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『ニューズウィーク日本版』2013・11・12
P.20〜21
「孫子の兵法」の落とし穴
中国外交:中国古来の戦略は21世紀の国際社会では逆効果 著名軍事アナリストが指摘する中国外交の大きな勘違い
兵法書の『孫子』は確かに素晴らしい。企業のCEOからNFL(全米プロフットボールリーグ)チームのコーチまで、誰もが古代中国の軍事思想家の金言に言及してきた。91年の湾岸戦争で多国籍軍を勝利に導いたノーマン・シュワルツコフ元米軍司令官もその1人だった。
しかし中国の外交政策に関して『孫子』は中国を誤った方向に導いていると、戦略国際問題研究所の著名軍事アナリスト、エドワード・ルトワックは言う。ルーワックの新著『自滅する中国』(邦訳・芙蓉書房出版)によれば、この古い戦略的思想の欠点のせいで中国は近隣国に威張り散らし、敵を欺く手法に頼り過ぎて反感を買っている。
ビュー・リサーチセンターが7月に発表した調査結果では、中国に好感を持つ人の割合は日本ではわずか5%、アメリカでは37%と、07年よりそれぞれ24ポイントと5ポイント減少。中国の外交に問題があるのは明らかだ。
外国との関係改善を望むなら中国の指導者は孫子の兵法を捨てるべきだというルトワックに、ジャーナリストのベンジャミン・カールソンが話を問いた。
*
―兵法書の孫子はなぜ中国外交の足を引っ張っているのか。
中国の指導者たちは成功の秘訣の宝庫とみているが、孫子の教えは自国のほうが優れているという大きな誤解を招く。中国の歴史は長い敗北の歴史だが、指導者たちはそれに気付いていない。兵法書の巧妙さと複雑さと策略に酔いしれているからだ。レーサー気取りの下手なドライバーが、ガレージから車を出すこともできないようなものだ。
―具体的には?
兵法書が説く多くの策略や画策はどれも賢明で、同じ文化の中なら効果があるが、異文化間ではうまく機能しない。例えば満州人が攻めてきたとき、明朝の将軍たちは兵法書を引き合いに出すばかりだった。その結果、満州人に征服され、約300年間にわたって支配された。それが清朝だ。
モンゴル人が攻めてきたときもそうだ。こうした中央アジアと大草原北部の民族は外交というものをよく分かっており、他の大国と交流していた。だから中国は完全に出し抜かれた。実は過去1500年間のうちかなりの長い期間、湊民族は外国の民族に支配されてきた。
孫子の教えによれば軍事力は多大な犠牲を払って敵を滅ぼすためではなく、敵を欺いてこちらの思惑どおりに動かすために使うものだ。戦争をせずに策を弄して脅して勝とうというわけだ。尖閣諸島のケースがそうだが、艦隊を派遣して侵略したりはしない。そんなことをすれば戦争になる。
ただその結果、日本は自衛を真剣に考え、日米安保同盟を強化しょうとしている。中国は思惑とは逆に、日本が中国に対して軍隊を配備するよう仕向けているようなものだ。
―同じような例はほかにもあるのか。
62年10月に中国がインドに侵攻したのが非常に顕著な例だ。毛沢東は当時、これが自分たちのやり方だと言った。インドを侵略するつもりはないし、破壊するつもりもない。孫子の兵法に従って、敵を滅ぼすためではなく、威嚇して交渉の席に着かせるために軍事力を使うだけだ、と。しかし結局は逆効果で、国境紛争は今も解決していない。
現在の尖閣閲題についても同じだ。敵のとりでの前で軍事力をちらつかせて、敵を撤退させるのが中国の狙いだ。ベトナムに対しても中国は領有権を主張する南シナ海に漁船団を送り込んでいる。すべては敵を欺いて勝つ、という考え方の表れだ。
だがこうした策略は、中国の大事な顧客になり得る日本人を中国嫌いに変えた。
米軍基地を拒んだフィリピン人も基地の復帰を望むようになった。これといって中国に敵意を持つ理由のないインドネシアやインドの人々までが、反中感情を強めている。
―孫子の思想の強み、言い換えれば今も使える点は?
中国の内政には間違いなく有益だ。重要な教えがたくさんある。毛と蒋介石が戦った際はどちらも孫子の教えを使えた。熾烈な出世襲争を繰り広げる共産党政治局の常務委員にとっても非常に役に立つ。
しかし外国が相手ではそうはいかない。
―中国にとって国際的にはどういう戦略がより効果的か。
世界の大国になるには近隣国との友好関係が欠かせない。それを理解していれば、中国は「アメリカはどうやっているのか」と考えるはずだ。アメリカは力で優位に立つからこそ近隣国に譲歩し、優位を感じさせないように振る舞ってきた。
力関係を持ち出さずに、他国とは付き合うべきだ。アメリカの大統領がメキシコの大統領と会談する場合、アメリカがメキシコを侵略できるという事実は一切議題に上らない。カナダに対しても力の不均衡はまったく関係ない。数年前に針葉樹木材をめぐって摩擦が起きたときも、カナダ側はアメリカに力で脅されるとは考えもしなかった。
―中国の外交間男に対する考え方を十分理解していないことで、アメリカの外交にどの程度マイナスが生じているか。
アメリカは中国外交の相対的な強さを過大評価し過ぎていると思う。アメリカ外交の強さを自覚していないせいだ。アメリカは中国が天然資源を活用して富を生み出すのがうまいことはよく理解しているが、外交がいかに下手かは分かっていない。
アメリカの強みは、弱腰外交こそ強い外交だと気付いたことだ。しかし最初からそうだったわけではない。アメリカはカナダと戦い、メキシコと戦った。自国より弱い近隣国と付き合うには謙虚に振る舞って強さを相殺しなければならない。それを学ぶまでには時間がかかった。
NATO(北大西洋条約機構)の60年の歴史を振り返ってみるといい。アメリカは小国ルクセンブルクに譲歩していた。アメリカはNATOを結束させるため、力と権限にものをいわせるのではなく、その逆のことをした。相手に配慮し、最も弱い加盟国を大事にすること、彼らの意見に耳を傾けることだ。
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