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日経ビジネス オンライントップ>$global_theme_name>原発の後始末
世界で迷走、核のゴミ
2012年3月14日 水曜日
山根 小雪,大竹 剛
「核のゴミ」の地層処分計画は、世界各地で国を揺るがす問題となっている。脱原発のドイツでは計画が白紙に戻った。順調に計画が進む稀な例はフィンランドくらい。解決には時間をかけた合意形成が必要だ。今回も日経ビジネス2012年1月30日号特集『原発の後始末』の内容を再録する。
ドイツ
政府の信頼失墜 対立する地域社会
昨年11月末、人口700人ほどの北ドイツの田舎町ゴアレーベンで、2万5000人ものデモ隊と1万8000人の警官隊が衝突した。デモ隊の中には、体を電車の線路に縛りつけたり、トラクターで道路を封鎖したり、実力行使に訴える者も少なくない。特殊な容器に格納した「死の灰」とも呼ばれる高レベル放射性廃棄物が、中間貯蔵施設に搬入されるのに抗議するためだ。
ドイツの処分場候補地ゴアレーベンでは、岩塩層で調査目的の掘削が続く
ドイツは2005年まで、フランスと英国に使用済み燃料の再処理を委託してきた。死の灰はこの再処理の過程で出るもので、1996年からほぼ毎年、フランスからドイツに引き渡されてきた。例外は2006年だけ。サッカーワールドカップの警備で輸送経路の安全確保が手薄になり、輸送そのものを見送ったからだ。
死の灰が搬入された中間貯蔵施設は、最終処分場の候補地に隣接している。過去20年間、処分場計画に反対してきたヘイコ・イェーガー氏は、「政府は核のゴミを持ち込み始めることで、ここへの処分場建設を既成事実化している」と怒りをあらわにする。
ゴアレーベンが最終処分場の建設予定地に決まったのは、この場所に地層処分に適している岩塩層があるからだ。「ソルトドーム」と呼ばれる巨大な岩塩層は2億4000万年前のもので、今後も100万年は安定的とされる。
だが、候補地に選ばれた理由が科学的な根拠だけだと信じる住人は、まずいない。当時は冷戦のただ中。旧東ドイツに接するこの地域は、産業もなく貧しさに喘いでいた。原子力施設を造れば雇用対策になる。しかも普段、風は西から東に吹く。「事故があっても、放射能は東ドイツに流れていく、と政府は考えたのだろう」(イェーガー氏)。
これまでにゴアレーベンには16億ユーロ(約1600億円)が投じられ、全長10キロメートルのトンネルが掘られている。最深部は地下930メートルだ。今も、調査目的で掘削を続けており、ショベルカーのエンジンの轟音がトンネル内に響き渡る。掘削のたびに舞う砂埃ならぬ“塩埃”が視界を曇らせ、空気そのものが塩辛い。180人が調査に従事し、その数は今春には240人まで増える。
処分場候補地の周辺を車で走ると、多くの家の軒先に黄色い「×」印が掲げられ、町中が反対しているかのような錯覚に陥る。だが、実情は複雑で賛成派も多い。ゴアレーベンを含む地元自治体を束ねるガートウ行政地区代表のフリードリヒ-ウィルヘルム・シュレーダー氏は、「最終処分場ができれば、中間貯蔵など関連施設も含め5000人の雇用が生まれる」と期待する。シュレーダー氏は2006年、73%の得票率を得て再選された。
処分場計画の賛否を巡り、地域社会は分裂状態にある。しかし、反対派と賛成派が同じ不満を抱く点もある。地元の声が聞き入れられないことだ。
政府がゴアレーベンを唯一の候補地に決めたのは1977年だが、処分場に必要な技術的な要件などを定めたのはその6年後。当初から“ゴアレーベンありき”で進んだ計画に、住民の不信感は募っていった。
しかも、政権交代のたびに迷走する計画に、住民は翻弄され続けている。2000年、脱原発の方針を表明した社会民主党と緑の党の連立政権は、ゴアレーベンの処分場計画を10年間、凍結することを決めた。その凍結期間が過ぎた2010年、今度はキリスト教民主同盟と自由民主党の連立政権が原発の運転期間延長を決め、ゴアレーベンでの調査再開に動き出した。
だが昨年、福島第1原発事故が起き、政府は脱原発の方針に再び転換。11月には処分場計画も白紙に戻し、ゴアレーベンでの調査を続けながら、新たな候補地も別途、探すことを約束した。
ゴアレーベンの施設を管理するドイツ放射線防護庁のフローリアン・エムリヒ氏は、「不幸なのは、ゴアレーベンが賛成派、反対派の双方にとって原発問題のシンボルとなり、政治家が同じ土俵で処分場問題の解決に取り組んでこられなかったことだ」と話す。政府は今年夏までに、最終処分場を造るための技術的要件などを改めて検討し直し、新たな法制化を進めたい考えだ。しかし、国民の不信感はそう簡単には拭い去れない。
フィンランド
科学技術を信じ 初の地層処分へ
「オンカロ」のトンネルでは使用済み燃料の熱が地盤に与える影響を検証し、ボーリング調査で地下1000メートルまで地質調査が進む
脱原発のドイツに対し、今後10年で発電量に占める原発の割合が5割にも達する見込みのフィンランドは、地層処分の計画が順調に進む数少ない事例の1つ。計画通り2020年に最終処分場が稼働すれば、世界初の事例となる。建設場所は、フィンランド南西部のオルキルオト。稼働中の2基に加え、出力160万キロワットの大規模原発の建設が進む、陸続きの“原発の島”に、広大なトンネルを掘る計画だ。
フィンランド語で「オンカロ(隠し場所)」と名づけられた研究施設では、処分場建設に向けた準備が最終段階を迎えている。地下450メートル近くまで続くトンネル内部では、約90度の熱を帯びた使用済み燃料の格納容器を埋めた時に地盤が受ける影響など、実践的な調査が進む。
使用済み燃料を埋める場所を最終確定するために、これまで1000メートルの深さまで57本のボーリング調査をした。1万〜10万年後に起きるだろう氷河期に、地表を数キロメートルの氷冠が覆った場合の影響も調べようと、グリーンランドまで出向いてボーリング調査している。地質学者のパオラ・コスネン氏は、「地下水の動きや氷河期の影響を予測するのは大きな挑戦だが、科学の力を信じて計画を前進させる」と話す。
フィンランドで地層処分計画が順調に進む理由には、科学技術への信頼に加え、この国特有の事情がある。国民が共有する独立心と、原子力がもたらす恩恵への理解だ。資源に乏しく人口500万人のフィンランドは、歴史的にロシアの脅威にさらされてきた。今もロシアなどから電力の18%を輸入しており、自立を望む国民感情は根強い。
このため原発は、電力の自給率を高めるために欠くことのできない技術となった。特に産業界は、共同出資の電力会社を通じて原発を所有し、出資比率に応じて市場価格より安く電力を分配することで、挙国一致の原発推進体制を作り上げてきた。
ロシアから自立する動きは、核のゴミ処理でも変わることはなかった。かつては一部の使用済み燃料はロシアに再処理を委託していたが、1994年に全量を国内処分する方針に転換した。
幸い、フィンランドには、ほぼ全土に15億年以上も地震などが発生していない安定した地盤がある。潜在的な候補地は全国に広がり、透明性と公平性の高い手順で段階的に候補地を絞り込むことができた。これが、合意形成の助けとなった。
候補地選びではオルキルオトを含む、原発がある2つの自治体が最後に残った。雇用や税収など、経済的恩恵を原発を通じて実感しているために反発も少なく、誘致合戦に発展。最終的に、使用済み燃料の輸送による環境負荷などを考慮し、2001年にオルキルオトが建設地に選ばれた。
原発や処分場の建設申請を審査する雇用・経済省エネルギー局のチーフエンジニア、ヨルマ・アウレラ氏は、「国民からの信頼は簡単に失われる。計画を進めるには、何事も隠さずに議論し、急いではいけない」と話す。オルキルオトに建設する処分場には、稼働中の原発4基と建設・計画中の2基から出る9000トンの使用済み燃料を捨てる計画だ。建設費用や2120年までの運用費も含め、総コストは33億ユーロ(約3300億円)と見積もっている。
日経ビジネス 2012年1月30日号66ページ
−原発の後始末 捨て場がない「核のゴミ」− より
このコラムについて
原発の後始末
国論を二分する原子力発電所の行方。脱原発かどうかに関係なく我々が解決しなければならないのが、原発が生み出す放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」の処分だ。核のゴミの後始末を巡って、日本が、世界が揺れている。
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著者プロフィール
大竹 剛(おおたけ つよし)
1998年、デジタルカメラやDVDなどの黎明期に月刊誌「日経マルチメディア」の記者となる。同誌はインターネット・ブームを追い風に「日経ネットビジネス」へと雑誌名を変更し、ネット関連企業の取材に重点をシフトするも、ITバブル崩壊であえなく“休刊”。その後は「日経ビジネス」の記者として、主に家電業界を担当しながら企業経営を中心に取材。2008年9月から、ロンドン支局特派員として欧州・アフリカ・中東・ロシアを活動範囲に業種・業界を問わず取材中。日経ビジネスオンラインでコラム「ロンドン万華鏡」を執筆している。
山根 小雪(やまね・さゆき)
日経ビジネス記者。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120312/229716/?ST=print
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