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台湾の離島、カジノに揺れる
住民投票で誘致派が辛勝 中国マネーか自然保護か
中国大陸にほど近い台湾の離島、馬祖列島(連江県)。7月にカジノ誘致の是非を問う住民投票が行われ、賛成派が辛くも勝利した。台湾でカジノ誘致に賛成した地方自治体は初めて。中国の観光マネーを呼び込み、過疎化や不景気を食い止めたいとの切実な思いがある。ただ「自然破壊や風紀の乱れにつながる」などの反対意見も根強い。誘致の実現には多くのハードルが待ち受ける。
台北市内からプロペラ機で約50分。馬祖の南竿郷の小さな空港に降り立つと、海からの寒風がまともに吹き付けてくる。客待ちをしていた男性のタクシー運転手(43)は「カジノ騒動で馬祖が注目され、観光客が3割ほど増えたらしいよ」とまんざらでもない様子だ。
馬祖列島は中国の福建省沖にあり、大陸からの最短距離はわずか10キロメートルほど。晴れた日に高台に立てば向こう岸が見える近さだ。中台対立の時代に台湾が実効支配し、対空ミサイル基地などがある。ただ最近の中台関係の融和を受けて、軍隊は大幅に縮小。観光や基地関連の仕事に支えられてきた馬祖の経済は大きな打撃を受けている。
そんな馬祖でカジノ誘致運動が盛り上がったのは昨年末。米リゾート開発大手のウェイドナー・リゾーツの幹部が視察に訪れ、進出計画を島民に示したためだ。カジノやホテルなどの建設に加え、空港の大型化や島々を結ぶ大橋の整備にも資金を提供すると約束。ウィリアム・ウェイドナー会長は「馬祖を地中海のような一大リゾート地にする」とぶちあげた。
台湾当局は2009年から離島に限ってカジノを解禁。台湾本島の西にある澎湖列島で09年に住民投票が行われたが、否決された経緯がある。馬祖でも賛否両論が渦巻く中、連江県は7月7日に住民投票を実施。7762人の有権者のうち40.76%が投票し、カジノ誘致に賛成する人が投票者の約57%(1795人)を占めた。
賛成票を投じた連江県商業会の林中超常務監事(54)。「立派な空港ができれば交通が不便という長年の問題が解消する」と期待する。連江県の劉徳全観光局長も「マカオのカジノに来る8〜9割は中国人客」と指摘。「馬祖は主に福建省から上海周辺までの北方のお客を呼び込みたい」と“共存共栄”を主張する。
一方、反対派はこうしたバラ色の将来像に警鐘を鳴らす。連江県議会の李金梅議員(56)は「カジノは人々の価値観を変え、子どもたちの教育にも悪影響を及ぼす。失うものは大きい」と訴える。馬祖は世界でも希少な鳥、ヒガシシナアジサシの最大の繁殖地。大規模な開発で生態系への影響を懸念する声もある。
カジノ開設には台湾の立法院(国会)での法整備などが必要で、実現には最短でも5〜6年かかるもよう。一方、台湾の規定では住民投票は実施から3年が経過すれば、同じ内容を再度、投票にかけることが可能だ。カジノ反対派の自営業者、劉家国さん(60)は「3年後にもう一度、住民の意思を問いたい」と巻き返しを誓う。
中国政府が経済関係の強化で将来の「台湾統一」をもくろむなか、中国マネーに依存することのリスクも大きい。ただ台湾本島も含め、いまや中国からの観光客無しでは台湾の観光産業は成り立たない。対中国の「最前線の島」はそうした苦悩も映し出している。
(馬祖列島で、山下和成)
[日経新聞12月23日朝刊P.30]
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