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企業は中国とどう付き合えばいいのか (丹羽宇一郎氏の経営者ブログ)
2013/1/23 7:00
丹羽宇一郎(にわ・ういちろう) 1939年1月名古屋市生まれ。伊藤忠商事の食糧部門時代に穀物トレーダーとして頭角を現す。98年社長に就任すると翌年には約4000億円の不良債権処理を断行し、V字回復を達成。2010年6月、豊富な中国人脈が注目され、初の民間出身中国大使に起用された。書店経営だった生家で本に囲まれて育ち、財界でも有数の読書家。クラシック音楽鑑賞、書道、俳句と趣味も多彩。
尖閣問題で過激な反日デモが発生してから、中国で事業展開する日本企業のなかには中国からの撤退を考える企業も増えているようです。中国では労働者への経済補償金(退職金に相当)の支払いや地元政府への対応など、日本と比べて撤退の手続きが簡単ではないので、撤退のノウハウを教えるセミナーにも多くの日本企業関係者が集まると聞きます。
確かに「チャイナリスク」が高まった今回は、企業は中国での事業戦略を洗い直すきっかけになるかもしれません。第一に中国で稼ぎ続けることができるかどうか。利益を日本に還元し、研究開発や新規投資に振り向け、中国でも再投資につなげるというような循環をつくれるかどうか。日本と中国の双方に利益になるのであれば、続ける価値が十分にあります。
原材料の現地調達のしやすさ、インフラ整備の状況、労働者の質など事業分野によって異なりますが、中国での様々なファクターとリスクを照らし合わせたうえで、中国よりも適した国があると判断すれば、撤退して別の国への投資に振り向ける選択肢もあります。すでに繊維産業では中国からバングラデシュへと投資先がシフトしているようです。「中国はやはり怖い、やめたい」と及び腰になるなら、無理してとどまらないほうがいい。こちらが逃げ腰では、相手も逃げ腰でしかつきあってはくれません。成功はおぼつかないからです。
当然のことですが、みんなが撤退するから撤退する、とどまるからとどまる、というのではなく、自分自身で決断することが大事です。そしてとどまるなら、自分の工場は自分で守るという覚悟をこれまでよりも強く持つ必要があります。これは反日デモに遭遇した経営者ならお分かりになると思います。
セミナーなどで一般的な撤退ノウハウのような情報は得られるかもしれませんが、個別企業ごとに撤退すべきか、とどまるべきかなどを指南してはもらえないと思います。セミナーで情報を集めたり専門家の意見を聞いたりすることはもちろん大事ですが、中国での将来性とリスクを総合的に分析する力を一番持っているのは、具体的な事業を手掛ける当事者です。
反日デモがピークだった時、日系企業に勤める中国人従業員が職場放棄し、デモに加わったケースもありました。こうした事態にショックを受けた日系企業関係者も少なくないはずです。かねて、中国では賃上げなどを巡って労働争議が増えています。この5年間で労働者の賃金は2倍にまで上昇しました。
しかし、過去の日本を振り返ってみてください。池田勇人首相による「所得倍増計画」がスタートした1960年代以降、所得の伸びと同時に労働争議が急に増えました。現在の日本の労働争議の発生件数は年間30〜40件程度ですが、1970年代のピーク時には実に5000件にのぼり、ストライキも珍しくなかった時代です。待遇改善を求めた労働争議が増えた結果、賃金も年率3割を超えて上昇することもありました。経営者は自発的に賃金を引き上げたりはしません。労働争議を経ないと給料は増えないという事実を歴史が示しています。
中国で日本企業の方々とは、いつもこう話していました。「日本も今の中国と同じように労働争議がありました。なにも中国が特別ではありません」と。労働争議を経て従業員の給与水準があがり、日本経済は輸出主導から内需主導型の発展段階に入ったわけです。中国も日本と同じように、次の発展段階に入ろうとしている過渡期です。この時期を乗り越えると中国は内需主導型に転換し、日系企業にとっても巨大な中国市場で内需を背景にしたビジネスチャンスが拡大する可能性があります。
もちろん他国にはない、中国の特殊事情はあります。長年の反日教育のせいで、社会的な不満が反日デモという形で噴き出すリスクはついて回ります。繰り返しになりますが、当事者がリスクと可能性を冷静に分析して、経済合理性に基づき中国との付き合い方をじっくり考える機会なのです。
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