10. 2012年1月29日 20:10:34
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ドルを発行している米連銀(FRB)の株主の多くはアメリカ人ではない。欧州や中国、インドネシア、日本などの複数の地域や国家に、ドルを刷る権利を持つ勢力(=株主)が存在しているのだ。 その結果、現在世界には2種類のドルが存在している。 「国際通貨として使うことのできるドル」と「アメリカ国内でしか役に立たないドル」だ。 実は、2008年の金融危機以降、FRBが刷っているドルは国際通貨として各国から相手にされていない。 この2種類のドルについて理解してもらうには、従来の金融界と今まで一般には知らされていなかった隠れた仕組みをを説明する必要がある。 世界中のどこからも独立していて、ドルや他の紙幣を刷る権利を持っている地域・団体(国家を含めて)が、現在252存在する。米ドルは昔から純粋なアメリカの通貨とはいえず、それらアメリカ以外の国・団体・地域でも米ドルの印刷、もしくは銀行のコンピュータに数字として入れる作業が行われてきた。 たとえば、日本に対米黒字があった場合、その分のドルは日本で印刷もしくは入力されてきたのだ。その際、通貨番号に対してある符牒が施され、その暗号によって国際通貨として認められるドルと、認められないドルに分けられてきた。 ところが、アメリカが金融立国へと舵を切った後、FRBはこうしたルールを無視してドルを発行するようになり、金融資本家と闇の権力者たちとの間で激しい利権争いが繰り広げられてきた。 特に問題となったのは、金融危機後の2008年9月以降にFRBが発行した13兆ドルだ。普通ならハイパーインフレを引き起こしてもおかしくない発行量であり、現在世界に出回っているドルの量をアメリカの実物経済の価値で割ってみると、今の1ドルは0.03セントの価値にしかならない。 それでもドルが暴落しない理由は、FRBやアメリカと同盟関係にある国以外の株主が発行しているドルに、まだ国際通貨としての信用があるからだ。この状況は、リーマンショック以降から続いている。 しかし、このFRBとその背後にいるドル石油体制を支持する闇の権力者たちの一派が刷るドルも、まだアメリカ国内や一部の国では使うことができる。そのため、彼らはダウ平均のかさ上げ工作や傭兵への給料の支給などが可能で、権力の座を維持している。 また、ジャンク債中心の債券市場やタックスヘイブンなどで自分たちの刷ったドルをマネーロンダリングし、世界で使えるお金に換えている。 2011年3月、WTI原油先物指数が2008年10月以来の1バレル100ドルを突破した。アメリカのQE2によって資源バブルが再来した形だ。前回の資源バブルは2008年7月にピークを打ち、その後雪崩を打つように崩壊した。 しかも、この資源バブルに追い打ちをかけるように、中東・北アフリカでの混乱が生じている。特に産油国であるリビアが空爆を受けていることにそれなりの理由がある。リビアは、世界でも指折りの高品質で採掘しやすい油田と天然ガス資源がある一方、カダフィは金本位制の新しい通貨を作ろうと計画していたからだ。もしこの計画が実行されていたら、金(ゴールド)の現物不足に陥っているフランス、イギリス、イタリア、アメリカはリビアの資源の取引相手から排除されてしまう。その狙いを頓挫させるために、反政府勢力の蜂起という形を取らせたのだ。 オバマは2011年4月27日、世界的な原油高騰への対応策として産油諸国に増産を要求した。しかし、原油価格に関して彼が懸念すべきは、実は別のところにある。 国際原油価格の指標とされる世界3大原油のうち、テキサス州で産出される原油と、イギリスの北海で算出されるブレント原油の価格差が広がっているのだ。2011年5月5日の時点で、WTIの価格は1バレル99ドルで、イギリスの北海ブレント原油の価格1バレル109ドル。 これまで、両者の価格は同等かもしくはWTIが若干上回るのが常だった。WTIが10ドル以上もブレント原油より安くなることは、まさしく異常事態なのだ。 このことが意味するのは、WTIがもはや原油価格の国債指標として機能しなくなってしまったことだけではない。現在も、世界のほとんどの国の原油取引にはドル決済が用いられているが、そのドルの価値に米国内と国外で差が生じているということなのだ。 国際通貨であるはずのドルの価値は、国外で大幅に低く見積もられている。 現在、世界のドルの約9割を保有しているのは外国及び外国人であり、国外でドルが信用を失うということは、通貨としての死を意味する。 ドルの死を予兆させるのは原油価格ばかりではない。FRBが2011年4月25日に発表したドルの実効レートは、1973年の変動相場制移行以来の最安値を更新。ムーディーズもフィッチもスタンダード&プアーズ(S&P)も、米国債の長期格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に格下げしている。さらに、中国で唯一ソブリン格付けを行う大公国際資信評価は、「アメリカはすでに債務を怠っている」として、中国を含めた債権者の財産の毀損を非難している。 これに先立ち、オバマは2023年までに社会保障費の削減や増税で財政赤字を4兆ドル減らす再建計画を打ち出したばかりだったが、効果はなかった。 ドルへの信頼が失墜する中、世界ではアメリカ離れが進んでいる。中国政府は3兆ドルものドル資産の3分の2を売却すする方針で検討に入った。ラテンアメリカでも、アメリカ支配からの脱却を目指す「中南米・カリブ海諸国機構」が発足する。 2008年金融危機後にFRBが刷ったドルの受け取りを拒否したのが中国だ。しかし、これが表面化してしまうと一気にドルの下落が始まる。そこで、中国国内の一部勢力やイギリスが間に入り、不足分を金(ゴールド)などの現物で立て替えてきた。そのおかげで、FRB発行のものも含めて1年ほどは世界でドルが機能した。 だが2009年9月以降、両勢力ともついにドルを支えることをやめた。これがイギリス王室と米連銀の所有者たちとの決裂の時だった。こうして2008年9月以降にFRBが刷ったドルが世界中から国際通貨として認められなくなり、札に印刷された符牒(=紙幣番号)によって世界で国際通貨として機能するドルと、しないドルの2種類が存在することになった。そして、符牒のあるドルは「1ドル=金1グラムの28分の1」の金本位制になっている。それがコモディティである金の高騰につながり、中国やインドなどが金準備を急速に増やしている要因にもなっているのだ。 この一連の出来事こそが、この金融危機後の混乱の隠れた原因なのだ。 世界のドル離れの傾向は顕著だ。中国の動きに同調したのは、産油国の王室だった。ペルシャ湾岸アラブ産油諸国(GCC)は同時期に新しい通貨を発表し、石油のドル建て取引をやめるという判断を公にした。 ちなみに、GCCはサウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、オマーンによる連合で、参加国全体のGDP規模は1.2兆ドル、世界の石油の約4割を握る一大勢力だ。 このGCCが中国、ロシア、日本、フランスと協議し、石油のドル建て取引ををやめると発表。今後は、日本円、中国元、ユーロ、金地金、そしてGCCが予定している通貨統合で作られる新通貨を加重平均した通貨バスケットを使うという。このビッグニュースは日本のマスコミでは黙殺されたが、海外ではイギリスのインディペンデント紙などが報じ、「すでに各国の財務相と中央銀行総裁がこの件で秘密裏に会議した」とまで伝えた。 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-11810920091006 (転載開始) アラブ諸国、原油取引での通貨バスケット建て移行を協議=英紙 2009年 10月 6日 11:55 JST [シドニー 6日 ロイター] 英インディペンデント紙(電子版)は6日、アラブ湾岸諸国が原油取引での米ドル利用を中止し、通貨バスケット建て取引移行に向け、ロシア・中国・日本・フランスなどと極秘に協議していると報じた。 ロバート・フィスク中東特派員によるこの記事を受け、ドル相場は軟化した。 同紙がアラブ諸国の関係筋および香港にいる中国の銀行関係者の情報として伝えたところによると、通貨バスケットは、円・人民元・ユーロ・金のほか、サウジアラビア、アブダビ、クウェート、カタールなど湾岸協力会議(GCC)関係国が計画している統一通貨などで構成される。 記事は「ロシア、中国、日本、ブラジルの財務相と中央銀行総裁らがすでにスキームについて極秘の協議を行っており、原油取引は今後、ドル建てにならないことを意味する」と指摘。また、この協議にはフランスも関与しているとされる。 同紙によると、米当局はこの協議が行われたことを認識しているが詳細を把握しておらず、「この国際的な陰謀には対処する」姿勢を示しているという。 ドル建ての原油取引を止めるとの観測はここ数年、度々浮上しているが、専門家の間では直ちにそうなる可能性は低いとの見方が有力だ。 (転載終了) 対米追従路線の日本、サウジアラビア政府はすぐにこの報道を否定したが、市場の受け取り方は違っていた。GCCの目指す石油取引の通貨バスケットに金地金が含まれると伝えられたことを受け、金相場が急上昇。ドルへの不信感を反映するように、その時点での史上最高値を更新し、1トロイオンス1050ドルを超えた(現在1731.8ドル)。 こうした石油取引のドル離れの動きは、なにも最近になって浮上した話ではない。中東の産油国がEUやロシア、日本などを巻き込み、石油販売をドル建てから諸通貨のバスケット建てに移行するというプランは、2006年ごろから何度も報じられている。 なかでもここ1、2年に起こった変化の注目点は、中東の親米国サウジアラビアがドル離れの陣営に加わっていることだ。 WTI(テキサス州原油価格)の「国際石油価格」は1バレル100ドル前後だが、毎日の石油売買のうち、どの程度がこの高値で取引されているのかは不明だ。産油国は昔から、イスラム諸国や開発途上国に対しては安値で石油を売る傾向があった。 最近も、サウジアラビアがイランに1バレル20ドルという国際価格の5分の1以下で原油を売っていることが明らかになり、話題になった。スンニ派が支配する親米国家のサウジアラビアが、シーア派を国教とする反米国家のイランに安値で石油を売る。従来の常識では考えられないことが起こっているわけだ。 実際、各王子が石油利権を分け与えられているサウジアラビア王室の中には反米的な王子もおり、彼らは石油を安値で各地の反米イスラム勢力に売っているという。中南米では、同じくベネズエラのチャベス大統領が周辺諸国に安値で石油を売り、反米勢力の拡大に力を注いでいる。 中国からのアメリカとドルへのメッセージは強烈だ。 中国は2009年のピーク時には2000億ドル保有していた短期米国債を翌2010年に見限り、現在では保有高を50億ドルほどにまで減らしている。しかも、アメリカ政府は2011年1月末(年に数回行う政府間の国際決済日)に支払い不能となった。すると、中国は長期米国債についても手放し始め、5カ月連続で売却し続けている。 また現在、米国債の金利は史上最低に近い水準にある。通常なら債券の金利が低いことは、買い手が多いことを示す。つまり、米国債のリスクはとても低い状態、ということになる。 ところが、米国債の将来のリスクを示すCDSの価格(債権の破綻に備える保険の料率)は、ガイトナーが国債の上限を超えてしまったことを発表した翌日の5月17日から急上昇し、6営業日の間に価格が3倍になった。現時点のCDSが示す「米国債が今後1年間に破綻する可能性」は、インドネシアやスロベニアの国債より高くなっている。 また、対米従属を続ける日本も、ようやく公にドルの危機を言葉にするようになった。 これは内閣府のリポートについて、ロイターが伝えた記事だ。 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-21412720110528 (転載開始) 世界経済は歴史的転換期、ドル基軸変質の可能性も=内閣府リポート 2011年 05月 29日 08:14 JST [東京 28日 ロイター] 内閣府は28日、世界経済の現状と見通しを分析した「世界経済の潮流2011年」をまとめた。リポートでは、市場の一体化が世界的に進む「全球一体化」と、新興国の台頭で、現在の世界経済は大きな構造変化が進行する「歴史的な転換期にある」と指摘。 日本は、一次産品価格の上昇を前提としたエネルギー戦略や貿易構造を構築することが必要だと主張した。新興国の存在感が高まることで「ドルを基軸通貨とする国際金融システムも、徐々に変質する可能性がある」との見通しも示した。 内閣府は「財」、「資本」、「労働」市場などで一体化が世界同時に進行している状況を「全球一体化」と名付け、単なる国際化を含意する「グローバル化」と区別して定義。財市場では、新興国の実需増や金融商品化が一次産品の価格高騰を招き、資本市場でも世界経済の不均衡(グローバルインバランス)の再拡大と新興国バブルが進む一方、先進国金融機関の寡占化や巨大化が進行するなどリスクが増大しているなどと分析した。 その上で、新興国の台頭で価値観が一段と多様となり今後の国際協調がさらに困難になること、新興国での所得格差が広がりが政治・社会の不安定性さを増大させかねないこと、優れた人材の流出が進みやすくなることなどもリスクとして列挙。日本は価格競争だけに頼らない産業・貿易構造を作り上げることや、経済・金融システムの健全性確保に向けた政策、財政の持続可能性確保に向けた取り組みなどが必要だと指摘した。 (転載終了) 「ドルを基軸通貨とする国際金融システムも、徐々に変質する可能性がある」という非常にソフトな表現ながら、内閣府がドルの衰退を指摘したことには希望が持てる。 イラク、コソボでは成功した闇の権力者たちの火事場泥棒も、今回のリビアをきっかけに大きくつまずく可能性が高い。なぜなら、彼らが作り上げてきた「基軸通貨ドル」と「覇権国家アメリカ」を使った支配のシステムに綻びが生じているからだ。 世界情勢になにか異変が起こると、かつてであれば為替市場ではドルが買われた。それは、最も安全なところに殺到する人間の心情であり、ドルは信認の厚い通貨だった。かつて非常時のキーワードは「有事のドル買い」であり、それが「有事のドル売り」へと変化することなど考えられなかった。 今回の中東・北アフリカの混乱を受け、為替市場ではドル売り、円もしくはスイスフランの買いが進んでいる。その背景には、中東・北アフリカの混乱が拡大して原油価格が高騰すると、ヨチヨチ歩きのアメリカ経済が再び減速するのではないかという読みがある。 原油価格高騰によってガソリンの価格が上昇すると、それがアメリカに暮らす人々の家計部門を直撃して個人消費を低下させる。そうなった場合、アメリカは沈み込み、ドルは価値を持たない通貨となる可能性がある。 こうした心理が「有事のドル売り」を呼んでいる。そして、そんな分析が大手メディアの誌面に堂々と掲載される。これこそドルの信認低下を象徴する現象だ。危機が生じた時には最も信頼性が高い通貨を持つことが重要であり、誰も受け取らないような通貨は使えなくなる。 つまり、取引の対価として、いつでも誰でも受け取る通貨、それが信認の厚い通貨というわけだ。これまで世界中で最も信用されている通貨が、基軸通貨の役割を担ってきた。20世紀初頭にはポンドがその役割を担い、1930年代にその座を奪ったのがドルだった。 ドルの信認が、金融危機を境に著しく低下している。この状況を理解するには「米ドル」の隠されたカラクリを説明する必要がある。 現実には中国に限らず他の多くの国々も米国債を売却する傾向にあり、金融危機以降にFRBが大量にドルを刷ったことも影響し、現在アメリカはひどいインフレに陥っている。 こうした状況を受けて、アメリカ国内では各州政府が独自の動きを見せ始めている。ドルのヘッジとして、原油や金などのコモディティが買われているのだ。 まず、ユタ州は連邦政府の経済運営に対する不信感から、事実上の代替え通貨として金の売買を容易にする措置を取った。具体的には、米国連邦政府発行の金貨・銀貨を法定通貨と見なす法律を州議会が可決。州知事が署名し、2011年5月7日に正式に発行した。 もちろん、これで金貨・銀貨の時代が戻ってきたわけではない。法律上の金貨・銀貨の扱いが、資産から通貨の範疇に入っただけだ。仮に重量1トロイオンス(31.1034768グラム)の50ドル金貨があったとしよう。今の金相場で換算すると、金貨には1859.5ドルの価値があり、法律上、資産として扱われてきた。 そして、従来はこの1トロイオンス金貨をコイン商で購入すると、買った人は売上税を払わなければならなかった。また、1枚1859.5ドルで買った人が2000ドルで売却した場合、売却益にキャピタルゲイン税が課されていた。しかし、法定通貨と見なす法律を発行したユタ州では、今後、通貨と通貨の交換、両替をしたという扱いになるので、どちらも非課税になる。 もちろん、金貨で買い物もできるわけだが、その場合の価値は額面通りの50ドル。1859.5ドルの価値がある金貨を50ドルの買い物の支払いに使う人はいないだろう。 それでも基軸通貨ドルのお膝元で、子供銀行券のような地域通貨ではなく、コモディティそのものがドルに代わる通貨として認められた意味は大きい。この出来事は、ドルへの不信感がはっきりとアメリカ国内に広がっていることを示している。 2010年11月8日、アメリカの金融保証会社アムバックが破綻した。地方債の格付けを行っていたこの会社の破綻は、日本ではほとんどニュースにならなかったが、アメリカの地方財政が危機的状況にあることを公にした。 アムバックは、もともとアメリカの州政府、地方政府などが発行する地方自治体債「ミュニシパル・ボンド」に保証を付けていた会社。 本来、州をはじめとする地方政府の決算は一般投資家にとって不明瞭な点も多い。地方公共サービスを提供している以上、赤字だからリストラというわけにはいかず、一定以上のリスクはあったわけだ。それでも地方政府が倒産するわけがないという思い込みと、いざとなれば保証会社であるアムバックがあるということで地方債の価値は保たれてきた。2008年の金融危機の時に「(影響が)大きすぎて潰せない」と救済された保険会社AIGの、地方政府専門版だと考えていい。 それだけにアムバックは全米でも有数の安全な会社だと考えられ、同じく地方債は安全資産として、公的年金や個人年金の401kなどの優良な受け入れ先になってきた。ところが、その保証業務を行ってきたアムバックが倒産したことで、債券の価値や流通価格がわからなくなり、取引は停滞。地方債は急落し始めた。 アムバックもまたサブプライムローンの加害者であり被害者でもある。過去に戻ることはできないが、地方政府の格付けのみに専念していれば破綻することなどなかった。だが証券化商品の格付けに手を出した結果、サブプライ問題を契機に経営が悪化。ついに倒産するに至ったのだ。 問題となるのはアムバックが本業としてきた地方債の格付け業務だ。一定の基準がなくなったことで、どの地方債が安全なのかわからず、投資は止まってしまった。 その結果、地方政府は財源を確保できず、公共サービスを提供する人々に支払うキャッシュが不足。事実上倒産したカリフォルニア州が2009年に行ったように、学校が週3日になり、病院が1日2時間営業になり、警察が閉鎖されるということが現実に起こる。 連邦政府はこれ以上支出を拡大することが許されない状況にあり、2009年もカリフォルニア州の救済に乗り出さなかった。ひとつの州を救えば、他の州も救済するしかなくなるからだ。FRBは米国債を買い取っても地方債には手を出さない。2008年にデフォルトした地方債の総額は81億5000万ドルで、2009年は63億5000万ドルに上っている。 地方債は急落しており、運用していた公的年金の投資損失は今後表面化していくだろう。優良資産と見られていただけに金額も大きく、運用者の被害は甚大だ。このままいけば、全米各州で公立学校や警察、病院、空港などの公共インフラの活動がストップする可能性が高い。 地方自治体債「ミュニシパル・ボンド」の市場規模は、2兆8000億ドルに膨らんでおり、そのうちの2兆ドルを個人投資家が保有している。かつては税制上の優遇措置があり、元本を確保しながら金利を得たい投資家にとって堅実で最適な投資商品とされてきた。 ところが、ここにきてカリフォルニア州やイリノイ州、ネバダ州などで累積赤字が拡大し、金利が急上昇。投資家にとっては、ローリターン、ハイリスクな投資商品となっている。もしどこかが破綻すれば信用不安が一気に広がり、アメリカは金融危機に続く第2の経済危機に陥るとの懸念が強まっているのだ。 さらに、金融危機を予言したことで著名な金融アナリスト、メレディス・ホイットニーは、2010年12月末にテレビ番組で「50〜100ほどの地方政府がデフォルト(債務不履行)に陥り、損害額は数千億ドル規模になる」と発言したことも不安心理を高めた。41歳のホイットニーは、「フォーブス」誌が選ぶ「ベスト・アナリスト」にもランクインしたことのある著名な女性で、2008年の経済危機を予言。彼女の発言は、市場で絶大な影響力をもつ。 地方債を持つ個人投資家は、本来いったん購入した後は持ち続ける傾向が強く、赤字額が膨らんでもリスクが低いとみなされてきた。ところがその個人投資家たちは今、次々と地方債を手放している。個人投資家が、3ヵ月以上にわたって地方債投資信託を売っているのだ。201年11月から2011年1月まで、彼らが地方債関連の投資信託から引き出した資金は350億ドルを超える。 ITバブルと不動産バブルを経験して、投資家たちはびくびくしている。爆発しそうな爆弾があったら、いっせいに逃げ出すだろう。 各州政府の財政赤字は2012年会計年度に1400億ドルにも達する。2009年に米議会で成立した景気刺激策のもとで交付されていた助成金も2012年で打ち切られる。各州政府は今後独自に予算を組まなければならないが、先きは厳しいだろう。 危機的状況をわかりやすく語ったのは、ニュージャージー州のクリスティー知事だ。「今回の財政難は、今までとは違う状況だ。何が以前と違うのかというと、予算カットしてはいけない領域まで手をつけなければならない状況に追い込まれていることだ」。 つまり、義務教育や医療、公務員年金など、絶対に削減できないと言われてきた分野の予算を削減しなければならないのだ。しかもアメリカの州政府については、破産宣言をしようにも法律上の規定が存在しない。そこで、連邦議会では有力議員が、「連邦議会の開催早々に、下院共和党が州政府倒産法案の検討の場を設けることを期待する」と述べるなど、州政府倒産法制定の検討を促しているという。 知事が「予算カットしてはいけない領域まで」と語ったニュージャージー州は、全米でも手厚い水準だった教育費を大幅に削減。子供たちが大きな被害を受けている。同じニュージャージー州ニューアーク市では警察署への予算が削減され、多くの警官が解雇された。その結果、2010年の自動車盗難数が60%も増加したという。 アイダホ州では、低所得の高齢者や障害者への助成金が削られ、ミシシッピ州では同州が運営する唯一の非行青少年訓練施設で100人分以上の職がなくなった。 そして、イリノイ州では囚人を刑務終了を待たずに釈放することが提案され、議会で承認されかけたが、世論の反対を受けて何とか撤回されるという事態も起こった。 ところが、全米最悪の財政危機の中で予算成立のために大幅な歳出カットを実施したカリフォルニア州では、刑務所に関する12億ドルのコスト削減を実行。この合意の中には、2万7000人の囚人を早期釈放する計画が含まれている。現在、カリフォルニア州の囚人数は16万8000人なので、囚人の16%が早期釈放の対象となる計算だ。 また、同じカリフォルニア州のオークランド警察では、今後も厳しい予算削減によるレイオフが続くようなら、「恐喝、窃盗、空き巣、車荒らし、個人情報盗用、公共物破損行為などでは、通報を受けても対応できない」と発表した。 カリフォルニア州の失業率は2011年4月時点では、11.9%。しかし、仕事を失ってから1年以上たった人、職を見つけたものの短期の非正規雇用で食いつないでいる人など、半失業状態の人を加えた失業率(U6)は35%を超えている。街には失業者があふれ、そこに、科された刑を全うせずに出所した囚人たちが加わり、警察は人手不足に陥っている。治安悪化は免れないだろう。 雇用と治安の悪化という意味では、アメリカ北東部にあるミシガン州最大の都市デトロイトの惨状にも触れておきたい。自動車の街として知られてきたデトロイトでは、GMやクライスラーの破綻によって、組み立て工場だけでなく多くの下請け会社も潰れていった。同州の自動車工員のじつに半数以上、55%が解雇となっている。 その結果、デトロイトから人々が逃げ出していった。かつて200万人が暮らしていた街が、今では80万人にまで減少。治安は悪化し、富裕層は次々に郊外へと脱出し、市内には空き地や巨大な廃墟ビルが数多く存在している。 今も市街地には3万件を超える放置された住宅があり、50校近い学校が閉鎖された。現在、デトロイトの一番の悩みは、町の「ドーナツ化現象」だ。ダウンタウンを丸く囲む部分がスラム化、廃墟になってしまってかなりの年月がたつという。ほとんどの市民が郊外の住宅地に移り住み、このあたりは、かなり治安の悪い地域になってしまったのだ。しかし、郊外に住む人がダウンタウンに通勤する場合には必ずここを通らなければならない。中心街まで車で20分圏内というこの地区に、なんとか人を呼び戻そうと、空き家になっている家を、3年以上住むという条件で、1軒なんと「1ドル」で売り出す政策も始まっているのだ。 貧困の拡大は治安の悪化を加速させる。地域経済は地盤沈下を起こし、税収は減り続け、そのダメージは今後も各州の財政に跳ね返っていく。アメリカの各州は今、いつ終わるともわからぬ負のスパイラルに陥っているのだ。 例えば、笑うにえ笑えないこんな事態も進んでいる。アメリカ中で維持費の高いアスファルト道路が掘り起こされ、砂利道に変わっているのだ。サウスダコタ州では100マイルのアスファルト道路が砂利道に変わり、ミシガン州の83ある郡のうち38の郡が、いくつかのアスファルト道路を砂利道にしたという。 また、ニューヨーク市では警察、衛生、文化、高齢者対策など多部署で人員削減を進めた結果、20の消防署で宿直を廃止。図書館の閉館日が増え、9000カ所で道路の穴が補修されずにいる。 こうしたニュースは日本のメディアではほとんど報じられていないが、アメリカで暮らす人々は身近で起きている社会基盤の後退を肌で感じている。 例えば失業問題もそうだ。2011年5月発表の完全失業率は9.1%だが、U6失業率はは16%台で推移している。この労働市場に空いた大きな穴は、いずれ埋まっていく循環的なものか、埋まることのない構造的なものなのか。 シカゴ大学の経済学者ロバート・シャイマー教授は、循環的変化でもそれが長期間にわたれば構造的変化になると指摘する。難しい言い回しだが、要するにスキルの高い働き手でも、失業期間が長くなればなるほど復職が難しくなるということだ。 シャイマー教授の調査によれば、失業して1週間の人が1カ月以内に仕事を見つけられる割合は51%だが、失業期間がそれ以上になると復職できる割合は極端に低下する。失業期間が6カ月以内の人が仕事を見つけられる可能性は平均31%、失業期間が6カ月を過ぎると19%に低下し、1年以上に及ぶと14%しかなくなる。 つまり、シャイマー教授の調査に基づけば、失業期間が1年以上に達してしまった人が仕事を見つけられる確率は、失業後1週間の人が仕事を見つけられる可能性に比べて、4分の1程度ということだ。 失業問題の改善について、アメリカ政府は全力で取り組んでいるとアピールしているが、失業率は高止まりを続けている。簡単な足し算をしよう。 2011年5月時点の完全失業率9.1%を人数に直すと1398万人。ここに復職の意志を持ちながら半年以上職のない620万人と、就労せず労働の意志のない非労働人口8650万人を足す・・・。その数は1億48万人だ。 もちろん、非労働人口には学生や専業主婦なども含まれるため、全員が不況の影響で職を失ったわけではない。それでも、世界で11番目に人口の多いメキシコの人口が1億1000万人、フィリピン人の人口が9200万人、ドイツの人口が8200万人。全米の失業者と非労働人口を足した1億48万人という数字が、いかに大きなものかわかるだろう。
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