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原子力安全・保安院:防災強化に反対 「混乱起こし原子力への不安増大」 安全委に文書、指針改定見送り−−06年
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20120316ddm001040017000c.html
原発の重大事故を想定した防災対策の国際基準を導入するため、内閣府原子力安全委員会が06年に国の原子力防災指針の見直しに着手した直後、経済産業省原子力安全・保安院が安全委事務局に対し「社会的混乱を引き起こす」などと導入を凍結するよう再三文書で要求していたことが分かった。結局、導入は見送られ昨年3月、東京電力福島第1原発事故が起きた。導入していれば周辺住民の避難指示が適切に出され、被ばく人口を大幅に減らせた可能性がある。安全委は15日、保安院からの文書や電子メールなど関連文書を公開した。【比嘉洋、岡田英】
国の防災指針は79年の米スリーマイル島原発事故を受け、80年に策定された。しかし原子炉格納容器が壊れて放射性物質が大量に放出されるような重大事故は「我が国では極めて考えにくい」として想定しなかった。
02年、国際原子力機関(IAEA)が重大事故に対応する新たな防災対策として、住民の被ばくを最小限に抑えるため原発の半径3〜5キロ圏をPAZ(予防防護措置区域)、30キロ圏をUPZ(緊急防護措置区域)に設定して効果的な対策を講じる国際基準を作成した。欧米の原発立地国の多くが導入し、安全委も06年3月から検討を始めた。これに対し保安院は翌4月から6月にかけ、「原子力安全に対する国民不安を増大する恐れがある」「現行指針のEPZ(防災対策重点地域、10キロ圏)より広いUPZを設定すると財政的支援が増大する」などと、導入凍結を求める意見を安全委事務局に文書や電子メールで送付。安全委は07年5月、保安院の要求に応じる形で導入を見送った。
福島第1原発事故では、地震発生から約2時間後に原子炉が冷却機能を喪失。だが3キロ圏内の住民に避難指示が出たのはその4時間後で、10キロ圏内への避難指示は放射性物質の放出が始まった後になるなど、想定の甘さが露呈した。
内閣府幹部は「06年に国際基準を導入していれば、地震発生時点で迅速な避難を指示できたかもしれない。福島第1の原子炉の損傷がさらにひどければ、避難の遅れが致命的になった恐れもあった」と話す。
保安院が再三圧力をかけた理由について、森山善範原子力災害対策監は15日の記者会見で「(国際基準の)メリット、デメリットを慎重に検討する必要があった。自治体の意見も聞く必要があり、拙速に議論すべきではないと考えた」と釈明。そのうえで「当時の対応は十分でなかった。国際的な動向を迅速に取り入れる姿勢に欠け、反省せざるを得ない」と述べた。
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◇保安院原子力防災課が安全委に出した意見概要
※安全委が公開した文書から抜粋
◆06年4月24日
無用な社会的混乱を回避するため、「即時避難」という語句を使用することは控えていただきたい
◆06年4月26日
IAEAの考え方を導入した新たな原子力防災指針の検討を行うことは、中央省庁、地方公共団体のみならず地域住民にも広く浸透、定着しつつある現行防災スキーム(計画)を大幅に変更し、社会的な混乱を惹起(じゃっき)し、原子力安全に対する国民不安を増大する恐れがあるため、検討を凍結していただきたい。現行指針における原発から半径約10キロのEPZより広い原発から半径約30キロのUPZを設定すると、防災資機材などの整備を重点的に行う地域が拡大し、財政的支援が増大するのではないか
◆06年6月9日
PAZの設定の趣旨は現行指針に基づくEPZの考え方に含まれている
◆06年6月15日
我が国の防災対策の現状に特に問題点が見いだされない。貴課(管理環境課)は本件の社会的な影響の大きさも十分に認識していなかった。防災行政に責任をもつ当院(保安院)の意見、考え方を十分に確認せず、一方的に防災指針について改定の検討を開始したことは、貴課の不注意と言わざるを得ず、誠に遺憾である
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■ことば
◇原子力防災指針
原子力事故に対応し国や自治体が策定する防災計画の前提。福島第1原発事故を受けて原子力安全委員会が見直し作業を進めており、PAZとUPZを設定する国際基準を導入する予定。放射性物質が大量放出されるような重大事故が起きた場合、UPZ内の住民は放射線量に応じて避難や屋内退避などの被ばく低減策を求められる。
毎日新聞 2012年3月16日 東京朝刊
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