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広瀬隆の『第二のフクシマ、日本滅亡』 - 汚染と避難
http://critic5.exblog.jp/17933046/
2012-03-08 23:30 世に倦む日日
広瀬隆の新著『第二のフクシマ、日本滅亡』の第3章に、次のような記述がある。「今後に危惧される最大の問題は、水源の汚染である。フクイチからは、放射性の水素であるトリチウムが大量に放出されてきたはずだが、ベータ線を出す放射性物質なので、まったく測定できない。トリチウムは、普通の水素に中性子が二個くっついた三重水素のことで、価電子の数が普通の水素と同じなので、科学的に同じ性質を持っている。そのためこれを組み込んだトリチウム水は、普通の水とまったく同じなので、取り除くことができない。ごく低濃度でも人間のリンパ球に染色体異常を起こすことが、放射線医学総合研究所で突き止められており、半減期も12年と長い危険物である。カウンターで見逃される最大の危険性は、このトリチウム水と、セシウム落ち葉から広がりつつある水源の汚染である。首都圏の水源地である栃木県と群馬県中部の山間部が高濃度に汚染されているため、利根川から取水する金町浄水場の汚染が一時問題となった。ところが実際には、奥多摩湖周辺から異常に高い放射線量が検出されていることから、秩父山系と奥多摩、群馬県南西部を水源とする多摩川水系の浄水場にも放射性物質は流入している。秋から冬にかけて、落ち葉によるセシウムの高濃度汚染が広大な範囲に浸透しつつある」(P.214-215)。これまでのマスコミ報道で、トリチウム水の危険性を警鐘した情報に接した記憶がない。
広瀬隆の説明によると、テレビ報道のレポーターが持って計測している線量計は、地表のヨウ素やセシウムが放つガンマ線のみを拾っているのであり、ストロンチウムが出すベータ線や、ウランやプルトニウムが出すアルファ線は、全く検出されていないのだと言う(P.186)。そして、シーベルト(空間線量)は、土壌汚染や食品汚染を知る上では役に立たない指標で、ベクレル(放射能の量)のみが意味のある有効な指標だと言い、全ての流通食品にベクレル表示を義務づけることを提案、その検査費用を東京電力に負担させろと言っている。第3章のP.217に、EUを含む43か国が農産物輸入を禁止または規制している12都県の地図が載っている。北から、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、長野、山梨、静岡。日本列島の中で特に汚染された地域だ。この地図を見て、なるほどと頷いたことがある。それは、3/1のNHKクローズアップ現代の「震災データマップ 記録が語る新事実」で紹介されたところの、福島から県外に避難した6万2千人のうち、最も多い1万3千人が移り住んだ先が山形だったという事実である。番組によれば、その8割が夫を単身で福島に残し、母子のみで疎開した家族だった。また、その半分以上が、昨年7月以降に、浜通りではなく福島市を中心とする中通りから避難して来た家族だった。
NHKの説明では、山形が福島から距離が近いこと、山形県が自主避難者に対して2年間に限って無料で住居を提供する措置をしたこと、山形の空間線量が福島に較べて低いこと、の3点を理由として挙げていた。山形(米沢市・山形市)の空間線量は年間0.5ミリシーベルトと低く、年間5ミリシーベルト超の中通り地方一帯と較べて安全性がきわめて高い。自主避難者が山形を選び、EUが農産物輸入の禁止県から山形を除いたのは当然だった。福島市と山形市の間は直線で50キロ。しかし、この間に日本列島を東西に分ける脊梁山脈が走っていて、放射能汚染が日本海側に拡散するのをブロックしている。6万2千人の避難先の第2位は東京だが、ほぼそれと同じ数が第3位の新潟に避難している。この数字は意外に感じたが、福島の人たちが冷静に情報を分析し、放射能から子どもの身を守ることを第一にして母子の疎開先を選んでいた事情が窺える。EUの農産物輸入規制地図こそが、まさしく厳然たる放射能汚染マップで、首都圏はすっぽりその中に入っているのだ。このことを考えると、関東各県よりクリーンな岩手の瓦礫を、首都圏の自治体と住民が危険だから受け入れないと拒絶するのはおかしな話ではないか。放射能汚染されているのは、福島から南の栃木と群馬と茨城であり、群馬・長野・山梨の山から流れる川の水で食品を作り、飲料水にしている埼玉や千葉や東京である。
東京の方が山形より放射能汚染のレベルが高い。しかも、脊梁山脈に降り積もったセシウムが、利根川水系と荒川水系を樋にして東京湾に流れている。福島第一原発から大気中に放出される放射性物質は、今後も関東平野を汚染し続け、われわれ首都圏の住民を内部被曝させ続けるのである。事故から1年経ち、このところ、土壌や海水や食品の放射能汚染に関する情報が少なくなった。マスコミ報道に出ないため、何か危険度が減ったような感覚にさせられる。事故の被害者も、放射能に苦しむのも、福島の人たちだけに限られていて、首都圏の自分たちは無関係で、福島の人たちを気の毒に思って憐れむ側の立場だと思っている。しかし、実はそうではないのだ。小出裕章によれば、海に流れ出したトリチウムは、水蒸気になって再び大気に戻り、雨になって脊梁山脈と関東平野に降り落ち、河川を流れて東京湾に注ぎ、その循環を繰り返すのである。広瀬隆のこの本は、忘れていた半年前の世界にわれわれを連れ戻し、放射能汚染と内部被曝の深刻さを突きつける。最近、特にNHKを中心に、福島の避難者に元の生活地域に戻るよう説得する情報工作が続いている。3/1のクローズアップ現代もそういう気配が漂ったし、3/6の大越健介のNW9は、さらにそのメッセージが強烈に出たプロパガンダだった。3/6のNW9での川内村の取材報道は、4月から役場や学校を再開する村を応援する趣向のもので、村長の遠藤雄幸に意気込みを語らせていた。
大越健介が、避難先から一足先に村に帰ってきて食堂を再開する夫婦を訪ね、わざとらしく励ますヤラセ映像を撮っていたが、この男がインタビューをして流す場合は、必ず裏にドス黒い政治的思惑がある。この報道は、政府の除染事業が現地でさも順調に行われていて、地元の行政も住民もそれに期待し、除染を軸に復興に前向きに努力しているという"図"を洗脳するための狡猾な政治宣伝だ。こういうフィクションを説得工作の材料に使い、国民に政府の(実際には無策である)福島対策を支持させるように誘導し、避難した住民を元の場所に戻そうとしているのである。除染を住民の自力でやらせようとしているのであり、避難者にかかるコスト(東電への賠償請求等)を減らそうとしているのだ。新著の中で広瀬隆は、除染は全く効果のない気休めだと指摘している。3/6の朝日1面に出た福島県民への意識調査の記事でも、「国や自治体が行う除汚作業にどの程度期待できるか」の質問に対して、80%が「期待できない」と回答している。どうやら、われわれよりも福島の人たちの方が正確に情報を収集し、賢明な判断で行動しているように見える。NHKの報道でも、川内村の村民を対象にした意向調査で、「村に帰る」と回答した者は32%に止まり、「村に帰らない」が28%、「現時点ではわからない」が34%に上っていた。大越健介は、村に帰る者を選んで取り上げ、それを賞賛し激励する報道で埋めたが、帰りたくても帰れない者、泣く泣く村を離れる決意をした者については、一切無視して取材しなかった。
そして、川内村に帰って店を再開する夫婦にこう言わせていた。「放射能よりストレスの方が健康に悪いから」と。つまり、気にしても仕方がないというメッセージを福島の者に発信させている。大越健介が福島の人間に言わせ、全国に放送したかったのは、間違いなくこのフレーズだ。「安心」のイデオロギーの教宣散布である。事故から時間が経過し、放射能汚染の真実や恐怖が世間の関心から退いた後、入れ替わってこの言説が普及し、食品や土壌の放射能の危険性から人々の注意が散漫になる空気が醸成されている。そして、放射能を撒き散らし続けている東京電力の責任追及を鈍らせ、「特定の誰かを責めるのではなく、皆で分け合って被害を引き受けよう」という態度にスリカエられている。私は見ていないが、本の中で広瀬隆が、昨年10/22に放送されたNHKスペシャルを批判した件がある(P.209)。「"食の安心"をどう取り戻すか」という討論番組の中で、茨城県の農協担当者らしき者が登場し、やはり、「放射能よりストレスの方が体に悪い」と発言していた。このNHKスペシャルの司会は三宅民夫だ。三宅民夫がこの言葉を出演者に言わせている。三宅民夫と大越健介は、テレビのプロパガンダで視聴者から放射能への恐怖感を薄めさせ、気休めによる自己暗示と自己欺瞞を促しているのだ。汚染された食品流通への「事実上の見て見ぬフリ」を奨励し、その既成事実化を進め、それへの国民からの批判を封じているのである。
最近、私はNHKスペシャルを見ていない。正月以降、日曜の夜はTBSのドラマが面白く、真木よう子と松たか子の配役のコントラストの妙を満喫する時間になった。だが、昨年の後半も、特に原発事故が特集された放送は見ていない。ドキュメンタリーに名を借りた、事故責任者たちの嘘と言い訳の刷り込みであり、事実の捏造のオンパレードだからだ。NHKが原発事故を特集し、関係者の「証言」なるものを尤もらしく出し、「いま明らかにされる」だの「当事者が初めて口を開く」だのと大袈裟に宣伝すれば、誰でもその番組にチャンネルを合わせる。だが、制作編集された内容は全て官僚による悪質な創作であり、NHKの記者による事実の検証でも究明でも何でもなく、政府が「こう国民に説明しとけ」と指示した虚構の物語の押しつけに過ぎない。NHKの原発報道は、真実を伝えるためのものではなく、嘘で説明して、嘘を信じさせ、国民を騙して真実を隠蔽するためのものだ。『1984年』の「真理省」の役目をNHKが行っている。民間事故調の報告書と同じであり、その姿勢は、3月当時の御用学者による出鱈目な「事故解説」と何も変わっていない。中身があまりに愚劣で浮薄であり、人をバカにした論外な塵屑であり、見ていて不愉快と憂鬱で頭がおかしくなるので番組を視聴しなくなった。そして、広瀬隆の本のような恐ろしい説明で我にかえると、NHKの報道とのギャップをどう埋めればよいか思い悩む。昨年の4月から5月の頃は、ギャップを埋める言論状況があったが、今はそれが遠のいている。
広瀬隆は、ネットで言論して啓蒙をするべきだったのだ。講演や本や雑誌ではなく、ネットの場でマスコミ報道を批判すべきだった。その点、残念でならない。
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