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アジア・国際>中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス
孔子学院は洗脳機関か
米国でのビザ発行騒動で中国が猛反発
2012年5月30日 水曜日 福島 香織
5月中旬から先週にかけて中国の孔子学院をめぐって米中間にちょっとしたドタバタがあった。孔子学院は日本にもたくさんあるので知っている方も多いだろう。中国が海外の教育機関と提携して中国文化と中国語を外国人に教える公的機関である。
5月17日、米国務省がこの孔子学院について、小中学生の指導に当たっている一部教師について、6月30日前に国外に出て、ビザを取り直せという通達を出した。そして孔子学院には教育機関として米当局にライセンスを申請し直せ、とした。
これについて中国は当然のことながら猛反発で、中国側と交流のある各大学にも働きかけた結果、米国側は25日に、この通達を撤回した。
米国側の言い分は、これはあくまでビザ発行の技術的問題であり、政治的目的はないというが、多くの人は当然そう思っていない。中国自身がそう思っていない。背景には、孔子学院“洗脳・スパイ機関”説というのがある。
中国のネガティブイメージを払しょく使命を担う
今回問題になった「米国J−1ビザ」について簡単に説明すると、米国が認証する学術交流プログラムに参加する外国人学者・研究者に与えられるものが「J−1教授ビザ」である。しかし、このビザで小中学生の漢語指導活動することはビザが許可する範囲外の活動である。一方、学校で外国語指導する教師が持つべきは「J-1教師ビザ」。しかし、このビザで大学などの学術文化交流活動に従事することはできない。ここで孔子学院の存在の曖昧さが問題視される。
米国の大学には81カ所の孔子学院が設置されているが、だいたいの名目は文化学術交流であり、そこに招聘される外国人もJ−1教師ビザではなく、訪問学者に与えられるJ−1教授ビザだ。しかし同時に、孔子学院は全米で300の小中学校で孔子教室を開いている。米国としては、大学機関の学術交流のつもりで出したビザで、スポンジのように何でも素直に吸収する子供に、価値観や思想に大きく影響しかねない授業をされてはたまらないだろう。そこでビザの種類の問題を建前に、小中学校の孔子教室の中国人教師にお帰り願おう、としたのだろうと、想像する。こう想像したのは、私だけではなく中国当局もそうだろう。
なぜなら、孔子学院とは、もともと中国のネガティブイメージを払しょくする外交的使命を担っている。ここが「洗脳機関」と揶揄される原因である。
南開大学周恩来政府学院国際関係学部の韓召頴教授が2011年の季刊「公共外交(パブリック・ディプロマシー)」誌(秋季号)に、孔子学院設立目的を分かりやすくまとめているので抄訳する。
孔子学院は中国公共外交における重要な役割を担っており、中国外交の選択肢を大きく広げるものである。
20世紀の1990年代にはいると、中国の総合国力と国際影響力の増強スピードに比較して、各国の対中理解は乏しく、むしろ中国脅威論やその変種のチャイナリスク、中国崩壊論、中国分裂論などが広がっている。これらの対中観が一部の人間に意図的に扇動されているのでなければ、中国に対する理解不足、認識不足が原因である。この多くの国々が中国に対して持つ不安や心配を緩和・解消し、中国が平和と発展と協力の外交を行っているのだとアピールすることが、中国外交の新たな課題である。このため、公共外交が国家の外交政策における手段の一つとなる。
大衆の世論は国家の外交政策に影響する。いかなる国家・政府とも対外政策を決定するとき、国内の大衆世論を顧みるだけでなく、自国の国家利益に有利なように外国の大衆の世論を作ろう、あるいは誘導しようと試みるものだ。語学教育などの教育文化交流を通じた公共外交は、外国の大衆に自国国家の政治、経済、社会および文化を理解させ、支持を取り付けやすくする。このため、公共外交という外交政策の効果はますます明らかに重要度を増している。
中国共産党の戦略の一部
表現は取り繕ってあるが、要するに漢語授業を通じて(中国当局に都合のいい)中国の歴史や政治や経済・社会制度を理解してもらうことで、中国支持者を増やしていき、中国脅威論を解消していこう、という明確な政治目的を備えた外交政策だと、中国自身が認めているわけだ。語学の基本は丸暗記と暗誦だ。丸暗記というのは、洗脳の定番の手法だ。毛沢東語録も丸暗記させることで、学生たちを熱狂させた。大人ならまだしも、子供なら中国当局の思惑通りの中国イメージを植え付けることはできるだろう。
そういう面もあるので、2010年2月に、南カリフォルニア州アシエンダでは、中学校の孔子教室開講を共産主義の洗脳だとして住民の抗議活動が起こったこともある。地元教育委員会は9月、中学校に対する中国側の資金援助も教師派遣も拒否する決定をしたそうだ。2011年7月、オーストラリアのシドニーでは7カ所の学校に開設された孔子教室の閉鎖をもとめる4000人の署名が地元議会に提出されたという。テキストに天安門事件や中国の人権問題に触れていないことへの反発からだという。
またカナダのナショナル・ポスト紙(2010年7月9日付)によれば、カナダ情報局が国民に対し、外国の諜報活動に気を付けるよう警告し、そのリストの中に孔子学院が含まれていた。前アジア太平洋局責任者の作家、マイケル・ジュノー・カツヤが「孔子学院は慈善的理念で設立したものではなく、中国共産党の戦略の一部であり、諜報機関と関連のある組織から資金提供も受けている」とコメントしている。日本の大阪産業大学の事務局長も孔子学院を「文化スパイ機関みたいなもの」と発言し留学生から猛反発をくらい、平謝りしたことがある。
ちなみに、孔子学院に否定的な動きのある地域が、中国からの移民が多い地域であることは偶然ではないだろう。米国やカナダやオーストラリアなどの中国移民の中には文化大革命や天安門事件を契機に祖国を捨てた人も多く、普通の外国人以上に中国共産党アレルギーが強い。そういう人がわが子に「我是中国人、不是美国人」という例文を暗誦させられれば、洗脳か!と敏感に反応してしまう。
孔子学院の潤沢な資金
孔子学院が単なる語学学校でないことは、その資金の潤沢さからわかる。
孔子学院が海外に作られ始めたのは2004年。最初は韓国のソウルにできた。以来、世界各国に急速に増え続け、目下、世界106カ国に350カ所以上の孔子学院が設立され、500カ所以上の小中学校に孔子教室が開講されている。孔子学院を管轄しているのは中国教育部傘下の俗に「漢弁」と呼ばれる国家漢語国際推進指導弁グループ弁公室だが、世界のどこかに一つ孔子学院が開設するとなると、漢弁から準備金として10万ドルの資金が降りるという。しかも中国側はボランティア教師を派遣し、奨学金を出して留学プログラムも組んでくれる。提携先の外国の教育機関としては、さほど予算がなくても、ほとんど全部中国側がやってくれるのでありがたい。漢弁は2010年までに孔子学院開設費用として5億ドルを投じたとしているが、それ以外に毎年1校につき年間10万〜15万ドルの運営費が投じられ、年間2000〜3000人の派遣のボランティア教師には1人当たり1万ドル以上の手当てを出しているほか、数万人単位の外国人漢語教師の育成、教材の寄贈、各国における宣伝広告費も中国側が請け負っているという。年間平均予算は、ドルにして億単位と見られている。
1989年から始まった希望工程(中国国内の学校のない貧困地域に国内外の寄付によって学校を建てるプロジェクト)で集まった寄付金が2009年までの20年間で計約50億元(7.5億ドル)ということを考えれば、孔子学院に投入されているお金の多さが分かるだろう。日本政府の草の根無償資金協力や企業が希望工程に金を出しては、地元の汚職官僚に半分くらい吸い取られる例を目の当たりに見て来た私は、正直なところ、当局にそんな余裕があるなら、国内の僻地に小学校をつくれよ、と思う。
大切なのは普通の人々の外交意識
しかし、中国側にしてみれば、対象国の世論を自国に有利になるように誘導することは国家として当然の戦略であり、中国共産党がさんざん孔子を否定してきた歴史もさらりと忘れたふうに、孔子を持ち上げることにも矛盾も感じないはずだ。「毛沢東学院」じゃ外国人は寄ってこない。中国が対外的にプラスイメージ発信に利用できるのはパンダが孔子ぐらいしかないのだからしかたない。
それを洗脳などと批判されることは心外だろう。中国からみれば、それなら米国のフルブライト・プログラムだって洗脳だ、ということになる。フルブライト・プログラムにも、新米派を育成し、米国の影響力を拡大する戦略性はある。結局のところ、留学生の招聘や自国語学習者の拡大に、相手国の世論を自国に有利なものに導く公共外交としての政策性や戦略性を持たせることは「どこの国もやっている」当たり前のことなのだ。
なので、米国がビザを理由に中国人教師を追い返す方法を撤回したのも、致し方ないことだろう。どこの国もやっている当たり前のことに、いちゃもんつけるのも無理がある。そもそも公共外交とは民間に直接しかけられた外交である。カウンターパートは政府ではなく民間、つまり孔子学院を受け入れる教育機関であり、授業を受ける大衆なのである。政府が政策的にこれを退けることは、お角違いだ。
だからこそ、こういう公共外交による“洗脳合戦”時代に大切なのは、民間の普通の人々の外交意識なのだと思う。自らが外交の担い手であり、孔子学院が公共外交の一種であるという意識を持って向き合えば、少なくとも一方的な「洗脳」ではなく、むしろ相手国の文化や思考を知った上で、いかに対処すれば自国に有利な外交ができるかを考えるようになるだろう。
日本にも孔子学院は相当増えてきている。安価で中国語を勉強できるのだから悪くない。洗脳されるか、外交的ライバルを研究する機会とするか、それはあなた次第、というほかない。
中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス
新聞とは新しい話、ニュース。趣聞とは、中国語で興味深い話、噂話といった意味。
中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。
特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。
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福島 香織(ふくしま・かおり)
ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002〜08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)、『中国のマスゴミ』(扶桑社新書)など。
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アジア・国際>失敗しない中国ビジネス作法
中国での合弁で「過半出資だから安心」は禁物
戦略的事業提携を成功に導くポイント
2012年5月30日 水曜日 内山 雄輝
(前回の中国人の日本人観は世代ごとに異なるから読む)
中国企業との合弁事業の失敗例を非常にたくさん耳にする。果たして、中国での合弁は成功しないのだろうか? そう問われたならば、「『とりあえず合弁会社を作ってから、中国ビジネスを考える』という構えではまず成功しない」と答えるだろう。
今回は中国での合弁事業を成功に導くポイントについて、日本人と中国人の“資本”に対する考え方の違いを踏まえながら、事例を交えて考えていきたい。
中国企業と戦略的な事業提携を結ぶメリット
前回、日本の技術が早晩、中国企業に追い越されるのであれば、早い段階で戦略的に事業提携をして次のステップを目指すべきだとの考えを述べた。
中国でビジネスを展開するためには、コピーされない製品を開発して周到に特許を出願しておくことももちろん重要だ。しかし、新興国でビジネスをしようとするならば、それだけでは十分ではない。
技術については必ず追いつかれるし、マネもされる。言い方を変えると、“コピーされるうちが花”なのではないか。とりわけ新興国においては、“トレンドに合致したもうかる商品”がコピーされているのだから、今のうちに、現地企業と戦略的な事業提携を結び、チャンスにつなげていくのが得策だろう。
合弁会社を設立するメリットは数多く挙げられる。生産面だけではなく、現地企業と力を合わせることで技術開発からマーケティング、営業、物流までを効率的に行うことが可能だ。
ただ単純に現地に日本製品を持っていっても売れない。販売に当たっては、売れる“潮流”をいかに作っていくかが重要になる。そこで中国側のノウハウを取り入れれば、中国市場の開拓や、現地の商習慣に合わせた体制をしっかり整えることができる。
合弁を成功させるポイントを先に述べてしまうと、最初から戦略的に資本比率を考えて契約を締結することである。つまり、日本企業側は中国で一体何がしたいのか。その内容に応じて、資本比率を増減させる必要がある。
そこで考慮しなければならないのは、日本企業と中国企業の「合弁」に対する思いは大きく異なる点である。
日本企業は、とにかく出資比率51%以上にすることにこだわり、何とか過半数を取っておけば安心だと考えがちだ。しかし、本当にマジョリティーの出資が中国ビジネスを成功に導くのだろうか? 日本側が51%を押さえることで、中国側のモチベーションが低下する恐れはないのだろうか?
実は、中国人の“資本”に対する思いは、日本人に比べて非常に強いものがある。なぜなら、「自分の会社を持つ」ということが、彼らにとって大きな目標の1つだからだ。それゆえに“主導権を取るか、取られるか”ということへのこだわりは強く、むしろ中国側に資本を持たせることで、彼らのやる気をアップさせることができるという側面がある。
注意しなければいけないのは、中国側が進んで日本側に過半数を取らせようとするケースだ。この場合は中国側が単にバイアウト(売却)を目的として提携をしようともくろんでいる可能性もある。
また、事業が立ちゆかなくなれば、「資本の過半数を持っている日本側の指示に従ったまでだ」と不振の責任を一身に負わされる恐れもある。だからといって、日本側がマイノリティーでありすぎても、中国側への要求が通らなくなってしまう。
このように非常に微妙な判断を迫られる出資比率の決定には、どのような準備が必要になってくるのか? 事前に十分調査しておきたいのは、合弁相手の経営者が資本を何パーセント保有していて、会社を将来的にどう発展させていきたいと考えているのかということ。事前調査の段階で、しっかり経営者を知るという努力は不可欠である。
合弁対象となる会社の帳簿の“裏”を取る
また、財務諸表についても十分な調査が必要だ。二重帳簿が珍しくない中国の企業では、多くの企業で帳簿は税務署に提出するものと、そうでない内部用のものに分かれている。日本人からすれば驚きの実態かもしれないが、中国ではそれが普通。合弁を組むなら「内部調査(デューデリジェンス)を行うので“裏”帳簿も提出するように」ときちんと求めて解決していくことが大切だ。
中国の企業の場合、確かに一部で私的に会社資金が使い込まれているケースもあるが、販売店へのバックマージンなど、中国ならではの商習慣で通常の会計帳簿から外されているお金の流れも存在する。そうした実態を把握し、正当な経費として見なされるように、契約の際にはきちんとバックマージンなどの存在を記載しておくべきだ。
合弁会社の設立において、適切な資本範囲が一体どの程度のレベルなのか、それをひとくくりにして明言することはできない。例えば、中国でのビジネスを十分成り立たせることができる自社技術を持つ会社であれば、頑張ってマジョリティーの出資を目指すべきだ。
一方、単純に日本製品を中国で販売したい、または中国企業とコラボレーションしながら商品を生産し、販売・マーケティングも行いたいという場合であれば、出資比率20〜30%くらいのマイノリティーでもいいのではないかと考えている。30%を超えると状況によって連結子会社にする必要が生じ、日本企業側が背負うリスクも高まる。
日本側の“本気”の度合いにもよるのだが、「このパートナーと一緒に中国ビジネスを進めるぞ」という程度のスタンスで会社を設立するのであれば、15〜50%くらいの感覚で出資すればよいのではないか。さらに、「必要が生じれば利用したい」というくらいの拠点とするのであれば、10%以下まで比率を落としてもいい。
このように、出資比率を抑えて合弁するケースが増えたのは、ここ1〜2年ぐらいのことだ。当社のようなIT(情報技術)関連の会社を見ても、これまではやはりマジョリティーを狙っていく企業が主流だった。
中国側にしても「日本企業に雇われたい」「資本を渡して、仕事や援助をもらいたい」と考える企業が多かった。そうした企業は、どこかで伸び悩んでいたり、援助を受けたいという思いがあったりするために、出資比率で譲渡してくる。好調に伸びている中国企業は出資で主導権を渡そうとはしない。
一方、本当に合弁会社で自社の子会社にしようと考えている場合、中国企業を100%買収した会社はうまくいっている。つまりは、同じような製品を生産し、市場を獲得し始めたコンペティターを早い段階で買収して自社の拠点にしてしまうのだ。自社の製品技術を投入し、そこに中国側の技術も取り入れて現地の市場に対応できる製品を作り上げて成功しているケースだ。
出資比率のほかに、合弁に当たって注意すべきポイントとして、合弁会社に派遣する役員や人事のマネジメント、さらに契約書の作成がある。合弁事業に打って出る前に、先ほどの出資比率と併せてこの3点をしっかり研究する必要がある。
非常に重要なのは、“中国側だけが有利にならない”契約書を締結すること。契約書の重要性を知るために、ここでまず、“商業秘密保護”に関わるトラブルの事例を紹介したい。
契約終了後もノウハウやデザインを使い続けた中国企業
上海に拠点を置く日本企業のA社は、現地の中国企業B社とユニフォームの加工契約を結んだ。A社が材料や図面などの製作ノウハウを提供し、B社が加工を請け負うという内容で、その契約にはもちろん秘密保護に関わる項目も含まれていた。
問題は契約の終了後に起こった。B社はA社の許可を得ることなく、引き続きA社のノウハウとデザインを使って商品を生産。さらに国内外で販売していることが分かったのだ。
A社はB社に対して生産と販売をやめるよう申し入れて損害賠償を求めた。両社の話し合いはうまく進まず、A社はB社を相手取り、商品秘密に関連した権利侵害だとして提訴する事態に発展した。
裁判の結果、勝訴したのはA社だった。B社は生産・販売を停止して賠償金を一部支払った。勝敗を分けたのは何だったのか? 決め手になったのは、両社が結んだ契約書に、図面や製作プロセスといった内容が秘密保護情報としてきちんと明記されてあったことだ。
最終的に、契約書の内容がすべてなのである。先に“中国側だけが有利にならない”契約書を締結することが重要になると述べたが、日本企業は日本の商習慣のように、簡単な書面の契約書で済ませてしまってはいけない。中国に紳士協定はない。曖昧な記述は避け、しっかり練った内容のものを作成しておくことが求められる。
さらに、この事例は合弁事業ではなく、提携していたパートナーとの間で発生したトラブルだ。もしこの中国企業が高い技術を持っていて、自社の拠点として使えるならば、資本を注入してグループ会社化することで、さらなる事業展開のチャンスがあったかもしれないという可能性を考えさせられるケースでもある。
もう1件、売買契約に関するケースを紹介する。非常によく耳にするトラブルで、一言で言うと「製品を売ったけれども代金が支払われない」という事例だ。
日本企業C社と中国企業D社の間で、C社からD社に機械部品を売る契約を締結することで合意に至った。この後が非常に日本企業らしいところであるが、C社は合意に至ったその日のうちに部品をD社に搬入。D社も受取書を発行した。
しかし翌日、C社が契約書に署名をしてD社に郵送すると、D社は手のひらを返したように社内事情から今回の契約書には署名できないと言ってきた。さらに、契約は不成立なので搬入された部品は返品したいという。
C社としては当然受け入れることのできない言い分であり、部品代をD社に請求した。しかし中国では大抵の場合、トラブルに発展すると中国企業は代金を支払わない。事態は裁判へと持ち込まれた。
結果的に裁判にはC社が勝ち、D社は代金を支払った。判決のポイントとなったのは、D社が買うと合意したためにC社は製品を納入し、D社も製品を受け取った証明書を発行していたということだ。契約書はまだ締結されていなかったが、この場合の取引はその受取書で成立したと見なされた。
そもそもの日本企業側の失敗は、やはり契約書に署名する前に商品を発送してしまったことだ。日本企業は受取書や契約書を軽視しがちである。「サインは後でいいですよ」というような日本的なやり方は危険。重ねて強調するが、中国に紳士協定はない。ここで紹介した2件のトラブルは、日本企業が単独で中国に乗り出し、日本の商習慣のままビジネスを進めて失敗した事例でもある。
最も失敗しやすいのは契約書の内容
合弁事業において最も多い失敗は、契約書の内容に関するものだ。
日本企業が中国ビジネスの相談を中国の友人に相談したところ、「少し出資させてほしい」と言われ、15%程度の出資を受けて合弁で事業展開するといった話に展開することがある。大企業だけではなく、中小企業でも増えているケースだ。
このような場合、「現地のことは我々に任せてください」と中国側パートナーは会社設立の準備を引き受け、契約書まですべて作成してしまう。
こうしたケースでは、日本企業は自分達が資本の85%を持っているので安心して中国側にすべて任せてしまいがちだ。そうやって作成されてくる契約書はすべて中国語。中国人にとっても難しい法律的な内容を理解し、記載内容に意見することができる日本の社長などほぼいない。
そうして出てきた契約書には、大抵こう書かれている。「何事も日中双方の合意の下で決定する」と。たとえ日本側が85%出資していたとしても、「双方から派遣する役員の数などは合意の下で決める」などと記載されているのだ。
一見問題ないように思えるが、要は“中国側の合意がなければ何も決まらない”ということだ。このような契約書内容に、後になってから頭を悩ませる日本企業は非常に多い。
中国人が 「そのビジネス、いいですね。一緒にやりましょう」と提案してくるのは、彼らが「もうかる」と感じた話だからである。
そんな中国人ビジネスマンは、自分の会社も持っていて、「この日本人が頑張ってさえくれれば、自分にも利益が入るかもしれない」というサイドビジネス的発想で出資してくる人がほとんど。だからマイノリティーであってもこだわらない。会社が危機に陥れば、逃げ出してしまう可能性もある。
合弁会社の設立は、日本側が明確な目的をもって臨み、自分たちでリスク管理まで行う体制で進めることが非常に大切だ。そして、日本側の立場を理解してくれる弁護士にきちんと依頼し、合弁事業の将来のことまで考えた契約書をしっかり作成しておくことが求められる。
また、高い資本比率を持っている場合はそれに合わせた責任が伴うため、きちんと決定権を行使できる内容になっているかどうかも要注意だ。この最初の一歩からつまずかないためにも、しっかりとした専門家を雇うことが不可欠である。
中国で頻繁に起きる法改正はビジネスチャンス
信頼できる専門家から中国の最新情報を入手しておく重要性についても触れておきたい。
中国の法制度は頻繁に変わるので、こまめに情報をチェックしてチャンスを逃さないようにしたい。例えば今年1月に施行された「外商投資産業指導目録(2011年改訂)」により、これまで外資の導入は規制されていた医療機構への出資が緩和されるなど、中国の医療ビジネスの門戸が開かれ始めた。
実は今、製薬関係の日本企業に対する中国からの合弁オファーが増えている。しかし、特許を取得している技術を奪われることに対する警戒心から、日本企業の側は腰が引けている。
しかし、先述のように、特許のある技術もいつかは必ずマネされてしまう。ならば、守り一辺倒ではなく、攻めの姿勢で中国企業と一緒にマネジメントしていくような努力が日本企業にも必要ではないだろうか。
医療のほかにも、外資の規制が緩和されている分野はいくつかある。投資可能な分野が広がりつつある今、日本企業から仕掛けていって中国企業と資本提携を進めることは大きなチャンスである。
(取材構成は、新田理恵=ライター)
失敗しない中国ビジネス作法
最初は製造業の生産拠点、そして現在は製品やサービスを売り込む成長市場と期待して、中国に打って出る企業が後を絶たない。しかし、その多くはうまく入り込めず、苦戦を強いられているのが実情だ。
「中国と中国人を知れば、日本企業の中国進出は必ずうまくいく」
大手日本企業300社への中国人材育成事業と中国現地企業や政府機関への日本語学習システム提供を軸に成長してきた、WEIC(ウエイク)の創業者、内山雄輝社長はこう語る。
では、彼らの何を知れば中国進出で成功できるのか。
中国の地方政府とのコネクションを生かして、日本企業の水先案内人を務めてきた内山社長が、中国ビジネスの正しい作法を指南する。
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内山 雄輝(うちやま・ゆうき)
早稲田大学第一文学部中国語・中国文学専修卒業後、WEICを設立。人間が言葉を覚える過程の言語学理論をシステム化し、中国語をはじめとするeラーニングサービスを日中両国で展開。日本のソフトウェアベンダーの海外展開を支援するMIJSコンソーシアム理事、中国四川省成都市ソフトウェア業界協会顧問を務め、中国地方政府および現地企業との戦略提携及び中国人マネジメントの豊富なノウハウに定評がある。夫人は中国人で、数多くの日本企業の中国法務を代弁する著名な弁護士を義理の父に持つ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120528/232646/?ST=print
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