09. 2013年4月04日 12:16:42
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中国経済が転倒しかねない理由 日本も経験した減速、低成長モデルへの移行を管理できるか2013年04月04日(Thu) Financial Times (2013年4月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 今後10年間で中国の経済成長は鈍化する。恐らく急減速するだろう――。これは意地の悪い部外者の見解ではない。中国政府自身の見解である。問題は、この成長の鈍化がスムーズに進むのか、それとも急激になされるのか、だ。その答えは、中国自身の将来のみならず、世界の大部分の将来をも左右する。 中国の公式見解が公表されたのは、中国国務院発展研究センター(DRC)が影響力のある外国人と中国政府高官を一堂に会して先月開催した中国開発フォーラムでのことだった。ここで配布された背景説明書の1つに、DRCのエコノミストたちによる論文「今後10年間の見通し:潜在成長率の低下と新たな成長局面の始まり」が含まれていたのだ。 これによると、2000年から2010年にかけて年10%を超えていた中国の経済成長率は、2018年から2022年にかけては年6.5%にとどまる。この成長の減速は、2010年第2四半期以降の成長率低下とも符合するという。 「中所得国の罠」か「自然着陸」か 中国の政府自身が大幅な成長減速を予想している(写真は上海のビジネス街)〔AFPBB News〕
論文では、この減速の理由は2つ考えられるとしている。具体的には、中国が「中所得国の罠」という産業発展の中断状態に陥っているか、先進国に追いつき始める時に生じる「ナチュラルランディング(自然着陸)」に対処しているかのどちらかだという。 後者のシナリオは、1970年代の日本と1990年代の韓国で実現している。10%の経済成長を35年間続けてきた中国にも、ついにその時がやってきたというわけだ。 成長鈍化の見立てが正しそうだと論文の執筆者たちが考える理由は以下の通りだ。第1に、インフラ投資の潜在的な可能性は「著しく低下」している。中国の固定資産投資に占めるインフラ投資の割合は、過去10年間で30%から20%に縮小した。 第2に、資産のリターンが低下し、過剰設備が増大している。限界資本係数(ICOR)――1単位の投資がどの程度の経済成長をもたらすかという尺度――は2011年に4.6という1992年以降で最も高い水準に達したが、現在では同じ1単位の投資をしてもこれほどの成長は実現しなくなっている。 第3に、労働供給の伸び率が急速に低下している。第4に、都市化はまだ進行中だが、そのペースは鈍化している。第5に、地方政府の財政や不動産分野でリスクが増大している。 これだけの理由が揃った以上、低成長への移行は始まったと考えてよい、と論文の執筆者たちは考えており、今後の見通しを経済モデルを使ってより厳格に分析している。そこで得られた結果のうち最も人目を引くのは、長らく続いたトレンドの転換だ。 中国では2011年、国内総生産(GDP)に占める投資(固定資本形成)の割合が49%にまで高まったが、2022年にはこれが42%に低下すると予想されている。一方、GDPに占める消費の割合は48%から2022年には56%に高まると見込まれている。 また、GDPに占める工業の割合も45%から40%に縮小し、サービス業の割合が45%から55%に急拡大するという。投資主導ではなく、消費主導の経済になるというわけだ。供給サイドでは、投資の減速に伴う資本ストックの伸びの鈍化が経済成長減速の最大の要因になっている。 楽観的な見方もできるが・・・ 経済成長の減速が間近に迫っているという見方は、まずまず妥当だと思われる。しかし、もっと楽観的な見通しを示すこともできるだろう。 米国の調査機関コンファレンス・ボードのデータによれば、現在の中国の1人当たりGDP(購買力平価ベース)は1966年の日本や1988年の韓国のそれと同じだ。この水準から日本は7年間、そして韓国は9年間も超高速な成長を続けた。 また、先進国にどの程度追いついたかを示す指標の1つとして米国の水準に対する比率を計算すると、現在の中国は1950年の日本や1982年の韓国と同じ状況にあることが分かる。これなら、中国の成長余地はさらに膨らむことになる。中国の1人当たりGDPは、米国の5分の1の水準を超えたばかりで、伸びしろはまだかなりありそうだ。 だが、この楽観的な見方を否定する根拠もある。中国は日本と比べても、ケタ違いに大きい。だとすると、特に世界経済の中に見いだせるチャンスは相対的に小さいはずだ。さらに、温家宝前首相がよく述べていたように、中国の経済成長は「バランスと協調を欠き、持続不能」だった。この見方は多くの面で正しい。 しかし最も重大なのは、中国の成長が、生産能力拡大の源泉としてだけでなく需要の源泉としても投資に依存してきたことだ。投資に対するリターンは最終的に消費拡大に左右されるため、一貫して上昇する投資率は持続不能だ。 中国が直面する3つのリスク ここで浮上するのが、それよりはるかに悲観的な見方だ。日本の経験が示したように、高投資・高成長経済から低投資・低成長経済への移行をうまく管理することは極めて困難だ。筆者は少なくとも3つのリスクを想像できる。 第1に、予想される成長率が10%超から例えば6%に低下したら、必要となる生産資本への投資率は劇的に下がる。一定したICORに基づけば、投資率はGDP比50%から例えば同30%に低下するだろう。進展が早ければ、投資の落ち込みはそれだけで恐慌を引き起こす。 第2に、信用の急拡大は、不動産投資をはじめ限界収益が低下していく投資への依存を伴っていた。こうした理由から、成長率の低下は不良債権の増加を意味する可能性が高い。過去の成長が続くとの前提に立って行われた投資では特に不良債権が増えるだろう。 中国の金融システム、中でも急拡大している「影の銀行システム」の脆弱性は急激に高まりかねない。 第3に、家計貯蓄率の低下を見込む理由がほとんど存在しない以上、予想されている対投資での消費拡大を維持するためには、国営企業を含む企業部門から家計部門への同規模の所得移転が必要になる。これは実現可能だ。労働力不足の拡大と金利の上昇は所得移転を円滑にもたらすかもしれない。 だが、たとえそうなったとしても、その結果生じる企業収益の減少が投資の激減を加速させるという明白なリスクがある。 日本と同じ運命を避けられるか 政府の計画は、言うまでもなく、より均衡が取れていて成長率が低い経済への移行を円滑に進めることだ。これは決して不可能ではない。政府は必要な手段をすべて持っている。さらに、経済は依然大きな可能性を秘めている。だが、投資崩壊と金融混乱を招かずに成長率低下を管理することは、どんな一般均衡モデルが示唆するよりもはるかに困難だ。 長年にわたり最高のパフォーマンスを見せたが、必然的に訪れる減速をうまく管理できなかった経済国は簡単に思い浮かぶ。日本がその一例だ。中国は今なお絶大な潜在成長力があることもあり、その運命を避けられるはずだ。 だが、事故が起きる可能性は高い。1つの偶発的な事故が中国の台頭を完全に止めてしまうとは思わない。だが、向こう10年間は過去10年間よりもずっと厳しい時期になるだろう。
2013年4月4日 橘玲 [橘玲の世界投資見聞録]中国経済を待ち受ける「人口オーナス」の衝撃 すでに大手メディアも報じはじめたように、中国経済の減速がはっきりしてきた。もちろんどのような国も、年率10%を超えるような高度成長を何十年も続けることができるはずはないから、市場の成熟にともなってGDPの伸び率が鈍化してくるのは自然だ。 中国は改革開放政策の成功により、短期間で米国に次ぐ世界2位の“経済大国”の座に上り詰めた。だが中国には、「社会主義市場経済」という、他の先進諸国とは大きく異なる特徴がある。 2007年の世界金融危機の後、中国は4兆元にものぼる大規模な公共事業投資を行ない、グローバル市場の崩壊を救ったとされた。その一方で、アメリカやヨーロッパの“決められない政治”の弊害が誰に目にも明らかになったことから、デモクラシーと自由市場の組み合わせよりも、強力な政府が積極的な成長促進政策を行なう「管理された自由経済」の方が優れているという「北京コンセンサス」が唱えられたりもした。 しかし、米国の株価が史上最高値を更新し、(ギリシア、スペイン、イタリアなどが連鎖的に財政破綻する)ユーロ崩壊の懸念が遠のくと、もはや中国国内の学者以外に「北京コンセンサス」を口にする専門家はいなくなった。習近平国家主席への権力移譲を機に、経済成長の陰に隠されてきたさまざまな矛盾が浮き彫りになってきたからだ。 「管理された自由経済」がすぐれているという「北京コンセンサス」を言う専門家はもはやいない 天安門広場 (Photo:©Alt Invest Com) ここでは、今後2〜3年の中国経済を考えるうえで重要となる「人口ボーナス」と「人口オーナス」についてかんたんにまとめてみたい。
人口経済学の考え方 経済成長が生産年齢人口に大きく影響されるという理論は、ベストセラーとなった藻谷浩介氏の『デフレの正体』(角川oneテーマ21)で広く知られることになった。この本については「インフレやデフレは貨幣現象で人口動態とは無関係」との批判もなされたが、そうしたマクロ経済学的な議論を脇に置いておけば、藻谷氏の主張は1990年代後半から注目されるようになった(人口と経済の相互関係を研究する)人口経済学とほぼ同じだ。 アジアの人口変化と経済発展を専門とする大泉啓一郎氏は、『老いてゆくアジア』(中公新書)などで、1990年代以降の「東アジアの奇跡」を人口ボーナスで説明している。 人口ボーナスというのは、人口がとめどもなく増えていく人口爆発のことではない。 かつての日本を含め、低開発国はどこも多産多死で、10人ちかい兄弟姉妹がいることも珍しくなかった。平均寿命も短いから、末子が成人する前に両親は死んでしまい、長兄(長姉)が親代わりに弟妹を育てることが当たり前だった。 その後、医療の普及や衛生状態の改善で乳幼児の死亡率が下がると、多産多死から多産少死になって若年人口が大きく増える。だがこうした多産少死が定着すれば人口は膨張するから、政府は家族計画や一人っ子政策で子どもの数を減らそうとする。また産業構造が農業から工業・サービス業に変わり、家計所得が増えて自由な生活が可能になるとともに、子育ての教育費負担が重くなると、成人した若者たちは両親の世代ほど多くの子どもを持とうとはしなくなるだろう。このように、多産少死は少産少死へと移行していく。 日本の高度成長は人口ボーナスの恩恵 人口ボーナスは多産少死から少産少死へと人口動態が変化する時期のことで、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の増加として表わされる。それがなぜ景気と関係するのか、日本のベビーブーマー(団塊の世代)を例にとって考えてみよう。 第二次世界大戦後に生まれた団塊の世代は、二重の意味で人口の負荷から解放されていた。 親の世代の多くは戦争で死に、平均寿命も長くはなかったから、高齢者の生活を支えるコストは無視できるほど小さかった。それと同時に出生率が劇的に下がったから、子どもを扶養する費用は、(1人あたりの子育てコストは増えたとしても)社会全体では大幅に軽減された。 このような二重の幸運に恵まれた団塊の世代が30代から40代の社会の中核になると、高齢者世代と子ども世代の扶養コストが低い分だけ可処分所得が増え、それを消費に振り向けたり、貯蓄を頭金に住宅ローンを組んでマイホームを購入したりできるようになった。 一国の人口構成上、負担の少ない世代が社会経済の中心になることで、消費が増大して好景気になり、住宅需要で地価が上昇する。この好循環によって、1960年代から70年代にかけての高度経済成長は実現されたのだ。 人口ボーナスの後に来る「人口オーナス」 日本は敗戦後にアメリカの占領下で経済の復興を成し遂げたから、アジアの国々のなかではもっとも早く人口ボーナスを享受することになったが、その分だけ人口ボーナスが終わるのも早かった。 団塊の世代がリタイアするようになると、若者よりも高齢者の数が多くなる逆ピラミッド型の人口構成になる。そうなれば、働き手1人当たりの社会的な負担は重くなって可処分所得は減り、そのうえ将来の増税や社会保障の削減を見越して消費を控えるから景気が悪くなる。人口が減れば必要な住宅の数も少なくなって、都心など一部を除けば地価も下落するだろう。このように人口構成が経済成長の重荷になった状態を「人口オーナス(負荷)」という。 次のページ>> 待ち受ける「人口オーナス」の衝撃 長期的に見れば、人口ボーナスというのは需要の先食い(前借り)であり、人口オーナスでその儲けを吐き出すことになる。 『老いてゆくアジア』で大泉氏は、日本の高度経済成長が人口ボーナスで説明できるように、90年代以降の「失われた20年」は人口オーナスで説明可能だとしたうえで、東アジアの国々でも、いまや遅れてきた人口ボーナスが終わりつつあると述べる。 人口ボーナスの時期にちがいがある理由は、それぞれの国の現代史を見ればすぐにわかる。韓国は朝鮮戦争が、中国は膨大な餓死者を出した大躍進政策と文化大革命が、ベトナムはアメリカとの長い戦いがあって、本格的なベビーブームの時期が日本よりもずっと遅れたからだ。 「アジア四小龍」と呼ばれた韓国、台湾、香港、シンガポールは日本からほぼ20年遅れて人口ボーナスが始まり、80年代に「東アジアの奇跡」を起こしたが、これらの国の出生率は日本よりも低く高齢化が急速に進んでおり、この1〜2年で人口オーナスの時期に入ることになる。 文化大革命後にベビーブームの起きた中国は日本からほぼ30年遅れて人口ボーナスが始まり、90年代からの改革解放による爆発的な経済成長につながった。中国の成長が他のアジア諸国を圧倒したのは、多産少子から少産少死への移行から生じる人口ボーナスとともに、農村から沿海部の都市への労働人口の大規模な移動が生産年齢人口の急増をもたらし、人口ボーナスにレバレッジをかけたからだ。 目覚ましい発展を遂げた上海。人口ボーナスが最大限に寄与した。 上海・浦東の高層ビル街 (Photo:©Alt Invest Com) しかしその中国も、一人っ子政策などの影響で少子高齢化が進むのも早く、2010年代からは人口ボーナスの効果はほとんどなくなり、早晩、人口オーナスの停滞期を迎えることになる。 生産人口比と不動産バブル もちろん、こうした悲観的な見方への反論もある。たとえば経済学者の吉川洋氏は『デフレーション』(日本経済新聞社)のなかで、経済成長は生産年齢人口ではなく労働生産性の上昇で決まるとして“人口決定論”を批判する。 1913年を基点にすると、日本の実質GDPは35倍に増えたのに対し人口は2倍程度にしかなっていない。戦後の高度成長期(1955〜70年)には実質GDPは平均年率10%成長したが、この時期の労働力人口の増加率は年率1%に過ぎない。残りの年率9%は労働生産性の上昇(資本ストックの増加と技術進歩)によってもたらされたのだ。 また吉川氏は、「ライフサイクルの理論」によれば高齢化で社会全体の家計貯蓄率は下がる(リタイアした高齢者は貯金を取り崩して生活費の足しにする)のだから、消費性向は逆に上がることになるという。だとすれば、「高齢化によってマクロの需要が減退する」という仮説にはなんの根拠もない。 次のページ>> 不動産価格と人口オーナス ところで、日本の「失われた20年」はイノベーションの不足だとする吉川氏に対して、経済学者で日銀副総裁を務めた西村清彦氏は、アジアだけでなく、アメリカのサブプライム・バブル崩壊も、ヨーロッパの不動産バブル崩壊も、すべては[人口動態の変化という長期の「波」の上で踊られた「ダンス」]だと述べている(「アジアの視点を踏まえたマクロ・プルーデンス政策の枠組み」〈アジア開発銀行研究所・金融庁共催コンファレンス〉)。 生産人口比(生産年齢人口・非生産年齢人口比率)は、子どもや高齢者など自力では労働市場から富を獲得できないひとを何人の働き手で支えているかの比率で、生産人口比が増加するのが人口ボーナス、減少するのが人口オーナスにあたる。 西村氏によれば、各国のデータを比較検討すると、生産人口比が上昇するにつれて不動産価格が上がってバブルが大きくなり、生産人口比のピーク(人口ボーナスの頂点)を過ぎるとバブルが崩壊する傾向がはっきりと表われている。 日本の生産人口比が最大(約2.3)になったのはバブル崩壊の年の1990年。アメリカは2007年(生産人口比約2.0)で、サブプライム・バブルが崩壊した年だ。 ヨーロッパに目を転じると、ギリシアとポルトガルの転換点は2000年、アイルランドとスペインの転換点は2005年で、いずれも不動産バブル崩壊が起きている。 西村氏の見方が正しいとすれば、生産人口比が下がり続ける日本ではもはや不動産バブルは起こらず、遅れてきたバブルで賑わう国も、生産人口比を見れば崩壊の時期をある程度予測できる。 2100年には中国の人口は4.6億人に減少!? 周知のように、中国では現在、従来の経済常識を超えた不動産価格の上昇が起きている。これは「人類史上最大のバブル」と呼ばれるが、その一方で、中国の膨大な人口と驚異的な経済成長率(および中国共産党の賢明な経済政策)を考慮すれば、いずれひとびとの所得が不動産価格に追いついてバブルは崩壊せずソフトランディングできるとの意見もある。 通商産業省(現経済産業省)の中国担当から現代中国研究家となった津上俊哉氏は、近著『中国台頭の終焉』(日経プレミアシリーズ)のなかで、2012年夏にその詳細が公表された第6次人口普通調査(2010年の人口センサス)をもとに、中国の人口問題は巷間いわれているよりもはるかに深刻だと指摘している。 「人口増は悪だ」という一人っ子政策を長く続けた結果、中国の出生率(合計特殊出生率)は1.18と、日本の1.39を下回る低さになっている。さらに都市部では北京市が0.71、上海市が0.74で、天津までの下位6省市が1.0以下という驚くべき数字が出ている。中国国内の学者・専門家のなかには、「このままでは2100年には人口が3分の1、約4.6億人に減ってしまう」との声もあるという。 この最新データによれば、中国の生産年齢人口は2013年の10億人をピークに減少に転じる。全人口に対する生産年齢人口の比率はすでに2010年の74.5%をピークに減少に転じている。 日本は1995年に生産年齢人口がピークアウトしてから人口オーナスの影響を受けはじめ、総人口が減少に転じた2008年頃からその影響が深刻化した。これと同じ経路をたどるとするならば、中国でも生産年齢人口の減少によってすでに人口オーナスは始まっており、2020年頃にはその影響がはっきりしはじめ、総人口が減少に転じる2020年代には成長を続けるのが難しくなる可能性があると津上氏は指摘する。 次のページ>> 中国経済を待ち受ける結末とは? 農村と都市部の格差(というか差別)など、中国は多くの深刻な社会矛盾を抱えている。年金や医療保険がほとんど整備されないまま「未富先老(ゆたかになる前の高齢化)」が始まるなら、13億人の巨大な社会は大きな混乱に見舞われ、世界経済(とりわけ日本や東南アジアの経済)にとてつもない衝撃を与えることになるだろう。 「人口経済学」の仮説が妥当なのか、たんなる偶然なのかは、中国の不動産バブルの行方が教えてくれる。私たちは、おそらくこの2〜3年でその結果を知ることができるはずだ。 上海で出稼ぎをする農民工。都市住民とは戸籍も社会保障もちがう (Photo:©Alt Invest Com) http://diamond.jp/articles/-/34097?page=5 【第20回】 2013年4月4日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] インターネットには、新しい中国が出現しつつある
この連載でわれわれが進めてきた中国語の学習方法は、基本的にインターネットに依存するものであった。それは、中国のインターネット・サイトがかなり充実してきたために、可能になったものである。10年前であれば、こうした方法での学習は進められなかったろう。以下で見るように、インターネットの世界には、新しい中国が出現している。 中国のインターネットは、「リープ・フロッグ」 中国の政府系機関である中国インターネット情報センター(CNNIC)が1月15日に発表した報告書によると、2012年末における中国のインターネット利用者は、5億6400万人に上った。これは、世界1位だ。 第2位のアメリカが2億5000万人程度、第3位の日本が1億人弱であることと比べて、圧倒的に多い。 普及率は、42.1%になった。地域別に見ると、都市部が72.4%に対し、農村部では27.6%に留まっている。 中国のインターネットユーザー数が世界最大となったのは2007年のことであったが、その後も成長が続いているわけだ。全体としての普及率が5割に至らず、しかも総人口が多いのだから、今後も大きな成長の潜在力を持っていることになる。 なお、中国の場合には、携帯電話からの利用者が全体の74.5%と、きわめて高い比率を占めている。 中国における情報通信メディアは、「リープ・フロッグ現象」を起こしていると考えることができる。「リープ・フロッグ」(蛙飛び)とは、遅れて発展した国が、先に発展していた国よりも、新しい技術の恩恵を受けることだ。イギリスより遅れて産業革命を実現したドイツが、蒸気機関の時代を経ずに電気を利用できたことが、その例だ。 中国は、固定電話の時代を経ずに、直接に携帯電話の時代に入った。 メディアについても、中国は、新聞、雑誌、書籍などの印刷物を飛び越えてインターネットの時代に入ったと考えることができる。国土が広いことも、印刷物に比較した場合のインターネットの有利性を高めているだろう。 新聞発行部数を見ると、2010年において、中国が1億1078万部に対して、日本が5043万部だ(なお、アメリカは4857万部)。インターネット利用者数では中国は日本の5倍以上であるのに対して、新聞では約2倍にしかなっていない。人口1人あたりで言えば、中国は日本の5分の1程度でしかない。これを見ても、中国がインターネットに偏っていることが分かる。 中国は選挙のない独裁国家であるため、政治的な不満や政府批判の情報がインターネット上に現われる。このため、政府は、インターネット上の情報を統制し、管理を強化している。第1に、国外のサイトに対するアクセスがブロックされる。また、国内のサイトに対しては、「金盾工程」(金盾プロジェクト)と呼ばれる検閲活動を行なっている。 こうした検閲があるため、グーグル撤退などの問題が生じた。また、他の国には進出しているアメリカのIT関連サービス企業が中国に進出できないなどの問題もある。外国企業が進出しても、商慣習の違いなどさまざまな理由によって、撤退を余儀なくされる場合もある。実際、楽天もヤフーも、2012年5月に相次いで中国から撤退した。 中国におけるインターネット利用率の高さを考えると、最終消費財を中国で販売しようとする外国企業は、新浪微博などのブログサービスに無関心ではいられない(日本でもすでに、ユニクロなどの企業や地方公共団体などが、利用している)。しかし、政府による情報統制が将来の中国消費財市場へのアクセスに対する重大な障害にならないか、という懸念も生じる。 中国のインターネット関連企業 上で述べたように、外国の企業が中国でのインターネット関連事業に参入しにくい状況であるため、アメリカで提供されているサービスにほぼ対応したものが、中国のIT企業によって提供されている。 ・検索エンジンでは、「百度」(バイドゥ)がある。これは、グーグルに対応したものだ。 ・動画共有サイトでは、「優酷網」(ヨウク)がある。これは、YouTubeに対応したものだ。 ・ネット通販では「淘宝網」(タオバオ)が、企業向けECサイトでは「阿里巴巴」(アリババ)がある。 ・中国独自のサービスを提供する企業もある。「騰訊」(テンセント)がフリーウェアとして提供しているインスタントメッセンジャー「QQ」は、中国語圏の人々のためのチャットソフトだ。これで膨大な会員プラットフォームを作り、ゲームなどの各種有料サービスに誘導する。 ・この他に、次項で見るポータルサイトがある。 中国の経済は、銀行、通信、鉄道、石油、エネルギー関連、自動車製造などの基幹産業では、いまだに国有企業によって支配されている。しかし、インターネットサービスでは、上に見たような新しい企業が登場しているのだ。こうした企業は、新しい中国経済を形成していくだろう。 それに対して日本では、楽天以外に目立ったIT企業が成長していない。本来であれば、「漢字」という共通の文化基盤を持つのだから、日本で成長したIT企業が、中国に進出してもよかったはずだ。そうした企業を生み出せなかったのが、日本経済の基本的な問題だ。 ミニブログが作り出した「微博現象」 中国の三大ポータルサイトと言われるのは、「新浪」(シナ)、「網易」(ワンイー)」、「捜狐」(ソーフー)だ。 「新浪」は、上海市に本社がある中国最大手のメディア運営会社であり、中国最大の広告会社である新浪公司が運営するポータルサイトだ。TwitterやFacebookなど外国企業が提供するSNSが中国政府によって遮断された直後、2009年8月に発足した。2012年3月時点で3億人を超えるユーザーがいると言われる。 「新浪微博」(シナウェイボー)は、新浪が提供するミニブログサイトだ。中国版Twitterとも言われる。中国のミニブログユーザーの57%、投稿数の87%を占める。 また、中国有数のIT企業である「騰訊公司」の「騰訊微博」も、2億人以上のユーザーが利用する。 こうしたミニブログの急拡大によって、「微博現象」と言われるものが生じている。 2011年7月、温州で高速鉄道の追突事件が起きたとき、メディアが報道する前に、住民が事故現場を携帯電話などで撮影した写真が微博に投稿された。書き込みが爆発的に増え、情報が一気に広がった。政府当局は当初、事故を隠ぺいしようとしたが、書き込みが多過ぎて、削除できなかった。温家宝首相が事故現場を訪れるという異例の事態になったのは、こうした背景によると言われる。 2012年4月には、「老酸奶事件」があった。「老酸奶」とは、昔からある固形状のヨーグルトだが、CCTV(中央TV)の有名司会者が、「老酸奶は食べない方がいい」と自分の微博で発信したところ、大きな反響を呼んだ。その後「老酸奶」に工業用の凝固剤が使われているという情報が発覚し、中国全国各地で「老酸奶」の販売量が激減した。 2012年2月から3月にかけて起きた薄熙来事件では、微博はさらに劇的で重大な役割を果たした。薄熙来のかつての腹心、王立軍がアメリカ領事館に逃げ込んだとの情報や、北京に移送されたとの情報が、ほぼリアルタイムで微博に流れた。当局による猛烈な削除と書き込み者の拘束にもかかわらず、情報は止まらなかった。中南海で起こっている共産党内部の権力闘争が、きわめて正確な形で、しかも時間遅れなしに、流出してしまうのだ。政府高官も、ネット情報に敏感にならざるをえなくなった。 この事件以来、「政府高官は、朝起きると微博で自分の名前を検索し、なければ安心して他の人の名を調べる」などと言われる。 このように、インターネットは中国で新たな時代を作り出している。情報を調べる立場から言えば、中国の実態を知るには、新聞より微博を見ていたほうがいいとすら言える。ただし、そのためには、中国語が読めなければならない。 なお、インターネットは、中国語では、「互联网」である。「网际网路」、「因特网」、「英特网」という言葉も使われる。 「上网」は、インターネットを使うこと。「网络」がネット。「网络用戸」は、インターネットユーザーだ。中国版ウイキペディアに「互联网」という項目があるので、ここを見れば、関連の中国語を知ることができる。 中国の不動産事情を解説動画で見る 新浪のサイトで、経済関係のニュースは、「新浪财经」にある。これだけ豊富な経済情勢を提供しているサイトは、日本では見当たらない。「新浪财经」の中の「财经视频」には、経済関係の動画が多数ある。 その中のhttp://bj.house.sina.com.cn/では、不動産関係の非常に大量の情報が提供されている。 そのなかにある「解码财商:中国人的房地产情结」という動画は、中国の不動産価格についての解説だ。全部で22分間ある。字幕もある。 文字をコピーできないので、じっくりと見たり辞書を引いて言葉の意味を調べたりするには、やや不便だ。しかし、個々の文章は短いので、一時停止し、繰り返し聞けばよい。 口語は文章の構造が簡単なので、専門用語を知っていれば、文章で読むよりわかりやすい場合もある。 住宅団地の動画などもあるので、中国の住宅事情がよく分かる。現象面の説明だけであって分析はないが、中国の不動産の現状を知るには適切な情報源だ。2012年に住宅価格の所得比が12.07になったこと、大都市では25.25になったことなどが説明されている。 なお、この動画はごく最近(3月28日)アップされたものなので、当分は見られるだろう。しかし、いつまで掲載されているかは分からない。 なお、「捜狐」にも、経済関係の動画がある。これも字幕がついたものだ。 小学生向けの詩を暗記 前回、小学生向けの動画サイト「61flash」で、中国語を「聞く」練習をした。 子どもでも簡単に操作できるようになっているので、小学生が文字などを学ぶことができる。絵本も読める。テレビを見るよりはずっとよいだろう。 このようなサイトは、日本には見当たらない。ただ、こういうものが出てくると、絵本は売れなくなってしまうかもしれない。 字幕もあるし、ゆっくり読んでくれるので、外国人が中国語を学ぶには適当だ。 前回は少し長めのものを紹介したが、ここでは、「影子」という短い詩を読むことにしよう。 http://www.61flash.com/swf.htm?gamepath=http://img.61flash.com/20101125//flash/at200712915564726589.swf&gamename=%BF%CE%CE%C49%20%D3%B0%D7%D3 http://www.61flash.com/flash/4260.htm (原文) 第九課 影子 影子在前、影子在后、影子常常跟着我、就像一条少K狗。 影子在左、影子在右、影子常常陪着我、它是我的好盟友。 (翻訳) 第九課 影 影は前にある。影は後ろにある。影はいつも私にくっついている。細長い小さな黒犬のようだ。 影は左にある。影は右にある。影はいつも私の伴をする。それは、私のよい友達。 簡単な文章で、しかもリズミカルなので、聞いていて気持ちがよい(小さな女の子が可愛い声で朗読している)。 高校で習った漢詩の中国語での読み上げを聞くと、のんびりしすぎていて我々には合わない。この詩は現代的なリズム感にマッチしている。文章の意味も、わざわざ訳すまでもなく、分かる。日本語にないのは、跟(くっつく)くらいのものだ。 この詩を覚えることの効用は、頻繁に使う言葉の発音を無理なく覚えられることだ。「前」「后」「左」「右」「少」は、文字を見れば意味は分かるが、発音は日本語の音読みとかなり違う(ことに、「左」)。「左」の発音を覚えるには、それだけを孤立して覚えるより、この詩の全体を覚えるほうがよい。「左」と言いたいときには、この詩を最初から思い出せば、必ず「左」の発音に辿り着くことができる。決して忘れることはない。 また、「九」の発音 jiǔ も日本語の音読みとかなり違うが、朗読の最初に言っているので、これも覚えられる。「K」の発音 hēi や、「狗」の発音 gǒu もそうだ。 さらに、ここで覚えた言葉と他の言葉の関連をつけることもできる。例えば、「八〇后」(1980年代の出生者。中国の新しい世代の代名詞)という言葉があるのだが、その「后」と、この詩の「在后」の「后」は同じものだ。また、「好盟友」の「好」と、「你好」(こんにちは)の「好」は同じものだ。このような関連づけができるようになってくると、面白くなって、学習意欲が高まる。 最後にある「A是B的C」(AはBのCである)は、ABCを入れ替えれば、さまざまな場面で使える。中国語の場合は、単純な入れ替えでよい。西欧語やロシア語のような格変化がないので、きわめて簡単だ。 中国も「失われた20年」を経験していた 格差、環境、社会保障……。全人代で繰り返される課題表明 2013年4月4日(木) 張 勇祥 「明日、会場に行く人は朝6時半発。“紙”取ったら戻ってくるのは誰?」 毎年、中国の全国人民代表大会(全人代)の開幕前日、マスコミ各社で繰り広げられているだろう風景だ。 全人代は、天安門に向かって後方西側にある人民大会堂で開かれる。午前9時に始まるが、記者やカメラマンはその2〜3時間ほど前から延々と並び始める。 いわゆる「紙取り」のためだ。 紙は、ここでは時の首相が全人代の冒頭で読み上げる政府活動報告(施政方針演説に相当)の外国語訳を指す。政府活動報告は毎回1万字を超す長文なので、夕刊に盛り込もうとすれば、やはり訳文があった方が間違いが少ない。これは恐らく万国共通で、会場となる大ホール前の通路で活動報告の訳文が配られると、あらゆる国の記者が押し寄せてくる。部数は、ボンヤリしているとなくなってしまうほどの数しかないので、行くしかない。 共産党がすべてに優先し、権限は限られる中国政府。全人代はその立法府であり、最高権力機関と位置づけられているが、実態としては「政治ショー」の色彩が濃いと言わざるを得ない(全人代に「日本の国会に相当」という注釈をつけると、読者からクレームが来るのはこのためだろう)。 それでも、要人が勢揃いするし、党からはなかなか出ない数字が多く発表されるので、それなりに重要なイベントではある。ヤマの1つは、やはり初日の政府活動報告だ。 政府活動報告に集約される問題意識 政府活動報告を読めば、中国がどこへ向かおうとしているかがそれなりにうかがえる。初めは長さにたじろぐが、実際にはパターンがあるので、慣れれば少しはかいつまんで読めるようになる。 そのパターンは年よって若干の違いはあるが、まず(1)GDP(国内総生産)やインフラ整備の進捗、消費の伸びなどから共産党による政治がうまく行ったとの自画自賛から始まり、(2)今年の成長率目標や財政支出などの予算の説明をした上で、(3)これまでの取り組みや今後の提案を通じて貧富の格差や環境破壊などの問題点を示し、(4)香港やマカオ、台湾の統一といった領土面の主張を述べて終わる、というスタイルは概ね一貫している。 また、今年がそうだが、政府活動報告には5年おきに「総括編」とでも言うべきバージョンがあり、やや俯瞰した内容になる。そして今回は温家宝・前首相にとって最後の報告になった。いささか旧聞ではあるが、内容を少し要約したい。 (1)については、2012年のGDPが51兆9000億元(約778兆円)となり、農村部の1人当たり純収入が年平均で9.9%伸びたなどと誇っている。低価格住宅の整備やPM2.5の観測地点を増やしたなどと記す一方で、空母「遼寧」が就役したとも謳っている。(2)は成長率目標7.5%、財政赤字1兆2000億元(約18兆円)、インフレ率3.5%といった、日本でも報じられている数字が並ぶ。 (3)は総花的だが、消費拡大や投資の効率化、供給過剰体質の是正、環境保護、省エネ、「三農問題」、就業問題、社会保障の拡充、法治主義といったキーワードを今後の課題として挙げている。 リーマンショック後に打った4兆元(約60兆円)規模の経済対策が過度な投資を呼び、民間企業や地方財政の疲弊を招いたのは今となっては疑いようもない。経済は6〜7%の成長はできるだろうが、農村からの人口移動もピークアウトしつつあり、環境問題も相まって上ブレの可能性はかなり低くなっている。そして、経済格差は拡大し、産業の高度化といった課題も先送りになったままだ。政府活動報告を読めば、こうした問題を政府も認識はしてはいることが分かる。対処したか、また対処する気があるかは別問題だが。 (4)は香港、マカオの1国2制度が機能していること、台湾との「和平統一という大業」といった文言がいつものように続いている。 何年か活動報告を見てきたが、既視感をどうしても覚えてしまう。中国は多くの問題を抱えている。けれど共産党による統治で経済面を中心に着実に前に進んでいる。ただ課題はまだ残っているので頑張ろう、というロジックだ。このスタイル、本当に変わっていないのか。思い立って10年前、20年前の政府活動報告をめくってみた。 農村、格差、就業、社会保障……。いつまでも課題のまま まずは2003年版。報告者は、昨年の党トップを巡る権力争いで久しぶりに姿を見せた朱鎔基氏だ。 (1)の経済面の報告については、やはり隔世の感がある。2002年のGDPは10兆2000億元(約153兆円)。ちなみに、さらに5年さかのぼった1997年は7兆4000億元(約111兆円)とある。日本のGDPは500兆円をはさんでウロウロしていた訳だから、単純な経済規模では追いつかれ、抜かされたと理解するしかない。 面白いのは、やはり課題を記した(3)の部分だ。具体的に述べている部分をずらずらと並べてみる。 ・内需を拡大し、消費と投資の2本立てで経済を牽引する ・「三農問題」にしっかり取り組む。農村インフラを整備する ・西部大開発と産業の高度化を推進する ・非公有経済(いわゆる民間企業)を発展させる ・社会保障と就業機会の拡充に努める ・法に基づく行政を堅持し、反腐敗闘争を継続する 反腐敗闘争など古めかしい(と言っても10年前だが)言葉もあるが、一段落した西部大開発を除けば、そのまま2013年版にスライドしても通用する内容だ。 少なくともリーマンショック前まで、中国は農民工(出稼ぎ労働者)による低廉な労働力とそれに伴う都市化、政府によるインフラ投資や海外メーカーの直接投資をテコに、すさまじい経済成長を遂げたことは間違いない。しかし、同時にあらゆる問題を放置したが故に、中国が抱える課題はそのまま受け継がれたわけだ。 続いて1993年版。報告者は李鵬氏。彼も昨年の党大会で姿を現した。20年前の指導者が今も一定の影響力を残しているというのは、やはり独特だ。 GDPは1992年、2兆4000億元(約36兆円)に接近したとある。92年と言えば89年の天安門事件を受け、ケ小平が改革開放を唱え「南巡講話」に踏み切った年だ。とはいえ、20年後の20分の1の規模。強引な比較だが、現在の南アフリカやタイ、アラブ首長国連邦とほぼ同じ水準だ。 鉄鋼生産は8000億トン(ちなみに2012年は7億2000万トン弱)、輸出と輸入を合わせた貿易総額は1656億ドル(現在の為替レートで15兆7000億円。2012年は3兆9000億ドル弱)。20年前は、言ってしまえば世界経済にとっては取るに足らぬ存在だった。 消えた国連主義 そして課題を2003年と同じように抜き出してみる。 ・農業の地位を高め、農村経済を繁栄させる ・インフラ、なかでも鉄道を中心に交通網を整備する ・エネルギー開発を急ぐ ・公有制を主体としながらも、民間経済、「外資経済」による成長を促す。国有企業改革は政治と企業の分離がカギである ・社会保障、住宅制度の改革を進める ・民主と法制度の整備を重視する ・人口計画と環境保護に取り組む 項目は少し端折ってはいる。ただ、やはり、今年の政府活動報告に載せても問題ないような項目がほとんどだ。改革開放は言わば「会心の一撃」で、これによって経済が離陸し、共産党による統治に正統性を与えてきた。しかし、資源の適切な配分は不得手で、格差や環境など市場メカニズムが働きにくい問題の解決能力が非常に低いのは明らかだろう。この意味で、日本と同様、中国も20年を失ってきたのだ。 最後に、1993年版の政府活動報告の(4)の部分(領土などについて触れている箇所)を紹介したい。 「中国は国連の常任理事国として、国連憲章の主旨と原則を一貫して守り(中略)、世界の軍縮に積極的に努力してきた」 「中国は人権問題を重視する。国際社会と一緒になって、国連が取り組む人権保護、基本的自由についての主旨を実現するために努力したい」 解釈、判断は読者にお任せする。が、当然のことながら、こうした表現はここ数年の政府活動報告には掲載されていない。 張 勇祥(ちょう・ゆうしょう) 日経ビジネス記者
中国サンテック、破産法の試金石
2013年4月4日(木) FINANCIAL TIMES 太陽電池世界最大手、中国のサンテックの中核子会社が破産法の適用を申請した。中国企業で、米国にも上場を果たした同社ほどの著名企業が破産法を申請した例は稀。中国の破産法は国内の債権者を優先するため地元政府の対応に世界が注目している。 中国の太陽電池メーカー、尚徳電力(サンテックパワー)は、再生エネルギー分野で急速に存在感を増し、中国を代表する企業だった。2001年の創業から10年で売上高世界最大の太陽電池メーカーに成長、その間、英フィナンシャル・タイムズ紙のボールドネス・イン・ビジネス賞*1を含め数々の賞を受賞、名声をほしいままにしてきた。 *1=英フィナンシャル・タイムズが毎年、大胆なビジネス戦略を推進する企業に贈っている賞 貧しい家庭に生まれたがオーストラリア留学を機にサンテックを創業、一時は中国の長者番付1位にもなった施正栄氏だが…(写真下:Imaginechina/アフロ、上:ロイター/アフロ) 初の破産法適用会社に ニューヨーク証券取引所への上場も果たしたが、今や別の意味で象徴的な存在となった。中国の企業破産法の試金石となったのである。 中国では企業破産法が適用された例はまだほとんどない。だが、政府関係者は同法が中国の金融システムの長期的な健全性のカギを握ると指摘する。 サンテックは3月13日に、中国に抱える中核子会社、無錫(ウーシー)サンテックがデフォルト(債務不履行)の危機にあると発表。これにより同社は破産法の適用を申請した最も著名企業となった。 裁判所とサンテックの債権者が今後、事業再生計画の策定に取り組むが、同法がどう適用されるか、中国内外の貸し手、社債投資家、株主の利益が公正に守られるかどうかが試される。 「サンテックの倒産劇は海外と同様、国内でも注目を集めるだろう。中国市場が急拡大する中、中国政府は銀行だけでなく保険会社など、様々な投資家に社債を購入してほしいと考えているからだ」とシンガポールを拠点に活動しているある投資家は話す。 特に重要な問題は、サンテックが拠点を置く無錫市政府がどんな役割を果たすかだ。上海近郊にある都市、無錫市はサンテックに最も早くから投資した機関投資家の1つだ。サンテックの創業時に、融資団の一員として無錫市は無錫市政府が出資する国有投資会社、無錫国聯発展(集団)を通じて投資した。 その後サンテックは株式を買い戻していたが、3月19日にサンテックが無錫国聯から社長と取締役1人を迎える人事を発表、無錫国聯は改めて同社に関与する形になった。 サンテックは昨年9月、無錫市政府の尽力で地場銀行の支店と融資条件の見直しにこぎ着けたと、同社に近い筋は語る。昨年第4四半期に返済期限が来る債務8億4700万ドル(約803億3900万円)を抱えていたが、同社の財務諸表によると8月末時点で手元資金は1億6800万ドル(159億2640万円)しかなかった。 サンテックは債務再編の内容や現在の債権者に関する回答を拒んでいる。 裁判所に破産申請が行われたのを受け、政府関係者はサンテックの国内債権者である中国の銀行9行に対し、総額71億人民元(約1073億7000万円)に上る債務の減免を求めているという。サンテックは裁判所と協議のうえ再建案を策定する意向で、太陽光パネルの生産は続けたいとしている。 海外投資家は弁済順位が低い 法律専門家によれば、明文化されていなくても、破産処理では地方政府が極めて重要な役割を果たすという。「大企業の場合、政府による支援なくして、経営破綻した企業が再建を果たすことはあり得ない」と、浙江弁護士協会の破産関連部門の責任者、レン・イミン氏は指摘する。 中国の法律では、海外の社債投資家は中国の債権者への支払いが終了しない限り弁済されないので、ほとんど元本回収できない可能性がある。サンテックは3月15日、償還期限を迎えた社債5億4100万ドル(約513億1400万円)の返済不能に陥った。この社債はケイマン諸島で登記されたもので、これをきっかけに世界銀行グループの国際金融公社(IFC)の融資を含め、ほかの融資もクロスデフォルト*2となった。 *2=債務者の借り入れの1つがデフォルトとなった場合、債務者が抱える残りのすべての借り入れについても返済期日が到来していないにもかかわらずデフォルトになったものと見なされ、債権者は債務者に返済を要求できるというもの 「海外市場で発行された中国企業の社債がデフォルトすることはめったになく、債権回収交渉は往々にして特異な状況下で行われてきた。従ってサンテックのような例では、過去の事例に基づいて結果を予想することはできない」と米有力格付け機関フィッチ・レーティングスのアジア太平洋産業格付け部門の責任者カライ・ピレイ氏。 「だがいずれにせよ、海外債権者である限り、債権の弁済順位は常に構造的に国内債権者の下に置かれるので、海外の社債保有者は、国内債権者が債権を全額、回収し終わらない限り、1セントも元本は手元に戻ってこないと考えた方がいい」(ピレイ氏)。 サンテックのデフォルトにより、中国のほかの太陽電池関連企業の社債に対する売り圧力も強まっている。 ニューヨーク市場に上場している太陽光パネルの世界大手メーカー、LDKソーラーが海外市場で発行した社債の価格は、2月半ばの額面1ドル当たり75セントから3月20日には56セントに下落。太陽電池セルの世界有数のメーカーで、負債資産比率は業界でも最も健全だと会社側が胸を張るJAソーラー(中国名:晶澳太陽能)も同日、社債価格が同95.5セントに急落した。サンテックの社債価格はこの半年、額面1ドル当たり50セントを割る水準で推移してきた。 株主は債務再編後の残存資産を甘受する以外に道はないが、債務再編が株価にどのような意味を持つかについては、意見は2分している。 北京の煒衡(ウェイヘン)法律事務所のパートナー、イン・ゼンギョウ氏は「破産処理と債務再編が成功すれば親会社の株価は好調に推移する」と楽観視している。 対照的に、株式は紙くず同然になるか、債務再編の過程で株主価値は大幅に毀損されるとの見方もある。 会長職を先日解任されたサンテックの創業者、施正栄(シジェン)氏はサンテックの株式の29%を今も保有しており、このシナリオが現実のものとなれば、甚大な損失を余儀なくされるかもしれない。 Leslie Hook and Paul J Davies (©Financial Times, Ltd. 2013 Mar. 21) 太陽電池、続く消耗戦 本来なら過当競争の末、企業淘汰が進めば太陽電池パネルの供給過剰は緩和に向かうはずだ。だが中国政府が掲げるクリーンエネルギーへの転換や地元の雇用維持が絡み、サンテックパワーは政府の救済を受ける公算が大きい。その結果、太陽電池を巡る消耗戦が続き、中国製造業の高度化、効率化は先送りになりそうだ。 新華社系経済紙「経済参考報」は3月19日付で「無錫国聯発展(集団)が無錫サンテックを全面的に引き継ぐ見通し」と報じた。サンテックパワーは1万人規模の雇用を生み出しており、地元経済への悪影響を防ぐためにも支援は不可避との見方が大勢だ。 サンテックパワーは国際的に一定の知名度を持つだけに同社が消滅すれば、中国は数少ない「広告塔」を失うことになる。政策的に環境負荷の小さい太陽電池の普及を促してきたことも、政府が支援に乗り出すとの観測につながっている。 同社の経営難は1〜2年前から顕在化しており、新鋭工場は既に無錫国聯発展が過半の持ち分を保有している。これらの工場では足元でも生産を続けているとの報道もある。 政府救済が既定路線とすれば、過去2年で7割もの値下がりを招いたとされる過剰生産能力は温存される可能性が大きい。消耗戦は中国だけでなく、世界を戦場に続く。そして政府介入が市場メカニズムの働きを妨げ、中国に不可欠な製造業の高度化の芽を摘むことにもなる。 (張 勇祥) |