01. 2013年5月08日 03:37:57
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ネズミ肉のシシカバブは都市伝説ではなかったいまの中国の食費安全を考える 2013年5月8日(水) 福島 香織 北京では鳥インフルエンザのせいで北京の鶏肉や卵の値段がずいぶん下がっていた。加工肉で鳥インフルエンザに感染する例はないと聞くが、それでも敬遠されるようだ。 豚肉の価格も下降ぎみだ。病死豚肉が違法流通している状況が最近発覚していることも影響しているといわれている。今年3月に長江下流域で1万6000頭の豚の死骸がぷかぷか流れていた事件があったが、あれも豚の病死と病死豚肉の流通問題が背後にあると言われている。今回は最近、中国でいくつか発覚している「危険食品」問題を紹介したい。 「四足は机以外食べる」という広東人でもビックリ 5月上旬に一部中国メディアで報道され、強い関心を呼んだのが、福建省漳州市南靖県で地元鎮政府から「病死豚の無公害化処理」業務を請け負った業者3人が実は病死豚肉の流通に加担していたことが発覚した事件だった。この3人はわずか3カ月の間に40トンの病死豚肉を広東省や湖南省地域に流通させ、約300万元相当の売り上げを得ていたという。 3月に地元警察が「タレコミ」をもとに地元鎮政府の冷凍車を抜き打ち検査すると、確かに病死豚肉7トンが押収され、冷凍車に乗っていた運転手と3人の業者を逮捕した。また3人が借りていた冷凍倉庫からも約32トン相当の病死豚が押収された。 地元動物検疫当局によると、この倉庫内の豚肉からは俗称「青耳病」(豚繁殖・呼吸障害症候群)と偽狂犬病(オーエスキー病)のウイルスが検出された。青耳病は「豚のSARS」と言われ、空気感染し、感染力が非常に強く致死性も高い。偽狂犬病は豚の唾液や鼻汁などの直接、間接接触で感染が広がり、豚がかかると脳軟化など神経障害を起こす。 逮捕された3人は鎮内の各村で病死の豚の検死を行い、その死骸を安全に処理する仕事を請け負っていたが昨年8、9月ごろから、病死豚の肉を横流しで売り始めたところ、よく売れたため、今年1月から本格的に倉庫を借りて、病死豚専門に大量販売を行うようになったという。 3人は、路上に捨てられている病死豚を拾い集めたり、農家から病死の豚を1斤(約500グラム)あたり0.1元から0.8元程度の安価で買ったりして、人を雇って解体、20キロずつ袋詰めにして、販売していた。これの流通先はまだ調査中だが、広東や湖南の食肉業者に転売され、最終的には食卓に並んでいる可能性もあるという。逮捕者はさらに増える見込みだ。 もう1つ、最近世の話題となったのは偽羊肉だ。路上の屋台で売られているシシカバブがネコやネズミの肉などを羊の油に付け込んだ偽羊肉が使われていることは「都市伝説」として語られてきたことだが、それはまぎれもない事実だった。上海紙「解放日報」が公安当局の摘発した食品安全犯罪として報じた。 それによると、偽羊肉にはキツネやタヌキ、カワウソ、果てはネスミなどまで含まれていたことがDNA検査で判明。ネコ肉は、中国の南部では薬膳料理として普通に食されているが、さすがにドブネズミの肉まで使用されていたとあっては、「四足は机以外食べる」といわれた広東人ですら、驚愕だろう。 有名レストランチェーンでも流通 この偽羊肉は江蘇省無錫の警察当局が「タレコミ」をもとに卸売市場にがさ入れしたところ、発覚した。これら肉は上海の農産物市場にもすでに流入しているという。 卸売市場で押収された11トンの偽羊肉はニュージーランド産ラム肉加工品(シシカバブ)などとして、定価の半額から8割引きの1斤7元前後で売られていた。この商品を取り扱っていた業者は山東省陽信の業者から仕入れたという。 流通記録などによれば、これらの肉が羊肉火鍋屋チェーン「小肥羊」や「澳門豆撈」といった有名火鍋レストランチェーンにも流入している可能性が疑われているとか。卸売市場関係者によれば、こういう偽羊肉が売られていることは、業界内ではいわば公然の秘密だという。「そもそも高級な羊肉がこの値段で売られているわけがない」という。 今年に入って発覚した十大食肉流通犯罪というのが、メディアで挙げられている。先に述べた2件以外に以下のものがある。 ・内モンゴルで大腸菌に汚染された偽ビーフジャーキー14トン以上を押収 ・違法添加物入りの貴州省貴陽の「鳳爪(鶏の爪)」製造拠点を摘発 ・食品に使用を禁じている工業用松脂を使って脱毛処理した豚の頭を原料に豚肉加工品を製造していた江蘇省鎮江市の闇工場摘発 ・農薬の混じった飼料を食べて死んだ羊を調理して販売、多くの中毒者を出し1人を死亡させた陝西省鳳翔の事件 ・遼寧省瀋陽市の病死鶏2万羽を加工、販売し、市場やレストランに販売 ・四川省自貢市の水増し豚(解体する前に大量の水を飲まして肉の重量を増した豚)加工拠点を摘発 ・安徽省宿州の病死豚肉を加工し20トン以上を売りさばいていたヤミ工場を摘発 公安部によればこうした有毒食肉製造、販売拠点の摘発は382件に上り、押収した問題肉は2万トン以上、逮捕者は904人に上るという。 北京人の間で最近、神経をとがらせるようになったのは、山東省濰坊市産の「劇毒生姜」である。CCTVの人気番組「焦点訪談」が最近報じたのだが、山東省濰坊市で生姜農家が使っている「神農丹」(成分・アルジカルブ)と呼ばれる農薬(殺虫剤)は、50ミリグラムで体重50キロの人間が死ぬほどの劇薬であり、中国農業部はこれを綿花やタバコ、バラ、落花生やサツマイモなどに使用することを認めているが、生食の野菜には認めていない。 ところが報道によれば、山東省濰坊市ではこれを使って生姜を栽培しており、畑には「神農丹」の青い袋が普通に捨てられているという。しかも、使用規定を完全に無視しているとも。 たとえばサツマイモに使うときは最低でも収穫までの安全期間として150日を開けなければならないが、この生姜栽培では最後に神農丹をまいてから60日前後で収穫しているので、かなり農薬が残留していると見られている。しかも、栽培農家は自分たちでは絶対、これら神農丹使用の生姜を食べないという。さらに言えば、中国農業大学の専門家はCCTV番組中で、神農丹の乱用が地下水を汚染する可能性を指摘している。 今のところ北京では、この濰坊産の農薬汚染生姜は見つかっていないが、北京市で売られている野菜は山東省産が多いだけに、「意識の高い都市民」は少々、山東省産生姜に敏感になっている。 このように食品衛生安全違反の事件は、中国でかなり頻繁に報道されるようになった。特に、日本でも大きく報道された2008年のメラミン汚染粉ミルク事件の初期の隠ぺいによって、健康被害乳児が30万人以上に拡大してしまった後は、食品安全監督が地元政府官僚の「政治成績」と関わるようになってきたので、タレコミやメディアによる潜入取材と暴露が多くなっている。 奇形の魚も気にしない貧しい農村 だが実際のところ、庶民の食品に対する安全意識はどうなのだろう。間違いなく北京や上海など大都市市民の意識は日本人並みに敏感になっている。しかし、少し農村に行くと感覚はかなり違ってくる。 最近、河南省の淮河沿いの村に、水質汚染の改善の取り組み状況を調べに入ったとき、ぎょっとしたことがあった。淮河汚染は1990年代から2010年ごろまできわめて深刻な状況だったが、地元NGOの取り組みで、見た目はかなり改善されていた。 だが、流れの緩やかな中国の河は、汚染された泥が長らく河底にたまったままなので、そこに住む魚への影響は長く続いていると言われている。このため、今も地元漁民が獲る魚の中にはしばしば奇形の魚が混じっている。実際、路上で売られている魚を見ると、骨の曲がった魚や胴の短い魚が混じっているのだが、日本人なら気味悪がって口にしたくないと思うであろうそういう魚を売る方も買う方も、意外に気にしていないのだ。 目の前で地元農民が奇形魚も一緒に袋に入れているのを見て、「その魚は奇形だよ」と声をかけても「まあ、構わないよ」という。 同じような光景は、実は各地でしばしば見かけられ、たとえば何かの拍子に、たまに脚が四本生えているようなひよこが生まれても、鼻が2つの豚が生まれても、それを捨てることはまずなく、生きていれば「珍しい!」と見世物にするし、死ねば普通に食用にする。獣医も「奇形動物であっても、食用には問題ない」とメディアでコメントしている。 病死豚も同じ感覚で、今でこそ当局が危険だと警告するようになったが、10年くらい前は、普通に食べられていた。貧しい農村では今でも、日常に肉を食べる機会はそう多くなく、病死の豚を肉として売れないからといって捨てるのは、やはりもったいないので食べるのだ。農村の子供たちなどは、「今日は豚が病気で死んだから、お肉が食べられる」などとうれしそうに言ったりしていた。 そういう感覚だから、病死豚を黙って偽って販売しても、実はさほど罪の意識はなかったりする。ある農民が地元メディアにこう語っていたのが印象深い。「都市民は痩肉精(肉を赤く見せるために飼料に加える違法添加物、残留薬物が肉を食べた人の健康を害することがある)を使った豚を食べて、具合が悪くなったところで、医療が充実しているので問題ないだろう」。 なるほど、それが「貧しさ」ということなのか、とその時思ったものだ。そして、そういう貧しさは今でも、地方を旅すると、あまり変わっていないと実感する。 都市生活者さえ良ければ問題にならない 中国には今でも安全な食品と安全でない食品がともに流通している。だが、北京など大都会の中流以上の市民が日常に口にするものの中に混じることはあまりない。 病死豚肉も偽羊肉も、残飯リサイクル油も、中国産米の1割を占めると推計されている土壌汚染による「カドミウム米」も、主にどこで消費されているかというと、地方小都市の工場や学校・施設の食堂や路上の売店、そして農村などだと言われている。たまに、大都市にヤミで販売されるルートが摘発されると事件になるが、地方小都市・農村部の食品安全はいまだにあまり顧みられていない。 これは環境汚染や公害の問題とも共通するのだが結局、意識が高くなったように見えて、要は汚染されたものが都市生活者のところへ入ってきてほしくない、というレベルでとどまっている。結果、汚いもの、汚染されたものは農村や地方にとどめて、都市に一番安全なものが集められる。野菜も肉も地方の農村が支えているというのに。 日本では、週刊文春の中国の食品安全問題の連続特集がすごく売れているそうだ。知り合いの編集者によれば「日本人の中国の食品安全問題は依然関心高い」。そういえば私の書いた単行本の中でも、中国の食品安全問題をクローズアップした『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版社刊)が一番売れた。 でも、冷静に考えると中国で最も値段が高く安全なものが日本に輸出されているのだから、さほどピリピリすることもないだろう。むしろ日本人の食品安全の意識や技術をもって中国の食品をより安全にする方法、都市と農村の安全意識格差の埋める手助けとなる方法を考えた方が建設的じゃないかと思うのである。 中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス
新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。 |