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文学部哲学科サバイバー?:エックハルト・トール
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投稿者 チベットよわー 日時 2013 年 3 月 12 日 17:43:25: Xy93FIMaJupUQ
 

哲学。テツガク。そういうと重々しい響きがある。学問の臍、文明の礎。宇宙工学であろうが素粒子論だろうが、西洋合理主義に基づく全ての知的産物は、アリストテレスやデモクリトスが行った暗闇のなかをまさぐるような哲学的試行錯誤から発展したのだ、などという通説がなんら否定されるわけでもなくなにげに教科書の片隅に残っているわけだ。

それでもやはり硬い字面のテツガク。その言葉は、「メイド・イン・チャイナ」や「放射能漏洩」や「アルカイダ」や「田代まさし」のように近代人がもっとも忌み嫌い遠ざけたがる言葉の一つといえるだろう。「大学で哲学を専攻しました」なんていう台詞はいうなれば人格障害や社会不適合を意味するカミングアウトであり、「人刺してネンショあがりです」と告白するくらいの負のインパクトがあるかもしれない。しかし、同時に哲学は本当は人類にとってももっとも重要な問いを集めた体系だということは誰しも忘れ去ることができないでいる。

日本の近代文学の父として知られる夏目漱石は「文学などというものが男子が一生をかけるに値する生業か?」などとテメエでやったくせにバックレたノリ突っ込みをしていたものだが、これも端的にいえば哲学というものへの後ろめたさだといえるかもしれない。

その反面、ハーバード大学で哲学の学位を得た鶴見俊輔だと「ドフトエフスキーがその文学の中で描いた命題の価値は、歴史上のいかなる哲学者、論理学者によっても越えることができない」などと持論をかかげ、たかだか愚鈍なロシア人の障害者が絵空事を書き連ねる行為にもとるものが哲学だと言い切ったのだ。実際、日本はおろかそれに先立つ英米の大学教育では、哲学科は完全に文学・文芸(Humanities and Arts)の一領域という扱いを受けている。

哲学を人界をとりまく大きな暗雲、未知の集大成だとすると、科学の恩恵を受ける近代人は一つ一つその暗雲に穴を開け光明を導き、心地よい世界の中で開放されてきたのだといえようか。実際はマッチのともし火であるかもしれないつかのまのマドロミの中で我々は全てを理解したかのように振る舞い、いまだに暗雲自体は取り去られるどころか天空を覆いつくしているという事実に蓋をしようとする。その哲学怠慢への潜在的なツケが増長し、ときに我々を無明のディフォルトに叩き落す。

本来哲学のサブジャンルであるはずであった科学によりもたらされた近代主義によって目先の真理らしきものを得ることができるようになった結果、根源的な宇宙解釈をめぐる疑問符に挑むべき哲学は文学(フィクション)という偽者の衣をまとわされ社会の隅へ追い払われたというわけである。文学部哲学科などというジョークの種のような称号を得(まるで哲学は紙面上の空想事だと断定しているようなものだ)、大学の構内ででもまるで現実社会からの逃亡機関か就職回避層の保護地域のようなところまでまで堕ちた哲学求道者のソサイエティ。

その歪を正さんする自然の浄化の作用か、それとも何かの気まぐれかわからないが、時に時間の止まった孤独の花園に座する哲学側から近代技術と商業が合理を推進する多忙な一般社会へスフィンクスが派遣されることがある。宇宙とは人生とはこれ如何に?難題でもって大衆を詰問するスフィンクス・・・・・・・・・・・それがあるときは宗教家であり、学者であり、あるときはカルト導師であり、あるときはビートニック芸術家であり、あるときは預言者なのであるが、そういった人間が受け入れられることがあるのだ。

エックハルト・トールはドイツ生まれの哲学者であり、ケンブリッジ大学で学び(そして例のごとく就職にあふれた)典型的な哲学浪人のダメ男である。見ての通り、ローエナジーなさえない中年男であり、生産的な生活など全面的に無縁絶縁。基本的にマジメで従順なら無職でも見捨てられないゴキゲンな社会制度を誇るカナダに移住したことも実に納得のいく話である。

それがあるとき偶然に有名芸能人の眼にとまり、メディアの力を大々的に借りながら過去の著作を宣伝しそれが大当たり。当代一の精神啓蒙家として先進国にて大ブレイクを経験したのである。ここだけの話、哲学などを専攻した人間が一般社会の垣根を超えなんらかの成功を手にするには、このパターン以外はまずないだろう。ニーチェの「ツァラトストラ」でも初版(てづくり)は10部にも満たなかったわけで普通にしてれば売れるわけがなく、エンターテイメントという魔法によって錬金がなされてはじめて商売になるのだ。

人間は考える動物であるはずだから、哲学本が売れることは本来結構なことだ。日々の支払いや身辺の人間付き合いに囚われた狭い了見を離れ、多くの人が哲学関連の著書を手にとり、考える人種の思考回路に接しだす。根源的な存在や認識について疑問を投げかけ宇宙を探り、社会や倫理についての考察を深め世界を知り、そしてそのフィードバックを現実にもたらす。

非常に知的ですばらしいことのように思える。人間でいることの重みが少し加わったかのような感慨を抱く。しかし、哲学には科学一般よりおそらく深い落とし穴があり、それが哲学を超マイナーでいさせた原因でもある。

哲学する行為とは迷宮に放たれることである。自分がわからなくなる喪失の旅である。なんらかの確かな体系に出会い、悟りにたどり着くことができればいいのだが、そんなことは誰にもできない。現象界の全容は常に無限であり、無限を観念で捕らえることなど人間にはできるはずがないのである。哲学は妥協をせずに源泉に思いをはせている限り必然的に暗中模索の片道遊泳であり、それを落とし穴と私は呼ぶのだ。

科学の発展がイスラム教圏からキリスト教圏へとそれらのフィクシャスな世界観の中で遂げられたということは周知の事実であるが、それができた絶対条件として、どちらの宗教的価値観の中でも無限へ挑むことが放棄されていたことが特筆に価する。現象界の全容が無限の中にあるという圧倒的な混沌を解決するため、彼らは神という概念を現象を表すN乗の数値に仮代入したのだった。神がいるおかげで、人間界の外枠が定義される。そして、そのフィクションが保護する中で人間は自由に思考し行動する権利を与えられたのである。

否定されるべくして否定された哲学は、その宗教と科学の幻想デュオに立場を奪われゆっくりと衰退していった。それを復興しようとしたニーチェなんかがキリスト教を否定したのはごくごく当たり前の話だったのである。

さて21世紀最大の哲人だなどともてはやされるエックハルト・トール氏に会いましょうか。とはいっても、今更アマゾンに送金するのも嫌。借りて読むのも面倒。丁度、Youtubeに無料ビデオがあがっていたのでそこから本人の講釈を学んでみます。彼の宇宙観というかそんなものを端的にしめすイントロがあった↓

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God or your essential nature is not something. Not content. Not form. The best description thru words is to say “not”, what it is “not”. And you're left with what it is which cannot be named, but can be known, but cannot be known conceptually because every concept's gained a name and form. It can be known simply easily in the silent space of stillness.

邦文=”神に実体はありません。中身もなければ形もない。一番的確な言葉であわらすとするなら、神とは「ない」、それすなわち「せざる、あらざる」ことであるのです。貴方が神として受け止めようとしているその何かには名前がない。概念なら名と形が生じるはずですが、概念として認識できるものではない為です。しかし、(現実上の概念としては把握できないものの)言葉を超えた静寂の中にそれを認知することは人にとって実に容易いことであります。” 

*チベットよわー:essential nature の対訳は省いたが、それはこの講話の後の部分で神と自然の本質が同一のものだというトールの見解が述べられているせいである。
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私はトール氏のお話に耳を傾けながら、ため息を一つつきました。せっかく現存する最高の哲学者とかいう触れ込みなので期待していたのですが、それが見事に裏切られてしまったからです。ニューヨーク・タイムスはまるで大阪人のようにすぐに「これが一番だ」などと嘯きますからやっかいです。

古きから、「神の使い」やその生まれ変わりを自称する聖人はたくさんいたわけですが、この腐った魚みたいな眼をしたドイツ人は「神は感じることができるもので、位格にあらわればうわれず」などという意味のないことを平気でいいだすのだ。この次元はいうなれば、心中のあったアパートの大家さんが「死霊は心の底で関知できるもので、実際にわかる形で化けてでてこない」と言い訳しているのと同じ理屈なわけだ。

トール氏の言い分は1秒で否定することができる。しかし、それをやることもむなしいので私はあえて、別人に彼を攻略させようと思う。その人とは、元ボクシング世界チャンピオンの輪島功一氏である。沢木耕太郎だったか誰だったかのやったドキュメンタリーの中で輪島は神について思うところをこう述べている。

「確かに神様はいる。しかし、死ぬほど努力した人間にしか微笑んでくれないんだ。」

いかにも肉体系・運動君のいいそうな台詞であるが、一見単純な解釈にしか見えない輪島氏のビジョンには実はトール氏が見落としているキーが描き出されている。

死ぬほど努力する・・・・・・・・これは時間の経過を意味する。動く、働く、耐える、鍛錬する・・・これらは瞬時の認識によってはもたらされることはなく2点間の時間の幅を生み出す行為であり、時間が神との交流を決定する(もしくは神の登場を促すための)条件だという想定を行っていることになる。トール氏の場合は、神は静止した空間に感ずることができるといっており、時間を超えたところに神と人の関係をみている。どちらもが正しいとするなら存在することを取り巻く神、行動することに絡みつく神、その両者の時間の誤差が少なくとも人間の認識体内にはうまれるはずだが、結局人間に備わった能力がそれを解決する、均衡させるので矛盾は原理的におきない。つまり神を居ると仮定しても居ないと仮定してもそれらは砂時計の上下ような反比例関係にあり、同じ全体像の中にきっちりおさまっているのだ。そういう意味あいを鑑みるなら、輪島氏の神はトール氏の神より、より現存の助けになることだけは保障されうるようである。

そして輪島氏は、神が微笑むという表現を使っているとおり、神に人格をみている。トールが神を概念でないとし、位格に宿ることのないスピリットのようなものと仮定しているのとは対照的であるが、この差異は神をめぐる解釈のようでいて、実は人間を規定する尺度にすぎないことがわかる。それというのも、人間の知能、センス、倫理のなにをとってもそれは与えられたものであり、神の一部であるからである。人間が神を把握しようなどという試みをおそれる哲学者は、人間に宿る生命・感情・知性までもが神のしわざということが認められない、より不遜な反抗者であるにすぎない。(とはいっても武者小路実篤みたいに『誰の子も結局は神の子だ』などといって不倫して子供作ることを肯定はしませんが)輪島氏は神に生かされている人間の無力を魂の根底から理解しているからこそ、神の加護を想定し、人間に開かれている神との互換性を信じ、そして人間の文脈で神を活用するところまで大胆な仮定を示しているのである。

もうボクサーの輪島氏が殆ど、ケンブリッジのマハリシを自任したトロー氏の哲学・宇宙観というものに簡単な言葉で批判を加えてくれたようだが、ここで私が今一つ付け加えておく。

トーロ氏のいう神の定義を再見する。「神は概念として理解することができない。時空や言葉を超えた、なにものでも無い実体のないスピリットのことだ」こういうボケたことを言っていてはいかん。それは、既に概念である。概念としてとらえることのできないことなど、ない。別のいいかたをするなら、人間の思考でとらえられるものは全て概念である。人間の思考でとらえられないものがたとえあったとしても、それが神であるという仮定を持つのも人間の思考であり、つまりは概念なのである。


 

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コメント
 
01. 2013年3月13日 14:06:50 : jGXQbqMIm6
トール、トロー、トーロの三段活用に何か意味あるの?
時空のある現象界でも実在の派生物はそれぞれに感知出きると言うことだろ?
大トロさん曰くそれは実在そのものじゃないと。
でも面白かった。


02. 2013年3月13日 15:23:16 : nQ38OXoNpA
「神は感じることができるもので、位格にあらわればうわれず」(笑)

それ以外のところもおもしろかった。


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