01. 2013年1月30日 09:37:48
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日系工場でストライキが多発する本当の理由労務管理が厳しい割に給料が安いとの声も 2013年1月30日(水) 福島 香織 年明け早々に上海の日系工場のストライキが報道された。普通のストライキではない。ワーカーが工場を占拠し日本人経営陣ら10人を軟禁したかなり暴力的なものだ。中国人はそこまでやるのか、と驚いた人もいるだろう。表沙汰にならないだけで、労使間のトラブルで労働者側が雇用者を拉致したり、監禁したりという事件は実は、日系企業に限らず、昔から中国ではしばしば耳にする。しかし、この数年は確かに日系企業でストライキが多発しているようだ。専門家に聞けば、やはり日系企業はストライキのターゲットにされやすい背景があるという。 威圧的な労働契約条項に反発 今年に入ってから起きた、上海のストライキ事件について地元紙の報道などから改めて解説しよう。 1月18日朝から、上海市閔行経済開発区にある日系企業・上海神明電機有限公司の工場で約1000人の女性ワーカーがストライキを起こした。興奮したワーカーたちは管理オフィス棟を取り囲み、ちょうど出張に来ていた日本本社の社長ら出張者を含む日本人経営陣10人と経営管理サイドの中国人社員8人を閉じ込め、要求をのむまで外に出さない姿勢を見せるというかなり荒っぽいものだった。軟禁中はトイレに行く自由もなく、用をたすための空のペットボトルが投げ入れられただけだという。中国人社員の一人は持病の高血圧を悪化させ昏倒した。 恐れをなした企業側は、地元当局に介入を要求。19日午後11時半ごろ、300人の警察機動隊の突入によって経営陣は救出され、ストは強制解除させられた。このとき4人のワーカーが拘束された。 ワーカーたちの要請は、工場側がワーカーたちに提示した新たな契約書に盛り込まれた「49条の就業規則」の撤回だった。この企業は昨年秋、大連鵬成集団傘下の大連明進金属製造有限公司に買収されていた。日本の中堅電機メーカー・神明電機の上海工場であり、経営陣も日本人が残っているが資本上は中国企業となる。そこで経営刷新ということで、それまでの労働契約をいったん解除し、ワーカーに新しい労働契約条項を盛り込んだ契約書に署名するよう迫っていた。この新しい契約書は「覇王条款」と呼ばれるような、威圧的な厳しい条項が含まれていた。 たとえば、遅刻1回50元、遅刻2回目は100元といった罰金の大幅な引き上げや、トイレ休憩1回2分以内、2回違反で解雇という厳しい管理条項も含まれていたという。月給2000元、宿舎補助はなし、など給与、福利厚生も改悪された。しかも中国では2008年から労働契約法が施行され、ワーカーの退職時には勤続年数×平均月給の退職金「経済補償金」が支払われることになっているが、この契約書の切り替えによって、会社が買収される以前の勤続年数が加算されなくなる可能性もあると、ワーカーたちの間で広まっていた。 正直に思うところを述べれば、この新労働契約書への強引な切り替えは中国本社側の要請だろう。昨今、いずこの電機・電子企業も厳しい不況に直面し、かなり強引な従業員削減の必要に迫られている。しかし一方的に解雇すると経済補償金などの負担が大きくなる。そこで不当なほど厳しい就業規則などを押しつけて自己都合退職させるといった手法はしばしばとられている。これに抵抗するストライキやワーカーの反乱は日系に限らず起きている。 しかし、今回、ワーカーたちは、わざわざ日本から日本人社長がやってくる日に合わせてストというか社長の軟禁を行った。つまり、日本人社長ならワーカーの要求に耳を貸してくれるという期待があったのではないか。 日系企業は妥協しやすいと思われている 日系工場でストが起こりやすい背景というのは主に2つ見方がある。 1つは日系企業は妥協しやすい、と見られている部分である。 2011年秋以降は広東を中心に日系工場でストライキが連発した。この地域は2010年も日系工場ストが連発したが、2010年のストはいわゆる「賃上げ要求スト」が中心である。自動車製造業関連工場での発生が目立った。携帯電話などでネット情報に詳しいワーカーたちが、自動車業界は儲けているのに賃金が上がらないのはおかしい、と言ってストを始めた。このとき、実際に自動車企業は結構利益をあげており、またワーカーの賃金も不当に抑えられていた部分があったので、工場側が賃上げ要求に応じた。 日系自動車関連工場で成功した賃上げストは、携帯電話をつかったSNSで情報交換するワーカーたちに広がり連鎖的に広がった。このとき、「ストによる賃上げ」というこれまでほとんど成功しなかった方法が新しい労働者の権利主張手段として認識されていったのである。 それまで労働者にストの権利はなく(今も法的根拠はない)、ストをすれば警察による鎮圧が一般的なパターンだった。中国の労働争議研究で知られる常凱・人民大学教授などは日系企業の対応が中国の労使関係に新たなページを開いたとしてポジティブな評価をしている。いわく「日系企業は中国人労働者を独立した人格として扱う先進的企業文化を備えている。日経企業の対応は、中国人労働者の権利意識の目覚めとなった」。 ただ2012年のストは少し様相が違って、「経済補償金先払い要求スト」「反日デモ便乗スト」などが多い。これは電気電子関連企業に多発した。背景にはこの業界の長引く不況があり、実際に雇用条件、福利厚生が悪化していることがあるという。 また企業業績悪化で、買収や合弁などで出資者や社名やブランド名が変更になることも増えた。上海神明電機と同様、変更前の勤続年数分の経済補償金が反故にされるのではないかという不安から、今すぐ今までの分の経済補償金を支払え、という要求を掲げて行うストライキが「経済補償金先払いスト」である。実際のところ社名変更や出資者変更は労働契約に影響を与えないのだが、いったん不安に駆られストに立ちあがったワーカーを説得するのは大変だ。 深圳のある日系企業はストに屈する形で「協議金」という名目で「1カ月分の給与×勤続年数」の金を払った。この成功体験は瞬く間にネットを通じて広がり、ストは周辺の日系工場にも飛び火した。 「反日デモ便乗スト」は8、9月に起きた反日デモ暴動に便乗する形で発生した。反日デモの熱に感染して職場放棄し、日系工場で働くと売国奴扱いされるから賃上げせよ、などと要求した。 こういう便乗系のストはある意味、日系企業が足元を見られているとも言えなくない。日系企業の労使関係を専門にしている陳偉雄弁護士は「強引なストが『治安管理処罰法』違反になる可能性があると従業員に説明しつつ、地元政府の介入によって早急に決着させることが大事」といったドライな処方箋を提示している。 労務管理の厳しさが原因との声も多い 一方、日系工場でストが起こりやすいのはその労務管理の厳しさに原因がある、と指摘する声も実は多い。翟玉娟・深圳大学労働法社会保障研究所長は日系工場でストが多い理由として、(1)日系工場の管理部門の本土化が遅れている、(2)日系工場の労務管理が厳しすぎる、(3)その割に給与が低い、の3点を指摘した。 管理部門の本土化が遅れているということは、管理部門が日本人であるために、いわゆる中国人の伝統的価値観や性格などを考慮せずに、日本的価値観を押し付けることにつながる。たとえば整理・整頓・清掃・清潔といった日本では製造業やサービス業における常識が、中高を卒業したばかりの農村の若いワーカーに理解され、すんなりと受け入れられるとは限らない。親心で躾や作法を教え込むつもりで叱っても、それはメンツを重視する中国人には耐えがたい屈辱である場合もある。中国人管理職ならば、日本人にないような従業員や部下に対する厳しさもあるが、中国人ゆえにこだわらない甘さ、緩さもあるわけだ。 労務管理が厳しすぎるとは、具体的に言えば、自由にトイレ休憩や水飲み休憩が取れない、遅刻や居眠りに対する罰金などのペナルティ制を導入している、が挙げられている。また自分たちの使うトイレの掃除など、日本人的には修養と見られる仕事が、若いワーカーにとってはペナルティに感じられることもあるようだ。 また日系企業が求められている納品ノルマや検品水準は厳しく、それを維持するためのワーカーに対するプレッシャーや集中力維持の要請も厳しい。 深圳市沙井の日本ブランドDVDの組み立て工場で2008〜2009年に働いていたある女性ワーカーはこう告発する。「1分遅れると罰金1元、トイレ時間が1分超過したら罰金1元、居眠りすると罰金1元。1日12時間1カ月28日働いて給与はたったの2200元。座ってやれる仕事なのに、効率が悪い、集中力が落ちる、という理由で絶対立ってやれという。腕が腫れて休みたいというと、サボる気だな、と言われて休むなら罰金180元という。やってられない!」。 彼女は結局、地元労働局に駆け込み、調査の結果、腕の腫れを労災と認定され工場側は慰謝料を支払って和解した。 深圳の別の日系工場の日本人社員は「実際、本社が要求する検品の厳しく、ワーカーさんを気の毒に思う。性能に関係なく、目に見えないキズでも、はねられる。これをちょっと甘くするだけで、どれだけコストが浮き、ワーカーさんへのプレッシャーが軽減されるか」という。 「ドイツ系工場を見学したこともあるが、作業場の雰囲気が緩くて、道具や物の置き方も雑然としている。うちの工場の方が、整理整頓されていてワーカーさんの真剣度、集中力もずっと高い。けれど業績も給与もその工場の方がいいとなると、考えこんでしまいますね」 「きっちり」していることが当たり前の日本人には、なかなか想像のつかないストレスを日系工場のワーカーがため込んでいることも多いわけだ。しかも、80后、90后という若い世代の出稼ぎ者の特徴として、プライドや自己に対する評価が高く、親世代ほどの忍耐力もない。ストレスや試錬に弱く権利意識が高いのだ。そういう意味では、日系工場で多発しているストライキは、虐げられた労働者の権利擁護のための闘争という面以上に、何かのきっかけによってストレスがはじけたという面もあるだろう。 操業以来ストにあったことがないという広東省東莞市の日系電子部品工場を訪れたとき、毎週末のカラオケ大会といった息抜きやストレス発散のための福利厚生にかなり気をつかっていることに驚いた。問題はそこまでワーカーの福利厚生に予算をさける経営状態の工場も少ないということだが。 自己主張の強い若い労働者と向き合う 少なくない日本企業が中国の農村から出稼ぎにくる低賃金労働者に支えられている状況は、今すぐ変わるものでもない。日中政治関係が少々悪化しようが、中国の労働コストが少々あがろうが、まだまだ中国の出稼ぎ労働力がグローバル経済の中で大きな役割を果たしている。そして、昔と違って権利意識の高い、自己主張の強い若き労働者は、実家への仕送りだけでなく、自分のためにお金を使うことも知っている。 車を買いたい、お化粧をしたい、旅行したい。昨年暮れから新年にかけて、私は広東や北京や山東で、若いワーカーに集中して接触し、そういう話を聞いてきた。彼らの権利意識や欲求は新しい市場を産む可能性もあるだろう。私の個人の考えを述べるなら、日本人、日本企業はこの若い欲求の高い労働者にリスクばかりを感じるのではなくて、可能性を見て、きちんと向き合ってほしい。 福島 香織(ふくしま・かおり) ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002〜08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)、『中国のマスゴミ』(扶桑社新書)、『中国「反日デモ」の深層』(同)など。 中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス
新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。 |