02. 2013年4月23日 19:11:49
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財部誠一の「ビジネス立体思考」 鳥インフルエンザよりも恐ろしい“豚死事件”の真相と中国社会の闇2013年04月23日 コメント(0件) 中国で鳥インフルエンザ(H7N9型)の感染が拡大している。3月31日に世界で初めて人に感染したと中国政府が発表してから3週間。死者は20人、感染者の数はついに100人を超えた。パンデミック(感染の世界的大流行)のリスクが現実のものになりつつある。 さぞや中国では鳥インフルエンザの恐怖が広がっているのではないかと思っていたが、中国滞在期間が30年を超える知人の日本人ビジネスパーソンは、上海人が本当に恐れているのは「鳥」ではなく「豚」だと話す。 「鳥インフルエンザによる死亡者の急増も怖いけれど、大量の豚の死体が川に流された事件の方がはるかに恐ろしい」 Next:上海市民を不安に陥れたヒ素混入疑惑 3月中旬、上海市を流れる黄浦江の上流で5000匹の豚の死体が発見されたと中国メディアが報じた。それだけでも驚きだが、その数日後、上海市当局が「1万3000匹の豚の死体を黄浦江から回収した」と公表した。上海より上流にある自治体でも相当数の死体が回収されており、豚の死体は「数万匹」規模に達しているだろうといわれている。死体の出所は養豚業が盛んな浙江省嘉興市だった。 「当局は死因を凍死と公表しましたが、上海の人たちは誰もそんな説明を信用していない。昨年、ケンタッキーの鳥納入業者が速成鶏(薬を加えて成長を無理やり促進した鶏)を出荷したとして処分されたが、養豚業者も同じ手口をやっているに違いないと考えている」 上海在住の日本人ビジネスパーソンが口にしたのはなんと「ヒ素の噂」だ。 「豚は成長時に少しのヒ素を加えると、わずか3カ月で丸々と成長し、肉の色艶も良く、出荷し頃になるという。春節時の宴会用として大きな需要を見込んでいた豚飼育業者は、例年通りヒ素を加えて大量の豚を飼育していたが、政府が節約令を出したために、宴席が急減。屠殺処分もできずに飼育を続けていたところ、ヒ素の毒が回り豚の大量死につながったという噂が上海で広がっている」 通常なら3カ月で屠殺処分するため、豚へのヒ素注入が世の中に知られずじまいだが、政府の節約令がきっかけとなり、思わぬカタチで露見したという噂でもちきりだという。 消えた闇の流通網 とんでもない噂で、にわかには信じがたいが、豚の成長にヒ素を使う話は過去にも聞いたことがあり「ただの噂」と聞き流せない恐ろしさがある。 実は数万匹の豚の死体が流された事件には伏線があった。なんと昨年11月、浙江省嘉興市で死んだ豚を流通させる悪徳業者が摘発された。2009年1月から2011年11月までの間に、違法な食肉処理場で7.7万匹の死んだ豚を処理して販売したというのだ。関係者は一網打尽され、一審で主犯格の3人を無期懲役、10人を5〜12年の懲役、残る4人を1年6カ月〜3年6カ月の懲役に処すという判決が下されている。 だから今年3月、浙江省嘉興市で豚が大量死した時、これまでなら闇の流通網で死んだ豚を売りさばいていたが、それができず、やむなく黄浦江に投棄したというわけだ。 上海市民の間にも広まるヒ素疑惑を受け、中国農業省は「上海市獣医飼料検査所が黄浦江および上流水域で回収された豚の死骸の組織サンプル30点を採取し、ヒ素検査を行ったが、ヒ素は検出されなかった」と発表した。浙江省嘉興市の当局関係者は、大量の豚が死亡した原因は「凍死である」との見解を表明しているが、それを真に受けている上海人はいない。 Next:次元の違う危うさを抱え込んだ中国社会 これまで中国における格差問題の核心は再開発利権に取りつかれた地方の役人の悪逆非道な振る舞いだった。地方の農民たちの土地や住居を二束三文で強制収容し、開発業者と結託して大儲けする構図だ。こうした格差への怨嗟は、今回の騒動で、低所得層だけでなく、中間所得層にまで広がってきていると見る向きもある。 上海などの中間所得層は政府への不満はあっても、これまでは不動産や株の値上がりでごまかすことができた。だが、もはや八方塞がり。輸入も輸出も伸びず、巨額の公共投資で内需を喚起する余裕もない。件の上海在住のビジネスパーソンも「中間所得層の不満のエネルギーは天安門事件当時に匹敵するものがあるのではないか」という。 中国で第2の天安門事件が起こるとは思えない。そこに至るはるか手前で、そうした動きは制圧されてしまうからだ。だが「鳥」や「豚」を巡るでたらめ千万な事件が食への恐怖を増幅させ、格差の矛盾が中間所得層にまで広がってきた。中国社会はこれまでとは次元の違う危うさを抱え込んだように思えてならない。 ■変更履歴 1p1段落目で「死者の数はついに100人を超えた」としていましたが,「死者は20人、感染者の数はついに100人を超えた」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2013/04/23 16:10] 財部誠一(たからべ・せいいち) 1980年、慶應義塾大学を卒業し野村證券入社。出版社勤務を経て、1986年からフリーランスジャーナリスト。1995年、経済政策シンクタンク「ハーベイロード・ジャパン」設立。金融、経済誌に多く寄稿し、気鋭のジャーナリストとして活躍。テレビ朝日系の『報道ステーション』、BS日テレ『財部ビジネス研究所』などに出演。近著に『メイド・イン・ジャパン消滅! 世界で戦える「製造業」をどう守るか』(朝日新聞出版)がある。 財部誠一のホームページはこちら。 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20130423/348561/?ST=business&P=4 |