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スギ花粉飛散と花粉用マスクによる被曝防護について
■ 山野辺滋晴:共立耳鼻咽喉科
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■from MRIC
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まもなくスギ花粉症の季節が始まりますが、今年のスギ花粉飛散ではスギ花粉に含ま
れる放射性物質が問題となりそうです。そこで、今年飛散するスギ花粉は危険なのか
どうか、花粉マスクを用いて内部被曝を防護できるかどうか、この二点について一耳
鼻科医として考察してみることにしました。
林野庁が福島県他15都県のスギ林182ヶ所で行ったスギの雄花等に含まれる放射性セ
シウム濃度調査の中間報告[1,2]によると、スギの雄花に含まれる放射性セシウム
(Cs134+Cs137)の濃度は最も高いスギ林で1キログラム(乾燥重量)あたり約25万ベク
レルと報告されています。この測定結果から人体が受ける放射線量が試算されてお
り[3]、スギ花粉の飛散最高値2,207個/m3を用いて計算すると、成人がスギ花粉を吸
入することで被曝する放射線量は1時間あたり0.000192μSv、花粉の飛散期間4ヶ月
間での累計では0.000553mSvになると試算されています。
この林野庁による試算は、計測された放射性セシウムの最大値を含んだスギ花粉が約
2000個/m3という大量飛散状態で4ヶ月間継続したという仮定での被曝量ですから、
実際に発生するスギ花粉吸入による被曝は林野庁の試算よりかなり少なくなるはずで
す。スギ花粉が大量飛散する期間は数週間程度ですから、おそらく林野庁の試算結果
より実際は10分の1から1000分の1といった単位で少なくなるはずであり、放射性物質
を含んだスギ花粉飛散による被曝を過度に心配する必要はないと思われます。
しかし、事前調査予測が外れて暫定基準値を超えた米が見つかったように、スギ花粉
にも林野庁の試算結果より大量の放射性セシウムが含まれていたならば、前述の推測
は成り立ちません。また、現在までのところ大気中に含まれている放射性物質の種類
や量は公表されていませんから、スギ花粉が飛散する季節に大気中の放射性物質の量
が増えるかどうか実測して公表されることもないはずです。なぜなら、現在公表され
ている空間線量は大気中に浮遊する放射性物質からのガンマ線より、建物や植物と
いった大地からのガンマ線を反映しており、大気中の放射性物質の変動を知る上では
あまり参考にならないからです。
放射能を放つスギ花粉が飛散するのではないかという住民の不安を払拭するためには、
スギ花粉飛散開始前後で大気中ダストモニタリングを行い、大気浮遊塵中放射性物質
の変動を測定公開する必要があると思います。こうした大気中に漂う放射性物質の変
動に関する情報が公開されなければ、スギ花粉が飛散する季節の間、社会に不要な混
乱を招いてしまうことが危惧されます。
もう一つスギ花粉飛散時期に問題となるのが、吸入による内部被曝を花粉用マスクで
防ぐことができるのかという疑問です。花粉用マスクに関する報道[4]によると、
「花粉用マスクをつければ、浮遊しているセシウムをほとんど吸い込まずにすみ、内
部被曝量を減らせる。」「除染の際も、放射性物質が舞い上がる可能性があるので、
気になる人はマスクを着用すれば防げる。」と日本放射線安全管理学会学術大会で発
表されていますが、こうしたマスクの使用方法は次の三つの観点から大変な誤解と言
わざるをえません。
第一に、花粉用マスクは30μm程度の微粒子までを除去するための性能を想定してお
り、放射性物質が粉塵として存在する場合に着用が推奨されているDS2規格以上の防
塵マスクや同等の性能を有するウイルス対策用のN95マスクほどの微粒子除去性能は
持っていませんから、除染作業や内部被曝防護のために花粉用マスクを推奨すべきで
はありません。つまり、放射能の除染作業ではアスベスト除去作業と同様の危険性を
伴うわけですから、除染作業において花粉用マスクは使用せず、防塵マスクを正しく
着用するように専門家として指導していくべきでしょう。
第二に、たとえ花粉用マスクの生地が放射性セシウムを取り除くフィルター効果を
持っていたとしても、マスクの効果を論じる場合にはマスク周囲からの漏れ率を考慮
すべきです。原子力安全委員会による「原子力施設等の防災対策について」という指
針[5]によれば、95ページに記載されている表「家庭内及び個人が利用可能なものに
よって口及び鼻の保護を行った場合の1〜5μmの微粒子に対する除去効率」に記述さ
れているとおり、マスクなどを口に当てて放射性物質をフィルタリングする場合の除
去効率は、人の呼吸方法及び生地の使用方法によって大きく変りうるものであって、
緊急時に放射性物質から身を守る時以外には花粉用マスクを内部被曝防護に推奨すべ
きではないはずです。このように、花粉用マスクは周囲からの漏れが多いわけですか
ら、緊急時以外には防塵マスクや医療用ウイルス防護マスクを被曝防護具として用い
るべきです。
第三に、花粉用マスクに製品規格が存在しない点も問題となります。国民生活セン
ターが報道発表している「ウイルス対策をうたったマスク -表示はどこまであてにな
るの?-」という資料[6]に記載してあるように、風邪をひいた時や花粉対策として使
用されるマスクには公的な認証や基準はありませんから、市販されているマスクの中
にはフィルター捕集効率が低いものがあり、消費者が誤認する恐れがあることにも留
意しておく必要があります。つまり、花粉用マスクとして販売されていても、そのマ
スクに花粉を取り除く効果が十分にあるとは限らないのです。実際に、新型インフル
エンザが流行した時期に市販されたN95「相当」とかN95「準拠」といったマスクにも
十分な性能はありませんでした。
上述のように、市販されている花粉用マスクは、マスク周囲から入ってくる空気が多
く、必要なフィルター性能がない場合もありますから、吸入による内部被曝を防護す
る目的で用いるべきではありません。したがって、除染作業を行う場合には、検定基
準があるDS2防塵マスクやN95マスクの使用を専門家は推奨すべきです。どうしても花
粉用マスクを被曝防護目的で使用する際には、内部被曝を防ぐための必要十分な効果
が期待できないことを承知の上で、布テープなどでマスク周囲を密閉して漏れを無く
すとともに、半日程度で正しく使い捨てしながら、緊急時のみの使用に留めるべきで
しょう。また、東北や北関東各地で大気中ダストモニタリングを開始し、スギ花粉を
含む浮遊塵中の放射性物質の変動を情報公開することで、スギ花粉と放射能に対する
人々の不安を払拭していくべきではないでしょうか。
参考資料
[1] http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/111227.html
[2] http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/pdf/111227-01.pdf
[3] http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/pdf/111227-02.pdf
[4] http://www.asahi.com/science/update/1201/TKY201111300873.html
[5] http://www.nsc.go.jp/anzen/sonota/houkoku/bousai220823.pdf
[6] http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091118_1.pdf
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