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原発再稼働と原発継続に執念を燃やす日経新聞社だが、時に、原発事故関連で他社が発信しないような情報を伝えている。
引用する記事も、原発推進派が今なお語る「原発事故では1人も亡くなっていない」
という説明のウソや政府からスケジュールが示された除染にまつわる困難が書かれている。
記事が原発存続のための露払いを目的としているとしても、隠蔽・ウソつき・ゴマカシ・お為ごかしが溢れかえっている政府・東電・大手メディアのなかでは希少価値があるだろう。
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原発問題、専門家が言ってはいけない3つの言葉[日経新聞]
2012/1/27 7:00
東京電力福島第1原子力発電所の事故が起きて以降、福島県内では原子力や放射線の専門家が参加する住民向け説明会などが毎週のように開かれている。その際に気になるのが、専門家が時折発する科学技術や医療の知見に基づいた「言葉」だ。もちろん悪気はないのだろう。ただ同時に、原発事故から10カ月を経ても、まだ福島県民が置かれた現状を知らないのかと疑ってしまう。そんな言葉を3つほど挙げてみたい。
「原発事故では1人も亡くなっていない」
福島原発の事故では、津波によって全電源を喪失し、炉心溶融(メルトダウン)が起きた。そこから発生した水素が建屋の中に充満して爆発。放射性物質が外部に大量放出された。
これまで東電は、津波で原発施設内にいた社員2人が亡くなったが、事故自体の犠牲者はいないという立場を取ってきた。だが住民の認識は全く違う。政府の避難指示で現場を立ち去らざるを得ず、救えたはずの命を助けられなかったという後悔の念が強いからだ。
福島第1原発から約6キロの距離にある請戸港(福島県浪江町)。ここでは福島県警による行方不明者の捜索が今も続く。1月18日に現地を取材すると、防護服を着た警察官が、がれきなどで埋まった港内を長い木の棒を使って丁寧に捜索していた。その後方には、福島第1原発の排気筒が見える。
県警の捜索が始まったのは2011年4月中旬。事故から1カ月間は放射能で立ち入ることができなかった。現地で捜索していた県警の担当者は「捜索当初、目視だけで150人の遺体を見つけた」と話す。港に近い約1000戸の住宅は津波で甚大な被害を被った。
避難指示が出された11年3月12日、現場で救助に当たっていた地元の消防団員は津波による被害者とみられる悲鳴を聞いている。避難指示がなければ助けられたのに、という思いはいまだに消えないという。
事故直後、原発周辺は避難指示で大混乱に陥った。十分な情報も得られないまま、住民は着のみ着のままで避難した。特に困難を極めたのは病院だ。原発近隣の病院では避難に伴い、十分な医療を受けられずに多くの患者が命を落としている。
今も福島県は東日本大震災に伴う避難生活などで亡くなった「震災関連死」の人数を公表していない。今後も分からないままだろう。避難指示が間違っていたわけではない。それでも原発事故がきっかけで命を落とした人が数多くいる事実は決して忘れてはならない。
「海外には福島よりも放射線量が高い場所で暮らす人がいる」
1月20日に福島市で開かれた福島原発の事故調査・検証委員会で、ある委員が語った言葉だ。その委員は実体験に基づいて「私もそこで暮らしていたが、子供も普通に生活している」と説明した。
確かに、海外には福島市民が生活する場所よりも放射線量が高い地域がある。よく知られているのが、インド南部のケララ地方だ。土地にある鉱物から低い線量の放射線が出ているため、年間被曝(ひばく)線量は10〜20ミリシーベルトに達する。現地の住民を対象にした調査では、これまでのところ有意な健康影響は見られていないとされている。
福島市も年間被曝線量は20ミリシーベルト以下で、ケララ地方と同レベルだ。だが住民はもともと放射線量が高い地域に住んでいたわけではない。原発事故による放射性物質の放出に見舞われても、現在の生活を維持したい気持ちから住み続けている。
専門家からみれば、放射線を心配しすぎる必要はないと説明したかったのだろう。それでも毎日、放射線量を気にしたり、風評被害に苦しんだりして神経をすり減らしている県民からすれば、そのまま聞き流すことはできない言葉だったことも事実だ。
「除染すれば、必ず帰還できる」
政府は3月から、原発事故で立ち入りを禁止している警戒区域の除染に本格的に着手する。放射性セシウムなどを取り除き、年間被曝線量を20ミリシーベルト以下に下げることが目標だ。この水準はICRP(国際放射線防護委員会)が事故収束の目標にしている上限で、1時間あたりの放射線量に換算すると、3.8マイクロ(マイクロは100万分の1)シーベルトに相当する。
政府は11年11月から、除染効果を調べるモデル事業を実施してきた。3月に最終的な成果を公表するが、事業を実施した日本原子力研究開発機構の担当者に聞くと、「思うように放射線量が下がらない地域もある」と漏らす。
毎時20マイクロシーベルトに上るような放射線量が高い地域では除染で放射線量が半分以下になったが、放射線量が比較的低い地域では思うように下がっていないという。効果が出にくいのは「毎時5マイクロシーベルト以下の場所」(同機構)。これでは目標の3.8マイクロシーベルトに届かない可能性がある。
政府は3月末に警戒区域を見直す。今後5年間は帰還できない放射線量が最も高い地域など、3地域に変更する。政府も長期間にわたって帰還できない地域があることを認識している。それでも説明会などでは、除染による効果を強調したいのか、「必ず帰還できる」と語る専門家が少なくない。避難者から将来の希望を奪いたくないという配慮もあるのだろうが、いたずらに期待を抱かせることには疑問が残る。
自らの知見を踏まえた専門家の言葉狩りをするつもりはない。だが経験したこともない未曽有の惨事に見舞われた福島県民が置かれている実情に即した丁寧な説明を常に意識する責任があることも確かだ。
(竹下敦宣)
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