http://www.asyura2.com/12/china3/msg/153.html
Tweet |
http://diamond.jp/articles/-/18694
姫田小夏 [ジャーナリスト]
“北京・上海のセレブ”は幻想だった?
日本で中国人観光客の「ドカ買い」が消えた理由
銀座4丁目で観測された
中国人観光客の“変化”
銀座4丁目といえば中国人観光客の買い物の聖地。その銀座4丁目である変化が起きている。
日本のある化粧品メーカーがその変化の兆しをキャッチした。
「このところ1人当たりの購入単価が減少している」――
減少しているのは中国人観光客による購入単価だという。
人気の化粧品ともなれば、観光シーズンのかき入れ時には、スタッフ総動員でその対応に追われた。手押しのカートに100個単位で商品を詰め込む中国人観光客、大量に買い上げた商品を社員が銀座8丁目の観光バス停車場まで運ぶ――そんな光景は銀座の風物詩ともなりつつあった。
彼らの購買力は金額で日本人の3倍にも相当すると言われ、界隈では消費の牽引役とも認識されてきた。
そんな非日常的な「大量買いの中国人」は国を挙げて大歓迎され、いつしか「金持ちセレブ」ともてはやされるようになった。
ところが、昨年秋ぐらいから、購入単価が落ち始めたのだ。
さまざまな憶測が飛び交った。現地の景気の低迷が個人消費に影響をもたらした可能性を指摘する声もあった。だが、購入金額の減少は、実は税関検査の厳格化と密接に結びついていた。
次のページ>> これまでの携行品課税は「ほぼフリーパス」
背景に「ほぼフリーパス」から
携行品課税強化への移行
さて、こちらは上海の虹橋空港。羽田空港を出発する便が乗り入れることもあり、日々多くの旅行客やビジネスマンで賑わう。ところが、ここでは今までとは違った光景が見られるようになった。
「はい、そこのあなた、ちょっとこちらへ」
税関職員が旅行客を呼び止める。
日中を往復する中国人ビジネスマンのひとりは、「以前はほぼノーチェックに近い状態だったのに」と驚く。
海外に渡航する中国人の間でも「外国製品を持って帰ることができなくなったようだ」という噂が飛び交う。
税関当局にも多くの質問が寄せられる。
「イタリアから買ってきた粉ミルクは持ち帰れないのか」
「日本から郵送したストッキングが税関で止められたが、どうしてか」
明らかに、税関での取り締まりが一段と厳しくなったことが伺える。ターゲットとなっているのは「個人利用することを目的に購入した外国製品」だ。
そもそも中国では、数年前から個人利用の外国製品に対しては「携行品ならば総額5000元(現在、1元=12.5円)以下、郵送品ならば1000元以下であれば免税対象」とされてきた。が、実態は「ほぼフリーパス」状態。金額の設定自体が低すぎてナンセンスだと抗議の声もあったためだ。
次のページ>> 中国ならではの輸入法「代購」とは?
しかし、昨今の中国人客による大量の買い物は、明らかに「個人利用」を超えていた。それは「個人経営の店で販売する「ネットオークションに出品する」などの商売目的で買い付けられていたものだった。
こうした「個人の免税枠」で輸入して商売を行う不法分子は急増する一方。財源流出を恐れた中国当局が、取り締まり強化に乗り出したというわけだ。
「代購」で送り込まれる
郵送品も摘発の対象に
さらにマークされているのは海外からの郵送品だ。
中国はかつて物不足で貧しい時代もあり、在外の親戚や友人から送られてくる「物品」は「中国国内の同胞を助けるもの」として免税の対象となっていた。
ところが、ネット販売や「代購」の普及とともに、この個人輸入の免税措置を使っての「密輸」が著しく増加するようになる。「代購」とは、中国では海外の商品を手に入れたいと希望する消費者と、海外に渡航する観光客やビジネスマンを結びつけて、代理で買ってきてもらうという仕組みだ。
「1回1700円程度の手数料で、海外からの買い付けを依頼できる」ことから、ネットを通じて購入を依頼する「代購網(代理購買サイト)」もアクセス件数を伸ばしていた。
日本からは、「代購」を通じて粉ミルクやiPad、ストッキングなどが日常的に送り込まれていた。
中国は今年4月から海外製品の輸入税率とその分類表(詳細は「中華人民共和国進境物品帰類表」「中華人民共和国進境物品完税価格表」参照)を新たに発表し、これらへの課税の強化を打ち出した。
次のページ>> 日本企業の正規輸出品までが対象に
財政収入の落ち込みで
外資企業がスケープゴートに?
ところが、摘発のターゲットは個人輸入ばかりではなかった。それ以外でも、通常の貨物が税関で滞るケースもある。
つい最近、日本の大手企業A社が「定期的に」中国に向けて輸出する商品が、なぜか通関でひっかかった。
引っかかったのはなんと商品そのものではなく、「包装材」。確かに、パッケージの包装材はしっかりして丈夫なスチールボックス。「こんなに立派な包装なら、当然課税の対象になる」というのが、上海の税関の言い分だった。
A社は慌てて「この包装代金は商品価格に込みだ」という証明書を出したが、最終的には金額の訂正を迫られた。契約書の正本までも要求された挙げ句、事態が解決するまでの間の貨物保管料も課金された。
「かれこれ10年以上も日常業務のように同じ商品を輸出してきているのに、どうして今、突如として取り締まりの対象となるのか」とA社職員は首をかしげる。
個人輸入や貿易に対する取り締まり強化、その裏には中国の財政収入の落ち込みがあった。
国家財政部によれば、今年第1四半期の財政収入は18.4ポイント、税収は22.1ポイントも落ち込んだという。上海における第1四半期の財政収入は6.7%増にとどまり、伸び率は前年比30.4ポイントも落ち込んだ。重慶も11.3%にとどまり、伸び率の落ち込みは前年比64.6ポイントに及ぶ。近年は経済成長の高さから、40〜50%と高い伸びを示した地域もあったにもかかわらず、だ。
中国の専門家はこう指摘する。
次のページ>> 「ドカ買い」の正体見たり
「経済成長の減速から、増値税(付加価値税)、営業税、輸入税、法人税が大幅に落ち込んだ。また、土地取引に対する調整策が入ったことから、土地譲渡への課税や不動産取引税も減少した」
財政に黄色信号が点滅した結果、地方政府はあの手この手で金を巻き上げる算段に出た、というわけだ。搾り取るターゲットになりやすいという点では、外資企業にとってやりにくい時代が、この先しばらく続くかもしれない。
さて、興味深いのは「訪日観光客の大量買い」の謎が解けたことだ。これを可能にしていたのは、実質、税関当局による「お目こぼし」の免税措置だったというわけだ。
ここ数年日本各地で、来店する中国人観光客を「セレブ、セレブ」と下にも置かない歓迎ぶりだったが、このドカ買いは個人の財布の中身を使うのではなく、「業務用」や「販売用」としての、単なる他人からの「一時預り金」だった、ということになる。もっといえば、「日本への経済効果」として歓迎していたドカ買いは、密輸行為に他ならなかったのである。
近年、訪日する外国人観光客の中では断トツの消費パワーを示してきた中国人だが、「代購」に規制がかかった今、これが大きく縮小する可能性は大いにある。
もともと、誰よりも財布のヒモが固い中国人である。そんな彼らがこれから純粋な個人利用で「ドカ買い」をするのかどうか。日本にもたらす経済効果、もう一度ソロバンを弾き直してみる必要があるかもしれない。
質問1 震災後の中国人観光客の減少は、今年に入って回復したと感じる?
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。