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党大会、胡錦濤発言を読み解く
2012年11月21日(水) 張 勇祥
胡錦濤氏が共産党大会で今後の政策などをまとめた活動報告を公表した。格差是正や社会保障の拡充へこれまで以上に力を入れる方針を示した。その内容から胡氏の支持基盤「共青団」とライバル「太子党」のせめぎ合いも見える。
11月8日、中国・北京の人民大会堂で中国共産党の第18回党大会が開幕した。86歳の前総書記、江沢民氏がひな壇の最前列中央に陣取り、右側に総書記の胡錦濤氏、左側に首相の温家宝氏を従えるかのように席へ着いた。
壇上には江沢民氏のほか、改革派で今も国民の人気が高い前首相の朱鎔基氏、保守派の元首相、李鵬氏ら長老がずらりと並んだ。長老は公職から退いた後も党内で一定の発言権を維持する。自分が抜擢した人に影響力を行使し続けるなど隠然とした権力を持つ。
こうした中で胡錦濤氏が読み上げたのが、共産党のこれからの方針などを総括する「活動報告」。居並ぶ長老たちが率いてきた各派閥の利害関係に細心の配慮をした結果「新味のない内容になった」との見方は多い。が、発言内容を詳細に見ると、共産党の問題意識や目指そうとする姿が垣間見えてくる。
前総書記の江沢民氏はひな壇最前列中央に陣取り、健在ぶりをアピールした(写真:ロイター/アフロ)
成長目標を上積み
「GDP(国内総生産)と国民1人当たりの収入を2020年までに2010年の2倍にする」。これは前回2007年の党大会で示した目標を事実上、上方修正する内容だ。
2007年の党大会では、2020年のGDPを2000年の4倍に引き上げると述べていた。2010年のGDPは40兆1202億元(約512兆円)で、2000年から4倍以上に拡大。物価上昇を加味しても2.7倍に膨らんでいる。2020年までにさらに倍増させると、実質ベースで3割超の上方修正になる。
「経済成長こそが共産党による統治の正当性を示す」(遠藤誉・東京福祉大学国際交流センター長)という考えが背景にある。10年間でGDPを2倍にするには年率7.2%の成長を続ければよい。国家発展改革委員会副主任の朱之鑫氏も「10年で2倍という目標は実情に合っている」(国営新華社のインタビュー)と達成に自信を見せる。
戸籍改革で格差を是正
戸籍改革を急ぎ、都市部での公共サービスを「住民全体に行き渡らせる」ことを掲げた。中国では農村と都市で戸籍が明確に分かれ、農村戸籍を持つ人が仮に都市へ転居しても、医療や年金などの社会保障を受けにくい状況が続いている。重慶など一部の都市では農村から都市への転籍を進めているが、全国的には緒に就いたばかりだ。
国家統計局によると、2011年時点で2億7000万人余りの居住地と戸籍所在地が分かれている。都市で働く農村出身者の多くが満足な社会保障、行政サービスを受けられていない。これが「農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者やその子供たちの経済格差を固定し、社会の不安定要因になっている」(日本総合研究所の三浦有史氏)。
農民工の所得が改善しなければ、課題になっている内需拡大を果たせないだけではない。農民工などの子供が教育や医療を十分に受けられず、低所得から脱し切れないことを中国では「貧2代」と呼ぶ。こうした人たちが、拡大する都市戸籍所有者との格差に不満を募らせている。インターネットなど通信手段の普及で以前よりデモなどを起こしやすくなっており、格差是正は社会を安定させて共産党体制を維持するためにも重要性を増している。
活動報告は戸籍問題の解決を目指す方針を示したが、新たに都市戸籍を取得した人へ公共サービスを提供する地方政府の財源問題には触れていない。経済成長を優先する地方政府は、財政負担が増す戸籍制度の改革には後ろ向きだ。中央政府が地方に財政支援をするなど新たな政策を打ち出さない限り、戸籍改革はなかなか進まない。
胡錦濤氏は格差是正や市場化に一段と力を入れる考えを示した
活動報告のポイント(注:17、18回共産党大会における胡錦濤氏の活動報告から抜粋)
市場経済化、一段と
また、胡錦濤氏は「経済改革の核心的な問題は政府と市場の関係を解決することであり、市場規律はより尊重されなければならない」「揺るぎなく非公有制(民間)経済の発展を奨励し、支持し、導く」など、市場経済を重視する発言を繰り返した。非効率な国有・公有セクターの改革も進める考え。銀行や証券などの監督当局トップにも市場重視のメンバーを揃えている。
その背景には、2008年に打ち出した4兆元(約51兆円)の経済対策への反省がある。この時に地方政府が設立した「融資平台」と呼ばれる第3セクターが巨額の投融資の受け皿となった。政府主導のプロジェクトは審査が甘くなりがちで、その多くが今では不良債権となり地方政府の重荷になっている。規制や許認可に守られた国有企業の経営効率がなかなか改善しないことへの危機感も、市場メカニズムの重視を強調する理由の1つだ。
社会保障の拡充や一定程度の市場重視は、胡錦濤氏や温家宝氏の支持基盤である「共産主義青年団(共青団)」の主張に近い。一方、有力政治家の子弟グループからなる「太子党」など国有企業や地方政府に既得権益を持つ層は、こうした方針に抵抗すると見られる。今後、どこまで既得権益にメスを入れ、経済改革を断行できるかは、この2グループのどちらが優位な立場にあるかを示すバロメーターにもなる。
領土は強硬姿勢を堅持
「海洋権益を断固守り、海洋強国造りに取り組むべき」「海洋、宇宙、サイバースペースの安全保障には大いに注意を払い、軍事闘争への備えを絶やさない」。大規模な反日デモを引き起こした尖閣諸島問題に加え、南シナ海の領有権を巡って対立するフィリピンやベトナムなどを意識する内容も盛り込んだ。
領土問題は国民の関心が高く、相手に対して毅然とした態度を見せれば支持の獲得にもつながりやすい。江沢民氏の腹心たちからなる「上海閥」に加え、太子党や共青団の間でも見解に大きな違いのないテーマだ。こうしたことから考えると、尖閣問題について近いうちに中国側の姿勢が大きく変化する可能性は低い。
張 勇祥(ちょう・ゆうしょう)
日経ビジネス記者
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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