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WBCの検査結果をふまえて
■ 坪倉正治:南相馬市立総合病院
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■from MRIC
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南相馬市立総合病院では、2011/7/11より、ホールボディーカウンター(以下WBCと呼
びます)による住民の方々対象の内部被ばく検査を開始しました。当初は安西メディ
カル社および富士電機社製のWBCを用いておりましたが、今現在はキャンベラ社製の
Fast scanというWBCを用いて、一日あたり110人のペースで検査が進んでいます。
2012/1/27日の段階で、検査人数は1万人を超えました。
全てが解明された訳ではありません。しかしながらこの検査は我々に多くのことを教
えてくれました。この検査に携わるものとして、検査結果とともに、どのようなこと
が明らかになりつつあり、今何が問題となっているかを紹介できればと思います。
尚、結果は南相馬市のホームページ
http://www.city.minamisoma.lg.jp/shinsai2/kensa/hibakukenshinkeka.jsp
に随時公表されております。
明らかになったことの一つは、「時間経過とともに、セシウムが検出される人の割合
が下がってきている」ということです。上記ホームページの図4になります。小児を
対象にした2011/9,10の時点での検査では、約半数が検出限界以下であったのに対し
て、2012/1には約95%が検出限界以下になりました。現在南相馬市の多くの子供で、
セシウムの検出をしなくなってきているということです。大人でも同様の傾向が見ら
れます。大人を対象にした場合、2011/10には約半数が検出限界以下でしたが、
2012/1には約80%が検出限界以下になっています。
このことは大多数の人間で、「セシウムが徐々に排泄され、体内量は低下傾向であ
る」ということを示しています。上記は完全に同一の人間でのセシウム量の変化では
ありませんが、表2と図3は最も値の高かった小児と成人について、約3ヶ月後に再検
査の際、全員で値が低下傾向であったことを示しています。
セシウム137自体の半減期は30年ですが、体内に取り込まれた場合、尿や便を通じて
排泄されます。生物学的半減期といい、成人で70-100日、1歳で10日とかなり幅があ
ります。成人より小児の方が、男性より女性で排泄速度が早く、一家全員を計るとご
家族の中でご高齢の男性のみが検出してしまうことを頻繁に経験します。まだ再検査
できている人数は20名強と少ないですが、少なくともセシウムを取り込み続け、体内
の放射能量がどんどんと上昇傾向である、といったような状況では全くありません。
二つ目は、「2011年冬の日常生活での慢性被ばく量はかなり少ない」ということです。
先ほど2012/1の検査で小児の約95%が検出限界以下であったと申し上げました。この
ことは、これらの小児での、検査直近での内部被ばく量が、検出されるレベル以下に
抑えられていたことを示しています。器械の検出限界レベル以下の慢性的な被ばくを
否定できるものではありませんが、今現在の南相馬での日常生活が、大きな内部被ば
くをもたらすものではないことがわかってきています。この結果は、南相馬市で実際
に診療している我々にとっても非常に勇気づけられる情報でした。しかしながら、今
後値が増えないとも限りません。WBCの検査は、1度の結果で何かが言える訳ではなく、
継続的な検査を行うことで初めて大きな力を持ちます。今後も定期的に検査を行い、
体内の放射能量が増えてこないことを確認する必要があります。
ここまで、体内のセシウム量が代謝により下がってきていること、慢性的な被ばくが
少なく抑えられていることを紹介しましたが、注意せねばならない情報もわかってき
ました。三つ目は、「放射能の値の下がり具合が良い人と悪い人がいる」ということ
です。先ほどの図3にも示されていますが、再検査にて予想される生物学的半減期よ
りも減少具合が悪い人がちらほら出始めているのです。つまり、現在もある一定量の
慢性的な内部被ばくを続けている人がいるということです。
それらの人々がなぜ、放射能値の下がりが悪いのか明確な理由は突き止められていま
せん。しかしながら、そのような方々のほとんどが、汚染食品(の可能性があるも
の)を継続的に摂取し続けている方でした。具体的には家庭菜園のものを未検査で食
べ続けていらっしゃる方や、未検査の果物の箱買いをし、継続的にそれを摂取してい
る方です。実際に、それらの行為をやめるよう指導することで値の低下を認めたこと
はこの仮設を支持すると思います。
ベラルーシのベラルド研究所の報告書には、内部被ばくの原因の94%が食物、5%が水、
1%が空気であったと記されています。幸か不幸か食物の自給率の低い日本では、
色々な産地の食物を食べるため、このように食品からの内部被ばくがかなり抑えられ
ているのではないかと推測しています。今現在の500Bq/kgであるとか、100Bq/kgと
いった基準が功を奏しているのではなく、ただ、色々なものを食べているから、それ
に加え子供を持つ親たちが独自に産地を選び、食品摂取に気をつけてくれているから
に他ならないのだろうと思います。当院の結果(子供の平均値7.2Bq/kg)は、同一レ
ベルの土壌汚染地域で比較した場合、ソ連で報告されていた量(約200Bq/kg程度)に
比べて文字通り桁違いに低いのはこのためだろうと推測しています。
外部被ばくは、空間の線量に大きく依存しますが、内部被ばくに関しては、空間線量
がその量を規定する因子として重要なものでないと感じています。つまり、今の生活
での内部被ばくは、現在の食生活でどの程度汚染食品を避けられているかに大きく依
存しています。福島県内で食品の摂取に十分気をつけていらっしゃる方と、都内に住
んでいて食品には全く気を使わない方を比べた場合、どちらがこれからの内部被ばく
リスクが高くなるのかは微妙なところです。食品汚染をどのように考えるかは、南相
馬の問題ではなく、浜通りの問題でもなく、もはや東日本全体の問題です。
今現在、南相馬にてスーパーで食材を購入し、水道も必要な場合はミネラルウォータ
ーを用いて、適宜マスクをする。この生活で大量の内部被ばくをする状況ではありま
せん。よって逆にベラルーシでは1%が空気と申し上げましたが、相対的に空気からの
被ばく量が多いであろうことは予想されます。内部被ばくの主要な経路が、経口なの
か吸入なのかという点に関して、ウクライナではWBCの上半身側と下半身側の検査結
果を比べるという方法がとられています。吸入が多い場合、上半身側(肺側)での検
出量が下半身側(足腰まわりの筋肉側)よりも高くなる傾向があることが言われてい
ますが、今現在の当院の結果にてそのような傾向は見つかっておりません。吸入での
被ばくが問題ないなどという気は一切ありませんが、いずれにせよ今後は食品の検査
体制の強化と、居住区域のホットスポットの除染が必要なことに変わりはないでしょ
う。
当院での検査で明らかになってきたことをいくつか紹介しましたが、まだこれから解
決しなければならない問題も多く存在します。一つはヨウ素の問題です。やはり内部
被ばくにおいて、一番懸念されるのはヨウ素による甲状腺がんの増加だと思います。
我々が検査を開始できた2011/7の段階から、既にヨウ素は全く検出できない状況に
なっていました。その頃には既に検知できない程度の量だったと言えるのかもしれま
せんが、ヨウ素の被ばくは終わっており、痕跡を追うことは出来ませんでした。つま
り我々にはヨウ素の内部被ばくがいかほどだったかを知るすべがありません。このこ
とに関して我々の出来ることは、ヨウ素とセシウムの比率を決め、セシウム量からヨ
ウ素の内部被ばく量を推測することです。しかしながら、セシウムがかなり排泄され
つつある今、この方法での予想はかなり雑であり、ヨウ素の内部被ばくの高リスク群
がどのような方々なのかを突き止めるまでには至りません。その意味でも、全員の小
児には年に一度ペースの定期的な超音波による健康診断が必須であろうと考えていま
す。
二つ目は他の核種の問題です。代表的なものはストロンチウムでしょう。ベータ線し
か出さないストロンチウムはガンマ線の検出器であるWBCでは検知できません。尿検
査するしかないのですが、大量の尿が必要であったり、処理に時間がかかったりと、
高度専門施設でしか検査できないのが現状です。少なくとも当院では計測出来ません。
計測できたとしても、尿自体の濃さが朝と夕で違うように、値が安定しないという問
題もあります。これに対しては、ウクライナと同じ方法であれば、セシウムとストロ
ンチウムの比率をいくつかのサンプルから推測する方法があります。経時的に変化し
ますが、チェルノブイリ事故後、セシウム対ストロンチウムが9対1程度でした。被ば
くの約9割がセシウムによるものだったという評価です。日本でもより明確なデータ
の解析が進むことが必要です。プルトニウムを含む他の核種も同様です。
三つ目はWBC自体や、その情報を処理するリソースが圧倒的に不足しているというこ
とです。今現在に南相馬市立総合病院では1日あたり110人ずつの検査が行われており
ますが、この速度では全く必要な検査数をこなせません。WBCは継続的な検査と評価
が必須です。実は、WBC検査は、検査自体が医療行為でもなければ、医者が説明しな
ければならないという規定がありません。医療行為でないため、その検査を行えば行
うほど病院の持ち出しになっているのが現状です。今後の体内放射能量が増えてこな
いかをチェックすることは今後の暮らしの方向性を決める上で、絶対に必要なことで
す。各自治体でも状況は同じです。WBCが各地で導入されることは決まっていますが、
多くの自治体はどのように運用すれば良いのかわからず、悲鳴を上げています。
WBCの規格化がなされていないことも問題です。東京大学の早野先生が指摘されてい
らっしゃるように、今の福島で、きっちり遮蔽されていない部屋内での椅子型WBCは
役に立ちません。大量の内部被ばくをしていないかを確認するスクリーニングとして
の意味は持つかもしれませんが、現在フォローのターゲットにしているような体内セ
シウム量まで検出限界を下げることが出来ないからです。当院でもキャンベラ社製の
WBCが導入され、検出限界を250Bq/body程度まで下げることが出来ましたが、椅子型
のもので検出限界を3桁以下とするには、1人あたり10分という検査時間が必要でした。
ウクライナでは、厚さ10cm以上の金属の壁に囲まれた特注のWBCが稼働していました
が、もっと細かく計れるWBCや、小児のための特注WBCも必要です。
ここまでいくつかの値を紹介してきましたが、1回の検査値の評価は明確な結論を導
くには困難を極めます。もし、内部被ばくと外部被ばくが等価であると考え、体内の
分布が一様で、臓器特異性が無いと仮定した場合、大雑破に言い換えれば、国際放射
線防護委員会(ICRP)の基準で話す場合、今まで計測された値はまず問題がないと言
い切ってよい値です。99%以上の人が1mSVの被ばくもしていないからです。今現在、
この解釈のみがメディアを通して流されるため、問題ない問題ないと繰り返し報道さ
れ、内部被ばくの実態がわかりづらくなっています。
しかしながら、内部被ばくの影響は、様々なことが言われています。バンダジェフス
キーらが「放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響」で述べているように
20Bq/kg、場合によっては10Bq/kgでも心臓に影響が出るかもしれないという報告すら
あります。20Bq/kgの人間は、その後の内部被ばくがどれほどかによって、3,4ヶ月後
には値が半分になったり大きく増えたりするはずで、一時点のセシウムの値のみで、
長期のセシウム慢性被ばくの影響の評価は厳しいのではないかと考えていますが、慎
重を期すため、当院でも体内のセシウム量が高かった方から心電図の検査も同時並行
して開始しました。現在のところ明らかな致死的不整脈が見つかった方はいらっしゃ
いません。これらも順次報告して行きたいと考えています。採血で明らかな放射線障
害によると思われる血球減少を呈している方も今現在いらっしゃらないことも付け加
えたいと思います。
問題の多いWBC検査ではありますが、当院では今後もこの地域の方々のために継続的
な検査と評価、情報公開を行って行きたいと考えています。ご支援賜りますようどう
ぞよろしくお願い致します。
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福島県南相馬市・大町病院から(4)
■ 佐藤 敏光:南相馬市大町病院
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■from MRIC
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入院患者数は61名(満床は59名)となりました。満床以上の人数を入れています。
先月末にこの入院患者数について本院は危機的な状況に至りました。私達医者は入院
が必要と思われると空きベッドがあれば入院させていました。ベッドが無ければ、な
んとか外来でしのぎ、空きベッドができてから入院させていました。救急隊からも、
複数の病院から断られて受け入れると、大町病院は有り難いと喜ばれていました(社
交辞令?)。
先月26日になって、事務部門からこのままのい入院患者数だと、入院基本料が大幅に
減額になる、退院できそうな患者さんがいたら退院させてくれと言われました。急遽
患者さんの家族を呼んで、病院の実情を話し、10名ほどの患者さんに退院してもらい
ました。
昨年9月6日に厚生労働省から東日本大震災の被災医療機関に対し、看護師数、看護師
の夜勤時間の2割以内の変動は認める(被災前の看護基準で入院基本料を請求でき
る)通達が出ていました(ダウンロードしてご覧ください。
→ http://expres.umin.jp//mric/T110909S0020.pdf )。私は入院患者数について
も2割以内の増加は認められるものだと思っていました。
入院可能患者数は直近3ヶ月の(病棟の)看護師数、正看と准看の比率、夜勤時間、
平均在院日数で決まり、その増加分は5%以内と定められています。すなわち入院でき
る患者数は前の3ヶ月の看護師数で大体決まり、1日ごとの看護師数、正看准看比率、
夜勤時間、平均入院日数は2割までは変動しても良いが、入院患者数は5%以上増やし
てはならないというのです。
あと1週間入院させたらもっと良くなったのにと思われる患者もいました。また、医
者が家族に頭を下げるという逆な状況も生まれました。患者やその家族の中には既得
権のごとく退院を拒む人もいて、一度退院して又具合悪くなったら入院すれば良いと
苦し紛れな説得をして退院してもらった?患者さんもいます。
先月から渡辺病院から2名の看護師さんが、岐阜高山と東京から1名ずつのボランティ
アの看護師さんが来てくれていますが、57床であったベッド数は2床増えただけでし
た。
それも来月末には特例が終了することになり、2割の不足分も認められなくなりま
す。本院は10:1の看護基準をとっていますが、被災地特例が無くなると看護基準を
引き下げざるを得なくなり、1人あたり1日1,700円、60人で約600,000円、1月で
18,000,000円の減収となります。
南相馬市立病院が昨年6月20日に本院と同じ50床が認められましたが、3ヶ月ごとに70
床、90床、115床と増やしてきたのに対し、大町病院は10月に57床、本年1月に59床と
少しずつしか増やせませんでした。その差は言うまでもなく、帰還看護師の数の違い
です。(南相馬市立病院は市立小高病院の看護師さんを採用したこともあります)
福島第一原発3号機が水素爆発を起こした3月14日に、南相馬市立病院の金澤院長は
『残ってくれる人は残ってくれ』と職員に話しました。職員の殆どが許可の名目のも
と避難して行きました。大町病院の猪又院長は3月15日に職員の職業魂を信じ、『患
者のために残ってくれ』と職員に話しました。市立病院や市民の動向を知っていた職
員は次々と病院を去って行きました。本院には火災とか震度6以上の地震の際には病
院にかけつけるようにという防災マニュアルがありましたが、原発事故の際にはこの
防災マニュアルは何の拘束力も持ちませんでした。
先月看護部長と看護師長1名が消息のつかめている看護師の避難先を廻り、帰還を勧
めてきました。多くは子どもさんの被曝のこと、育児、教育のことを懸念し、今すぐ
の帰還はできないと答えたようです。年代も住んでいる場所も大きく変わらないの
に、市立病院の看護師と本院の看護師の帰還に対する違いが出るのはなぜでしょうか。
以前の投稿でも書きましたが、我々病院に残ったスタッフにも、避難したスタッフに
も、わだかまりが残っているのではないかと思われます。それは薄れるばかりか徐々
に大きくなっているようにも思えます。JBpressの『こんな絆はいらない 福島に漂う
「逃げる」ことを許されない空気』
( http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34462 )は、我々の人間関係を如実に
表したものと言えなくもありません。
我々の束縛を解いてくれるのは1日も早い原発の収束なのですが、昨今の原発の状況
は、決して安定しているとは言えません。子どもを持つ母親や結婚前の女性に対し、
不安を完全に払拭させる状況ではないのです。
亀田総合病院の山田弁護士さんが賠償金計算法の理不尽さについてMRICに取り上げて
くれました。仕事を続けた病院や職員が補償が減る仕組みはどうしても納得がいきま
せん。
本院は、ワークシエアリングならぬ給料カットと僅かにあった運用資金を削りながら
困難な時期を乗り越えてきました。運用資金(貯金)の目減り分は東電方式では、賠
償の対象にはならないようで、病院顧問弁護士とも相談し、別途請求していく予定で
す。また、特殊な技術を持つ医師や看護師は病院の看板とも言え、原発事故が無けれ
ばあり得なかった人的損害についても請求していく予定です。
そんなケチるような賠償金はいらないから、南相馬のきれいな環境と、避難している
医師や看護師さんを返してくれというのが率直な気持ちです。
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