06. 2013年4月18日 09:32:08
: xEBOc6ttRg
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37614 [映画の中の世界]テロリストと中国に撹乱される世界 ボストン・マラソン、鳥インフル、PM2.5・・・ 2013年04月18日(Thu) 竹野 敏貴 4月15日、117回目を迎えた歴史あるボストン・マラソンのゴール近くで2度にわたり爆発が起きた。文化的雰囲気漂う街ボストンで事件が起きた衝撃は大きく、米国人以外も数多く詰めかける場で不特定多数がターゲットになったという事実も重いものだ。 新しいステージに入ったテロとの戦い ボストン・マラソンでの爆発に動揺する参加者〔AFPBB News〕
9.11同時多発テロ以来の米国での爆破テロ事件の標的となったのが、スポーツ大会という警備の比較的甘いソフトターゲットだったことは、世界中の人々の生活を攪乱し続けるテロとの戦いが新たなるステージに入ったことを感じさせる。 2005年、ロンドンで3度目のオリンピックが開催されることが決まった翌日発生した同時爆弾テロでは、50人あまりが死亡。それから7年間、警備を最重要課題として準備が進められていったロンドン・オリンピックが無事終わってから1年も経たないうちの惨事である。 国際マラソン大会がテロのターゲットとなり得るとの指摘は以前からあり、英国で物議をかもしたブラックコメディ映画『フォー・ライオンズ』(2010/日本未公開)の中でも、主人公たちがロンドン・マラソンを自爆テロのターゲットとしていた。 「グランブルー」で知られるリュック・ベッソン監督の長編第1作は、環境汚染で変わり果てたディストピア世界が舞台 スポーツの国際大会で、テロというものを最初に認識させたのは、1972年9月のミュンヘン・オリンピックだった。 開放的な大会づくりに努め、警備を最小限にとどめたことが災いし、パレスチナゲリラ「ブラック・セプテンバー」のメンバー8人がフェンスを乗り越え選手村に侵入。イスラエル選手団2人を殺害、イスラエルに収監されている200人あまりのパレスチナ人釈放を要求し、9人を人質として立てこもった。 そして、人質と共にカイロへと飛びたたんと航空機へと向かう空港で銃撃戦となり、人質全員とテロリスト5人が死亡したのだった。 かつて悲劇に見舞われた地ドイツで行われる「平和の祭典」に参加したはずのイスラエル人が、一転、再度の惨劇の主人公となってしまったのである。この事件の様子は、日本から市川崑監督も参加したミュンヘン・オリンピックの記録映画『時よとまれ君は美しい』(1973)の中でも見ることができる。 イスラエル政府はすぐさま報復に出、首謀者のパレスチナ人11人の暗殺を計画した。そんなスティーブン・スピルバーグ監督作『ミュンヘン』(2005)にも描かれた情報機関モサドの行為が今度はパレスチナ人の怒りを買うという悪循環に陥り、パレスチナ問題は泥沼化していった。 1977年3月、そのブラック・セプテンバーが満員のアメリカンフットボール競技場を襲おうとするフィクション『ブラック・サンデー』(1977)が米国で公開された。それは、空からの襲撃という、4半世紀後の近未来を予見するものでもあった。 ちょうど同じ頃、日本公開となっていた米国映画『パニック・イン・スタジアム』(1976)でも、同様にアメリカンフットボール競技場がパニックに陥る。しかし、こちらで犯行に及んだのは政治的意図を持つテロリストではなく、米国ではたびたび遭遇するような銃乱射男だった。 どちらのケースも経験が極めて少ない日本だが、東京は2020年のオリンピック開催地に立候補している。9.11以来、セキュリティは開催国最大の責務と言ってもいいものとなっているから、もし、開催が決まれば、街角に警官が増え、監視カメラだらけになることは覚悟せねばならないだろう。 中国で発生、拡大し続ける鳥インフルエンザの脅威 感染が広がる上海〔AFPBB News〕
そして、その費用も莫大なものとなってしまうはずだ。それでも、マラソンコースともなれば、40キロにも及ぶコース周辺をもらさず警備することなどとてもできないから、今回のような事件が起こるリスクは抱えたままとなるのである。 今回の事件は、アルカイダ系か極右の犯行との推測はあるものの、いまだ犯人も動機もはっきりしないが(日本時間17日午前の時点)、米国国内、そして国境の警備がより厳しくなっていくことは間違いないだろう。 いま、同様に、いや、それにも増して、国境で神経質とならざるを得なくなりつつあるのが、鳥インフルエンザウイルス(H7N9)の侵入である。 中国での死者数は16人を数え、上海やその近隣地域のみならず、北京でも患者が発生し始めている現状に、4年前の新型インフルパニックの悪夢が頭をよぎった人も少なくないはずだ。 危険人物の入国阻止なら、(誤認は多発するとしても)水際作戦にはそれなりの効果がある。しかし、細菌やウイルスともなると、その侵入を止めることは極めて難しい。密輸というものは絶対になくならないし、罪の意識もなく「おみやげ」として異国から生物をこっそり持ち込む者も少なくない。 持ち込む意思がなくとも、荷物などにまぎれて入り込むこともあり得る。航空機は細菌・ウイルスなどの長距離移動のよき乗り物となっているのである。そして、それが何とかクリアできたとしても、国境での検疫など不可能な「侵入者」渡り鳥が運んできてしまうのである。 中国から飛来するものとして、もう1つ忘れてはならないのが黄砂だ。その発生地は、タクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原の日本の国土の5倍にも及ぶ地域で、そのうち、タクラマカン砂漠からのものは、一年中、数千メートルの上空を西風に乗って飛び、「バックグラウンド黄砂」と呼ばれる。 そのほかの地域でも発生する春先ともなると、総量は激増することになる。ほかにも、サハラ砂漠から北米・南米へと運ばれていくものも多い。 この黄砂、直径は0.1マイクロメートルから10マイクロメートル程度で、普通考える「砂」より随分と小さなものだ。しかし、それより十分に小さな細菌、さらに小さなウイルスなどは、黄砂に乗っかるかたちで、数千メートルの上空を漂っているという。 このあたりについては、日経サイエンス2013年5月号に詳しい。ウイルスや細菌は、航空機時代到来のずっと前から、空の旅を楽しんでいたというのである。 中国から飛来するPM2.5、コンピューターウイルス タクラマカン砂漠 さらに小型で直径2.5マイクロメートル以下という汚染物質PM2.5が中国で激増し、その健康への影響が懸念されているが、日本でも増加していることから、中国からの飛来が問題となっている。 1980年代あたりまで、大気汚染は世界的に社会問題との認識が強く、「最後の脱出」「赤ちゃんよ永遠に」「最後の戦い」といった汚染による人類の暗い近未来を描いたディストピア映画も量産されていたのだが、21世紀の世となり、先進国ではそんな意識は薄れ切っていた。 しかし、そうした汚染物質やウイルスなどのいくばくかが日本へと運ばれてきているとの話を聞けば、もはや他人事では済まされなくなる。国際政治の攪乱因子化している中国だが、空では国境紛争など全く無意味なのである。 そんな中国のPM2.5の多くは石炭燃焼により発生したものであるという。今の世の大気汚染ばかりか、地球温暖化という地球規模の近未来にまで暗い影を落とす問題でもあるのだ。 ついでに言えば、乗り物も風も必要としないコンピューターウイルスまでもが、国境など関係なくやって来ているが、そうしたサイバーテロの発信源としても中国はやはり多い。 21世紀に入ってからも、津波、大地震、大洪水、大干ばつ、大型ハリケーン・・・と次々と天災にさらされ、人類は大自然の前に実に無力であることを露呈し続けている。 ウイルスや細菌との戦いにも決して楽に勝たせてもらっていない。放射性物質という厄介な相手ともうまくいっていない。 「地球のいま」を映し出す壮大なドキュメンタリー『アース』(2007)は、絶滅危惧種、地球温暖化などの問題を提示しながら、人類こそが地球環境の大きな攪乱因子であることを示している。 人類は、地球とどう折り合いをつけていくかという点では、明らかに従属的立場にいることを再認識する謙虚さが、いま、求められているのである。 (本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号) (691) (再)フォー・ライオンズ (709) 時よとまれ君は美しい (481) (再)ミュンヘン (305) (再)ブラック・サンデー (710) パニック・イン・スタジアム (711) アース (再)691.フォー・ライオンズ Four Lions 2010年英国映画(日本未公開) フォー・ライオンズ (監督)クリス・モリス (出演)イズ・アーメド、ナイジェル・リンゼイ これは自爆テロリストとなることを望む英国の若者たちの物語である。 その4人の若者たちのなかには西洋文明に批判的な生粋のイスラム教徒もいれば、改宗したばかりの白人もいる。 さらに1人を加え、パキスタンにあるテロリストトレーニングキャンプに加わり訓練を続ける若者たち。 そして、ついに自爆のターゲットを決めることになった若者たちだったが・・・。 自爆テロに走る若者たちの姿をシニカルに描くタブーとも言えるブラックコメディは公開当初、上映中止を求める声もあった。しかし映画はヒットを記録。作品そのものの評価も概ね良好である。 709.時よとまれ君は美しい ミュンヘンの17日 Visions of eight 1973年米国・西独映画 時よとまれ君は美しい (監督)ユーリー・オゼロフ、マイ・ゼッタリング、アーサー・ペン、ミヒャエル・フレガール、市川崑、ミロシュ・フォアマン、クロード・ルルーシュ、ジョン・シュレシンジャー 『犬神家の一族』(1976)の市川崑は100メートルを映し出し、『男と女』(1966)のクロード・ルルーシュは敗者を描いた。そして、『真夜中のカーボーイ』(1969)のジョン・シュレシンジャーはパレスチナゲリラによるテロ事件を綴り・・・。 世界の一流監督8人の目を通して映し出されるミュンヘン・オリンピックの17日間。その視線の違いが魅力的だ。 (再)481.ミュンヘン Munich 2005年米国映画 ミュンヘン (監督)スティーブン・スピルバーグ (出演)エリック・バナ、ダニエル・クレイグ ミュンヘン・オリンピック開催中、選手村に侵入したパレスチナゲリラ「黒い9月」がイスラエル選手などを人質に立てもった。しかし、人質は全員殺されてしまい、その報復のため、イスラエル政府は首謀者のパレスチナ人11人の暗殺を計画する。 暗殺を命じられたモサドの工作員も初めは大義に動かされていたが、徐々に作戦に疑問を持つようになり・・・。 イスラエルに収監されている200人余りのパレスチナ人釈放を要求し選手村に立てこもった「黒い9月」のテロリストたちと対峙したのが、実は、ドイツの複雑な法律のためもあって、プロの救出部隊ではなく普通の警察官だったことが今では判明している。 (再)305.ブラック・サンデー Black Sunday 1977年米国映画 ブラック・サンデー (監督)ジョン・フランケンハイマー (出演)ロバート・ショウ、ブルース・ダーン (音楽)ジョン・ウィリアムス (原作)トマス・ハリス ベトナム戦争のPTSDに悩む男がパレスチナゲリラ「ブラック・セプテンバー」と組みスーパーボール会場で飛行船によるテロを仕かける。 そこに立ちはだかるのが、イスラエル諜報特務局モサドの精鋭である主人公。そのスーパーマンぶりは見ものだ。 同時期、一世を風靡していた『スター・ウォーズ』(1977)でも音楽を担当していたジョン・ウィリアムスのスコアが実に効果的で、重い流れになりがちな題材を娯楽要素たっぷりに描いた佳作に仕上がっている。 日本公開直前、過激派から入ったテロの脅迫に屈し上映中止となってしまった曰く付きの作品だが、その時、代替上映作品に苦慮した映画館が選んだのは『宇宙戦艦ヤマト』(1977)だった。 2011年、ようやく劇場公開された。 710.パニック・イン・スタジアム Two-minutes warning 1976年米国映画 パニック・イン・スタジアム (監督)ラリー・ピアース (出演)チャールトン・ヘストン、ジョン・カサベテス、マーティン・バルサム フットボールのチャンピオンシップが行われる日曜日のロサンゼルス。 ホテルの一室からライフルの一撃で市民を撃ち殺した男が、満員の観衆に沸くスタジアムへと向かう。 スタジアムでは試合中継のためテレビカメラが数多く据えられる。そして、スコアボード裏に潜むライフルの男の姿を捉える。 警察へと通報され、SWATがスタジアムへと向かうが・・・。 1970年代のパニック映画ブームの中、『大地震』(1974)『エアポート'75』(1974)などで、強い男を演じ人気だったチャールトン・ヘストン主演の一作である。 711.アース Earth 2007年ドイツ・英国映画 アース (監督)アラウテア・フォザーギル、マーク・リンフィールド 氷山が解け、海面上昇の続く北極で絶滅が危惧されているホッキョクグマの姿に始まり、北極から南極に至るまで南下しながら、季節と場所により様々な姿を見せる生物の姿を映し出す。 BBCが5年間にわたり世界200カ所以上で撮影してきた地球の姿を、ベルリン・フィルの演奏に乗せて見せるドキュメンタリー作品である。 ©2008-2013 Japan Business Press Co.,Ltd. All Rights Reserved.
|