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北朝鮮経済事情
(上)通貨価値、1年で半減 カップ麺1個 「月給」並み
金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が最高指導者となった北朝鮮を、9月末に訪れた。首都の平壌は都市開発を進めているが、至る所で富の配分のいびつさや経済再建の難しさもうかがえた。制約の多い北朝鮮で垣間見た、経済の現状を伝える。
ウォン信用せず
北朝鮮指導部は2009年末のデノミ(通貨呼称単位の変更)に失敗して以降、インフレを抑える対策に躍起だが効果は表れていない。中国製品がヤミ市場を席巻し、北朝鮮ウォンよりも人民元の方が通用する。
ホテルや外貨ショップで適用される外国人向け公定レートは、10月初めで1元(約12.5円)=15.89北朝鮮ウォン。単純に計算すると1円の価値は約1.27ウォンだ。だが同じ時期に両替所で見た両替レートは1元=940ウォン。1円=は約75ウォンとなり、約60倍の差がある。
北朝鮮関係者によるとデノミ直後は1元=5ウォンだったが、今年1月には同600ウォンまで下落していた。ここ1年間でも貨幣価値は半減したと明かす。
デノミの際、住民が保有する北朝鮮ウォンの大半は新紙幣に交換できず紙くずとなった。住民はウォン貨を信用せず、ヤミ市場では人民元しか通用しないことも多い。このためウォン暴落に歯止めがかからない。
物価はどうか。北朝鮮側の案内員は公務員の月収を3千〜1万ウォン程度と明かしたが、平壌市内の市民向けスーパーで価格を調べると中国製のポテトチップスが3千ウォン、カップ麺は6500ウォンと月給並み。北朝鮮製の棒アイスも700ウォンした。
案内員が「安い」と話す子供用インラインスケートは20万7800ウォンで、中国製26インチ型自転車は55万9800ウォン。どう見ても月収と釣り合わない。だが「必要なものは配給されるので十分な収入だ」と言い張る。
住民は月収だけで足りず、副業で生活の糧を得ようとする。地下鉄入り口では野菜や花を売る人の姿を見た。スーパーで買い物客の財布をのぞき込むと、最高額の五千ウォン紙幣の束が入っていた。中国製品の横流しなど副業でもうける人と、月収だけで暮らす人の格差は激しいようだ。
中国頼みが拍車
北朝鮮はマツタケなど農水産物や地下資源以外にめぼしい輸出品がない。中国からの輸入に頼む構造が、外貨流出やウォン安に拍車をかける。
今年1月オープンした平壌市内最大級の光復地区商業センターは、中国企業が65%を出資した。内装は中国式で、食料品や衣料品、電気製品の大半も中国製品だ。商品を陳列しただけの北朝鮮式スーパーと異なり、店頭で売る肉まんに人だかりができるなどにぎわっていた。
中国税関総署の貿易統計によると1〜8月の対中貿易赤字は、6億5100万ドル(約509億円)で過去最高ペース。外貨獲得には鉄鉱石や無煙炭など資源を切り売りするしかない。北朝鮮関係者は「輸出産業の育成を急がなければ、中国に資源を搾取されて衰えるばかりだ」と懸念する。
公式メディアは繊維工場や食品工場の生産拡大を報じ、平壌には「新世紀産業革命を旗印に掲げて戦おう!」などスローガンを掲げる看板が目立つ。金正恩第1書記は経済重視の発言を繰り返すが、出口の見えない経済の再建に加え、中国頼みからの脱却という重い課題ものしかかっている。
[日経新聞10月18日朝刊P.6]
(下)平壌は「ショーウインドー」 豊かさ集中、郊外と格差
北朝鮮では訪朝する外国人に「案内員」という監視役がピッタリ付き添う。それは今回も変わらなかったが、外務省幹部は「恥部は撮ってほしくないが、我々から『これを撮るな』とは言わない」と約束し、写真撮影を制限せず開放的な印象をアピールしようという意欲を感じた。
平壌は「ショーウインドー都市」と称される。北朝鮮の全人口約2400万人のうち約150万人が平壌市民というが、朝鮮労働党員や軍幹部ら限られた人しか住むことを許されない。地方よりも豊かな生活を保障する代わりに高い忠誠心を要求する。イベントのたびに動員がかかり、外国人の質問には決まった答え方を教えるとされる。
市内は続々工事
今回、平壌市内には高層ビルが立ち並び、服装に派手さはないが多くの市民が行き交っていた。「あれは今年できたばかりの高層マンション。今夏には偉大な金正恩(キム・ジョンウン)元帥が現地視察され、住民の労働者と親しくお話しされました」。案内員に家賃を尋ねると「家賃だけでなく医療費もバス代も無料だ」と答えた。
市民は列をなし、古めのバスや路面電車に乗り込む。トヨタのレクサスなど高級車が走り、インラインスケートに興じる子供の姿も見える。中心部を流れる大同江(デドンガン)の川岸には新しい開発区にスーパーなどを建設していた。
金正恩第1書記ら指導部一族の権威付けを狙った工事も、あちこちで進む。車窓からは、金日成主席と金正日総書記の遺体を安置した錦繍山(クムスサン)太陽宮殿の改築に駆り出された多数の労働者を見た。今年は平壌万景台遊園地、国家贈物館、平壌民俗公園など指導部発案の事業が相次いで完工した。
平壌市から車に乗って30〜40分で郊外に出た。目の前に稲穂がこうべを垂れる昔懐かしい田舎の風景が延々と広がるのを見て、ふと気が付いた。
コンバインなど農業機械が全く見当たらないのだ。中高年の女性が列になって腰をかがめて稲を刈り、脱穀後のわらを積み上げていた。「なぜ機械を導入しないのか。農業投資を優先すべきではないのか」。北朝鮮関係者に質問しても「今のところ手作業で十分。優先順位が違う」と述べるだけだった。
いびつな分配
体制を礼賛する施設の建設に莫大な資金や労働力を投じる一方で、農業生産への投資は行き届かない。平壌駐在の中国人ビジネスマンは「全国から富を吸い上げ、平壌市民だけに配分している。平壌の繁栄は富の分配のいびつさの象徴だ」と指摘する。
金第1書記は経済再建に積極的な発言を繰り返すが、体制を維持するために忠誠を誓う市民向けに改革姿勢をアピールしているだけとの疑念はぬぐえない。外国人の訪問を制限する地方の実情はどうなっているのか、平壌の町並みからはうかがい知れない。
(平壌で、島田学)
[日経新聞10月19日朝刊P.6]
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