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[創論]対中、日米連携は盤石か
役割分担の見直しを 前防衛相 森本敏氏
中国の軍事台頭に伴って、日本と米国の同盟体制も新たな対応を迫られている。アジアの安定を重視し、中国に融和的な態度も見せる米国に対して、隣国・中国の領土的野心を真正面に感じる日本との間には微妙な温度差も生じている。日米連携を維持するには何が必要なのか。ロバート・ウィラード前米太平洋軍司令官と森本敏前防衛相に聞いた。
――尖閣諸島の領有権を巡る中国の一連の威圧的な態度の狙いは何でしょうか。
「資源の確保、海洋権益の主張といったものを土台とした『海洋国土』という発想が中国にはある。南シナ海と東シナ海を自らの管轄下に置くという考えだが、国際法の価値、航海の自由を損なうと言わざるを得ない。換言すれば、国際法、国際秩序に対する中国の挑戦であり、いかにして日米両国がこれに対応するかが喫緊の課題となっている」
――具体的な対応は。
「最近米国では、中国による外洋への一方的な進出を制限し、内側にとどめる『オフショア・コントロール』という議論がされているが、軍事的に少し無理があると思う。中国の海軍力は20〜30年でかなり強化されるため、中国が定めた第1列島線(日本列島から沖縄、台湾、フィリピンをつなぐ防衛ライン)の内側で日米がこうしたオペレーションを展開するのは難しい」
――米国防総省で検討されている「エア・シー・バトル(空海一体化戦略)」構想とは違うコンセプトですか。
「基本的に違うコンセプトだ。私は外洋(太平洋)において、日米両国が中国に対して軍事的に優位を確保するための方策、つまり『オフショア・バランス』という考え方が現実的だとみている。そのためにはエア・シー・バトル構想が一番有効な戦略だと思う。ただ、米国防総省はまだ正式な戦略として採用しているわけではない」
――日中間の緊張関係は尖閣諸島の国有化によって引き起こされた、とする空気が米国の一部にはあります。
「日本の国内の一部にも尖閣諸島の帰属について『棚上げにする』との暗黙の合意があったという意見はある。自分としては当時の日中関係などを踏まえれば、国有化という措置は『ベスト』ではなかったかもしれないが、『適切』だったと思っている」
「尖閣諸島は中国が定めた第1列島線上にあり、既に彼らにとっては『核心的利益』の一部となっている。確かに、国有化によって中国は(海上警察を意味する)『海警』の近代化などを進める口実を得た側面もある。南沙諸島における活動のように、いずれ中国が本格的に尖閣を奪取しにくる恐れも否定できない」
――仮に尖閣諸島が中国の手に落ちれば、日本だけでなく、米国のアジア戦略にも多大な影響を与えかねません。
「尖閣諸島を中国が手にすれば、その周辺370キロメートルにわたって排他的経済水域(EEZ)を主張でき、日米両国の軍事力を排除することもできる。沖縄を拠点とする米軍事行動も規制され、日本による南西方面の防衛、島しょ防衛も脆弱になる」
――米国によるアジア重視は、中国の動きを止めることができるでしょうか。
「米国防予算が削減される中で、米軍兵力のアジア重点配備も簡単ではなくなる。だからこそ、日米両国は兵器、兵力などをベースとしたプレゼンス(存在)ではなく、機能・役割の補完体制を強化していかなければならない」
「それには日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直しや、それに伴う法整備なども必要となってくる。日本は米国とともにオフショア・バランス戦略を有効に展開していかねばならない」
――ライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)らは、米中両国が新たに「大国同士の関係」を構築すべきだという中国の提案に前向きの姿勢も見せています。
「これは認めがたい。冷戦時代の旧ソ連と違って、中国にはそこまでの能力はない。国際法を守る気がないのを見ても、それは明らかだ。その『大国同士の関係』がやがて、『米中G2論(米中両国が世界の秩序形成をリードするという考え)』へと発展していくことも否定できない」
もりもと・さとし 航空自衛隊、外務省などを経て、民主党の野田佳彦内閣で防衛相に就任。専門は安全保障、軍備管理。72歳
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綿密な協議、抑止力に 前米太平洋軍司令官 ロバート・ウィラード氏
――緊迫した日中関係の契機となった尖閣の国有化をどう見ていますか。
「尖閣に対する日本の行政権を米国はしっかりと認識しており、台湾、中国などにも認識されてしかるべきだ。ただ、中国は経済的にも軍事的にも勢力を拡大し、この地域で従来以上の影響力を行使しようとしている。それだけに、中国側の利害にかかわらず、長期にわたる管理体制を変える場合、日米双方が慎重に意見をすり合わせるべきだ」
――実際、尖閣国有化の決定の際には、そこまでの日米協議はありませんでした。
「その通り。その結果、中国側からも反動があった。だからこそ、この地域でいかなる変化についても日米双方がしっかりとコミュニケーションをとらないといけない。そうすることで、(相手側の)支持を取り付ければ、負の影響は小さくできると思う」
――オバマ米政権の対応もいまひとつ、日本には「親身」ではないように見えます。
「(政権1期目に)クリントン国務長官が『尖閣諸島は日本の施政下にあり日米安保条約の対象になることを米国も認識している』と言ったことを忘れないでほしい。それは今も変わっていない」
「米国の原則的な政策は、(領土を巡る)論争は当事者間の問題であり、米国は立ち入らないというものだ。ただ、尖閣諸島に対する施政権を日本が有していること、そして米国の(防衛)責任対象であることを我々が認識しているということは別の問題だ」
――尖閣国有化以降、米国内で「日中間の紛争に米国が巻き込まれる」という危惧が強まっていると聞きます。
「同盟管理のプロセスにおいて、議論を招く案件は多々ある。だが、特定の立場に固執するよりも同盟にはもっと大きな価値がある」
「さらに言えば、(米戦略に日本を巻き込むという)陰謀めいたものは一切ない。仮に日本側にそうした疑念が生じた場合、即座に米国に対して軍事・政治チャネル、最高位のレベルを通じて、それを伝え、疑いを解消すべきだ」
――中国の海軍力強化を受け、米国防総省内で「エア・シー・バトル」という新しい構想づくりが進んでいます。
「空軍と海軍の戦力を比較し、一体感を生み出すことで、相乗効果を最大にする発想だ。もちろん、(中国による)海域接近拒否の戦術に対抗することと連動している」
――東アジアにおける「防衛線」を米国が後退させる伏線と勘繰る向きもあります。
「そうではない。これは前方展開を強化するものであり、海軍が撤収するための新しい教義ではない。あくまでも空海一体化により最大限の効率を得るための構想だ」
――オバマ政権によるアジア重視戦略の今後の展開は。
「国防総省はアジア地域の重要性を認識しているが、国防費用削減の中で、その効果を(具体的な動きとして)みいだすことは難しい。ただ現在、米海軍の60%の潜水艦、空母は太平洋地域に駐留・待機している。海兵隊も陸軍もこの地域に帰還し、陸上戦力はイラク戦時中に比べ、太平洋地域により集中している。アジアに焦点を再び合わせていることの表れだ」
「イランやシリアへの関心も変わらないが、中国の勃興、域内の戦略的な同盟関係の重要性、この地域が抱える複雑な安全保障問題に対して、米国はもっと目に見える形で対応していくだろう」
――震災後の「トモダチ作戦」を経て、日米同盟は強化されたとの評価もあります。
「震災後の対応は、日米同盟がいかに成熟しているかを示す例だ。今後もより良く対応するための統合運用ができる。日本による集団的自衛権の行使も、その意味で重要だ。東アジアにおいて、この同盟体制に挑戦してくる相手に同盟の強さを見せつけることが抑止政策では重要だ」
Robert F. Willard 米原子力発電運転協会(INPO)理事長。09〜12年に米太平洋軍司令官を務めた。63歳。
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挑発には自制心を 真意説明、粘り強く
安倍晋三首相による靖国神社参拝を巡り、オバマ米政権が「失望した」との声明を発表するなど、日米同盟体制を巡ってぎくしゃくした空気がなかなか解消されない。そこを突く格好で、中国も「日本が第2次世界大戦後の世界秩序を破壊しようとしている」と騒ぎ立てている。
しかし、一歩引いて見れば、日本と中国のうち、どちらが現在の国際秩序に従おうとしない「新興勢力」なのかは明白なはず。日本はいかなる挑発にも自制心をもって対応し、米国をはじめとする国際社会にその真意、考えを粘り強く伝えていくべきだ。
(編集委員 春原剛)
[日経新聞2月2日朝刊P.9]
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