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日中経冷の波紋
(1)貿易協定、遠のく交渉開始 互いに依存、逃す商機
日本政府による尖閣諸島の国有化に端を発した中国の反日デモから1カ月。日中摩擦は経済にも影を落とし始めた。日中経冷の波紋を探る。
「そろそろ終わりにしましょうか。これ以上話すこともないですし……」。9月27日に韓国ソウルで開いた日中韓による自由貿易協定(FTA)の事務協議。当初2日間の予定だったが、話し合いは1日で終わった。尖閣・竹島問題で中韓との関係が冷え込むなか「細かい話をしようという雰囲気にはならなかった」(交渉筋)。中国などの冷ややかな対応は、日本の想定を超えていた。
3カ国は、首脳が11月中旬の東アジアサミットでFTAの交渉開始に合意する前提で準備を進めてきた。9月末の事務協議はその日程をにらんだものだ。事務協議は予定より早く終わったが、詰めるべき事項にはおおむね結論が出た。政治的な意思決定に向けたお膳立ては整ったといえる。
だが、肝心の首脳会合の開催そのものが流動的な情勢になってきた。外務省は「3首脳が笑顔で握手することはおろか、首脳会合を開催できるかも分からない」(幹部)という。日本の政府関係者は東アジアサミットでの合意を断念し、交渉開始の時期を先送りするシナリオを探り始めた。
日中韓3カ国はそれぞれ貿易額の2〜3割を依存しあう。FTAの実現で日本の輸出額は約600億ドル増えるとされる。3首脳が顔をつき合わせることが難しければ、文書で合意内容を発表し、産業界の期待に応えるべきだとの声もある。
野田佳彦首相は10月の改造内閣の発足時に、環太平洋経済連携協定(TPP)と日中韓FTA、東アジア経済連携協定を同時に進める方針を関係閣僚に示した。アジアでの経済連携は中国だけが相手ではない。対中関係の悪化で思考停止するのではなく、米国や東南アジア諸国連合(ASEAN)との結びつきを強めるなどして突破口を探る必要がある。
[日経新聞10月17日朝刊P.5]
(2)消えた中国人観光客 キャンセル続出、打撃に
「利用が見込めない。チャーター便をキャンセルしたい」。日中間の緊張が高まった9月中旬以降、中国の航空会社から国土交通省にこんな連絡が相次いだ。10月末までに春秋航空など6社が115便を中止。同期間の両国間チャーター便の半分を超えたようだ。
全日本空輸と日本航空では、中国路線の団体旅行のキャンセルが9〜11月に6万席分を超えた。9月に成田空港から日本を訪れた外国人は、震災前の2010年9月比で15%減。12年に訪日外国人を900万人に増やす政府の目標達成は「大変厳しい」(羽田雄一郎国交相)という。
訪日中国人の減少は観光地にも打撃だ。富士山を望むあるリゾートホテル。多くの中国人が宿泊してきたが、9月から10月にかけて中国人のキャンセルが約6千人分に達した。「新規の予約は全く入らない」と支配人は肩を落とす。
中国人観光客は消費意欲も旺盛。11年に日本を訪れた外国人の中で中国人は韓国に次いで2番目に多いが、旅行中の消費額は最大で全体の3割を占める。中国人観光客の減少は日本経済への影響が大きい。
それだけに、日中間の政治問題とは一線を画した柔軟な観光政策が求められる。例えば、政府が昨年から中国人に発給を始めた「数次ビザ」。3年間有効だが、最初の訪日中に沖縄や被災地に宿泊するとの条件があり、この条件を緩和するかどうかが焦点だ。
日中両政府は8月に航空自由化協定を結んだ。成田空港などは対象外で、路線や便数を柔軟に設定できるような規制緩和を求める声は多い。中国・香港を除いたアジアの訪日外国人は全体の半分以上を占める。経済成長を背景に中間層が拡大するインドの旅行客に、数次ビザを発給し訪日を促す案も出ている。
[日経新聞10月18日朝刊P.5]
(3)遠のくガス田共同開発 海底資源、再び争点に
5月13日、北京の人民大会堂。東シナ海ガス田の共同開発交渉の早期再開を求めた野田佳彦首相に、中国の温家宝首相は「双方の意思疎通をしっかりやっていく」と応じた。日本は具体的な日程を中国から引き出せないまま、7月に尖閣諸島の国有化計画が公になった。「ガス田開発は完全にぬかるみにはまった」(経済産業省幹部)
東シナ海に豊富に眠るとされる天然資源は、日中の火種となってきた。日中の中間線付近のガス田は2008年6月に4年越しで共同開発に合意。当時は両国の「戦略的互恵関係」の象徴とみなされた。その後は対話が滞り、9月半ばになって「中国の対日世論が先鋭化し、共同開発を前進させる考えは中国政府にない」(経産省幹部)という。
日中の共同開発が遠のいただけではない。今年1月には、中国が東シナ海のガス田の一つで単独開発を進めていることが判明。東シナ海の自国大陸棚の延伸も国連に求める構え。関係改善の象徴だった東シナ海の資源開発が、再び両国の争点に浮上しそうだ。
ハイブリッド車や省エネエアコンの部品に欠かせないレアアース(希土類)は、中国に依存してきた。10年9月には中国漁船による日本の巡視船への衝突事件後に中国が日本への供給を絞った。その教訓から、日本はレアアース全体で9割前後だった中国依存を5割まで下げた。
ただ、弱点は残る。ハイブリッド車のモーター用磁石に不可欠なジスプロシウム。日本にとって戦略性の高い資源の一つだが、今もほぼ全量を中国に頼る。
トヨタ自動車などは10年計画でレアアースを全く使わない次世代型磁石の開発を始める。だが、中国の供給がいつ絞り込まれるか分からない。調達先の分散を含め中国に振り回されないような資源戦略が欠かせない。
[日経新聞10月19日朝刊P.5]
(4)金融協力は崩れず 円・元取引、貿易支える
日本で48年ぶりに開いた国際通貨基金(IMF)・世界銀行の年次総会。中国の財政当局・中央銀行のトップは欠席した。日中の当局者は普段は親しい関係にある。だが「参加した中国当局者は日本側と親しくしている姿を見せたくないようだ」と財務省幹部らは気を使った。
日本政府は昨年12月の日中首脳会談で合意した金融協力の骨格を維持する方針。日中の金融協力は(1)円・人民元の直接取引の開始(2)日本政府による中国国債の購入(3)人民元建て債券市場の育成――の3つが柱だ。
日中摩擦の影響がほとんどないのが、6月に始まった円と元の直接取引。民間金融機関によって東京市場で1日に100億円前後が取引される。9月半ば以降もそれまでと同じ水準の取引が続いている。
一方、中国政府が3月に認めた650億元(約8200億円)分の中国国債の購入は、日本政府による買い付けがいつ始まるのか見えない。当初は半年の手続きを経て、9月にも始める予定だった。日中当局筋は「政治情勢を見極める必要がある」と開始時期を慎重に探っている。
日中の金融協力が大きく崩れないのは、貿易相手として相互に依存しているからだ。日本の対中貿易は2011年時点で27兆円と全体の2割を占め、最大の貿易相手。中国も対日貿易は1割程度を占める。両国の貿易取引を金融面から支えようという考えが当局者の間では根強い。
だが、足元では日本製の自動車・家電の不買運動が中国で広がっている。今のところ影響が軽微な円と元の直接取引も「貿易決済の分が減ってくる可能性がある」と市場関係者は指摘する。実体経済の相互依存関係が揺らげば、金融協力の意義が薄まるとの議論も浮上しかねない。
(おわり)
[日経新聞10月20日朝刊P.5]
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