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大飯２基 ストレステスト「合格」へ 再稼働に隠せぬ不安 (東京新聞「こちら特報部」1月1８日）
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原発がどの程度の地震に耐えられるかなどを解析する「安全評価（ストレステスト）」。関西電力大飯原発３、４号機の評価結果について、経済産業省原子力安全・保安院は十八日にも「安全性に問題はない」との初めての判断を示す見込みだ。野田政権はこれを機に原発の再稼働に向けて弾みをつけたい考えだが、「これだけで安全とは言い切れない」などと批判は強い。再稼働に揺れる地元・福井県おおい町を歩いた。 （中山洋子、秦淳哉）
海沿いの埋め立て地に、リゾートホテルや関西電力のＰＲ施設がまばらにそびえる。おおい町などが“原発マネー”で整備した大型レジャー施設「うみんぴあ大飯」だ。
建設費や初期運営費などの事業予算は総額六十億円。うち二十五億円が国からの電源交付金による。二〇〇九年に主要施設が開業したが、企業誘致は難航している。
もともと町の規模に似つかわしくないと危惧されてはいたが、閑散とした広大な空き地を前に、「これから赤字だけが残るのでは…」と不安が広がっていた。
大飯原発では、昨年十二月十六日に２号機が定期点検に入り、四基すべてが停止した。
旅館を営む五十代の男性は「しばらくは原発作業員のお客さんが宿泊してくれているが、定期点検が終わった後は心配だ」と漏らす。
福島原発事故後、夏場の海水浴客などを中心に宿泊客が四割くらい減ったという。「原発立地の海ということで敬遠された」と嘆く。人口九千人弱の町民の多くが、原発経済に頼ってきた。「もちろん怖いが、それでも早く再稼働してほしい。町民の大半はそう思てます」と言う。
別の旅館でも女性経営者（７３）が「原発は怖いし、生活はあるしで、どう言うてええか分からんわ」とつぶやいた。
ただ、再稼働に慎重な意見も増えている。青果業の男性（７３）は「ストレステストやなんや言うとったかって、関西電力が手前でやってることやないか」と憤る。終戦直後に地域で行商すると、現金がなくて米や野菜などで商品の対価を支払う地域も多かった。「そんな寒村だったころに『原発誘致で観光客が二百万人も来る』と言われた。でもすぐウソやと分かったけどな。それどころかだんだん悪なる一方や。原発ができても、ちっとも住民のためになっとらん」
福島原発事故後は、故郷に戻れない人々の姿が身につまされた。「ここで事故が起こったら、逃げるとこない。琵琶湖が汚染されたら、関西の飲み水も終わりや」
おおい町の時岡忍町長はストレステストは再稼働の条件にならないという立場だ。「国による福島原発事故の知見を踏まえた新たな安全基準の提示や住民に対する説明責任を果たしてもらわなければ、再稼働は判断できない」と話す。西川一誠・福井県知事も「再稼働にはストレステストだけでは不十分」と繰り返し述べている。
原発に反対する若狭連帯行動ネットワークの松下照幸さん（６３）は「知事は、いいかげんな安全基準をのむことだけはしないでほしい」と話した。
安全評価は、欧州連合（ＥＵ）で実施されているストレステストを参考に導入した評価方法だが、かなり簡略化されている。地震と津波が炉心損傷を引き起こすシナリオを用意し、コンピューター上で耐久性の余裕度を解析する。停止中の原発が対象の一次評価と、全原発が対象の二次評価があり、これまでに十四基の原発について一次の結果が提出されている。
野田政権は停止中の原発を再稼働するための条件としているが、「アリバイづくり」でしかないとの批判が強い。原子力安全委員会や国際原子力機関（ＩＡＥＡ）のチェックを受けた上で、地元自治体の了解を得て、最終的に野田佳彦首相と枝野幸男経済産業相ら関係閣僚が「政治判断」するとしているが、判断の基準は不明確だ。
関西電力が原子力安全・保安院に提出した大飯原発３号機の安全評価結果では、想定する地震の揺れの強さ（七〇〇ガル）の一・八倍、津波は想定の四倍の一一・四メートルでも耐えられるとした。４号機も同程度の評価をまとめている。
安全評価についての意見聴取会の委員でもある井野博満東大名誉教授（金属材料学）は「保安院は審査や判断の基準については何も示していない」と指摘。「配布された資料では『論点整理』としながら、電力会社や保安院の評価が列記され、『妥当性を確認した』『問題ないと考える』との言葉が並ぶなど評価書そのものだ」と、「結論ありき」の議事進行を批判する。
「経年劣化した設備・機器の健全性や、航空機事故など地震以外の外的事象、運転ミスなど内的事象による頑健性の評価がなければ、総合的な安全性の保証にならない。原発を推進してきた保安院ではなく、本来なら今後発足する原子力安全庁が判断するのが筋だ」とする。
市民団体「美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会」の小山英之代表も「福島第一原発１号機では津波の前に非常用復水器系の配管が地震で壊れた可能性が高い。福島原発事故でも未解明な点が多いのに、大飯原発の安全評価の結論を出すのはおかしい」と非難する。
原子力安全・保安院は十八日に開く意見聴取会で、これまで置いていた一般傍聴席を用意せず、映像を別室で視聴する方式に変更する。
保安院の担当者は「傍聴席からの不規則発言が多く、委員に詰め寄る人もいたので変更した。今後の意見聴取会も同じ方式になる」と話す。横浜市で開かれた脱原発世界会議に参加した有志は「会議室での傍聴を許可することが民主主義の原則」として、全面公開を求める声明を出した。
現在、稼働中の原発は五基。このまま再稼働する原発がなければ、四月末には稼働する原発はゼロになる。野田首相は「ストレステストなどのプロセスの後に、どうしてもお願いしなければいけないときは、経産相なり私なりが直接行って、首長や住民の皆さまに説明する」と述べている。
小山氏は地元自治体の了解について、こう提言する。「福島原発事故を受けて防災対策重点区域（ＥＰＺ）を拡大することが決まっている。それなのに原発立地自治体と同等の安全協定締結を求めた滋賀県や福井県小浜市と関西電力はまだ協定を結んでいない。了解が必要な地元の範囲に、これらも加えるべきだ」
＜デスクメモ＞ 立地自治体が原発マネーで潤ってきたのは確かだ。今さらやめられても困るという事情もある。だけど、そもそも人の命に関わる判断を、地方の小さな自治体にも負わせるというのはいかがなものか。まずは国の責任で徹底的に安全性を追求すべきではないか。それこそが「政治判断」というものだ。 （国）
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