03. 2013年7月26日 01:49:41
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上海では1日2万トン、深刻化する中国の「ごみ戦争」主張し始めた住民の反対でごみ処理場建設は進まず 2013年7月26日(金) 北村 豊 2013年7月19日、広東省広州市の市内北部にある“花都区”で、地元住民1000人以上によるごみ焼却場の建設に反対するデモ行進が行われた。彼らは炎天下をものともせず、「獅嶺鎮前進村のごみ焼却場建設地選定に強く反対する」と書かれた横断幕を掲げ、「ごみ焼却場建設反対」のスローガンを大声で叫びつつ、花都区政府庁舎へ向かう通りを行進した。区政府庁舎前の広場には多数の警察官および機動隊員が人垣を作って警戒に当たり、広場を取り囲むように消防車、警察車両、救急車が配備されていたが、広場に到着したデモ隊は冷静さを保ち、現場の雰囲気はさほど緊迫したものではなかった。 ごみ焼却場建設反対のデモに1万人が参加 花都区ではこれに先立つ7月15日にも1万人が参加して、今回と同じごみ焼却場建設反対のデモ行進が行われた。そのデモ隊の規模に肝を冷やした花都区政府は3日以内に何らかの回答を行うと声明を発表したが、回答期限の18日を過ぎても区政府は何らの回答も示さなかったことから、区政府に対する抗議行動として行われたのが19日のデモ行進だった。 ところで、上述した花都区のごみ焼却場建設計画とは何か。広州市人民代表大会代表(=市議会議員)の“羅家海”によれば、広州市では毎日1.4万トンの生活ごみが発生しており、このまま行けば、2015年までに市内のごみ埋立処分場は次々と満杯になり、封鎖を余儀なくされる状況にある。広州市の土地資源は不足しており、新たなごみ埋立処分場を開設することは困難で、3年後にはごみを埋立処分する場所がなくなるという。そうした危機的な状況下で、広州市政府が策定したのが“資源熱力電廠(廃棄物焼却発電所)”プロジェクトであった。これは廃棄物の焼却によって発生する燃焼ガスをエネルギー源として発電するもので、花都区のごみ焼却場計画とは発電所を併設したごみ焼却施設の建設を意味する。 そこで、花都区のごみ焼却場計画が今日に至るまでに経緯をたどってみると、以下の通りである。 【1】2009年11月22日、広州市政府副秘書長の“呂志毅”が記者会見の席上で、ごみ焼却場の建設が予定されている市内の“番禺区”のほかに、“花都区”、さらには広州市が管轄する“増城市”および“従化市”にもごみ焼却場を建設する必要があると発言した。これを契機として、花都区ではごみ焼却場建設の是非を巡る議論が巻き起こった。同年12月13日に広州市の関係資料が明るみに出て、広州市政府が花都区のごみ焼却場の候補地として計画しているのは“獅嶺鎮”にある“汾水林場”という土地であることが判明した。その10日ほど後の12月25日には、獅嶺鎮と花都区に隣接する“清遠市”の両住民の代表が共闘を組んで、広州市“城市管理委員会(都市管理委員会)”に対して、汾水林場にごみ焼却場を建設することに強く反対する旨を表明した。 【2】2012年4月19日、広州市城市管理委員会は“広州市人民代表大会(=広州市議会)”に対して市内に6カ所の資源熱力電廠を建設する事業計画を提出したが、その中に2014年竣工予定として花都区のごみ焼却場、すなわち“広州市第5資源熱力電廠”が含まれていた。この結果、2009年の年末から休眠状態にあった花都区のごみ焼却場の建設候補地問題が再浮上することとなった。 【3】これを受けて、早くも2012年5月23日には花都区および清遠市の住民代表が、広州市都市管理委員会に対して花都区にごみ焼却場を建設することに反対を表明したのを皮切りに、住民による反対運動が活発化していった。6月18日には広州市政府がごみ焼却場の建設候補地として検討している獅嶺鎮の汾水林場の環境アセスメント調査の結果を公表したが、反対派の住民たちは実地調査がなされたか否かについて疑問を投げかけて反発した。 【4】2013年1月17日、広州市都市管理委員会のトップである主任の“危偉漢”が、花都区のごみ焼却場建設候補地について比較検討を行うと表明した。花都区政府は全国の専門家を招集して候補地を4カ所選び出した上で、4月以降に中央政府“環境保護部”傘下の“華南環境科学研究所”に各候補地の環境面での比較分析を委託した。その候補地とは、獅嶺鎮の汾水林場と前進村、花東鎮の元崗嶺、赤坭鎮の牛欄窟の4カ所であった。 【5】2013年6月27日、広州市都市管理委員会、花都区政府および華南環境科学研究所は共同で記者会見を行い、ごみ焼却場の建設候補地を従来の獅嶺鎮の汾水林場から同じ獅嶺鎮の“前進村”に変更すると発表した。前進村の候補地は従来の汾水林場から3kmの距離にある採石場の跡地で、周囲1km以内に人家はなく、住民居住区までの距離は1.3km、清遠市との境界までの距離は最短で2.5kmである。花都区に建設予定のごみ処理場、すなわち“広州市第5資源熱力電廠”のごみ焼却量は1日当たり1500トンの規模であり、国家規定による環境影響評価の範囲は2.5kmであるから、清遠市との境界は最短距離でも圏外となるというものであった。 決着するまでには紆余曲折 さて、7月15日に行われたごみ焼却場建設反対デモに参加した前進村の村民は、「獅嶺鎮は花都区の中核をなす鎮であると同時に、世界的に有名な“皮具之都(皮製品の都)”<注1>である。建設予定のごみ焼却場は鎮政府庁舎からわずか2.5kmの距離にあり、ごみ焼却場が操業を開始したら、全ての獅嶺鎮住民の健康が影響を受ける可能性がある」と述べて、ごみ焼却場建設に断固反対を表明した。一方、花都区政府のある役人は、「前進村は4つの候補地の中からごみ焼却場建設の適地として選ばれただけで、最終的に決定したわけではない。政府は住民の要求を真摯に検討し、すべて法規に照らして取り進める」と言明している。本件の今後の展開は予断を許さないが、最終的に決着するまでには紆余曲折が予想される。 <注1>獅嶺鎮は「中国の皮製品の都」として名高く、皮革・皮製品関連の生産企業8000社、取り扱い業者1万8000社が集まり、その従業員数は30万人以上。皮革・皮製品の生産額は年間200億元(約3300億円)に上る。 それは上記【1】で言及した“番禺ごみ焼却場”の実例を見れば分かる。広州市政府は2009年に番禺区の“大石鎮会江村”に生活ごみ焼却場を建設することを決定したが、周辺住民の強い反対にあい、最終的には建設延期を宣言せざるを得なかった。2011年4月、番禺区政府は大石鎮会江村を含む5カ所の建設候補地を選定し、何回にもわたる環境アセスメント調査を経て、最終的に番禺区に隣接する“南沙区”の“大崗鎮”に“第4資源熱力電廠(第4廃棄物焼却発電所)”を建設することが決定された。この間に各候補地およびその周辺地域から激しい建設反対運動が巻き起こったことは言うまでもないが、広州市は対話を通じて、何とか反対の声を抑え込むことに成功したのである。 その後、建設予定地に決定した南沙区大崗鎮に対して、広州市環境保護局による環境アセスメント調査が2度にわたって実施された結果、南沙区大崗鎮に“第4資源熱力電廠”を建設する計画は、2013年5月19日に市環境保護局によって承認された。こうして、6月26日の午前中に南沙区大崗鎮において、第4資源熱力電廠の定礎式が行われ、事業計画の確定から4年の歳月を費やしたごみ焼却場建設の着工にこぎつけたのだった。同資源熱力電廠は2015年竣工予定だが、敷地面積は6.98万平方メートル、生活ごみの処理能力は1日当たり2000トンで、年間73万トンの生活ごみを処理し、2.63億キロワット時の電力を発電するという。 こうして第4資源熱力電廠は2015年竣工のめどは付いたが、花都区の第5資源熱力電廠はいまだに建設予定地の最終決定すらできていない。本来なら2014年に完成する予定であった第5資源熱力電廠が竣工するのはいつの日になるのか。上述したように、2015年には広州市のごみ埋立処分場はすべて満杯となるので、広州市政府は緊急の対応が必要となる。 政府に対して堂々と反対意見を主張する市民 ごみ処理場の建設に市民が反対するのは、自己防衛のための条件反射である。これは中国に限らず、日本を含む世界各国で政府対市民の攻防を展開しているテーマである。ただし、中国の場合は、中国共産党の一党独裁が常に市民の声を封殺してきたので、従来なら地図上にごみ処理場の建設予定地を書き入れれば、後は住民の声を無視する形で強制移転させて、建設に着手すれば済んだ。ところが、インターネットや携帯電話などの通信手段の多様化が、市民間の情報伝達を速め、市民の団結を容易にさせた結果、市民は発言力を強め、政府に対して堂々と反対意見を主張するようになった。一方、市民による暴動や抗議行動の発生を恐れる政府は、市民に対する力による弾圧を手控え、対決よりも対話による解決を模索するようになった。 そうした姿勢の表れが、中国各地で頻発する市民の反対運動による各種事業の停止や一時停止、延期である。例を挙げれば、2012年7月の四川省什邡市におけるモリブデン・銅精錬工場建設事業の停止、2012年8月の江蘇省南通市における王子製紙排水管敷設計画の停止、近いところでは、2013年7月の広東省鶴山市におけるウラン燃料製造工場建設事業の停止などがこれに該当する。こうなると、中国では市民が納得しない限り、新たな建設事業、特に環境汚染や公害に絡む事業は容易には推進できないことを意味する。これは逆に言えば、その難しい課題を市民との対話を通じて解決できなければ有能な指導者として認められない時代が到来したと言うことができる。市民の反対運動に腰砕けになり、事業を停止するだけなら、誰にでもできることで、そうした指導者は無能の烙印を押されるだけである。また、反対運動を武力で弾圧して抑え込むのも、同様に無能な指導者の烙印を押されるだけだろう。 話が横道にそれたので、本題に戻る。2013年7月19日付の中国各紙は、「中国の3分の1を超える都市がごみに囲まれ、ごみの山が75万ムーの土地を占拠している」と題する記事を掲載した。その概要は以下の通りである。 (1)高速に発展している中国の都市は、“垃圾囲城(ごみの都市包囲)”という痛みに遭遇している。北京市のごみは1日当たり1.84万トンで、積載量2.5トンのトラックで運べば、その隊列の長さは50kmに近く、北京の“三環路(第三環状道路)”の内側<注2>を覆い尽くすことができる。しかも、北京はごみの量が毎年8%の速度で増加している。上海市における毎日の生活ごみ排出量は2万トンに達し、16日分の生活ごみで上海第2の摩天楼“金茂大楼(Jin Mao Tower)”<高さ420.5m、88階建>1棟分を積み上げることができる。 <注2>北京の第三環状道路は、全長が約48.3kmで、内側の面積が約159平方キロメートル。 (2)中国政府「住宅・都市建設部」の統計によれば、全国の3分の1以上の都市がごみに包囲されている。全国の都市におけるごみの体積を累計すると、75万ムー(約500平方キロメートル)の土地を占領している計算になる。 大幅に不足するごみ処理能力 (3)ごみの都市包囲という現象は都市だけに限ったものではなく、今や農村にも蔓延している。全国に4万カ所ある“郷鎮(行政区分)”および60万カ所近くある“行政村(末端の行政単位)”の大部分はごみ処理施設を持っていない。これら地域で毎年排出される生活ごみは2.8億トンに上るが、「ごみは風が吹くのに任せ、汚水は蒸発するのに任せる」状態である。 (4)ごみの都市包囲は日一日と深刻さを増しているが、中国のごみ処理能力は全く不足しているのが現状である。北京市の例を挙げると、現有のごみ処理施設は設計能力の合計が1日当たり1.03万トンで、毎日8000トン以上不足している。2011年の全国657都市の生活ごみの処理率は91.7%だが、そのうち20.1%は直接積み上げあるいは簡易埋立である。2011年における全国の都市のごみ排出量を1.64億トンと計算すると、上述した657の都市だけで、未処理のまま積み上げたごみの量は5000万トンに近い数字となる。 遡って2002年の中国の関連記事を見ると、「関係資料によれば、中国の都市のごみの年間排出量は1.2億トンで、毎年8%の速度で増え、世界のごみの年間排出量の4分の1以上を占めている。全国668都市(県の都市を除く)の3分の2を占める大中都市はごみに包囲されており、長年積み上げられたごみの量は70億トンに達し、80万ムー(約533平方キロメートル)の土地を占拠している」とある。 これを上記した7月19日付の記事と比較してみると、2002年から2013年までの12年間で、3分の2だったごみに包囲された都市が3分の1に減り、ごみによって占拠されていた土地が80万ムーから75万ムーに減ったことになる。中国の統計なので、これらの数字は正直言って信用できないし、はっきり言って中国のごみ処理状況には大した改善はなされていないように思える。中国経済が過去10年間にどれだけ成長したかを考えれば、ごみの量は飛躍的に増えているはずであり、それに伴ったごみ処理施設の拡充がなされていなかった分だけ、状況は悪化したというのが正解だろう。 それはともかく、冒頭に述べた広州市花都区に建設が予定されている第5資源熱力電廠は今後どのように推移するのか。このまま獅嶺鎮前進村に建設されることになるのか、あるいは住民の反対運動を受けて新たな候補地が選定されるのか。ごみ処理場を一刻も早く建設しなければならない広州市政府は、この問題をどのように解決するのか、お手並み拝見と行こう。 このコラムについて 世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」 日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。 |