年と長い。セシウムは筋肉に蓄積しやすく、魚からの検出が多い。原発沖の海底では毒性が極めて強いストロンチウムやプルトニウムも確認されている。
東日本大震災1年 海の汚染 放射性物質 食物連鎖 魚に濃縮 ほか
史上最悪レベルとなる大量の放射性物質をまき散らした東京電力福島第1原発事故。大気中への放出や汚染水の流出などで、陸だけでなく海や川にも深刻な汚染をもたらした。除染は事実上不可能。長期間にわたって魚介類に蓄積し、漁業や私たちの暮らし、生態系への影響も避けられない。
●放射性物質 食物連鎖 魚に濃縮
事故発生から半月余りの昨年4月初め、コウナゴ(カナギ、イカナゴの幼魚)の放射性ヨウ素の値が全国に衝撃を与えた。1キログラム当たり約4千ベクレル。その後も検出が相次ぎ、同1万ベクレル以上も。魚介類を測定する動きが広がり漁の自粛も余儀なくされた。
検出はアイナメなどにも拡大し、より半減期が長いセシウムが問題になった。食卓をにぎわす海の恵みは一転、消費者の不安を集めた。
▼生態系を循環
放射性物質はどのようにして生物に取り込まれたのか。
東京海洋大の石丸隆教授によると、海に流出した放射性物質は食物連鎖を通じ、プランクトンから海面近くの中型・大型の魚に段階的に移行する。死骸やふんが海底に沈んだ後で、ゴカイなどの底生生物に取り込まれ、それを食べる海底の魚にもたまって濃縮する。石丸さんは「海底の生態系の中で循環し、なかなか希釈されない」と話す。
事故後に東京海洋大が福島沖で実施したさまざまな生物の調査が、それを裏付けている。
昨年7月の調査では、魚の餌となるプランクトン1キログラムからセシウム134と137を合計で最高669ベクレル検出。ウニの仲間からは1キログラム当たり854ベクレルを検出した。10月の調査では、海中をただようプランクトンの値は1桁下がったが、海底にすむウニの仲間は同582ベクレルだった。「それほど低くなっておらず、底生生物の汚染が続いている」と石丸さんはみる。
▼海底で高濃度
私たちが食べる魚も気掛かりだ。水産庁によると、海面近くを回遊する魚のセシウム濃度は下がる傾向にある。東日本沖合の太平洋では、サンマやカツオが夏に同10−20ベクレル程度の最高値となったが、その後は低下。今年に入ってサンマはほとんどが同1ベクレル未満、カツオは同1−2ベクレルだ。
一方、底生生物を食べるアイナメは、福島沖で昨年7月に同3千ベクレルの最高値を記録。ほかの海域では低下したが、福島沖では今年に入っても同千−1700ベクレルと高い値も出た。海底にすむシロメバルも、昨年7月と今年2月、福島沖で同3千ベクレル超のものを確認。海底の魚は事故から1年後も、場所によって濃度が高い実態を浮き彫りにするデータだ。
汚染の元になった海水の状況はどうか。全国の原発周辺の海で放射性物質を調べている海洋生物環境研究所によると、福島沖の海水のセシウム137濃度は事故前に1リットル当たり1−2ミリベクレルだったが、事故後は数万倍の同数十ベクレルに跳ね上がった。宮城や茨城沖にも汚染は広がった。
最近では福島第1原発から30キロ離れると、高くても同数十ミリベクレルと事故前の数十倍に落ち着いた。とはいえ元のレベルには程遠い状況。同研究所の日下部正志研究参与は「いつかは分からないが、最終的には海水が希釈されて以前の水準に戻る」と話す。
▼まだらに分布
やっかいなのは海底の泥などの堆積物だ。日下部さんは「放射性物質は粘土質に吸着されやすい一方、砂地の濃度はそれほど高くない。海底にも局地的に高いホットスポットがあり、まだらに分布している」と話す。
文部科学省の委託で同研究所などが実施した海底土の調査では、セシウム137は、宮城・牡鹿半島の東側で一貫して濃度が低い一方、牡鹿半島の南側では1キログラム当たり数百ベクレルの高濃度で推移。茨城沖は同300ベクレルほどまで上昇傾向を示す場所もあれば、同数百ベクレルから数十ベクレルの間での乱高下もみられ、場所や時期によりばらつきが大きい。
事故前は、宮城から茨城沖の海底土はどこも同数ベクレル程度で、汚染のひどさは明白だ。
海底土は海水より調査が難しい面もある。採取場所が100メートルしか離れていなくても、土の質が違うと値が大きく変わる。継続調査しようとしても風や潮の影響で調査船の位置がずれる。個々の数値だけでなく長い傾向を見る必要がある。
▼長期影響必至
事故以来、福島沖では漁が自粛され、地元は再開を待ち焦がれる。消費者も食卓に安心が戻るのを期待する。ただ1986年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故を見ると、全ての生物が以前の状態に戻るのはかなり時間がかかりそうだ。
同研究所によると、チェルノブイリ事故後、福島沖の海水の放射性物質濃度は急上昇し、約1カ月後に最も高くなった。一方、魚類の濃度は、海面近くにすむスズキが5−6カ月後、底にすむマダラは約9カ月後にピークに。その後の下がり方も魚種で差があり、スズキは事故後1年半以上、マダラは2年半かかって以前の濃度まで戻った。
しかもチェルノブイリは日本から遠く離れており、海の汚染は大気経由だけだった。日下部さんは「今回は海の放射性物質の量がはるかに多く、生物の濃度変化が同じパターンで推移するかどうかも不明だ。いずれにせよ生物への蓄積がはるかに長く続くのは確実だ」と指摘する。
海は陸と違い除染ができず、モニタリング以外に影響を把握するすべはない。将来にわたる長い取り組みが待ち受けている。
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