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中国共産党が人権を弾圧する19分野
米国が精査した中国の反国際的行為
2013年10月23日(Wed) 古森 義久
中国は習近平国家主席、李克強首相という新指導層を迎え、国家や社会の開放、改革の方針を宣言した。しかし現実には共産党独裁による国民の人権の抑圧や自由の制約は従来よりもさらに悪化した――。
米国の議会と政府が一体となった政策諮問機関「中国に関する議会・政府委員会」がこの10月中旬に発表した2013年度の年次報告が以上のような総括を打ち出した。
320ページにわたる同報告は中国での宗教の自由、女性の地位、少数民族の権利など19の具体的な分野に光を当て、そのすべてに世界人権宣言など国際的規範に反する抑圧が存在する、という結論を明記した。中国のこの種の現状には中国当局から靖国参拝や歴史認識で道義的な非難を浴びる日本としても最大の関心を向けるべきだろう。
「中国に関する議会・政府委員会」は米国の立法府と行政府が一体となって、中国の人権や法の統治の状況を調査し、公表して、米側の対中政策の指針にするという目的で2000年10月に設置された。
議会側では民主、共和両党の上下両院議員が常に十数人、政府側からは国務省、国防総省、商務省、労働省などの10機関ほどの代表が加わる。現在は委員長がシェロッド・ブラウン上院議員(民主党)、共同委員長がクリス・スミス下院議員(共和党)で、専門スタッフを使って、中国側の実情を調査する。その結果はほぼ毎月の公聴会や調査発表で明らかにされ、さらに年次報告で総括される。
激しくなってきた独裁統治の抑圧・弾圧
さて中国の人権状況は2013年9月までの1年ほどにどのような実態を示したのか。
同報告は総括として以下のような諸点を指摘した。
・当委員会は中国当局が習近平、李克強らの新指導体制下で自国民の表現の自由、結社の自由、宗教の自由、共産党の権力の緩和、法の統治の確立などに関して前進がないことを認識した。新体制のスタート時には、改革や開放、当局の権力の制限を示唆する公式の言明がなされ、中国全土にわたって、期待が表明されていた。しかし新指導部はすぐに人権尊重や法の統治の確立を求める動きを弾圧し始め、公共事案に対する共産党の支配を再宣言するようになった。中国はその結果、基本的な人権の保障や政治的な改革のないまま、経済の近代化だけを追求するというこれまでの路線を継続することとなる。
・新指導部は多方面での抑圧の緩和や自由の拡大を言明し、特に憲法の遵守や汚職の追放を強調したが、2013年春までにはその種の公言を実行しないことが明白となった。同年9月までには当局は許志永(北京郵電大学の法学部教授で憲法学者)や郭飛雄(広東省の著名な民主活動家)を含む約60人を逮捕、拘束、あるいは「失踪」させて、表現の自由、結社の自由を弾圧した。
・中国当局は、自国の経済に関しても政府や党に均衡を欠くほど大きな役割を果たさせている。その方法は国有企業への不公正な補助金供与、投資や雇用で中国企業が不当に有利になるような民間介入などであり、いずれも世界貿易機関(WTO)の規則に違反している。中国当局はまた人民元の対ドルレートを不当に低く保つ一方、外国の知的所有権の大規模な盗用を続けている。
以上、要するに同報告は、中国の指導部が習近平体制に代わっても、改革・開放・民主化どころか、独裁統治の抑圧・弾圧がむしろ激しくなってきたと断じているのである。
19分野での抑圧・弾圧の実態
そしてその悪化の傾向を実証する具体例などを19の分野に分けて詳しく報告していた。
その概略を以下に紹介しよう。
(1)表現の自由
中国国民がインターネットを利用して、政府についての情報を共有し、政府への抗議を述べることが多くなったのに対し、当局はその自由を抑圧する不透明な措置を強めた。ネット利用者の実名登録の義務づけを強め、検閲を広めて、国際規範の違反を激しくした。政府の女性再教育労働センターの運営や北朝鮮政策を批判的に報じた中国人ジャーナリストたちが逮捕された。
(2)労働者の権利
中国当局は依然、労働者の自由な結束や独立労組の結成を許していない。特に地方から都市部へと移動した移民労働者の労働契約がなく、年金や医療サービスも決定的に欠けている。一方、成長率の高い電子関連企業では未成年労働者の雇用が多くなってきた。
(3)刑事訴訟手続き
中国当局は2013年1月に既存の刑事訴訟法を改正したが、なお任意の拘束や拷問が絶えていない。許志永や陳克貴(盲目の人権活動家の陳光誠の甥)への弾圧は、単に政治的活動だけを理由とする拘束がいまなお続いていることの実証である。
(4)宗教の自由
中国の憲法は「通常の宗教活動の範囲内に留まる」という表現で国民の宗教の自由を制限し、仏教、カトリック、道教、イスラム教、プロテスタントの5つだけしか活動を認めていない。しかもその5宗教は国家が管理し、各宗教の指導者たちはみな政府への登録を義務づけられる。中国当局はカトリック教会内の人事にまで干渉している。これらの行動は世界人権宣言に違反する。
(5)チベット
2012年9月から今年7月までにチベット人65人が中国当局の弾圧に抗議するため焼身自殺をした。表現、結社、移動の自由の剥奪への抗議だった。中国当局はチベットの言葉や文化を薄め、焼身自殺者の家族への懲罰的措置をも強めている。中国政府はチベットの宗教指導者ダライ・ラマとの対話も果たしていない。
(6)新彊
中国当局は、新彊地区で独自の言語、文化、宗教への権利を尊重する民主主義的な措置を求めるウイグル人指導者たちに、厳しい抑圧の措置を取った。また当局は著名なウイグル人学者が国外へ旅行することを禁止する一方、香港のメディアの取材に協力して通訳をしたウイグル人を逮捕し、懲役11年の刑に処した。この取材は、中国当局によるウイグルの史跡の破壊を伝えるものだった。
(7)少数民族の権利
内モンゴルでは、民族的な文化を平和的に維持、発信しようとするモンゴル民族代表が迫害や懲役を受けた。遊牧民の多くが草原から追われた。モンゴル民族の人権を主張する活動家は当局から拘束を受けたままである。中国当局は、内モンゴルの医学校施設の一部を中国当局に押収されたことに抗議した元校長に対して、懲役3年の刑を言い渡した。
(8)人口計画
中国政府の「一人っ子政策」による国民の家族構成計画や出産プロセスへの介入、特に2人目の子供の出産への懲罰金、強制不妊や強制中絶などは国際的な人権規範に違反する。中国当局は2013年3月、人口問題を管轄する政府機関を再編成し、「一人っ子政策」の実施の責任を一部移管した。この動きは「一人っ子政策」の緩和を意味すると解釈される一方、なお地方政府は同政策のより厳しい実施を続けている。
(9)居住と移動の自由
中国政府は戸籍(戸口)制度の継続により、国民が自由に居住場所を決める権利を否定している。
農村から都市に移動した労働者たちが、都市戸籍を保有していないことによって社会福祉などで差別を受け、社会全体の不安定につながる。チベット人、ウイグル人、政治活動家とその家族たちなど合計1400万人もが国外への移住を禁じられている。
(10)女性の地位
中国の地方、中央の政府職員雇用での女性の比率は、国際的な女性差別撤廃宣言が提示する基準にはるかに及ばない。教育や雇用全般での女性差別も、新指導層の登場後もなお広範である。中国の官営メディアが報じた家庭内暴力防止の新法律もなお実現していない。レイプ被害者の若い女性も現行刑法では適切な法的保護を受けていない。
(11)人身売買
中国政府は、女性や児童の売買取引を防ぐ国連の議定書に沿った法的措置を国内で実施したと主張するが、米国国務省の人身売買の今年の国際報告では、中国はなお最下位のカテゴリーにリストアップされた。中国の内外では多数の男女や子供たちが、いまも強制労働、強制結婚、性的迫害のために売買されている。
(12)中国領内の北朝鮮難民
中国は国連の難民保護の規定などに違反して、自国内の北朝鮮難民を本国へ強制送還している。送還された難民は北朝鮮政府から苛酷な懲罰を受ける。中国政府は北朝鮮政府と協議のうえ、最近は難民の摘発をさらに強めるに至った。中国領内の北朝鮮難民女性は人身売買、強制結婚、売春を強いられている。中国政府は自国領内で生まれた北朝鮮難民の子供たちも本国へ強制送還している。
(13)環境
中国政府は自国内の激しい大気汚染にもかかわらず、環境保護の施策を公表する措置を取っていない。中国政府は特に土壌汚染についての情報を国家機密として扱っている。新しい環境保護法でも、環境汚染を引き起こした責任組織を訴えられる当事者は、政府が認めた組織だけと規定している。
(14)民主的統治の制度
中国国民は指導者選出を含む公的活動へのフル参加を認められていない。習近平、李克強ら最高指導者も不透明かつ非民主的な方法で選ばれた。司法から全人代、メディア、大学まで、中国共産党がすべてを支配している。最近も政府高官の私財の公開を求めた、反腐敗、社会正義を推進する活動家たち25人が当局に逮捕された。
(15)市民社会
市民の社会的権利を守るための非政府組織(NGO)や非公式な市民ネットワークに対する中国政府の厳しい規制は、世界人権宣言のなかの「結社の自由」の保障に明らかに違反する。中国政府は共産党の統治に批判的な市民の集まりには強い規制を加える。同政府は今年中に市民団体の登録に関する新規定を発表すると述べているが、その展望は不明なままである。
(16)司法へのアクセス
中国当局は2012年11月の共産党大会の期間中、北京で法輪功信者、人権活動家、請願者たち多数を再教育収容所に拘束した。大会中の請願や抗議を封じるためだった。著名な人権活動家たちはなお拘束されたままである。一般市民も不公正を司法当局に訴え、是正策を得るアクセス方法は保証されていない。
(17)公衆衛生
中国政府が公衆衛生を守り、特に食糧と医薬品の安全性を保つ能力に対して、国民は不信感を述べている。中国初の精神衛生法が2013年5月に発効したが、民主活動家や抗議運動指導者らが懲罰のために精神病患者として拘束されることを防ぐ手段を明記していない。
(18)香港とマカオでの事態
2017年の香港行政長官の選挙で、住民すべての投票権保障を実現しようとする動きがあるが、中国当局は反対している。マカオでも同様に住民全員の選挙権保有が求められているが、なお当局の抵抗が強く、予断を許さない。
(19)政治犯データベース
この「中国に関する議会・政府委員会」の活動の中核とされる中国政治犯の資料収集では、2013年9月現在、合計1304人の中国人が政治犯と宗教犯として拘留されている。その他に6005人が過去に政治犯、宗教犯として逮捕され、いまはすでに解放されたか死亡したという。
個人の人権や自由を奪う共産党独裁支配
以上のように中国の人権弾圧の実例を伝える報告は、米国政府と議会のそれぞれの対中政策形成にとって大きな規範となる。
中国は、要するに人権の弾圧と自由の抑圧の国なのである。米国に限らずどの国の政権も中国に対する政策を選ぶ際は、中国内外の動きをしっかりと見つめることが先決となろう。その考察ではまず相手国家の政府の特徴を見ることが重要となる。たとえ膨大な手間がかかっても、である。
個人の人権や自由は、世界人権宣言で真っ先に約束された個々の人間たちの基本的な権利である。その基本的な権利が中国では共産党独裁支配により、一般国民から大幅に奪われている。この年次報告はその現実をいやというほど繰り返し伝えているのだ。
「人権弾圧」はまさにグローバルに忌避し排斥せねばならない現象である。わが日本も、自国と自国民にとって、それが何を意味するかを真剣に考えて対応すべしということでもあろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38987
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