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厳しさ増す海外からの視線 進まぬ情報公開、わからぬ海洋汚染の実態
2012年1月25日 水曜日
藍原 寛子
今月14、15日、横浜市で「脱原発世界会議 2012 YOKOHAMA」が開かれた。昨年の東京電力福島第一原発事故に伴って福島県から避難をした住民をはじめ、世界各国のNGOや研究者、弁護士、ジャーナリスト、自治体首長らが参加した。
2日間で1万1500人が訪れた「脱原発世界会議」=パシフィコ横浜(横浜市)
期間中は1万1500人が来場、「GLOBAL CONFERENCE FOR A NUCLEAR POWER FREE WORLD」(核のない世界に向けた会議)という英文副題の通り、脱原発だけでなく、核実験廃絶や環境問題のNGOなども参加して、講演会やパネルディスカッション、ワークショップなど様々な催しが行われた。開幕前日の13日には、海外ゲストを中心とした福島県内の視察があり、参加者が現地の被災者の声を聞いた。海外からの出席者に、福島県内視察の感想、世界各地の非核・脱原発の現状と課題、フクシマの人々へのメッセージを聞いた。
日本は「原発事故の被害国」と同時に「原発輸出国」
ケニアの公衆衛生の専門医で、核戦争防止国際医師会議ケニア支部事務局長のポール・サオケさんは福島県内の視察に参加した。福島県北部の伊達市内の仮設住宅の様子や、住んでいた飯舘村が高線量のホットスポットになったために同市に避難中の元酪農家・長谷川健一さんの講演などを、iPad を使って次々に動画で撮影していた。
サオケさんは環境のための国際医師連合アフリカ地域副理事長も務め、アフリカの非核・非原発に向けて活動している。アフリカ全土では核兵器廃絶宣言がなされたが、「非核と原発は別」と、南アフリカでは原発が稼働している。そのほかの国でも、経済成長を目的とした原発輸入に向けた政府の動きは加速しているという。
ケニアから来日のポール・サオケさん
ケニア政府も今後10〜15年後を目途に原発建設・稼働の方針を示し、海外からの原発の売り込みは激化しているという。日本国内ではほとんど大きなニュースになっていないが、鳩山元首相は来日したケニアのオディンガ首相との会談で、原発を売り込むトップセールスをしたことがブルームバーグにより報じられている。
「遠く離れたアフリカにまでも、アジアの先進国・日本は政府を挙げて原発を輸出しようとしている」。サオケさんの眼に映る「ニッポン」は、東電の福島第一原発事故による住民被害が起きた悲劇の国であると同時に、海外へも積極的に原発を輸出しようとしている“警戒すべき”国。公衆衛生の医師としては、今後、住民への健康被害がどのように現れるのか、注視すべきエリアでもある。
「フクシマの原発事故が起きた今が、日本国内だけでなく、海外にとっても、脱原発に向けた非常に重要なタイミング。この機会を逃してはならない。原発ができれば、使わなくてもいい電気を無理やり使わされるような状況や、環境への影響が懸念される。そういった実情も、(ケニアの人々に)大いに知ってもらう必要がある」。
「ケニア国内では、福島第一原発事故のことはほとんど知られていないのが実情。それだけに最も重要なステークホルダーを『メディア』と位置付け、今回撮影した動画は、まずはメディアの人たちに見てもらって、原発事故の後で住民がどのような困難に直面するのかを理解してもらおうと思っている。この映像は、各メディアが自由に使えるように提供していきたい。映像で見て知ってもらうことによって、状況は変えられると思う」。世論喚起を図る考えだ。
市民団体による“ダブル・チェック”の重要性
福島県視察ツアーには、ドイツの原子力安全委員会委員長のミヒャエル・ザイラーさんも参加した。ザイラーさんは2004(平成16)年、福島県エネルギー政策検討会の講師として、原発の使用済み核燃料問題や原発政策について福島県に提言した。
それだけに、福島第一原発事故が起きてしまい、住民が甚大な被害を被ったことに衝撃を受けたという。
ミヒャエル・ザイラーさん
現在の福島第一原発の原子炉の現状について、どのように分析しているのかをまず聞いてみた。
「原子炉の中の状況は分からないというのが本当のところだ。政府がどのような証拠、データを持っているのかが分からないからだ。本来、原子炉の冷却システムは閉鎖系、循環系で行われるべきだが、今回の事故後は機能せず、しかも開放された状態になってしまった。とにかく不安定な現状だとは言えるのだが、詳細はコメントのしようがない」。福島第一原発の各原子炉が誰も入れない事実上の「ブラックボックス」になった現状を嘆く。
「私の意見として、今できることを考えると、それは、福島県の汚染状況をチェックして、改善するということ。チェルノブイリ後の我々の教訓も踏まえて、早期に水や土壌、海の汚染状況をきちんと測定し、自然への影響を減らすための取り組みが必要だ」
政府や東電から十分な情報が提供されず、情報隠しも起きたことについてはどのように対応すべきだろうか。
「今は2つの方法をやっていくことが大事。1つには、まず政府の公表などに対して、市民の立場から追跡調査をすること。政府の広報に対して質問し続け、確認し続けること。例えば政府の放射能汚染測定の公表結果について、各地域ごと、あるいは1キロ四方ごとに汚染濃度を再確認し、果たして測定が正しいか、有効かどうかなど市民の側からの検証が必要」
「そしてもう1つの方法は、市民や独立した組織が独自に放射能汚染について独自の測定を行うこと。ただ、市民グループや独立したNGOは資金も人員も限られているので、第一義的に測定は政府の責任であり、政府には国民の安全を守る義務があるということを忘れさせてはならない。政府にやらせていくような働きかけが重要」
「ちなみにチェルノブイリ後、幸いにもドイツ政府は測定ネットワークの構築を決断した。数百のスタッフのいる市民グループもダブル・チェックが必要であるとして測定を始めた。政府の測定が効果的か、有効であるか、それを独立した組織が市民の観点からチェックしていくことが極めて重要である」
日本政府は海外への原発輸出を計画しており、今回の出席者の間でも警戒感が強くなっている問題について、どう見ているのか。
「日本政府に対しては、原発の輸出をやめるよう働きかけること。地震や津波が起きる地域では、原発稼働の危険性を知ってもらうことが必要だろう。今後も、たくさんの非核・脱原発団体と連携して話し合い、原発の技術的な問題やフクシマの現状を伝えていきたい」
脱原発を決めたドイツの環境省アドバイザーも務めるザイラーさん。ここからもフクシマ発の教訓が発信されようとしている。
「海で何が起きているのか」南東アラスカの先住民族
会場となったパシフィコ横浜では、海外からの専門家に対して、放射能のこと、原発のこと、健康への影響など、多岐にわたって参加した一般市民が直接質問したり、意見を述べたりできる「海外ゲストと話そう」というコーナーが2日間にわたって設けられた。約1時間半ごとに開かれるセッションのうち、「放射能について聞こう」というセッションの最後に、フロアにいた一人の男性が立ち上がって意見を述べた。
「私はアラスカの先住民族のリーダーです」。南東アラスカの先住民族クリンギット族のリーダーで、世界各地で民族に伝わる歴史の語り部活動をしているボブ・サムさんだった。
アラスカの先住民族のリーダー、ボブ・サムさん
サムさんは、先祖代々の聖地である墓地が開発計画によって荒らされていたことから、開発をストップさせて、聖地や歴史の再興のため、一人で活動を始めた。アラスカの先住民族の教えや学びを日本の人たちに伝える活動をしている「ワタリガラスの会」の支援でたびたび来日している。アラスカの歴史や自然、地球環境の保護を訴える活動を続けており、その言葉は絵本『かぜがおうちをみつけるまで』(訳・谷川俊太郎、絵・下田昌克、スイッチパブリック社)としても刊行されている。
「3月11日、私はここ日本に居て震災に遭い、何が起きているのかを見てきた。この震災は私の人生を永久に変えた。原発に賛成するわけにはいかない」
ボブさんによると、アラスカの海岸では、アザラシやクジラなど海獣、海の生き物たちが毛が抜けたり、病気になったりして打ち上げられているという。日本が福島第一原発の汚染水を海洋投棄していることと、何らかの関係があるのかどうか、事実を確認したいという。日本政府は、海洋汚染の状況についてはほとんど説明していない。原発サイトには汚染水はたまる一方で、周辺国から訪れた参加者からは、海洋汚染に対する日本政府の対応に批判の声が高まっている。
「アラスカはとても美しく素晴らしい所で、たくさんの動物や森や海に恵まれている。私たち先住民族は漁業をして暮らしてきた。私たちの生命は海から来ていて、すべての生き物、命あるものが海から来ている。今、海で何が起きているのか。いったい、海はどれだけの犠牲を払えばいいのか。私は、海の声を、海岸に打ち上げられた動物たちの声を代弁するために、今日、ここに来ました。私はアラスカの先住民族として、この海の声を代弁しなければならないのです。私たちは海のおかげで生かされている。海で採れる食べ物が私たちの命をつないでいます。もしも海が死んだら、私たちも死ぬのです。今、海で何が本当に起きているのかを知りたいのです」
福島県をはじめ、漁業が大きなダメージを受けている。海から採れた魚や海藻などからの健康影響も懸念される。アラスカの人々も同じ状況だ。
「日本政府には本当のことを、誠実さを持って説明してほしい。そして地球の未来について考えてほしい。この星に生まれる人々のために」
今、日本国民が知りたいと思っていることは、海外の人々も知りたいと思っていることなのだ、国境を越えて知る権利があるのだと訴えた。
サムさんはセッションの後、インタビューに快く応じてくれ、福島の人々へのメッセージを寄せてくれた。
「私たちの故郷アラスカは、福島と海でつながっているのです。そして福島のみなさんと私たちは同じ食べ物を分かち合って生きているのです。福島のみなさん、あなた方と私たちは同じ命の源を分かち合って生きているのです。一人ではありません。私たちは、命、海の命を保護し、守って行くことが大切なのです。それが私たちが生きていくために、非常に大切なことなのです」。
「福島でも同じ核の犠牲者が出る」タヒチからの訴え
「私は今のボブの話を心から受け止めた。皆さんも同じ気持ちかと思う」
セッションのなかでパネリストとして発言したタヒチのローラン・オルダムさんも、立ち上がって発言した。オルダムさんは13日の福島視察にも参加している。
「人間は、自分たちのことを知的な存在だと考え、研究もしてきた。しかし今こそ、私たちは単純な事実について改めて思い直さなければならない。それは『海によって生かされている』こと。先ほどのボブさんの意見に私は深く共感する。どんなに私たちが知識を駆使しても、私たち人間は『海によって生かされている』、その事実は変わらない」
フランスの核実験の被害者を支援するローラン・オルダムさん
オルダムさんも、海に囲まれたタヒチから、環境問題を訴え続けている。フランス政府は1969年から96年までの30年間、太平洋のモルロア(ムルロア)環礁で核実験を行ってきた。オルダムさんは被害者団体「モルロアと私たち」の会長として、被害者を支援している。
核実験が終わってから10年以上も経っていながら、いまだに多数の住民ががんや深刻な健康被害を訴えているという。核実験開始以降、住民被害をポリネシアやフランス政府に訴えて続けているが、被害の事実を政府は隠し、認めようとはしないという。
「私たちの仲間は毎日のように亡くなっている。政府は証拠を隠し、嘘をつく。核実験をやっているさなかであっても、『何も起きてはいない。空気はクリーンで、放射性降下物もない。がんの発症は核実験が原因ではない』と言い続けてきた」
「私たちは40年間も福島のみなさんと同じ経験をしてきた。日本の政府も、国民や住民の被害を認めようとしない。証拠を隠し、嘘をつく。私たちに起きたことが、福島でも起きるだろう。同じ核の犠牲者が出ることは容易に想像できる」と、日本政府や東電の責任を厳しく追及する。
私たち福島県民、そして日本国民は、「ポスト311」の世界をどう生き抜いていったらいいのだろうか。オルダムさんはこう語る。
「やるべきことはたくさんある。まずは、自分たちがたくさんのエネルギーを無駄にしてきていること、たくさんのエネルギーを使っていることを考えてほしい。人間は自然とともに生きている事実に対して意識的になってほしい。そして自分たちの政府に働き掛け、自治体の首長に働き掛け、自分が支持する政治家に働き掛ける。同じ考えの人々が連携していくことも大切。私たちができることは、まだまだたくさんある」
情報開示が進まない上に、避難住民の人権問題、海洋汚染。今回、インタビューした海外からの出席者は一様に、日本政府に対して厳しい批判の声を挙げている。参加した国際NGOや研究者、ジャーナリストたちは、福島や日本各地で起きていることを次々に発信し始めた。海外の目を無視してはいられない現状がすでに始まっている。
このコラムについて
フクシマの視点
東日本大震災は、多数の人命を奪い、社会資本、自然環境を破壊したが、同時に市民社会、環境、教育、経済、政治や行政など、各分野に巨大なパラダイム・シフトを起こしている。我が国はどのような社会を志向していこうとしているのか。また志向していくべきなのか。「原発震災」で、社会の姿が大きく変わりつつある福島、震災のフロントラインで生きる人々の姿から、私たちの社会のありようをグローカル(グローバル+ローカル)な視点で考える。
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著者プロフィール
藍原 寛子(あいはら・ひろこ)
藍原 寛子フリーランスの医療ジャーナリスト。福島県福島市生まれ。福島民友新聞社で取材記者兼デスクをした後、国会議員公設秘書を経て、現在、取材活動をしている。米国マイアミ大学メディカルスクール客員研究員として米国の移植医療を学んだ後、フィリピン大学哲学科客員研究員、アテネオ・デ・マニラ大学フィリピン文化研究所客員研究員として、フィリピンの臓器売買のブローケージシステムを調査した。現在は福島を拠点に、東日本大震災を取材、報道している。フルブライター、東京大学医療政策人材養成講座4期生、日本医学ジャーナリスト協会員。
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