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「除染作業はいたちごっこ。半年や1年の努力ではどうにもならない」
福島県福島市の渡利(わたり)地区にある私立幼稚園「こどものいえ・そらまめ」の門真貞子園長は、必死の除染作業の末、園の一部移転を決めた。移転先は市内の西地区。渡利地区から車でわずか15分の距離だが、空間線量は毎時0.26〜1.14マイクロシーベルトで、1.02〜4.05マイクロシーベルトの渡利地区より格段に低い。
そらまめは移転を余儀なくされた
廃園となった幼稚園の施設を今年1月から間借りし、週3回は西地区、週2回は渡利地区という“二重保育”が始まった。
そらまめがある渡利地区は、福島第一原発からはおよそ60キロメートル離れているが、市内でも空間線量が高く、国の費用負担で避難できる「特定避難勧奨地点」の目安である毎時2.8マイクロシーベルトを超える箇所も点在する。一時は避難指定が検討されたが、見送られた。
長期にわたる低線量被曝が健康へ与える影響は、いまだ科学的に解明されていない。そのため、渡利地区では自主避難をする住民も多く、そらまめも昨年3月には23人いた園児が9人まで激減した。
■除染後、再び線量上昇 やむなく移転を決意
門真園長は子どもたちの健康を考え、早くから自主的に除染を進めてきた。線量計を片手に、園庭の表土除去から屋根や門扉の洗浄など、あらゆる除染方法を実践。線量は一時、毎時0.4マイクロシーベルト以下に下がった。
ところが、昨年9月になると、必死に下げたはずの線量が、長雨や台風により再び0.6マイクロシーベルトまで上昇した。「もう限界」、門真園長はそう感じたという。
放射線防護学の専門家からは、「屋根は洗浄するだけでは根本的な解決にならず、取り替えることが必要だ」と、除染方法の問題点を指摘された。しかし、屋根の葺き替えだけで見積もりは300万円。園児の減少で、経営はすでに赤字に陥っており、渡利地区のみでの保育継続を断念せざるをえなかった。西地区に新しい施設を確保したものの、給食用の設備を持ち込むことができず、園児が弁当を持参する週3日のみ西地区で保育を行う。
今年1月、放射性物質汚染対処特別措置法が施行され、東北、関東の8県102市町村が、国の費用で除染を行う「汚染状況重点調査地域」に指定された。一歩前進したかに見えるが、実際の除染作業への取り組みには課題が多い。
渡利地区も優先的除染区域に指定され、すでに昨年10月には、地区住民向けの説明会が開催された。だが、除去した表土の仮置き場が決まらないなどの理由から、作業日程は空白のままだ。
門真園長は、「行政に放置され続けていることで、この地域自体が疲弊し切っている」と苦悩の表情を浮かべる。遊び盛りの子どもたちが高線量地域に入らないよう行動範囲の制限を加えることで、「伸び伸びした保育ができない」という葛藤も強い。子どもたちも、震災以降、落ち着きがなくなるなど、行動に変化が見られるという。
■4カ月の除染作業でも3分の2は手付かず
除染現場からは、「市町村レベルでは効率のよい除染作業はできない」という声も上がる。汚染状況重点調査地域の除染に当たっては、政府は、作業は各自治体に任せ、交付金だけ配布する方針だが、この方法に早々とほころびが生じている。
昨年5月から9カ月にわたって除染作業に携わった郡山市薫小学校の森山道明校長も、今のスキームに矛盾を感じる一人だ。
郡山市では、原発事故以降、空間線量が毎時1マイクロシーベルト以上観測され続けた。薫小学校では学区内に高線量地域を抱えていたためほかの教育施設に先駆けて除染を実践し、市のモデルケースにもなっている。しかし、次々に起こる課題に、現場は頭を抱えている。
薫小学校が除染作業を開始したのは昨年5月。自主避難する児童が後を絶たず、薫小学校の全校生徒数は震災前より150名少ない約490名にまで落ち込んだ。残った児童や保護者の不安を取り除くため、学校は、校庭の表土除去など自主的な除染を開始した。
8月には、県の線量低減化活動支援事業として補助金給付が始まった。そこで学校は通学路の除染作業に取り組み始めたが、予算は1団体につきわずか50万円と、高圧洗浄機1台分にしかならない金額。みかねた洗浄機メーカー側が、「子どもたちの健康のためならば」と利益を度外視した価格で提供してくれたことで、ようやく20台までそろえることができた。
ただ、作業を業者に委託する予算はもうない。結局、保護者たちが週末作業に当たることになった。
2月までに除染作業が終了した通学路は全体のわずか3分の1。週末だけの作業であり、洗浄機1台が1日に除染できるのは20〜30メートルに限られる。しかも、1月以降は積雪のため作業が休止に追い込まれた。汚泥の仮置き場もなく、周辺の側溝に放置したままだ。
森山校長は、「放射能の健康影響に敏感な保護者はすでに移住し、今いる児童や保護者はここで頑張っていこう、と決めた人たち。だからこそ最善を尽くしたいが、現状の方法では限界がある」と語る。
校長の下には、「もっと効率的な除染方法がある。薫小学校で実証実験させてほしい」と、メーカーからの熱心な売り込みも多い。力の限りに取り組む除染方法が本当に最適なものなのか、現場には徒労感が募っている。
除染の費用負担も、不透明なままだ。政府は自治体への費用を一時的に給付し、今後、東京電力に請求していく、という姿勢を貫く。しかし、今の除染方法には限界があり、かつ、1度の除染だけでは効果が限定的だという中で、費用がどこまで膨らむかは未知数だ。
NPO法人「原子力資料情報室」の伴英幸共同代表は、国が目標とする年間1ミリシーベルトシーベルト以下にするには28兆円の除染費用がかかるという試算を原子力委員会に提出した。「除染費用について認識が甘いまま、東電存続への議論が進んでいる」と、警鐘を鳴らす。
東電は除染に対し、逃げ腰だ。昨年、福島県二本松市のゴルフ場運営会社2社が、東電に対して放射性物質の除去と損害賠償を求めた裁判を東京地裁で起こした。答弁の中で東電側は、「飛散した放射性物質は東京電力の所有物ではないため、ゴルフ場から検出された放射性物質には責任者がいない」という考えを示している。
今や事故処理と並ぶ深刻な問題となった除染。「子どもたちの健康を守るのに理屈はいらない。官民の力を集結し効率的な除染のためのシステムを考えるなど、最大限の措置を講じてほしい」(薫小学校の森山校長)。東電の今後を決めるうえで、汚染地域の住民を無視した議論は許されない。
(週刊東洋経済2012年2月18日号より)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120313-00000000-toyo-bus_all
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