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アレバ社のスキャンダルでスイスの情報分析機関が疑惑の渦中に
スイスの情報分析機関に矛先を向ける「アトミック・アン」
サイモン・ブラッドレー, swissinfo.ch
2012-02-23
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スイスの情報員、食品大手のネスレ社(Néstle)、フランスの原発大手アレバ社(Areva)が関わった数件のスパイ容疑事件が公になり、「経済スパイ活動」が世間の注目を集めている。
スイスの情報ビジネスは小規模かつ地味な存在だが、機密情報を取り扱う民間情報分析機関は優秀で主にジュネーブを中心に活動している。
スイスの姿勢は法規制を枠組みのみにとどめるといった緩やかなものであるため、これらの情報分析機関には活動の幅広い余地があるようだ。
後れを取るスイス
ジュネーブを基盤とする民間の情報分析機関「アルプ・サービス(Alp Services)」の取締役マリオ・ブレロ氏は、アレバの前最高経営責任者(CEO)「アトミック・アン」ことアンヌ・ローヴェルジョン氏とその夫オリヴィエ・フリック氏、さらに同社の重役が関与したとされる収賄疑惑の渦中にいる。
ローヴェルジョン氏は、フランス政府の管轄下にある原発炉製造の大手アレバからCEOの地位を追われた後、「アルプ・サービスが不法スパイ活動を働いた」と主張して先月パリでアルプ・サービスを訴えた。
アレバの事件によって、スイス国内でもあまり知られていない情報産業の内部が公になった。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの先進国でも自国の産業の競争力と利益を守るために情報分析機関が利用されているが、スイスはそれらの国々に後れをとっている。
成長分野
現在スイス国内には、アルプ・サービスのほかに、ワン・インテリジェンス(One Intelligence)、クロール(Kroll)、ディリジェンス(Dilligence)など民間の情報分析機関が約十数社あり、その大半がジュネーブで活動している。
「これは新興の成長産業だ」と「ジュネーブ・ビジネス・アドミニストレーション・スクール(Geneva School of Business Administration)」のエレーヌ・マディニエ教授は語る。同校は2010年に「コンペティティブ・インテリジェンス(Competitive Intelligence、右欄参照)」についての講座を立ち上げた。
コンペティティブ・インテリジェンスとは、商品、顧客、競合相手および競合環境のあらゆる面に関する情報を特定、収集、分析、供給する活動だ。経営者が組織のために戦略的な決定を行う際の参考として利用される。
「情報分析機関は秘密保持がしっかりしている。コンペティティブ・インテリジェンスは業務活動の一部に過ぎず、一般的な探偵業務や調査まで手掛けている企業もある」
情報調査の専門家であるステファン・コホ氏は、それらの情報分析機関の存在は、NGOや多国籍企業を多数受け入れているジュネーブの寛容な姿勢と国際性と関係があると語る。
「フランスはもっと規制にのっとった姿勢をとっているが、スイスの法律には情報ビジネスに対する規制が無いため、誰でも自由に活動できる」
陰謀と調査
ローヴェルジョン氏は、前雇用主のアレバがスパイ行為を働き、自分は陰謀に陥れられた犠牲者だと主張した。
アレバの採掘部のセバスチャン・ドゥ・モンテス氏は、同社が2007年に18億ユーロ(約1881億円)もの巨費を投じて買収したウラニウムの採掘企業について、当時の上司であるローヴェルジョン氏の許可を得ずにアルプ・サービスに調査を依頼したことを最近認めた。
しかしドゥ・モンテス氏は、買収相手の企業とローヴェルジョン氏の夫が「不法利益」を得ていたかどうかについての調査を依頼しただけで、電話盗聴のような法律に違反する方法で他人の個人的な生活を嗅ぎまわったのではないと主張した。
さらにフランスのメディアの報道を受け、「トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International)」のフランス支部は、グリーンピース(Greenpeace)およびワールドウォッチ(Worldwatch)と共同で、アレバの疑惑に関わった人物を被疑者不詳で告訴することを2月1日に発表した。
フランスの日曜新聞「ディマンシュ(Dimanche)」によると、アルプ・サービスの取締役ブレノ氏が当時提案したさまざまな調査方法の中には、上記三つのNGOの活動防止を目的とした監視、潜入およびロビー活動を月4万〜5万ユーロ(約418万〜523万円)で請け負うというものもあったが採用されなかった。
一方ブレノ氏の弁護士ダヴィド・ビトン氏は「誰かを尾行したり、電話の不法盗聴をしたことは一切ない」と容疑を否定した。
一線を越えた?
弁護士のマリー・ロール・アングフ氏は、現在大企業の大半が競合相手の情報を収集するために情報分析機関を利用していると説明する。「これは問題にはならない。法的な枠組みは順守されなければならないが、時としてあいまいになることはある」
またアングフ氏は、情報調査員がいつ法を踏み外すか、いつ超えてはならない一線を越えるのか、いつ経済スパイ活動が産業スパイ活動になるのか見極めるのは必ずしも容易ではないと語る。
刑法の条項で定められているように、スイスでは電話の盗聴などの行為は明らかに法律違反だが、例えばフランスとは異なり身元を割り出すための調査は犯罪ではない。
NGOのアタック(Attac)に所属する反グローバリゼーション活動家は、先月ネスレが一般市民である自分たちに対して監視活動を行ったと主張して同社をローザンヌ地裁に訴えた。
ネスレは、彼らを監視するために民間警備会社セキュリタス(Securitas)の職員を雇い、組織に潜入させたことを認めた。しかし、2003年にフランスのエヴィアン(Evian)でG8サミットに対する抗議運動が起きたころ「アタックはネスレに対して闘いを宣言した」ため、同社は正当な予防手段をとったに過ぎないと主張した。両者は現在判決待ちの状態となっている。
情報調査の専門家のコホ氏は、潜入活動はよく行われている手段だが「法的そして倫理的な枠組みから外れている」と考えている。
また、「他人のコンピューターに侵入して情報を入手するのは、ITの専門家を雇えば簡単にできる」とコホ氏は付け加えた。
監視
しかし予防手段としてNGOの公開会議に参加してメンバーと討論するという形の監視は違法行為ではなく、スパイ行為にも当たらないとコホ氏は言う。
弁護士のマルク・エンゼリン氏がフランス語圏の週刊誌「レブド(l’Hebdo)」に語ったところによると、スイスでは、職場における個人のプライバシーは法律で保護されているが、企業には社員を監視できる法律的な余地がある。
ジュネーブ・ビジネス・アドミニストレーション・スクールのマディニエ教授も法律にはかなりの遊び幅があると認めると同時に、競争力のある大半の情報分析機関と探偵調査も提供する企業を区別するべきだと主張する。後者は身元を偽って企業に潜入するなどの「黒魔術」を利用していると言う。
「確かにそのような手段も存在するが、私たちがそれを教えたり推奨することはない。アレバ事件のせいで経済調査についての誤解が生じた。経済調査は競争力を育て高めるために利用されるべきものだ」
サイモン・ブラッドレー, swissinfo.ch
http://www.swissinfo.ch/jpn/detail/content.html?cid=32160062
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