03. 2013年6月07日 10:57:32
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中国が抱く優越感と不平不満 2013年06月07日(Fri) Financial Times (2013年6月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 1773年12月16日、アメリカ大陸の愛国主義者の一団が3隻の英国船に乗り込み、数百個の荷箱をボストン湾に投げ込んで紅茶を廃棄した。後にボストンティーパーティーとして知られるようになったこの反乱は、アメリカ革命の画期的な出来事だった。この革命は茶会事件の数年後、米国が植民地支配から抜け出した時に勝利を収めた。 1839年の広東阿片パーティー(そう呼ばれたことは1度もないが)は、それほど勝ち誇った終わりは迎えなかった。清朝の欽差大臣を務めていた林則徐は、ビクトリア女王に手紙を書き、なぜ英国は中国人に「毒」を売ることにそれほど躍起になるのか尋ねた。返事が来ないと、林則徐は2万箱の阿片に火を付け、海に流すよう命じた。 英国はこれに激怒して軍艦を送り込み、中国は屈辱的な南京条約に署名することを余儀なくされた。条約によって、中国は英国政府に賠償金を支払い、5つの「条約港」を開港し、香港島を割譲した。林則徐は追放の身となった。 2つの反乱がもたらした正反対の結果 アメリカの反逆的行為が偉大な国家――そして2世紀に及ぶ楽観主義――を誕生させたのに対し、中国の反乱は、王朝の崩壊、日本の侵略、長期にわたる貧困の時代の到来を告げることになった。 歴史というものは、敗者の方により大きくのしかかるものだ。6月7日に米国のバラク・オバマ大統領と会談する中国の習近平国家主席は、1世紀半以上に及ぶ屈辱の時代に醸成されてきた国民の期待を背負っている。 同時に、中国が抱く明白な運命感は、米国のそれ以上に強い。確かに中国の方が米国より古く、半ば神話的な過去5000年間に及ぶ、途絶えることのなかった漢民族の歴史を通して広がっている。 ぐつぐつと煮え立つ不平不満が、世界の序列における自国の支配的地位に対する確信と混ざり合うと、強い酒のような強烈な力になる。だが、中国が時として国際舞台で見せる自信満々の態度とは対照的に、中国政府は多くの意味で、今ほど無防備に感じたことはない。 中国のことを、隣国をいじめたり、世界中から容赦なく資源を吸い上げたりすることを厭わない巨人と見るようになった多くの人にとっては、これは意外に思えるかもしれない。 ニューヨーク・タイムズ紙は最近、『China's Silent Army(中国の沈黙の軍隊)』の著者であるヘリベルト・アラウージョ氏とフアン・パブロ・カルデナル氏の寄稿を掲載した。このコラムは、多くの発展途上国をその勢力圏に取り込んだり、圧倒したりすることに余念がない国家を描いている。 ある中国企業は先週、スミスフィールド・フーズに47億ドルの買収案を提示し、大胆にも米国のベーコンとソーセージさえも平らげようとした。 世界の中国観と中国の世界観 だが、北京から見た景色は、こうした状況が暗示するよりはるかに不安に満ちたもののようだ。 第1に、中国にはほとんど友人がいない。中国は14の国に隣接しており、守るべき国境は2万2000キロに及ぶ。周囲を取り巻くのは、モンゴルや核武装したロシア、インド、北朝鮮など、中国と不安定な関係にある国々だ。対照的に、米国には隣接する国は2つしかなく、どちらも友好国だ。 もっと悪いことに、中国は今、自国を前進させ続けるために、かつてないほど他国に依存している。1990年代半ばまでは、中国は多かれ少なかれ自給自足できていた。今は、それがなければ猛烈なスピードの発展を維持することも、人々の高まる野心を満たすこともできない石油、銅、鉄鉱石、大豆、その他多くのコモディティー(商品)を他国に依存している。 オーストラリアの元駐中国大使ジェフ・レイビー氏は、昨年メルボルンのモナシュ大学で行った講演で次のように表現した。「中国は今、その歴史上初めて、自国経済を回し続けるために、あらゆるものを外国の市場と外国人に完全に依存している」 清朝の乾隆帝が1793年に英国王ジョージ3世の特使が持参した陶磁器をあざ笑い、中国は外国のつまらないものに用はないと断じたことを思い出すといい。 中国は、ほとんどそうと自覚することなく、ケ小平が1970年代後半に改革開放政策を打ち出した時に想像していた重商主義の大国から、今やリカルドの比較優位や国際分業の概念と深く結びついた国に変貌を遂げている。 そのため中国は、レイビー氏の言葉を借りるなら、「非常に制約の多い国」になっている。対照的に米国は最も急速な発展を遂げていた時、人間を除けば、成長するために必要な資源をすべて持っていた。そして足りない人間については、自発的に欧州から、強制的にアフリカから連れてきた。 最後に、習氏をはじめとした中国指導部は、対外問題よりも国内問題のことで頭がいっぱいだ。中国経済は、指導部が強力な利権と戦わねばならない、痛みを伴う変化を経験している。中国人がより豊かになる――あるいは周りの人たちが富を得るのを見る――につれ、彼らは単なる景気拡大に満足しなくなっているように見える。 しばしば指摘されるように、中国政府は、国防費よりも国内の治安維持費に多くの資金を使っている。 シドニーのローウィー国際政策研究所の安全保障専門家リンダ・ジェイコブソン氏は、中国の外交政策を「受け身」と評し、中国を台頭する大国と見なす世界の見方と、国内問題で頭がいっぱいの指導部との間に隔たりがあると指摘する。 強くなればなるほど不安を感じる国 国内問題が積み上がり、諸外国への依存度が高まっているにもかかわらず、明らかに中国は自国の強さを感じ始めている。習氏は、中国と米国が「新しいタイプの大国関係」を築くことを提言している。これは内気な国の提案とはほど遠い。 それでも、諸外国が中国のことを強大で無敵の存在と見なすようになっているのに対し、中国政府が抱く自己像は正反対だ。この事実は、欧州とのソーラーパネル紛争からサイバースパイ行為に対する米国からの非難に至るまで、あらゆる問題に中国がとのように対処するかに関係してくる。中国は、強くなればなるほど不安を感じるのだ。 By David Pilling 習近平よ、大きな賭けに出たのか? 首脳会談に臨む米中の思惑〜中国株式会社の研究(218) 2013年06月07日(Fri) 宮家 邦彦 本稿が掲載される頃、米カリフォルニア州で米中首脳会談が開かれる。中国メディアはその意義を盛んに宣伝するが、欧米の識者は「具体的成果は期待薄」などと概ね冷ややかだ。それでも、今回の首脳会談の結果は今後の米中関係の方向性を占ううえで極めて重要であろう。
今回は静かな保養施設で2日間、プライベートで非公式な会談も行う。成功、失敗にかかわらず、米中間の詳細なやりとりが表に出る可能性は低いだろう。されば、今回も筆者の独断と偏見により、両国首脳の思惑を勝手に想像してみたい。関連報道を読む際の参考になれば幸いである。(文中敬称略) 新型大国関係 今年3月ロシアを訪問した中国の習近平国家主席〔AFPBB News〕
今回の首脳会談のキーワードは「新型の大国間関係(新型大国关系)」だろう。しかし、その具体的内容について米中の見方は大きく異なる。 まずは、今回の会談に向けた中国側の「思い入れ」の強さを中国メディアの報道で検証してみよう。 以下は5月30日付人民日報日本版の解説記事の概要だ。いかにも中国らしい、「ジコチュウ」の塊のような情勢認識ではないか。 ●中米の新型の大国間関係という提起の仕方は、2012年2月の習副主席(当時)訪米時に遡る。・・・(その後)ヒラリー・クリントン国務長官も事実上、新型の大国間関係の構築に関する習副主席の提案に間接的に応じた。 ●これを踏まえて、胡錦濤国家主席(当時)は2012年5月3日の第4回中米戦略・経済対話で「互恵・ウィンウィンの協力を推進し、新型の大国間関係を発展」と題する開幕の挨拶をし、・・・新型の大国間関係の具体的中身を初めて明らかにした。 ●ここに至って、新型の大国間関係をいかに構築し、発展させるかが両国上層部の共通認識となり、両国関係発展の新たな目標を導くものとなった。米国の知中派の専門家は・・・(オバマ大統領が)新型の大国関係の構築という中国側の提案に前向きに応じるよう次々に提案している。 ●トム・ドニロン米大統領補佐官は(本年)3月11日に講演した際、米中による新型の大国間関係の構築について米側の構想を初めて明らかにした。・・・(習国家主席就任の際)オバマ大統領は祝電で「双方が戦略的角逐ではなく健全な競争に基づく新型の大国間関係の構築に共に努力すること」の重要性を強調した。 ●朝鮮半島情勢がにわかにエスカレートすると、米側は中国と新型の大国間関係を構築することの必要性をより差し迫って感じるようになった。ホワイトハウスは習近平主席がメキシコなど中米3カ国を近く訪問することを知ると、米国でオバマ大統領と特別な会談を持てないかと中国側に急遽打診してきた。 会談を切望したのは習近平 要するに、習近平が提起し、胡錦濤が正式に提唱した「新型大国関係」なる概念を米側が受け入れ、今回はその重要性を認識した米側からの「急な」申し入れで首脳会談が実現したというのだ。 さすが中国、芸が細かい。しかし、実際には、中国側の強い要請を米側がようやく受け入れたというのが実態のようだ。 ワシントン発の各種報道(例えば、ウォールストリート・ジャーナルの6月2日付記事)を総合すれば、習近平が米側に早期の首脳会談を打診したのは昨年12月だったらしい。当初ホワイトハウスはこれに強い難色を示したという。当時米側は習近平との初の米中首脳会談など9月のG20サミットの機会で十分、と考えていたフシがある。 昨年12月と言えば、日本も早期の日米首脳会談を申し入れていた頃だ。そう言えば、当時ホワイトハウスは1月の安倍晋三首相の訪米にも消極的だった。オバマ政権にとっては、外交よりも国内の予算強制削減問題の方がはるかに重要だったのだろう。 ちなみに、日米の場合は2月下旬に安倍訪米が実現している。 中国の一部には、米側の態度変更が「習近平の権力基盤が予想以上に早く確立したため」などと見る向きもあるが、それは違うだろう。習近平が総書記に就任したのは昨年11月。わずか1カ月後には早くも訪米を要請している。やはり、何らかの理由で習近平自身が早期訪米を強く求めたと見るべきだろう。 ちなみに、中国外交部の洪磊報道官は5月21日、首脳会談の時期について、「双方とも早期の首脳会談を望み、・・・両国首脳のスケジュールから6月初めが双方にとって都合がよかった」と述べたそうだ。こちらの方が、下手なプロパガンダよりも、はるかに正直なコメントだと思う。 米中で解釈が違う「新型大国関係」 人民日報に限らず、中国の官製メディアは、あたかも米側が中国側の提唱する「新型大国関係」を受け入れたかのごとく書いている。しかし、本当にそうなのだろうか。「新型大国関係」に関する中国と米国の説明ぶりの違いを、改めて筆者の独断と偏見で、検証してみよう。 中国メディアは、「新型大国関係」につき胡錦濤が昨年5月3日に、「思考の革新、相互信頼、平等と相互理解、積極的行動、厚い友情の形成」という5つの構想を提唱したと報じている。恐らく中国が最も訴えたいことは、「思考の革新」、すなわち米側が「対中思考を根本的に変える」ことではなかろうか。より具体的には、 ●中国はもう小国ではなく、米国は中国を「大国」として取り扱うべし ●米国は「リバランス」という名の「対中包囲網」作りを即刻止めるべし ●米国の力の衰退は明らかであり、米国は「大国」である中国と、対立ではなく、共存する道を選ぶべし ●米国はこうした中国の「大国」としての権益を東アジア地域において認めるべし ●その権益の中には、当然ながら、政治、経済、軍事、領域的権益が含まれるべし これに対し、米側の認識はちょっと違う。人民日報は、2013年3月11日、アジア・ソサエティにおける講演でドニロン米大統領補佐官が「新型大国関係」に関する米側の考え方を示したというが、同講演の中でドニロンは中国側が主張するほど明確に言及しているわけではない。 同補佐官が述べたのは、「既存勢力と新興勢力の間の関係について新たなモデルを作るという目標を米中首脳は承認した(…to build a new model of relations between an existing power and an emerging one. Xi Jinping and President Obama have both endorsed this goal.)」ということだけだ。 要するに、通常は新しいパワーが台頭する際、既存のパワーに対する挑戦が始まり、両者間で対立・紛争が生ずるものだが、中国は間違ってもそのようなチャレンジを行わず、既存の国際秩序を尊重するような「新しいモデル」になってほしい、ということ。これが米側の理解する「新型大国関係」である。 そもそも米国には中国を「封じ込める」野心などない。 米国の関心はあくまで太平洋における海洋覇権の維持。万一、新興勢力たる中国が「新しいモデル」とならず、西太平洋における米国の既存の海洋権益に挑戦すれば、米国は決してこれを容赦はしない。米国の本音は、「習近平さん、勘違いしないでくれ」ということだ。 首脳会談を急いだ理由は何か 最近米側が懸念を深めているのは中国側、特に人民解放軍による対米サイバー攻撃だ。以前からこの問題は関係者の間で内々指摘されてきたが、最近米側はついにオンレコで「対中懸念」を表明するようになった。さすがの米国もこれまでの中国側の不誠実な対応に業を煮やしたのだろう。 米国(ワシントン・ポストなど)からの報道が正しければ、中国側が不正に入手した情報はいずれも東アジアに前方展開する米軍の最新鋭武器システムに関するものばかり。こうした事態は、米国の対中抑止力を大幅に減じかねず、日本にとっても極めて深刻であることは間違いない。 いずれにせよ、今回の首脳会談で米側が中国の主張するような「新型大国関係」を認める可能性は限りなく低い。サイバー攻撃だけでなく、北朝鮮の核開発、東アジアの領土問題、米中貿易摩擦、人権・民主化など米中間の懸案は山積みであり、どれ1つとして簡単に妥協できるものはないからだ。 こう考えれば、今回習近平が外交上の成果・得点を狙って早期訪米を仕掛けたとは考えにくい。中国に最も同情的な米国人識者でも、今回大きな進展を予測する向きは少ない。せめて両首脳が個人的に親しくなり、より率直に話し合えるようになればいい、ぐらいにしか考えていないだろう。 そうだとすれば、中国側のこの「前のめり」感には国内政治上の理由があるのかもしれない。要するに、昨年11月に成立したものの、新体制の政治的権威は必ずしも確立しておらず、習近平は焦っている。 国務長官がジョン・ケリー(左)に代わって中国はチャンスと判断?(写真は2013年4月北京での会談)〔AFPBB News〕
だからこそ、対米関係をトップレベルで一気に改善しようと一種の賭けに出たのではないか、ということだ。 オバマ政権1期目の対中関係は最悪だったが、幸い、中国に厳しかったクリントン国務長官が政権を去り、中国としては御しやすいジョン・ケリー国務長官に代わった。 今こそ、米国の対中外交を一気に転換させる絶好のチャンスではないか。党中央政策研究室の王滬寧あたりがそう考えたのかもしれない。 いかにも中国人らしい考え方だが、この戦術が成功するためにはいくつか条件がある。 それはオバマと個人的に親しくなるだけではなく、習近平が、(1)オバマと取引のできる相手であること、(2)人民解放軍などを十分コントロールできること、(3)西太平洋における米国の海洋権益にチャレンジするつもりがないことなどを具体的に説明し、オバマを納得させることだ。 上記(1)の可能性はゼロではない。しかし、習近平は(2)と(3)をオバマに明言できるだけの政治的権威を確立しているだろうか。筆者は疑問に思う。 焦点は、今回の非公式な雰囲気の中で習近平とオバマがこれらの点についてどこまで踏み込んで話すかだ。米中首脳会談関連報道ではこの点に注目したい。 「狼少年」と言われるかもしれないが、筆者が最も恐れているのは将来の「第2次太平洋戦争」である。少なくとも、このまま行けば、その可能性は否定できないだろう。 中国の「新型大国関係」なる主張は、残念ながら、米国の西太平洋における権益の一部を放棄せよと言っているに等しいと思うからだ。 現在の中国には80年前の日本のイメージがどうしても重なる。もちろん、当時の日本と今の中国は同じではない。しかし、西太平洋における米国の海洋覇権に挑戦するという点で対立の基本構造は大して変わらない。 今回の米中首脳会談がこのような不幸な流れを変える転換点となることを期待したい。 |