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攻防 韓国大統領選
(1) 「まるで魔女狩りだ」
候補者登録(告示)を終え、大統領選が4日目に入った11月30日。サムスン電子会長の李健熙(イ・ゴンヒ、70)はグループトップ就任25周年式にあわせて約36万人の社員にメールを送った。「世界の超一流企業を目指してきたが、道のりは遠い。もう一度、革新の風を起こそう」
李は「超一流企業とは不断に成長し、創造的で、国民と社会に愛される企業だ」と説いた。それはサムスンをはじめとする韓国財閥が、羨望の対象ではあっても愛されてはいない証左でもある。
「もう、財閥たたきで大変なんです」。11月25日夜、ソウルで開いた有名歌手の音楽会。姿を見せた中堅財閥のオーナーは気の置けない友人を見つけるや、こう嘆いた。
財閥オーナーの心を乱すのは、ミサイル発射予告で急浮上した北朝鮮問題とともに、広がる経済格差の是正が争点になっているからだ。韓国では「財閥改革」とほぼ同じ意味で語られる。
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「これは庶民と貴族の戦いだ。財閥と特権層を守る勢力と戦い、経済民主化の時代を開く」。革新系野党、民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン、59)は告示後の記者会見で力説した。経済民主化は財閥偏重の経済構造を見直すキーワードだ。
サムスン幹部になれば年俸は数億ウォン(1ウォン=約0.08円)。一方、常用勤労者の平均年収は大手財閥社員のほぼ半分だ。輸出企業はウォン安で潤うが、一般家庭は物価高で苦しい。高級パン屋からトッポッキ(餅の辛いため)屋まで、財閥の貪欲な事業拡大に中小企業から悲鳴の声がでる。
▼グループ内で連鎖的に出資し、少ない資本で支配する循環出資の解消
▼財閥企業による他社への出資を抑える出資総額制限の復活
文の公約には財閥が恐れる規制が並ぶ。なかでも、循環出資はオーナー支配という経営の根幹に関わる。通常の持ち株会社に移行するのに、サムスンで1兆ウォン超、現代自動車で6兆ウォン超かかるとの試算もある。
「大統領選に勝てばとにかく財閥改革だ。覚悟しろよ」。告示前、文の側近はある財閥の担当者に言い放った。民主化運動に身を投じた文らは軍事独裁政権と「二人三脚」だった財閥にもともと強い拒否反応がある。
僅差ながら支持率1位の保守系与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クンヘ、60)も、7月の出馬宣言で真っ先に経済民主化に言及。中小零細企業を「大資本から保護する」とまで言い切った。大企業寄りとされるセヌリ党だが、文への対抗上、改革にカジを切った。
「格差是正の答えは経済成長のはずだ。魔女狩りのようなやり方で有権者の感情に訴えるのはどうか」。全国経済人連合会(全経連)常務の裴祥根(ペ・サングン、46)はため息をつく。
「循環出資は敵対的なM&A(合併・買収)を防ぐためでもあります」「日本の自動車会社もグループで出資が循環しています」――。全経連は裴を先頭に与野党の関係議員に「ご説明」のローラー作戦を展開。改訂を続けた説明資料はA4判で78ページにもなった。
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10月25日、国会内の大会議室。財閥に厳しい意見が相次ぐ討論会で、猛然と反論したのはサムスン生命保険金融研究所専務の李尚黙(イ・サンムク、51)だ。サムスンが世論の反発を受けて高級パン屋から撤退したことを引き合いに「パン屋をやめる程度ならともかく、それ以上は無理だ」。
効果はあった。11月8日、全経連など経済5団体幹部との懇談会で朴槿恵は「経済民主化は特定の大企業たたきではない。成長も同じくらい重要だ」と軌道修正した。
続く16日。朴は新たな循環出資の禁止などを盛った財閥改革案を発表した。事実上の現状容認だ。「朴周辺に激しいロビーがあった」。公約作りを主導した経済学者の金鍾仁(キム・ジョンイン、72)は嘆いた。
もっとも「朴政権なら安泰」とは限らない。「親財閥」の李明博(イ・ミョンバク、70)政権も任期後半は財閥に厳しい姿勢に転じた。朴も文も、不透明なグループ内取引や企業犯罪に厳格に臨む方針は共通している。
「どんな経済民主化でも我々には負担だ」。告示直前、サムスン関係者が朴陣営の幹部に電話をかけてけん制した。投開票は19日。「その後」もにらんだ攻防が始まっている。
(敬称略)
[日経新聞12月4日朝刊P.2]
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