04. 2012年12月25日 02:02:24
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安倍新政権誕生で日中関係は好転? 中国はなぜ意外な期待を抱くのか 2012年12月25日(Tue) 姫田 小夏 12月16日、第46回衆議院議員総選挙で自民党は294議席を獲得し、自公連立では325議席と、定数の3分の2を超える「圧倒的多数」を確保する結果となった。2013年夏の参院選の結果や連立の枠組み次第で、いよいよ憲法改正発議も現実味を帯びてくるだろう。 翌日の12月17日、上海の日刊紙「東方早報」は「自民党帰来、安倍帰来」と、自民党の政権奪回と安倍政権再来の見出しを掲げ、今後の日中関係の見通しについて取り上げた。 興味深いのは、「日本の右傾化」「軍国主義」「開戦」などのキーワードを使った従来の挑発的なコメントに代わって、今の日中関係を冷静に捉えようとする専門家たちの意見が紙面に現れていたことだ。憲法改正を唱え、自衛隊を「国防軍」に改称しようとする安倍新政権に警戒感を抱きつつも、その論調にはある種の期待感が感じ取れた。 例えば、同紙は上海国際問題研究学院副主任・呉寄南氏の次のようなコメントを紹介している。 「安倍氏は魚釣島に公務員を駐在させ、憲法改正を唱え、また自衛隊を国防軍に昇格させ、さらには愛国教育に力を入れようと主張している。だがその一方で、別の可能性も持っている。それは日本と中国の悪化局面を打破するということだ」 「安倍氏は中国に対して激しいことを言いつつ、高村正彦(元外相・元防衛相)を自民党副総裁に任命した。彼の中国人脈を利用し、また今後、中国での交渉を進めるルートとして、谷内正太郎(元外務事務次官)、宮本雄二(前在中国特命全権大使)らに中国とうまく付き合わせるつもりだ」 最近、日本で安倍晋三氏の腹心と接触を持ったという呉氏は、「安倍氏の選挙演説と実際の政策には異なるものがある」と見ているのだ。 同学院のアジア太平洋研究センター研究員の蔡亮氏は、安倍氏が「文藝春秋」(2013年1月号)で発表した政権構想の中の「(2006年10月)私の総理としての最初の訪問先が中国だったことをお忘れなのかもしれない。私は当時の胡錦濤国家主席や温家宝総理と、新たな日中関係として『戦略的互恵関係』を築くという合意に達しました」という言葉を引用し、次のように結んだ。「保守的色彩を強めるものの、安倍氏は周辺国家との関係を重視しており、政党の綱領と実際の政策はイコールで結ぶことができない」。蔡氏は、安倍内閣が与える印象は不安と憂慮だとしつつも、「幾分の期待」をにじませる。 安倍夫人は中国で人気? 安倍氏が、靖国参拝も辞さない“タカ派”の政治家であることは間違いない。にもかかわらず、中国の安倍氏への期待はどこから来るのだろうか。 選挙前の11月、上海在住のある女性企業家はこう語っていた。 「私は安倍さんが首相になれば、日中関係は少しは改善すると思います。安倍さんというよりはむしろ奥さんに期待しています。そういう見方をする中国人は少なくありません」 確かに、中国の検索サービス「百度」に安倍夫人の昭恵氏の名前を入力すると、好意的な評価がズラズラと出てくる。例えば、かつて安倍氏が首相に就任した2006年に書かれたと思われる、こんな文章がある。 「安倍昭恵、日本の首相・安倍晋三の妻。日本史上最も若く、最も人気で注目度が高いファーストレディ。日本の歴代首相夫人の“三歩下がって影踏まず”という典型タイプを打ち破る」 「容貌もよく、スタイルもよく、服のセンスもいい。夫の支持率の20%は彼女の貢献によるものだ。内助の功ならぬ、安倍氏の“秘密兵器”と言えるだろう」 昭恵氏の快活で外向的な性格、“非凡な酒量”とまで書かれる酒豪ぶりが中国人には親しみやすく映るようだ。2006年当時、安倍氏自身は「民族主義者で改憲論者」というレッテルを張られ警戒されていたが、昭恵氏の方は、中国をはじめとするアジア諸国に目を向けた友好的な姿勢が高く評価されていた。 中国の音楽家が立役者となった昭恵氏の訪中 昭恵氏は何度かプライベートで中国を訪れている。2006年5月の初めての訪中は、中国では「密使之旅」と報じられた。振り返れば当時、小泉純一郎首相の靖国参拝を発端に、日中関係は悪化していた。2005年4月、歴史教科書問題や日本の国連安保理常任理事国入り反対を唱える反日デモが北京や上海などで繰り広げられ、日中経済は大打撃を受けていた。昭恵氏の初訪中は、反日感情の高ぶりが完全には消えない中で、静かに実行された。 実は、この訪中の立役者となった人物が存在する。京胡(京劇で使われる中国の弦楽器)奏者の呉汝俊(ウー・ルーチン)氏である。 呉氏は1963年南京生まれで、日中両国で活躍するアーティストだ。2003年に日本ゴールドディスク大賞特別賞を受賞するほか、2005年のNHK大河ドラマ「義経」の音楽に参加し、大河ドラマ「大化改新」では役者としても出演している。彼のブログによれば、父は京劇劇作家にして演出家、母は京劇の男形役者、妹は京二胡(京劇で使われる中国の弦楽器)奏者、そして妻は日本人の登山家だという。 日中両国のサイトの情報によると、昭恵氏は以前から呉氏の筋金入りのファンであり、呉氏と家族ぐるみの付き合いがあったようだ。中国の6大地方ニュースサイトの1つである「四川新聞網」は、「安倍晋三訪華の内幕、京劇芸術家が密かに取り持つ」と題し、次のような裏話を明かしていた。 2006年4月末、日本で呉夫妻が開いたホームパーティーに昭恵氏が招かれた。同年秋に行われる自民党総裁選を前にして、呉氏は中国の各界の要人と交流することの意義を昭恵氏に説いた。同時に、「中国に行って、安倍氏が日中友好の第一人者になろうとしていることを伝えてみては」と促した──。 この役割は、安倍氏が実施するであろう政策を説明し、事前に中国国民に気持ちを伝えるという、“中国側に心づもりを持たせる”上で重要な意味を持つものだった。 この逸話から筆者が思い起こすのは、日中国交回復を実現させた「バレエ外交」である。1972年7月、上海舞劇団が東京の日生劇場で「白毛女」を上演したが、その傍らで日中国交正常化に向けた初の公式折衝が行われていた。 上海舞劇団は当時、孫平化氏(元中国日本友好協会団長)を団長に総勢208人が訪日したのだが、本当の目的は団員に知らされていなかった。「革命の勝利を宣伝しに行くと思っていた」という団員もいたほどだ。 筆者は当時のバレリーナの1人に上海で面会したことがあるが、彼女はこう語っていた。「バレエを通しての外交が行われているとは知りませんでした。実は重要な任務だったということは後から知ったのです」 その劇場では、三木武夫国務大臣、中曽根康弘通産大臣とともに、自民党、社会党、公明党の代表たち、日本政府要人らが、孫平化団長および肖向前駐日代表(当時)と“廊下外交”を行っていた。「白毛女」が日中国交回復の序曲となり、日中間に新たな歴史をもたらした、というわけである。 安倍夫妻の訪中で日中関係が雪解け 昭恵氏の「密使の旅」を伝える中国語サイトには「チャイナドレスで現れた昭恵氏の姿に、中国のトップたちが感動した」との一文も残っている。政治的野心や術策ではなく、一個人として中国文化への親しみや関心を体現する昭恵氏に、中国の人々が心を動かされた様子が伝わってくる。 そして、3カ月後の2006年9月26日に安倍氏が首相就任。最初の公式訪問国に中国を選び、首相就任からわずか12日後の10月8日に安倍夫妻は北京国際空港に降り立った。この訪中は、冷え切った日中関係の氷を砕くものとされ、「破氷之旅」と中国側から大きな評価を得た。 安倍氏は温家宝総理、胡錦濤国家主席らと人民大会堂で会談し、胸襟を開いて両国の未来について語り合った。外務省ホームページによると、「安倍内閣総理大臣の中国訪問」は「今次訪中が、日中関係をさらなる高みへと導く契機になった」とし、「戦略的互恵関係を築きあげていくことで一致」したとしている。 日中関係の雪解けは日本国民の対中感情をも好転させた。小泉政権で下降線を描いた「中国に対する親近感」(内閣府調査)は、反日デモのあった2005年の32.4%(78年の調査以来最悪の数字だった)から34.3%へと上昇した。 安倍氏の2つの顔に期待 さて、今回はどのような展開となるだろうか。産経新聞(12月17日付)は、中国現代国際関係研究所日本研究所の馬俊威副所長による警戒感と期待感がないまぜになったコメントを紹介している。 「安倍晋三氏は2つの顔を持っている。領土と安全保障問題で強靭姿勢を崩さないと見られるが、日本企業の中国での利益を守るため、経済面などで温和な対中政策を取る可能性がある」 昭恵氏の父は森永製菓の元社長でもある。森永製菓は2010年に中国浙江省に新工場を開設するなど、中国への積極展開を進めており、ここで生産する「ハイチュウ」は中国の小売店で扱われ、中国都市部では身近で人気の高い菓子となっている。日本企業にとっての中国市場の意味と重さは、安倍新首相にとっても他人事ではないだろう。 「日本は中国に投資をし、利益を上げていると同時に、中国も日本の投資によって1000万人以上の雇用を生み出している。つまり切っても切れない関係です。この関係を壊さないという共通の認識を持つ、その上において、政治問題を解決していく。これこそが、戦略的互恵関係であります」(安倍氏、「文藝春秋」2013年1月号) 「戦略的互恵関係」とは2006年に安倍氏が胡錦濤主席との首脳会談で打ち出した言葉だ。それが生みの親の元に戻ってきたわけである。 「2つの顔」を持つ安倍氏は、2度目の日中関係改善を実現できるのか。国土を守り、経済をも発展させようという安倍新政権の今後に期待が集まる。 マスコミが伝えない中国の対日攻撃ミサイル 本当の脅威は北朝鮮の「銀河3号」ではない 2012年12月25日(Tue) 北村 淳 12月12日に実施された「銀河3号」の打ち上げに伴い、何らかの破片が降ってくるかもしれないということで、日本のマスコミの多くは「弾道ミサイル発射」と大騒ぎをしていた。 しかしながら、銀河3号の破片落下の可能性程度で長射程ミサイルの脅威を騒ぎ立てるのならば、“銀河3号の破片”とは比べ物にならないほどはるかに深刻な弾道ミサイルの脅威を国民に知らしめ、その脅威を取り除く対策を急ぐよう政府・国防当局に対する世論を盛り上げるべきである。にもかかわらず、真の脅威には目をつむり、瑣末な事象で脅威をあおる姿勢は、イエロージャーナリズムとの誹りを免れないと言えよう。 日本には直接的な脅威ではない「銀河3号」 銀河3号そのものはミサイルではなく人工衛星を地球周回軌道に押し出すローンチビークルであるが、銀河3号の技術を軍事的に使用すると大陸間弾道ミサイル(ICBM)へと発展させることができる。 「テポドン2号」弾道ミサイルの改良型と見られている銀河3号は、1万キロメートル以上の射程距離を確保したものと韓国軍当局ならびに韓国政府は判断している。したがって、3段ロケットの銀河3号に攻撃用弾頭を搭載すれば、アメリカ西海岸を射程圏に収めるICBMが誕生することになる。そして推力をさらに強化できれば、アメリカ全土を攻撃可能な射程距離1万3000キロメートルを達成することができる。北朝鮮のロケット技術の進捗状況から判断すると、2〜3年以内には射程距離をあと3000キロメートル延長することは可能であろうと見なされている。 ただし、弾頭を取り付ければICBMが誕生するとはいっても、弾道ミサイル弾頭の技術開発は極めて困難である。効果的に敵を攻撃するための弾道ミサイル弾頭を開発するには、少なくとも数回の実射テストが必要である。この種の試射の場合、人工衛星の打ち上げといった口実は全く通用しない。ミサイル技術開発自体の困難さに加えて、アメリカ・韓国・日本をはじめとする国際社会からのより強力な経済制裁を幾度も凌ぎながらミサイル弾頭開発実験を繰り返さなければならないことになる。したがって、米軍などの弾道ミサイル技術専門家たちは、北朝鮮がアメリカ攻撃用ICBMの開発に成功する道は遠いと考えている。 いずれにせよ、銀河3号の開発そのものが直接軍事的脅威となるのはアメリカであり日本ではない。 ただし、銀河3号発射成功に用いられた技術から、日本にとって直接的脅威になるであろう技術も存在する。例えば、韓国国家情報院によると、銀河3号の3段目ロケットには高度なロケット技術である誘導操縦技術が使用されていた。したがって、北朝鮮の弾道ミサイル発射技術は相当進展していると考えなければならない。 そして、北朝鮮は日本を攻撃可能な弾道ミサイルを極めて多数配備しているのである。それらの日本攻撃用弾道ミサイルの性能も、銀河3号同様に向上していると考えなければならない。すなわち、日本が直面している脅威は増大しているということになる。日本が警戒すべきは銀河3号ではなく日本攻撃用弾道ミサイルの存在なのである。 北朝鮮の日本攻撃用弾道ミサイル 朝鮮人民軍戦略ロケット軍は韓国や日本を射程圏に収める数種類の弾道ミサイルを多数保有している。それらのうち「スカッドER」ならびに「ノドン」は日本攻撃に使用することができる。 スカッドERの最大射程距離はおよそ800キロメートルと言われているため、北朝鮮南部から発射するとかろうじて大阪に届くことになり、阪神地方から長崎までを射程圏内に収めている。ただし、最大射程がおよそ1000キロメートルという情報も(「朝鮮日報」2009年7月6日)あり、もしその情報の通りであったならば、新潟と浜松を結ぶラインより西側の日本のほぼ半分と小樽以南の日本海沿岸全域が射程距離に収まってしまうことになる。 このミサイルの詳細は確認されていないため、正確な命中精度は不明であるが、最も進化したスカッドミサイルと考えられるため、1990年代に最新であったスカッドCの命中精度(CEP:Circular Error Probability=50メートル)と同等かそれ以上の精度と考えられる。 CEPが50メートルであると、例えば原子力発電所や石油貯蔵施設のように、敷地内のいずれを破壊しても甚大な被害を生ぜしめる目標に対しての攻撃は可能である。 (原子力発電所に対する攻撃は、なにも原子炉そのものが破壊されずとも、コントロールセンターや電源供給施設や汚水処理設備などが破壊されると甚大な被害が生じることは、福島第一原発事故が示している) 朝鮮人民軍はおよそ350基のスカッドERを配備しており、地上移動式発射装置(TEL)から発射されるため、どこからでも発射可能である。 最大射程距離がおよそ1300キロメートルと見られている「ノドン」は、まさに対日攻撃用弾道ミサイルと考えるべきである。朝鮮人民軍は、このミサイルを用いて先島諸島と小笠原諸島を除く日本のほぼ全域を攻撃することが可能である。 このミサイルはイランやパキスタンに輸出され、それぞれ「シャハブ3型」「ガウリ1型」と呼ばれ、3カ国においてそれぞれ数回ずつの発射実験が行われているものの、詳細に関しては正確なデータは公表されていない。命中精度は低くCEPが2000〜3000メートルと言われており、とても特定の目標を狙って攻撃する兵器とは見なせず、「恐怖を引き起こす」兵器と見なされている。北朝鮮は少なくとも200基のノドンを配備していると見なされており、スカッドER同様TELから発射される。 (CEP=3キロメートルということは、攻撃目標を中心として半径3キロメートルの円内に発射したノドンの半数の着弾が見込めるということである。弾道ミサイルの国際水準に照らすと、「どこに着弾するか分からない」といった状態であり、攻撃目標以外の幅広い地域にも被害が生じる) このように、北朝鮮は日本のいずれかの場所を攻撃することができる長射程ミサイルを、少なく見積もっても550基は保有しているのである。 したがって、日本のマスコミは「銀河3号」の破片が落下する可能性を取りざたして国民の恐怖心を煽るような報道をするよりは、北朝鮮はすでに日本を攻撃する能力がある多数の弾道ミサイルを配備している現実を国民に伝え、日本に突きつけられている軍事的脅威にどのように対処すべきなのかを真剣に考える手がかりを提供する義務がある。 北朝鮮人民軍の対日攻撃長射程ミサイル 拡大画像表示 中国の長射程ミサイルの方がはるかに深刻な脅威
もっとも、いくら朝鮮人民軍が数百発のスカッドERとノドンを発射して、日本各地の数百カ所を火の海にする軍事能力を持っているからといっても、また現在の日本・北朝鮮関係が劣悪であるからといっても、北朝鮮によるミサイル攻撃が直ちに敢行されたり、北朝鮮がミサイル攻撃を恫喝の道具として日本を脅迫したりするための“口実”が見当たらない。 つまり、北朝鮮政府が日本政府に押し付ける何らかの政治的要求がなければ、軍事攻撃や軍事脅迫の口実は生まれない。現時点では北朝鮮が多数の対日攻撃用弾道ミサイルを保有していても、それらを使用する口実がないのである。 そう考えると、北朝鮮とは比べ物にならないほど日本側が恐怖を明確に認識しなければならないのが、中国である。中国は、大量の対日攻撃用長射程ミサイルを保有するとともに、それらを恫喝(場合によっては攻撃)に用いるだけの口実も(もちろん国際関係では一方的な口実で足りるのである)手にしているのである。 中国人民解放軍の戦略ミサイル軍である第二砲兵隊が保有する弾道ミサイルである「東風21型」と長距離巡航ミサイルである「東海10型」ならびに「長剣10型」は、全て日本全土を射程圏に収めている。それらのミサイルは、満州東部地域あるいは山東省の沿海地域に展開する移動式地上発射装置(TEL)から発射される。東風21型はおよそ100基、東海10型・長剣10型は合わせておよそ600基が配備されており、それらの数は急増しつつある。 中国人民解放軍の対日攻撃用長射程ミサイル 拡大画像表示 第二砲兵隊だけでなく、中国空軍は満州東部地域上空や上海沖上空のミサイル爆撃機から発射する「長剣10A型」やその改良型の長距離巡航ミサイルで日本全土を攻撃することができる。同様に、渤海湾や山東半島沿岸海域や上海沖など中国海軍にとって安全な海域に位置する駆逐艦からも、艦上発射バージョンの「東海10型」で日本全土を射程圏に収めている。さらに、中国海軍の最新鋭攻撃原子力潜水艦は、西太平洋に進出して日本列島を太平洋側から長距離巡航ミサイルで攻撃する能力を持っている。
北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイルと違い、中国の対日攻撃用弾道ミサイル・長距離巡航ミサイルの性能は格段に優れている。それらの命中精度だけを見ても東風21型(最新のDF-21C)のCEPは30〜40メートルであり、東海10型や長剣10型といった長距離巡航ミサイルのCEPは10メートルと推定されている(ちなみにアメリカ軍やイギリス軍が配備しているトマホーク長距離巡航ミサイルのCEPは10メートルである)。 したがって、中国軍は長射程ミサイルを用いて攻撃目標に対する精密攻撃を実施することが可能であり、例えば原発の制御施設、重要変電所、石油精製所のタンク、防衛省本庁舎A棟、首相官邸などをピンポイントで攻撃することが可能である。 中国人民解放軍の対日攻撃概念図(『尖閣を守れない自衛隊』より) 拡大画像表示 「戦わずして勝つ」ための最適のツールが長射程ミサイル
北朝鮮と違い日本は中国とは国交もあるし、貿易や文化交流もより盛んに行われてはいるが、国家間武力紛争の最大の要因となり得る領土・領海問題を抱えている。そして、民主党政権による誤った外交的対応のために、尖閣紛争解決のために中国共産党政府が軍事力を何らかの形で用いかねないレベルへと緊張度は高まっている。 軍事力を用いるといっても、軍事攻撃が即座に開始されるわけではない。軍事力の行使と戦闘を、そして戦争と戦闘を混同してはならない。軍事力を恫喝の道具として用いて日本政府や国民を脅迫し、中国政府の要求を日本側に無理やり受諾させるのも、軍事力の行使である。 特に「孫子」の伝統を持つ漢民族にとっては、軍事力を剥き出しで使うのは拙劣な軍事力の使い方であり、極力戦闘を避けて軍事的威嚇や軍事力を背景にした恫喝、それに欺瞞・買収・篭絡を含んだ情報工作によって「戦わずして勝つ」ことこそ軍事力保有の目的なのである。そして、「戦わずして勝つ」という目的にとって最適のツールが、弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルといった長射程ミサイルなのである。 中国政府が、いよいよ腹をくくって軍事力を用いてでも尖閣諸島や東シナ海の境界線を確定しようと決意した場合には、日本政府に対して中国側の要求を受諾しない場合には上記の長射程ミサイルで各種発電所や石油備蓄施設や石油精製所といった社会的インフラを攻撃する可能性を示唆する軍事恫喝を実施するであろう。 このような長射程ミサイル攻撃が敢行される場合には、「飽和攻撃」といって短時間に100〜200発あるいはそれ以上のミサイルが日本各地の戦略目標に向けて発射されることになる(ちなみに、2011年3月の多国籍軍によるリビア攻撃に際して、米英軍は161発の長距離巡航ミサイルによる飽和攻撃を実施した)。 現状では、日本にはそのような多数の長射程ミサイルによる飽和攻撃から国民を守るための防衛能力は存在しない(この実情に関しては次回記述する)ため、実際に攻撃を受けた場合には電力供給をはじめとする日本の社会的インフラは瞬く間に壊滅し、日本は破滅する。 日本の頼みの綱である米軍救援部隊の出動も、中国による恫喝の段階では実現しない。したがって、日本政府が取り得る選択肢は中国の脅迫に屈するのみである(中国の日本に対する恫喝に関しては拙著『尖閣を守れない自衛隊』宝島社新書、を参照されたい)。 日本側は、中国公船による尖閣諸島海域への接近や侵入それに領空侵犯などを騒ぎ立てているが、そのような「目に見える形の威嚇行動」とは比較にならないくらい日本にとり深刻な軍事的脅威は、中国各軍が日本に突きつけている各種長射程ミサイルなのである。 銀河3号の破片が降ってくるかもしれない程度の事態で大騒ぎする日本のマスコミが、日本に突きつけられている中国の東風21型や東海10型をはじめとする各種長距離巡航ミサイルの危険性とそれへの対抗策構築の急務について、なぜ騒ぎ立てないのか? 極めて理解に苦しむところである。 日本の総選挙:奇跡の復活を遂げた安倍氏 2012年12月25日(Tue) The Economist (英エコノミスト誌 2012年12月22・29日合併号) 死地から復活した自民党だが、印刷機のスイッチのありかを忘れてはいない。 26日に首班指名を行う特別国会で安倍晋三氏が首相に就任する〔AFPBB News〕
12月26日に首相に就任する安倍晋三氏は、早くもうまい話を提示している。 12月16日の総選挙で見事に政権に返り咲いた自民党の総裁は、自らが率いる「危機突破」内閣の主要な目標として、デフレによって弱体化した経済の建て直しを掲げた。 手始めとして中央銀行に経済を再膨張(リフレート)させるよう圧力をかける可能性が高い。その次に来るのは巨額の公共投資だろう(国中をコンクリートで埋め尽くすことは自民党のお家芸だ)。 貿易に悪影響を及ぼしている中国との緊張については、タカ派の安倍氏もひとまず脇に置いておこうと考えている。 今回の驚くべき大勝によって、2006年から2007年にかけての任期では惨憺たる結果に終わった安部氏が再び首相の座に就く。加えて、2009年の総選挙で大敗を喫した政党が政権に返り咲くことになる。 消去法の結果、大勝した自民党 安部氏自身、今回の選挙で有権者が自民党を圧倒的に支持したのは、同党やその理念が支持されたからではなく、内部分裂によって政策を定めることさえままならない民主党に国民が失望したためだということは認めている。選挙では10を超える政党がひしめき合い、自民党を支持しない層の票が割れた。 ある新聞のコラムニストは自民党の勝利について、食べたいものが何もないメニューからカレーライスを選ぶようなものだと表現している。つまり、一番ましな選択だったということだ。一方で、自民党の恐るべき組織力もいくらかは貢献している。 自民党は連立を組む公明党と合わせて325議席を獲得し、480議席の衆議院で「圧倒的多数」を確保した。これは野党が多数派を占める参議院の拒否権を覆すために必要な、3分の2を上回る議席数だ。 驚くべきことに、自民党は大敗を喫した2009年より400万近く獲得票数が少なかったにもかかわらず、この圧倒的多数を実現した。言い換えれば、民主党への支持が崩壊したということである。 有権者は3回連続で両極端に揺れ、現政権の不支持に回った。このような不安定さを考えると、2013年7月の参議院選挙でも自民党が圧勝すると予想するのは時期尚早だ。有権者が風見鶏のようにくるくる方向を変える状況が、今や普通になったのだ。 しかし、ここ数年著しく欠落していた断固たるリーダーシップを示されれば、有権者は落ち着きを取り戻すかもしれない。 経済の建て直しを最優先 新政府は大規模な財政出動に乗り出し、日銀に一段の金融緩和を迫る〔AFPBB News〕
安倍氏は経済の建て直しに力を注ぐと約束している。 さらなる金融緩和によって過去15年で5度目の景気後退を終わらせるだけでなく、10兆円規模になると思われる爆発的な公共支出も指示している。これは既に国内総生産(GDP)比200%超の債務を抱えた国によるさらなる借金で賄われる見込みだ。 大企業を中心に構成される圧力団体、経済団体連合会はこれらすべてに落胆している。経団連が安倍氏に望むのは生産性の向上であり、そのために農業や医療の自由化などを要求しているが、これらの分野はどちらも自民党の支持基盤だ。 それでも、安倍氏が日銀を押し切ることができると投資家たちが考えたためか、選挙翌日の株価はここ8カ月以上で最高値を記録した。また、これまで円高が続いていた為替相場も「アベノミクス」に反応する形で、過去20カ月で最も安い、1ドル=85円に近い水準にまで下落した。 安倍氏は日銀に対し、2%という厳しいインフレ目標の設定を求めている。現在、日銀はインフレ目標を設定しておらず、より曖昧な目標(めど)としてわずか1%という数字を挙げている。選挙期間中には、日銀が自らの独立性を熱く擁護するという騒動もあった。 しかし、本誌(英エコノミスト)が印刷に回された時点で、日銀はインフレ目標について話し合っていたようだ。 これは日銀がある種の休戦を望んでいることを示唆している。ただし、まだ自由の身にはなっていない。安倍氏は日銀法の改正を提案しており、これにより日銀の独立性が減じる可能性がある。また、安倍氏は日銀を引受人とする公債の発行も口にしていた。 たとえこれらの脅しを実行しないことに決めても(こうした「財政ファイナンス」は極めて型破りだ)、現在の日銀総裁の白川方明氏が2013年4月に任期を満了した際に、安倍氏はより自分と考えが似た総裁を任命するかもしれない。 安倍氏は12月26日まで内閣の陣容を発表しないが、主要閣僚は既に判明している。その1人が72歳の麻生太郎氏だ。やはり首相経験者で、漫画好きの麻生氏は、2009年の選挙で自民党が敗北した際の総裁だった。麻生氏は財務相に就任すると噂されている。 麻生氏は確実な経済成長を望むだろう。次の参議院選挙で自民党が勝利し、2014年に予定されている消費税率の引き上げを可能にするためにも、経済成長は後押しになる。財政赤字の拡大に歯止めをかけるには、消費税率の引き上げは重要な一歩だ。 麻生氏と安倍氏の腹心である菅義偉氏が、政府のスポークスマンでもある官房長官という重要な役職を任される見込みだ。安倍氏が悲惨な結果に終わった2006年と同じように、お友達内閣をつくるのではないかと懸念する声もある。 ただし安倍氏は、以前に総裁の座を争った現実主義者の石破茂氏を党の幹事長として留任させている。これは仲良しグループ以外の者も受け入れるという寛容さの現れなのかもしれない。 安倍新首相に付きまとう2つの不安 安倍氏の頭上には2つの問題が垂れ込めている。1つ目は58歳になった安倍氏の体力と精神力だ。2007年、安倍氏は極度の心労にさらされ首相を辞任した。安部氏は腸疾患に長年悩まされている。現在はきちんと薬を服用していると述べているが、この病気はストレスの影響を受ける。 もう1つの問題は安倍氏が国家主義者であること、日本による戦時中の悪事の中でも最悪の部分に触れたがらず、さらには否定する傾向があることだ。領土問題を巡って緊張が高まっている今、安倍氏は日中関係や日韓関係を損ない、日本国内でも一般の国民をうんざりさせかねない。 元外務官僚で現在は慶應義塾大学に所属する谷口智彦氏は、安倍氏は民主党政権下で不安定になった米国との関係強化に努めると予想する。続いて、オーストラリア、インドといったアジアの民主主義国との関係強化に向かうとのことだ。 ただし、谷口氏によれば、中国、韓国との関係改善は優先度が低くなるとはいえ、安倍氏は前回首相だった時に経験した「痛みを伴う失敗」から何かを学んだはずだという。安倍氏は当時、首相として「愛国心」や「正義」について語ったが、有権者の耳にはほとんど届かなかった。 米国が主導する自由貿易協定、環太平洋経済連携協定(TPP)への日本の参加に関しては、安倍氏は意向を明確にしていない。経団連は参加を強力に支持している。農家をはじめとする自民党の支持基盤は反対している。安倍氏は個人的には賛成の立場のように見える。 近隣諸国の指導者の反応 日本の近隣諸国が、安部氏のもとで領土や歴史を巡る問題に関する緊張緩和を許容するかどうかは、これらの国々の新しい指導者にかかっているのかもしれない。 中国共産党の最高指導者、習近平氏の態度ははっきりしない。安倍氏の見解への嫌悪感よりも、現実主義が勝る可能性もある。本誌が印刷に回された時点で、韓国では大統領選挙が行われていた。 戦後は戦争犯罪容疑者として逮捕され、その後首相の座に就いた岸信介氏を祖父に持つ安倍氏は、有罪判決を受けた戦犯を含む戦死者がまつられている東京の靖国神社に参拝するかどうかを明言していない。もし参拝すれば、近隣諸国からの反発が予想される。 しかし、仮に安倍氏が自制し、経済の立て直しに専念すれば、日本の国外における立場に奇跡的な効果をもたらす可能性もある。熱狂とはほど遠い態度で安倍氏を政権の座に呼び戻した有権者にとっても、予想すらしなかった感謝の贈り物になるだろう。 JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] 世界の指導者が参照すべき新年の指針 2012年12月25日(Tue) Financial Times (2012年12月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
新年の抱負は破られるために立てられる。このため、政治家が1月1日に掲げるお決まりの空約束は勘弁してもらいたい。だが、経験から教訓を引き出すことに害はない。 そのつもりで、以下に、政治指導者が2013年の進路を描く際に参考になるかもしれない交通規則をいくつか挙げてみた。 ■友人を作り、次に・・・ イラクとアフガニスタンでの米国の戦争は雄弁にハードパワーの限界を証明してみせた。軍事力は常に重要だが、経済的な相互依存によって密接に絡み合った世界では、友人を作り、人に影響を与えることも軍事力と全く同じくらい重要だ。 習近平氏は強硬路線を取ると見られているが・・・〔AFPBB News〕
一般に、習近平氏は中国の力を行使するうえで、退任する胡錦濤氏よりも強硬な路線を取ると見られている。 南シナ海および東シナ海での領有権争いを巡る中国政府と近隣諸国との緊張は、日本の選挙で国家主義の色彩の濃い安倍晋三内閣が誕生することによって和らぐことはないだろう。 しかし習氏は、国際関係については「好機を待て」というケ小平のアプローチを中国が放棄して以来、何が起きたかよく考えた方がいいだろう。近隣諸国は中国に背を向けるようになり、バラク・オバマ大統領の「旋回」は、太平洋国家としての米国の復活をもたらした。 中国は自国に大きな代償をもたらすことなく、日本に経済戦争を仕掛けることはできない。強国でさえ、同盟国が必要なのだ。 よそに目を向けると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はしばしば、孤立して大喜びしているように見えた。その結果どうなったか? ロシアの世界的な影響力は、国連での議事進行妨害に成り果てた。イスラエルは完全に孤立し始めたように見える。 ■何かする 政治に関して最も忘れられがちな教訓は、何もしないことが政策の選択肢になるということだ。しかもこれは、断固たる政策と全く同じくらいリスクが大きいこともある選択肢だ。 無為に過ごす危険性を理解した方がいい指導者の1人が、フランスのフランソワ・オランド大統領だ。筆者のパリの友人たちは、オランド大統領は、フランスがユーロ圏の一部パートナー諸国と同じ運命を避けるためには、経済の競争力を取り戻すことが焦眉の急だということを十二分に知らされていると話している。 しかし今のところ、オランド大統領は大したことをやらずに満足している。市場の信認の危機に強いられる改革は、大統領にとってもフランスの有権者にとっても、自発的な改革よりずっと大きな痛みを伴うだろう。 ここに、ユーロ圏にとって大きな教訓が潜んでいる。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は誰もが認める欧州の指導者になったかもしれないが、ユーロ危機に対する異様なまでに慎重なアプローチは、かなり大きな代償を伴った。もしユーロが今安全に見えるのだとしたら、それは欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁の積極行動のおかげだ。 危ないのは、ドラギ総裁の大胆さを見て、各国政府が――債権国も債務国も一様に――持続的な回復を確実にするために必要な難しい選択を再び先送りしていることだ。 ■歩きながら・・・ あまりに多くの指導者が1度に1つのことしかできないと考えている。彼らは二者択一の政治に陥っている。二者択一ではなく、両方ともやらなければならない。ワシントンが発するメッセージを見る限り、オバマ大統領は米国の再建を2期目の野心として掲げたようだ。 解決困難な外交政策の問題――最も明白なのがイスラエルとパレスチナの対立――は、今後も二の次にされる運命にある。かつて、米国大統領たる者は歩きながらガムを噛めなければならないと言った人がいなかったか? オバマ大統領は国内問題だけに専念することはできない〔AFPBB News〕
経済を正すことは、すべての指導者の最大の関心事になるだろう。だが現実には、オバマ大統領が米国の国内問題に取り組めるよう世界が止まることはない。 何しろ、1つには、ネタニヤフ首相は新たな中東戦争に米国を巻き込む決意を固めたかに見える。今回は、イランに対する戦いである。 もう1つ、米国は時にそうじゃないことを切に望むにせよ、やはり世界にとって欠くことのできない大国だ。米国一極時代は終わったかもしれないが、世界には、米国の関与なしで解決できる深刻な問題はほとんど存在しないのだ。 ■先を読む これは英国のデビッド・キャメロン首相のための忠告だ。不運なキャメロン首相は、賢明な戦術に見えるものが往々にして政治家を戦略上の袋小路に追い込むことを理解し損ねるという過ちを犯した。 1年かけて与党・保守党内の強硬な欧州統合懐疑派をなだめ、時に満足させた挙げ句に、キャメロン首相は突如、英国がEU脱退に向かっているという事実に気づいた。 筆者はこれがキャメロン首相の狙いだったとは思わない。だが、欧州統合懐疑派に対し、欧州連合(EU)との関係において英国が規則などをえり好みできる「新たな合意」を獲得できると述べた不用意な約束は、その他のEU加盟国26カ国はその考えに熱心ではないという厄介な事実とぶつかった。 メルケル首相は、統合強化に対する英国の同意の見返りに、ユーロ圏に譲歩を迫る不器用な脅しに気分を害した。オランド大統領は既に、不実なアルビオン(英国)にうんざりしている。キャメロン首相は住民投票を約束する羽目になり、その結果次第では、英国は欧州大陸の片隅に取り残されることになりかねない。 そして最後に・・・ ■フェア(っぽい)プレー 西と東、北と南、民主主義と権威主義――。現職の指導者に対する最大の脅威は、不公平に対する反発の高まりから生じる。先進国では、国民の認識(多くの場合、現実でもある)は、富裕層がグローバル化の恩恵をすべて手にする一方、残りの国民は緊縮財政の負担を背負わされたというものだ。 中東での民衆蜂起を燃え上がらせた1つの火花があったとすれば、それは社会のあらゆるレベルで国民が抱く腐敗への怒りだった。習氏は、汚職は中国の共産党支配を転覆させる恐れがあると警告した。その言い分は正しい。 誰も平等主義の理想郷は期待していないが、新旧双方の中間層は上位1%の特権に険悪な目を向けている。 By Philip Stephens
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