02. 2013年11月07日 01:35:36
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DOL特別レポート 【第383回】 2013年11月7日 中島 恵[ジャーナリスト] 「反日デモや抗日ドラマ? あんなの茶番よ」 日本人が中国人を誤解し恐れる“不幸の構造”の正体 ――ジャーナリスト・中島 恵 中国での大規模な反日デモから、1年以上が経つ。その間領海を巡る諍いは絶えず、日中両国の冷え込みは過去最悪と言われている。関係改善の動きは見られるものの、政府関係者の往来は減り、ビジネスや文化交流にも影響が広がっている。尖閣諸島などをめぐり、中国が日本に対して度重なる挑発行為を行った結果、「中国人はみんな反日だ」というイメージを日本人に植え付けてしまったかもしれないことは、自業自得と言わざるを得ない。だが、挑発行為の仕掛け人は中国政府かごく一部の人たちに限られているはずだ。この1年、筆者は中国各地に取材に出かけ、現地で数多くの中国人にインタビューをしたが、店の従業員から嫌味を言われたり、町中で罵声を浴びせられたりしたことは一度もなかった。日本人の間では、もしかしたら実像とかけ離れた「中国人観」が一人歩きしているのではないか。そして、逆もまた然りではないか。「日中の誤解」をテーマに取材を重ねていくと、「お互いにそんなことを誤解していたのか」と驚くような“生の声”が次々と耳に飛び込んできた。日本人と中国人の間に横たわる「不幸の構造」の正体を解き明かす。(取材・文/ジャーナリスト 中島 恵) 「また日本軍が攻めて来る!」 反日デモで聞いた耳を疑う本音 昨年、中国で続発した「反日デモ」の様子。全ての中国人が本当に「反日」なのか Photo:AFLO 2012年9月18日前後。中国全土の約100都市で反日デモが燃え盛っていたころ。暴徒化した一部の民衆が日系スーパーや日本車を焼き討ちしたことは、私たちに強烈なショックを与えた。
彼らの多くは日常生活に不満を持ち、逆転できない社会構造の中で「負け組」と言われた人々だった。日本人との接点が全くない一般中国人である彼らの中には、真顔で「日中開戦」を心配する人が少なくなかった。 「もしかしたら、また(昔の日中戦争のときみたいに)日本軍が私たちを攻めてくるのではないだろうか……」 日本人からしてみれば耳を疑うような話だが、これが生身の日本人と出会ったことのない中国人の率直な感覚だった。 私はここ数年、「80后」(1980年代生まれ)と言われる20〜30代の若手エリート層を取材することが多く、その内容は昨年、前著『中国人エリートは日本人をこう見る』にまとめた。もちろん、私が取材したエリート層の中に、前述のように「日本軍が中国を攻めてくる」などと本気で思っているような人は、1人もいない。彼らは日本の事情も、客観的に知る立場にあるからだ。 私はこの話を東京に留学中の中国人大学院生から聞いた。だが、少なからず一般中国人の一部は、前述の発言のように感じていたらしい。これこそ、「大いなる誤解」ではないかと思った。 冒頭の話を聞いてから、私は実は多くの中国人は、日本や日本人について、もしかしたら「この他にもとんでもない誤解をしているのではないか?」という疑問を持つようになった。そして私たち日本人が中国や中国人に対して持っているイメージも、実際とはかけ離れている部分があるのではないか。 もちろん、尖閣問題や領海侵犯問題をはじめ、中国が国際的なモラルを無視していると思われても仕方のない「挑発行為」を日本に対して度々行い、それがもとで「中国人は嫌日だ」「中国人は怖い人たちだ」というイメージが日本人の間に広がってしまったかもしれない側面はあるだろう。彼らには彼らの言い分もあるのだろうが、これについては「自業自得」と言わざるを得ない。 しかし、そうした挑発行為の仕掛け人たちは、中国政府かごく一部の人たちに限られているはずだ。多くの日本人が全ての中国人を「悪者」と捉えているかのような風潮は、やや短絡的で客観性を欠いているようにも思う。 そうした誤解が解けないために、お互いに「きっと相手はこう思っているのでは?」「あの国の人たちが考えることと言えば……」などと推測し、直接対話することなしに“小さな不幸”があちこちで発生し、両国民の悪感情を増幅させているのではないか、と思うようになった。これこそ、日中を取り巻く「不幸の構造」だ。 深刻な相互不理解が横たわる 日中を取り巻く「不幸の構造」 もちろん、両国間には複雑な歴史認識問題や領土問題が存在することは確かだ。だが、筆者はこの「不幸の構造」を解明しなければ、もし仮に両国政府が何らかの形で「手打ち」をしたとしても、根本的に両国民が理解し合うことは難しく、今後もことあるごとに軋轢が生じる危険性があると思った。 「自分の国の常識」に立って相手を見ているだけでは、誤解は広がるばかりだ。私たちは顔や容姿は似通っているが、国家体制や国情、社会制度が大きく異なる国に生きているのだ、ということを再認識する必要がある。 ある中国人留学生は、反日デモの際、中国に住む両親から「『日本にいては暴徒などに遭って危険だ。早く中国に帰ってこい』と言われてびっくりした」と話していた。留学生が両親に「日本ではそんなことは起きないよ」と言っても、信じてもらえなかったという。 この話を聞くと、読者は「まったく中国人は日本がどんな国なのか全然わかっていない。中国とは違うのに、これだから困るんだ」と思うかもしれないが、日本人とてそれほど中国を多角的に理解しているわけではない。日本人も中国人も、普通の人はたいてい、物事を自分の視点からしか受け止められないものだ。そして、片方だけでなく、相互不理解の状況にあるのが、今の両国を取り巻く現状だと思う。 距離的にも文化的にも近い日中双方だが、よく考えてみれば、私たちは政治経済のニュースは耳にすることはあっても、実際にそこで暮らす「1人の中国人」が何を考え、日々をどう生き、何に感動し、何を悲しん生きているのかについては、これまでほとんど関心がなかった。それは中国人にとっても同様で、彼らは政府のプロパガンダ(政治宣伝)による偏った日本報道は大量に目にしているのに、「1人の日本人」の生活や考え方については、知りたくても知る術がない。 日中関係が比較的良好だった数年前までは、中国でも日本を描いた良質なドキュメンタリーが放送され、報道番組だけでは理解できない「日本」の側面の情報を得られたと聞くが、関係悪化とともにそうしたテレビ番組は徐々に減ってしまったという。 日本でも、国際報道の中で中国報道が占める割合は大きいが、等身大の中国人について客観的に知ることができるテレビ番組やバランスの取れた書物は、残念ながら非常に少ない。そう感じるのは私だけではないと思う。 スターバックスに行ったら 店員が「怒り顔」のマークを 私は中国人の生の声をもっと聞き出すことによって、少しでも手垢のついた「中国情報」の間違いをリセットし、ボタンのかけ違いを正していきたいと思った。その内容は新刊『中国人の誤解 日本人の誤解』の中に詳しく記したが、ここでもいくつか具体的なエピソードを紹介したい。 今春、反日デモからちょうど半年が過ぎたある日、私は上海で、反日デモ当時の現地の様子や、「日中の誤解」について取材をしていた。ある中国人は、日本人の友人からこんな話を聞いた。 その友人がスターバックスに行ったとき、店員がカップの裏にマジックで怒った顔のマークを描いて渡してきたのだという。「おそらく、客が日本人だとわかって、私たち中国人は日本人に対して怒っているんだよ、という無言の意思表示だったと思います」とその中国人はいう。 「今日、変なこと起こらないよね……」 女性が中国人の結婚式で思い知った杞憂 しかし、こんなこともあった。外資系企業に勤める中国人OLの女性(28歳)は、大規模な反日デモが行われていたまさにその日、日本人男性と自分の同級生の女性の結婚式に出席した。女性はその日の様子を教えてくれた。 「友だちは日本留学中に彼と知り合ったんです。上海で結婚式をすることになったので、日本から出席したのはご主人のご両親と親友が2、3人だけ。あとは全員中国側の招待客でした。私は友だちと会場に向かう途中、『今日、変なこと起こらないよね。大丈夫かな?』と心配していたのですが、始まってみれば終始和やかな雰囲気で、全然問題ありませんでした。中国人だって、心ある人は日中の問題に少なからず心を痛めているんです。でも今日、この場に居合わせた私たちは、新郎新婦にあやかって仲よくしたいよね。心底そう思った。そんな温かいものが伝わる、素晴らしい披露宴でした」(女性) 前述のスタバの店員が無言で日本人に敵意を表したことも、日中カップルの結婚式が和やかに行われたことも、中国でほぼ同時期に発生した出来事だ。外資系企業に勤務する私の友人夫婦は、毎日深夜まで働いており、上海市内で反日デモが行われたことを全く知らなかった。 中国メディアでは、反日デモの報道はしていない。微博(中国版ツイッター)などでは情報が飛び交っていたが、デモから1本隔てた道路に面したオフィスは日常と何ら変わりなく、平穏そのものだった。 むろん、デモを知らない人がいたからといって、「あれは重大な問題ではなかった」などというつもりはないが、日本に住む日本人が過剰に反応し、「中国中で暴動が起きていて、もはや手がつけられない状態」だと思ってしまうことも「何か違う」と思う。現地に住む日本人も違和感を覚えるという。 どんな事象についても言えることだが、「中国人は反日か、あるいは違うのか」といった単純な二元論によるレッテル貼りが、最も危険だ。どんな国にもいい人もいれば、悪い人もいるはずだが、安易にレッテルを貼ると、悪いところばかりが目につく(悪いニュースだけが印象に残り、いいニュースがかき消されてしまう)ということがあるだろう。 中国人大学生が覚えた強い違和感 「日本人のほうが反日教育に敏感」 反日といえば、「中国ではさかんに反日教育が行われている」というのも日本ではよく知られている話だ。そこで、上海の復旦大学で学ぶ男子大学生に「よくいわれる反日教育ってどんなことをしているの?」と聞いてみた。彼の答えは意外なものだった。 「そういうもの、存在しないですよ。愛国主義教育は確かにありますが、反日教育とイコールではありません。日本人の誤解です」 日本では「反日=愛国」という受け止め方が一般的となっており、「中国では愛国主義教育が徹底されているから、中国人は日本人が嫌いなんだ」と考える人がいる。だが彼は、「それは間違った認識だ」と反論する。彼は以前1年間、京都の大学に交換留学していたことがあるが、そこで出会った日本人から「反日教育」についてさかんに質問され、強い違和感を覚えたという。 「なぜだか、日本人は『反日教育』という言葉が大好きらしくて、この話題になると敏感に反応し、盛り上がるようですね。日本でそういうことを書いた本がたくさん発売されているのを知って、自分はすごくびっくりしました。確かに愛国主義教育では、現在の中国を建国していく過程を教えますから、抗日戦争の話も必ず出てきます。でも、『日本を憎め』ということだけが強調されているわけではありません」(男子大学生) このような意見がある一方で、愛国主義教育を受けて日本への反感を募らせている人も確かに存在する。それもまた事実だ。 上海のある大学教授によると、地方出身で、純粋培養で育ち、都会の大学にやってきた優秀な大学生に、比較的その傾向が強いという。北京や上海などの大都会と違い、日本人を見たこともなく、基本的に入手できる情報量が少ないという原因もあるかもしれない。 こうした人々こそ、日本人が思い描く「日本に反感を持つ中国人像」に近い。だが、同じ中国でも、地域や年代、学校によって大きな違いがあるので、一概にそうした教育が「あった」とか「なかった」と断言することはできない。 日本でも、学生時代に同じクラスで同じ授業を受けたからといって、全員が同じものの考え方をすることはあり得ない。そう説明すれば、日本人にとってもわかりやすいだろうか。「1000人いれば1000通りの考え方があるはずなのに、『中国人=反日』と日本では『ひとくくり』に認識されているのではないか」と男子大学生が憤りを感じていたことが印象的だった。 残虐な日本人を描く「抗日ドラマ」は みんな暇つぶしで観ているだけ 抗日ドラマに関しても同様だ。中国ではホームドラマや恋愛ドラマと同じように、毎日のように抗日ドラマが放送されており、ドラマの中では残虐な日本人が中国人を殺す場面がある。日本人としては、思わず目を背けたくなることも多いという。そのため、「中国人は抗日ドラマの影響を強く受け、洗脳されている」と感じている日本人も多い。しかしある女子大学生は、「そんなことあるわけがないでしょ」と笑い飛ばし、自分の母親の話をしてくれた。 「うちのお母さん、家でよく抗日ドラマを見ていますよ。でも、誤解しないでくださいね。別に日本のこと、嫌いなわけじゃないですから(笑)」 専業主婦をしている彼女の母親は、暇にまかせてよくテレビを見ているが、抗日ドラマは放送時間が長いので、母親が毎日視聴する番組の1つに自然に組み込まれてしまっている。制作者側の意図はともかくとして、母親にとって抗日ドラマはあくまでも娯楽であり、暇つぶしの1つでしかない。日本同様、中国でもテレビの視聴者は中高年が多く、若者は年々テレビを見なくなっている。 昨年、教師を定年退職した別の中年女性も、「よく放送しているのでたまに見る」そうだが、彼女も別に日本が嫌いで憎しみの気持ちを持って熱心に視聴しているわけではない。 「だって、若い人が見る番組にはついていけないんですもの。それに、中国では時代劇といえば、清朝の宮廷ドラマか抗日ドラマの2種類しかないんですから、仕方なく見ているんです」 日本人にとっては不愉快そのものの抗日ドラマだが、実は中国人だってドラマの内容を真に受けたりはしていないのだ。事実、昨今の抗日ドラマはあまりにも荒唐無稽で、過激なアクションシーンが多すぎると視聴者から批判され、政府が規制に乗り出している。 抗日ドラマは政府のプロパガンダ 中国人だってさすがにわかっている この女子大生は次のように語る。 「幼い頃に見てショックを受け、『日本人ってあんなに残虐なんだ』と思ったことはあった」と打ち明ける。だが、「大人になるにつれ、あれは政府のプロパガンダだとはっきりわかったのです。日本の夢のあるアニメを見て育ってきた私たちは、あんなの全部嘘っぱちだってみんな知っていますよ」 私はこれらの話を取材するにつけ、マスメディアの画一的な情報に踊らされず、実際に彼らの生の声に真摯に耳を傾けてみない限り、「中国人の本音」はわからないものだと痛感した。むろん、私自身もまだわかっていないことは山ほどあるし、私が聞いたことはごく一部の中国人の話でしかない。だが、少なくとも、大小様々な誤解が私たちの間に数多く存在しているのだ、ということは確かだ。 日中間で現在起きている諸問題の原因の多くは、国家レベルでは様々な政治的思惑や利害関係が強く影響している。だが、国民レベルでの行き違いや誤解については、シンプルに突き詰めていけば、「相手が何を考えているのか理解できない」「本心がさっぱりわからない」という点に集約できるのではないだろうか。 多くの中国人に取材していて私が一番驚いたことは、日中戦争に関するお互いの認識の違いや歴史認識に対する温度差だった。冒頭でも紹介したように、中国人にとって戦争は遠い過去のものではない。現実として、第二次世界大戦では日本が敗戦国であるにもかかわらず、中国人も「負けた」と感じていたからだ。 実際、取材で聞いた多くの中国人の言葉は、「日本にひどい目に遭わされた」であり、「日本に勝った」と思っている人は少なかった。だからこそ、再び日本が攻めてくるのではないかと怯え、もし本当に攻めてくるなら「受けて立とうじゃないか」と奮い立つ人さえいた。 日中両国で共に「戦争したい」などと思っている人は、主流ではないだろう。それなのに、双方共にそうした過激な意見だけがマスメディアで大きくクローズアップされ、いかにも主流であるかのように誤解されてしまうのは悲しいことだ。 中国人の「戦争に負けた」という劣等感 国は国、個人レベルで誤解を解くべき時期 ある中国人が語った言葉が、非常に印象に残った。 「いわゆる『(日中戦争の悲惨さを教える)愛国主義教育の逆効果』とでも言ったらよいのか、愛国主義教育を強めると中国人の被害者意識は非常に高まるんですね。中国は戦勝国なのに、『日本にやられた感』でいっぱいなわけです。そして、日本に対する引け目を強く感じるのです」 戦争で中国人に打撃を与えておきながら、日本は戦後の荒廃からいち早く立ち直り、40年間もGDPで世界第2位の座に君臨した。中国が文化大革命など国内の混乱で低迷していたそのすぐ隣で、日本は燦然と輝き続けた。 そのことに対して、劣等感を持つ中国人は少なくない。そうした中国人の屈折した気持ちを、私は本書の取材の過程で初めて知り、衝撃を受けた。 中国は社会主義体制の国家だ。そこに強いアレルギーや固定観念を持つ日本人は多い。事実、国家としては首をかしげるような言動をとることもあるが、だからと言って個人同士が理解し合えないのかといえば、そんなことは全くない。 中国人も、私たちと同じく血の通った人間だからだ。最近は日本に住む外国人も非常に多くなったが、自分の身近にいる親しい外国人の顔を思い浮かべれば、おわかりいただけると思う。 お互いに歩み寄り、小さな誤解を解いていけば、理解し合える部分は大きいのではないか。国家間の関係修復には時間がかかるかもしれない。だが、個人と個人が深くつき合っていけば、いつかわだかまりが消え、自然と誤解や偏見が消えていくと信じたい。 また、そうすることが両国関係にもよい影響を与えてくれるのではないかと私は思っている。 『中国人の誤解 日本人の誤解』 中島 恵著 日本経済新聞出版社 税抜き850円 著者新刊のお知らせ
中国人はみな反日感情を抱いている――。尖閣問題などの影響で日中関係が過去にないほど冷え込んでいる現在、多くの日本人がそんな風に思っているのではないか。しかし、それは本当だろうか。長年にわたって中国取材を続けてきた著者は、数多くの中国人の本音を聞き続け、日本人が抱く感覚は必ずしも正しくないと感じている。 実は反対に、中国人にも日本人を必要以上に恐れている人が多い。また、エリート層の若者の中には日本の文化や風土に好意を抱いている人も少なくない。日本人も中国人も、本来は同じ目線で付き合えるはずなのだ。 著者が取材で会った中国人には、反日デモや抗日ドラマを、「政府のプロパガンダ」「茶番劇」と冷静に捉えている人もいたという。 日中は不十分な情報だけで、お互いに誤解し合っていないか。中国人は本音では日本をどう見ているのか。中国現地の多くの人に生の声を聞き、日中関係の「不幸の構造」を解き明かす。
[12削除理由]:無関係な長文多数 |