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[地球回覧]マレーシア覆う「中進国病」
政府頼みの経済、自立遠く
マレーシアの首都クアラルンプールから車で1時間。港町クランの外れに広大な空き地が広がる。2006年に開業した「クラン港自由貿易地域(PKFZ)」。進出企業に免税などの特典を提供し、外資系製造業や物流拠点の誘致を目指す壮大な計画だ。
総面積は東京ドームのおよそ100倍の404ヘクタール。開発に投じた金額は125億リンギ(約4000億円)にのぼる。管理事務所の職員は「政府の許可を待っている企業がたくさんある」と語るが、開業から7年が過ぎても進出計画はほとんど聞こえてこない。
「人件費などコストが高い。インドネシアに進出した方が得だ」。日系企業幹部は打ち明ける。
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「東南アジアの優等生」と呼ばれたマレーシアが先進国入りを目前に足踏みを続けている。政府主導の開発戦略は壁にぶつかり、民間主導の成長路線を描けない。コスト競争力を失って成長が停滞する「中進国のわな」から抜け出す解を見いだせないでいる。
同国経済は毎年5%前後の成長を続け、表面上は好調を維持しているようにみえる。だが成長の実態をつぶさに観察すると別の姿がみえてくる。政府によるかさ上げだ。
ガソリンや小麦粉など日用品にはくまなく補助金が入り、消費者の負担は実際の金額の半分程度。民間投資は伸び悩み、政府が公共事業で穴埋めする。内需主導の聞こえはいいが、その代償として政府は国内総生産(GDP)比5%前後の財政赤字を毎年垂れ流す。
10年ぶりにマレーシアを訪れた日系企業社員はある変化に気づいた。国産車「プロトン」の退潮だ。01年に50%超だった国内販売シェアは下がり続け、今では20%をわずかに上回る水準。クアラルンプールに住むジョゼフさん(42)は今年、プロトンからホンダ車に乗り換えた。「プロトンはイメージが良くない」
プロトンは発展途上国からの脱皮をけん引したマハティール元首相肝煎りの企業だ。製造業の裾野拡大に役立つ国産車を育て、マレーシアの産業を高度化するのが設立目的だった。だが、この構想は志半ばで停滞している。
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マハティール氏が強力に推し進めた2つの政策がある。「ルックイースト政策」と「ブミプトラ(土地の子)政策」だ。ルックイーストは日韓企業を誘致し、製造業の育成を目指す政策。ブミプトラはマレー系を優遇する政策で「人種差別の側面がある」と批判される。だがマハティール氏の真意は、多くの農村に住むマレー系住民に仕事を与え、自立を促すことにあった。
外資系企業の優遇と安価な労働力の供給という2つの政策が結び付き、マレーシアは1980年代から急速な成長を遂げた。だがマハティール氏が唱えた「経済の自立」は実現していない。マレーシアの1人当たりGDPは約1万ドル。80年代初頭に同水準だった韓国、台湾に後れを取る。
国民は強い政府の指導力に頼り続け、民間主導の新産業は一向に育たない。上場企業の多くは資源大手ペトロナスなど政府系企業。米著名投資家のジム・ロジャーズ氏は「マレーシア企業には政府系の印象しかない」と手厳しい。
世界の成長センターとしてもてはやされる東南アジア。雁行(がんこう)の先頭を走るマレーシアが深刻な「中進国病」にはまっている。隣国インドネシアでも多額のガソリン価格補助など政府頼みの経済成長に懸念が広がり、投資資金の急激な流出を招いている。マレーシアが新たな成長シナリオを描けるかは、東南アジアの将来を左右する。
(シンガポール=吉田渉)
[日経新聞7月7日朝刊P.13]
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