02. 2012年12月28日 09:28:11
: WaxXbB3YAI
100億円規模の資産を海外に持ち出す腐敗分子たち習近平総書記が憂える党員腐敗の深刻化 2012年12月28日(金) 北村 豊 2012年11月15日に開催された中国共産党第18期中央委員会第1回全体会議(1中全会)で総書記に選出された“習近平”は、11月17日に総書記就任後に初めて開催された18期中央政治局第1回集団学習会で演説を行い、党員の腐敗問題に言及して次のように述べた。 習近平が腐敗の撲滅を訴える 腐敗に反対し、廉潔な政治を打ち立て、党の組織を健全に保つことは、我が党が終始一貫して堅持している明確な政治的立場である。党の廉潔な政治制度の確立は、広範な幹部大衆が終始関心を払っている重大な政治問題である。“物必先腐、而后虫生(物は腐敗してから虫が寄生する)”。ここ数年、一部の国々では長期間にわたって累積した矛盾が民衆の不満や社会不安、政権崩壊を招いているが、その中で最も重要な原因は汚職腐敗である。多くの事実が物語っているように、腐敗問題がますます深刻化すれば、遂には必然的に“亡党亡国(党が滅び、国が滅びる)”をもたらすことになる。我々はこのことに警戒心を高めねばならない。ここ数年、我が党内で発生している重大な紀律違反事件は、その性質が悪らつで、政治的影響も極度に深刻で、はらはらと心乱させるものがある。各レベルの党委員会は旗幟を鮮明にして腐敗に反対し、さらに科学的有効的に腐敗を防止し、幹部が廉潔公正、政府が清廉、政治が清明となり、共産党員の清廉公正な政治的本領を永遠に保たねばならない。 習近平が演説の中で述べた“物必先腐、而后虫生”という言葉は、北宋の政治家で詩人、書家としても知られる“蘇軾”(1037〜1101年、“蘇東坡”と呼ばれる)が若い頃に書いたと言われる政治論文『範増論』からの引用であった。“範増”とは秦朝(紀元前221年〜紀元前206年)滅亡後に漢王の“劉備”と政権を争った西楚の覇王“項羽”の策士である。蘇軾の『範増論』は範増と項羽の間の複雑な関係から説き起こし、当時最強であったはずの項羽が何故に最終的に紀元前202年の「垓下(かいか)の戦い」で劉備に敗れて滅ばねばならなかったかを論じた論文である。 中国法学会理事の“光潜”が2012年12月18日付で書いたブログによれば、“物必先腐、而后虫生”という言葉は分かりにくいので、同じ意味の成語“皮之不存、毛将焉附(皮がなくなれば、毛はどこに付くのか)”で考えると分かりやすいという。すなわち、「物事は基礎がなければ存続できない」という意味で、習近平は「中国共産党が腐敗して基礎が崩れれば存続できない」という事態の切迫性を強調したのであった。 習近平が“亡党亡国”を憂えるほどに、党員による腐敗問題が中国共産党に大きな影を投げかけていることになるが、その実態はどのようなものか。最近報じられたニュースを取りまとめると次のようになる。 12年間で4兆ドルが海外に流出 【1】2012年11月号の香港誌「争鳴」によれば、10月15日付で中国共産党の“中央規律検査委員会”と“中央組織部”は、中秋節(9月30日)と国慶節休暇(10月1日〜7日)の連休期間中に出国した公職者のうちで予定通り帰国しない者が1100人余り有り、そのうちの714人は失踪と判断されるとの内部通達を行ったという。この連休前の9月22日には、中国共産党中央ならびに国務院は臨時的措置として「党・政府および国家公職者の海外逃亡を防止する指揮チーム」の成立を宣言し、副総理の“李克強”をチームリーダーとして23日から活動を開始した。同指揮チームは党・政府および国家公職者に対する監視を強化すると同時に、国内の主要な空港、港湾、国境に強力な軍隊を進駐させて守備を固め、8000人以上の特殊警察部隊の配備を28日までに完了させた。また、350台の新型偽造防止機器(偽造パスポートなどを鑑別する機器)を空港と港湾に据え付けた。このように事前に万全の対策を取ったにもかかわらず、724人もの失踪者が出たことは由々しき問題であった。 【2】2012年12月16日付でメディアが中国の航空行政を管轄する“国家民航総局”の公安局から得た情報として報じたところでは、2012年の年間を通じて、北京空港から国外に逃亡した党および政府の“処級以上(日本の「課長以上」)”の幹部は354人に上り、過去最高を記録した。彼らは家族を帯同し、はなはだしい者は愛人までも同行していた。彼らは中国国内で汚職や腐敗によって稼いだ汚れたカネを違法な手段で国外へ持ち出しており、そうした彼らが不当に国外へ持ち出したカネの総額は3000億元(4兆800億円)以上に及んだ。彼ら一人当たりの平均持ち出し額は9億元(約122億4000万円)に達したが、これも従来の記録を更新した。彼らの大多数が逃亡先として選んだ国家は米国とカナダであった。中国政府は中国共産党第18回全国代表大会(11月8〜14日、略称:“18大”)が開催される直前に海外逃亡を図る幹部が増大すると予想して、逃亡を阻止するための対策を講じていたにもかかわらず、354人もの幹部に国外逃亡を許す結果となった。 【3】シンガポールの中国語紙「聯合早報」が2012年12月19日付のニュースで次のように報じた。 (1)米国の首都ワシントンに本部を置く“世界金融誠信組織(Global Financial Integrity)”が12月17日に発表した報告書によれば、2010年に発展途上国から海外に流れた「悪銭(不当な手段で得たカネ)」は前年に比べて11%増加し、8588億ドルとなった。このうち中国から流出した悪銭の総額は4204億ドルに達し、全体の半数近くを占めた。第2位はマレーシア、第3位はメキシコであったが、中国から流出した金額はこれら2カ国の合計額の8倍の規模であった。 (2)ある国際的な財政経済調査機関が最近発表した調査報告によれば、発展途上国の犯罪活動、汚職、脱税などにより当該諸国が被る損害は巨額で、過去10年間に約6兆ドルもの資金が非合法なルートでこれらの国々から流出した。そのうちで最も深刻なのは中国で、資金の非合法な流出状況はますます激しいものとなっている。2001年以来、非合法な資金は毎年13%のペースで増大しており、国家財産は収奪され、一握りの汚職役人だけがその利益を享受する構図となっている。発展途上国から流出する資金は膨大な額にのぼっているが、その規模が最大なのは中国で、2011年に非合法なルートを経由して中国から海外へ流出した資金は6020億ドルであった。なお、2000年から2011年までの12年間に中国から海外へ流出した資金の総額は3兆7900億ドルに達している。 さて、香港の雑誌「臉譜」の2012年10月号は、「中国の汚職役人が海外へ逃亡する4つの方法」という特集記事を掲載した。同記事の要点は下記の通りである。 海外逃亡に成功する4つの方法 【1】中国の汚職役人は官界の中で世間擦れしており、長年にわたって官界に身を置いていることから、人的関係も濃密で、非常に奥深い人脈を持っている。彼らの大多数は先ず子女を商売や留学などの名目で出国させて外国の国籍や永住許可証(グリーンカード)を取らせ、その後に内外呼応して中国国内の資産を海外へ移す。彼らは「中国企業の海外投資」や「設備購入」などの名目で偽装して資産の海外移転を完了させ、最後は自分が“裸奔(身一つで逃亡)”する。 【2】これら汚職役人が海外逃亡に成功する方法には主として以下の4つがある。 (1)公用で海外視察する機会を捉えて海外逃亡する。視察名目で出国したら、後は各種の理由で帰国を拒む。中国銀行ハルビン分行河松街支店の支店長であった“高山”(持逃げ額:8億元=約109億円)は公務出張で18回のカナダ視察を行ったが、実際は自身の逃亡ルートを調査していた。貴州省交通庁元庁長の“盧万里”(汚職額:5500万元=約7億4800万円)、河南省煙草専売局元局長で、煙草公司総経理の“蒋基芳”(持逃げ額:3000万元=約4億800万円)などの役人はいずれも海外視察や旅行などの手段を通じて海外へ逃亡した。 (2)旅行団に紛れて出国した後に目的国から第三国へ方向を転じる、あるいは密入国するなどの方法で逃亡する。南アジアや東南アジアとのビジネスや旅行を目的とした往来が頻繁になったことで、中国国民の出入国が非常に簡単になったことが、汚職役人たちに海外逃亡の便利な条件を提供している。 (3)偽の身分証を使って本当のパスポートを取得する。浙江省建設庁の元庁長で、温州市副市長であった“楊秀珠”<女性>(汚職額:2億5320万元=約34億4350万円)は家族全員を引き連れて出国したが、その際に使用した証明書類はすべて偽造であった。 (4)“黒社会(暴力団)”と結託して海外逃亡を図る。米国、オーストラリアなどの国には汚職役人たちに最初から最後まで一貫したサービスを行う“華人(中国国籍を持たず、居住国の国籍を持つ中国系住民)”企業があり、彼らは地元の法律の抜け穴を利用し、当該国の弁護士と協力して、汚職役人たちに住宅購入からマネーロンダリング、さらには彼らが当該国において合法的身分を獲得するまでの一貫サービスを行う。ただし、この一貫サービスの費用はすこぶる高額である。 2011年6月13日に“中国人民銀行”直属の「アンチマネーロンダリング監視分析センター」の専門チームは『“腐敗分子”の海外逃亡に関する報告書』<注1>を発表した。同報告書は中国社会科学院の資料を引用して、「1990年代の半ば頃から2008年6月までに、海外逃亡した中国共産党および中国政府の幹部、公安や司法の幹部、国家事業組織や国有企業の高級管理職、中国資本の海外駐在組織からの逃亡者や失踪者<注2>は、合計1万6000人から1万8000人であり、その持ち出した金額の総計は8000億元(約12兆円)に達している」と述べている。 <注1>当該報告書については、2011年7月1日付本リポート「国外逃亡者、平均6億円持ち逃げ」参照。 <注2>これらの人々を総称して“腐敗分子”と呼んでいる。 経済規模の拡大で持ち出すカネも大幅増 1990年代から2008年6月までに1万8000人の腐敗分子が総額で8000億元のカネを中国から海外へ持ち出したとすれば、一人当たりの平均持ち出し額は4450万元(当時のレートで6億6750万円)となる。しかし、上述したように2012年の腐敗分子による平均持ち出し額は、北京空港からの海外逃亡者という条件は付くものの9億元(約122億4000万円)と飛躍的な増大を示しており、こんなところにも世界第二の経済大国となった中国の病弊の一端が垣間見えている。 ところで、2012年6月26日から28日まで遼寧省大連市で、世界の80以上の国と地域が参加して“国際反貪局聯合会(IAACA:国際反汚職当局協会年次会議)”が開催された。この会議に出席した中国の“最高人民検察院”の“反貪賄賂総局(汚職・賄賂取締総局)”の責任者は新聞記者の取材に答えて次のように語っている。 【1】汚職・賄賂などの腐敗犯罪容疑者は逃亡する前に、必ず財産の隠匿あるいは移転、とりわけ汚れたカネや物品を海外に移す方法を考える。通常の状況下では、彼らはマネーロンダリングを通じて汚れたカネや物品を漂白して現金に換えた後に、銀行や“地下銭荘(非合法な民間金融機関)”のルートを経由して移住先の海外へ持ち出す。受け取った不動産、貴重な書画や骨とう品などは国外への持ち出しが困難であったり、流通が制限されているので、往々にして先ず親友の名義に変更し、親友が代わりに保管して時を待ち、時期が熟したら速やかに現金に換えるか、現物を国外へ持ち出す。 【2】不完全な統計によれば、海外逃亡事案のうちで、職務を利用した犯罪容疑者の逃亡期間の最長は25年を超えているが、一般的には逮捕までの時間は総じて1年超である。汚れたカネや物品は職務利用の犯罪容疑者が国外で生存するための物質的基礎であるので、もしそれらの物質的基礎を打ち壊すことができれば、中国国内で海外逃亡を有効的に阻止することが可能であるし、国外であればその生存空間を攻撃して追い詰め、彼らを自ら帰国して自首させる、あるいは最終的に強制送還で帰国させることができる。 汚職役人の行状を国民も注目 上述した香港の雑誌「臉譜」が報じた「中国の汚職役人が海外へ逃亡する4つの方法」の中に実名が挙げられた人々はいずれも逃亡の後に自首したり、強制送還された後に裁判を経て、中国国内で刑に服しているが、中国当局が国外逃亡した腐敗分子を捕捉した件数は逃亡者の総数から考えて、さほど大きな比率ではないように思われる。だからこそ、今なお国外逃亡を図る腐敗分子の数は増大傾向にあり、減少に転じることは望み薄と思える。 こうした腐敗分子の氾濫に不満を抱く庶民が、2012年12月中旬にネットの掲示板に民間版の「第一回中国役人財産公開」と銘打った汚職役人の財産公開の一覧表を掲載した。この記事はネットユーザーの間で非常に評判を呼び、転載に転載を重ねて中国全土に流布されて喝采を浴びた。 当該一覧表(合計14件)は下表の通りである。一覧表に記載されているのはすでに中国当局によって腐敗分子として糾弾された人々で、その記載内容はメディアによって報じられたものばかりだが、これでは習近平が亡国亡党の危機を訴えるのも無理はないと思える。 (北村豊=住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト)
(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、住友商事株式会社 及び 株式会社 住友商事総合研究所の見解を示すものではありません。 北村 豊(きたむら ゆたか) 住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト 1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員
世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。 「弱い円」米中は警戒 アベノミクスに外交絡む 2012/12/28 2:02 日本経済新聞 電子版 衆院選の直前、北京を訪れた日本政府の関係者は中国政府高官から質問攻めにあった。 「安倍晋三氏が首相になったら日銀の金融政策はどう変わるのか」「円安はどこまで進むのか」「日本の長期金利は上がるのか」――。意外だったのは、安倍氏の対中姿勢を気にかける問いがほとんどなかったことだ。 ■日本国債売りの誘惑 11月の衆院解散のあと「安倍首相」が現実味を増すにつれ、市場の一部ではあるシナリオが語られ始めた。「安倍首相の誕生で、中国は保有する日本国債の売却に動く」。安倍氏が沖縄県の尖閣諸島をめぐる問題で強硬な発言を繰り返したからだけではない。日銀に大胆な金融緩和を迫り、円相場がにわかに円安方向を向き出したからだ。 2008年秋のリーマン・ショックを機に、中国は3兆ドルを超す外貨準備の運用先を少しずつドルから他の通貨に振り分けてきた。特にギリシャの債務問題でユーロが危機に陥ってからは、日本国債など円資産を買い増してきたとされる。 しかし、円安になれば人民元建てでみた円資産の価値は減る。安倍政権の下で円相場はどう動くのか。中国は尖閣問題での出方以上に、円安が気になってしかたがない。 中国共産党の中枢にいるのは、日本人が考えるよりもはるかに利にさとい人たちだ。行動の基準はただ一つ。共産党政権を維持するために有利なのか不利なのか。言い換えれば、共産党支配の前提となる社会の安定を保つために、国全体の富を増やせるかどうかだ。 共産党はいまも、改革開放の生みの親であるトウ小平氏が唱えた「韜光養晦(とうこうようかい=能力を隠して力を蓄える)」と呼ばれる外交路線を捨ててはいない。他国との摩擦をできるだけ避け、経済建設に専念するという考え方だ。 ■「政冷経熱」の予兆 トウ氏の正統な後継者を自任する胡錦濤国家主席は「尖閣をめぐって本当は日本と事を構えたくなかった」(日中関係筋)とされる。それでも日本と対立する道を選んだのは「尖閣の国有化を急げば反日世論を抑えられないというメッセージを発したのに、当時の野田佳彦首相が一顧だにしなかった」(同)からだ。 野田氏への落胆が大きかった分、安倍氏への期待は膨らむ。「日中関係が戦略的互恵関係の原点に戻れるよう努力したい」。22日、安倍氏が関係改善に意欲を示すと、中国の国営メディアはその内容を詳しく報じた。 中国側もシグナルを送る。「われわれはすでに日本側の請求を受け取っており、世界貿易機関(WTO)のルールにのっとって適切に処理する」。中国商務省は20日、日本政府が高性能鋼管に対する中国のアンチダンピング(不当廉売)課税が不公正だとして協議を要請したのに対し、短いコメントを発表した。 経済産業省の幹部が驚く。「政治的な対立があるなかで、中国がWTOのルールに基づいて日本との紛争を解決する姿勢を示すことは数年前なら考えられなかった」。米欧の保護主義的な措置に対抗するため、日中がWTOで連携する場面も増えているという。 中国はここにきて日韓との自由貿易協定(FTA)交渉にも積極的になっている。背景にあるのは、米国の主導で進む環太平洋経済連携協定(TPP)の締結に向けた動きだ。経産省幹部は「中国は日本がTPP交渉に加わり、米国との関係を強化することを警戒している」と分析する。 経済面では雪解けの兆しが出てきた日中関係。しかし、政治面では緊張緩和にほど遠い。 「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は古来、中国固有の領土である」。27日、尖閣諸島の接続水域を航行している中国の海洋監視船4隻に海上保安庁の巡視船が領海内に入らないよう警告すると、そのうちの1隻から無線で中国語の応答があった。中国船による領海や接続水域への侵入は、安倍内閣の発足後も続く。 13日には尖閣諸島の上空で中国国家海洋局の航空機が中国機として日本の領空を初めて侵犯した。防衛省筋は「レーダーが捉えられない特殊なコースを飛んだことから考えて、背後には軍がいた」と警戒を強める。 ■同盟強化との二兎 11月に胡錦濤氏から最高指導者の地位を引き継いだ習近平氏は「中華民族の復興」という言葉を好んで使う。ナショナリズムをあおるような言動は、尖閣問題での強硬な立ち位置を予感させる。習氏は政権基盤もまだ固まっておらず、日本に歩み寄る姿勢をみせれば命取りになりかねない。 日本が何よりも急がなければならないのは米国との同盟強化だ。米政府は尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象であることを、中国側に繰り返し説明している。安倍首相は中国をけん制するねらいもあり、最初の外遊先に米国を選ぶ考えだ。 ただ、ワシントンからは首相が進める円安政策に懸念の声も届く。 2期目を迎えるオバマ米大統領は09年から14年に米国の輸出を2倍に増やす目標をかかげる。安い円や人民元は米国の輸出競争力をそぎ、目標の達成を阻みかねない。産業界の反発も強い。「強いドル」はもはや米国の国益にそぐわないのだ。 首相は26日の記者会見で「日米同盟をあらためて強化していくことが、外交立て直しの第一歩だ」と言い切った。だが、景気の先行きに不安を抱える米国は、日本に経済面でさまざまな要求を突きつける可能性もある。円安誘導と日米同盟強化の二兎(にと)を追う道はそれほど広くない。 経済再生を実現するには中国との関係を修復し、巨大な需要を取り込む必要がある。日米同盟の強化はその前提となるが、「弱い円」は米国の日本に対する視線を変えるきっかけになるかもしれない。首相が解かなければならないのは、経済と外交が絡み合う複雑な連立方程式である。 (政治部次長 高橋哲史) http://www.nikkei.com/article/DGXNNSE2INK01_X21C12A2000000/
|