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経済衰退の結果、米国の軍事力も衰退しており、中露等への抑止力として機能する時間も、あまり残されていない
今後の、日本の軍事外交戦略を、どう組み立てるかが問題だが、
民主党も自民党も、対米従属と対中従属の間を揺れるだけで
例によってあまり期待はできないか
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120111/226040/?ST=print
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米国の新国防戦略が日本にもたらす“危機”大統領選向けの「強気」と、「軍事費削減」は両立しない
2012年1月13日 金曜日
川上 高司
オバマ大統領は1月5日に、米国の新国防戦略「全世界における米国のリーダシップの堅持−21世紀の国防戦略の優先事項」(国防戦略の指針)を発表した。この新国防戦略はイラク戦争とアフガニスタン戦争が終了した後の状況、そして軍事費を大幅に削減する必要を受けて出したもの。「今後10年間を視野に入れた米軍の新戦略を示す、非常に重要な指針となる」(パネッタ国防長官)。歴史的転換となる新国防戦略には3つのポイントがある。第1は、米軍の2正面戦略からの後退とアジア・シフト。第2はアジア地域の同盟国(日本、韓国)への影響。第3は米大統領選挙と中東への影響である。
2正面戦略から撤退し、中国ヘッジにシフト
まず、2正面戦略からの撤退とその影響である。オバマ大統領は政権を発足させた時、「米国は、同時に生起する2つの大規模戦争に対処する」(QDR2010)と述べ、冷戦後の政権が一貫して採用してきた2正面戦略(2MRCs)を踏襲した。だが、これを撤回し、「1正面プラス(ワンプラス)」戦略への移行を宣言した。これは、「1つの地域での大規模戦争対処と、同時に生起する1つの地域での敵の意志と能力を粉砕する」もの。
この撤退の背景には、言うまでもなく米軍事費の大幅削減がある。2011年8月に成立した予算管理法で、これまで削減に関しては聖域であった国防費を、今後10年間で4870億ドル(約37兆5000億円)以上削減せねばならなくなった。このため、激動する世界情勢における「米国の戦略的利益がある地域」で、「米軍が軍事的優越を効率的に確保する」必要が生じたのである。
オバマ政権は新国防戦略に基づいて国防費削減案をとりまとめ、2012年2月初旬に公表する予定である。予算を配分する最優先分野として、特殊作戦部隊や、無人機を使った偵察能力向上を挙げている。これは、南シナ海やホルムズ海峡などの地域で、米軍の戦力展開を阻止する動きを見せている中国やイランに対して「米軍が効率的に優位を確保する」ためだ。また新国防戦略は「戦略的利益がある地域」として、アジアと中東であると明記した。北朝鮮とイランに対して、誤ったシグナル――米国がこれらの国への関与をやめる――を送らないためだ。
しかしながら実態は、米国の「戦略基軸」(ストラテジック・ピボット)のシフト――イラクとアフガニスタンに展開していた米軍兵力をアジアへ移動させる――となる(クリントン国務長官)。この決断は、オバマ大統領が2011年11月にオーストラリア議会で既に宣言している。
ゲーム・チェンジャーとして台頭する中国をヘッジすることが狙いだ。中国は、対艦弾道ミサイルを増強するなど、米軍の接近を阻止する能力(A2AD)を増強させている。これに対して新国防戦略は「長期的に見て、地域大国としての中国の台頭は米国の経済及び安全保障に影響を及ぼす」と明記。台頭する中国をヘッジしながらアジア地域での地域覇権を維持しようとする米国の強い戦略的意図が見てとれる。具体的には、A2ADの動向をにらみながら、陸軍と海兵隊の人数を削減する一方、Air-Sea(空軍力と海軍力)とサイバー及び宇宙における戦備を増強する。
米国は日本と韓国を本当に守れるのか〜重要性を増す普天間基地と在沖海兵隊
米国の新国防戦略は、同盟国にも様々な影響を及ぼす。特に、韓国では議論が噴出している。2011年12月に北朝鮮で金正日総書記が死去したのを受け、緊迫感が極度に高まっているからだ。このため、米国は北朝鮮に誤ったメッセージを送らないよう、新国防戦略の中で、北朝鮮に対するヘッジと朝鮮半島の平和維持に言及した。さらに、米国防総省は、新国防戦略が「韓国に(否定的な)影響を与えない」と韓国政府に対して事前に伝え、動揺が起きないようにした。
しかしながら新戦略は、今後、主要な戦争において同盟国や友好国を支援する際、オフショアー戦略に重きを置くと考えられる。これまでのように大規模な地上軍を投入するのではなく、Air-Sea(空海軍)主体の巡航ミサイルなどの遠距離精密打撃による支援に重きを置く方針だ。
この方針転換により、朝鮮半島の安全保障戦略を見直す必要が生じるかもしれない。例えば、朝鮮半島有事を想定した作戦計画 (OPLAN5027)は、米軍総兵力69万人を派遣することになっている。もし、OPLAN5027を見直すことになれば、北朝鮮のゲリラなど非対称戦力に対応可能な精密打撃兵器や情報・監視体制を早急に整えねばならなくなる。
こうした体制を整えるために、韓国は国防費を膨大に増額する必要に迫られる。「国防費を増額するよりも、朝鮮半島の平和を中国とともに維持した方が現実的だ」という見解や、「この機に乗じて北朝鮮との融和政策を推し進めた方がよい」という議論まで出てきている。このため米国は、「韓米共同局地挑発対処計画」――北朝鮮が韓国に対して局地的な挑発行動をとった場合の対応策――に署名する。想定される事態が生じた場合、米軍はE3ジョイントスターズ偵察機や、在韓米空軍及び砲兵部隊、在日米軍のFA18戦闘機、在日海兵隊を出動させる。
従って、日本への影響も大きい。新国防戦略が米軍のアジア・シフトを決定したのに加えて、朝鮮半島が有事対応状況となっている現在、沖縄の普天間基地と海兵隊の役割が一気に増した。朝鮮半島有事に備えて、また台頭する中国の軍事力に対して抑止力を高めるために、両者はより重要となった。それに加えて、米議会が2012年度の米軍グアム移転費用を認めなかったため、普天間飛行場の辺野古移転は非現実的なものとなった。
さらに米国は、以下の分野において、いっそうの協力を日本に求めるだろう。新国防戦略は「サイバー戦、特殊作戦、情報収集、偵察能力の強化が米軍の競争力を維持する」と述べている、さらに、米軍が増強すべき分野として、以下を挙げている。
・CT(対テロ)及び非対象戦(国家対国家ではない武力紛争)の抑止及び紛争の撃破
・安定とCOIN(対反乱作戦)
・敵国のA2ADに対する戦力投射
・WMD(大量破壊兵器=核兵器、生物兵器など)への対処
・サイバー及び宇宙空間における優位の確立
・安全で確実な核抑止の維持
・本土防衛と文民活動家支援
・プレゼンス維持
・人権と災害救援
具体的には、以下の分野における役割分担(RMC)が日米同盟に必要となる。
・無人機(UAV)や哨戒機活動を含むISR(情報・監視・偵察)の強化
・海上交通安全維持のための機雷掃海
・海上阻止活動
・捜索・救難
・日米軍施設・区域などの警護
・空中・海上給油を含む後方支援活動
・航空輸送、高速輸送艦などを含む海上輸送
・港湾・空港、道路、水域・空域及び周波数帯の使用
大統領選挙とイラン
新国防戦略は「アジアとならんで中東も重視する」とイランを牽制している。このことは、米国の大統領選挙と密接な関係がある。共和党の大統領候補は、オバマ大統領のイラン政策について「弱腰だ」(ロムニー元マサチューセッツ州知事)、「大統領になったらイラン核施設を攻撃する」(サントラム元上院議員)との批判を展開している。これに対してオバマ大統領も、イラン核問題に対して「いかなる選択肢も排除しない」と軍事攻撃の可能性を言明する。
しかしイランは、米国の軍事費削減に乗じて、米国の足下を見るかのようなしたたかな外交を展開している。イランは核兵器の製造を着々と目指しており(IAEA報告書)、核保有国となるのは時間の問題である。これに対してオバマ政権は2011年末にイラン制裁法案に署名し、EUや友好国に同調するよう求めている。
イランは「制裁するのであればホルムズ海峡を封鎖する」と示唆すると同時に、ウラン濃縮施設での濃縮作業を開始すると応酬した。イランの切り返しに対して、米英が「イランがホルムズ海峡を封鎖すれば軍事行動を辞さない」と応じるなどチキン・ゲームを展開している。
このように、今回の新戦略は、米国の国防予算削減や大統領選挙の事情もからむ。そして財政赤字削減のために避けられない軍事費削減が米軍の能力に与える影響が問われる。また、アジアにおいては、日本や韓国などの同盟国に対して米国が提供している拡大抑止(核の傘など)の信憑性の問題となって跳ね返る。
特に2正面戦略からの撤退は、イランと北朝鮮で同時に紛争が起こった場合、どちらに優先して地上軍を投入するか、優先順位の問題となる。また、イランのほか、アフガニスタン、パキスタンで紛争が起こった場合、兵力をどこから調達するのか。もしアジアからシフトするのであればアジアに軍事的空白が生じることになり、北朝鮮の軍事的暴挙を誘発しかねない。さらに、中国に対するヘッジへと米国が急に舵を切ることは、米中による軍拡競争や、偶発的な紛争の大規模な紛争へのエスカレーションを引き起こしかねない。非常にリスクが高い。米国の対中政策はヘッジと関与のバランスを保つのが望ましい。
以上のことから、新国防戦略と戦略基軸の論議は、「オバマ大統領の政治的フレームワーク(ブラフ)ではないか」(米シンクタンクCSISで日本を研究しているマイケル・グリーン氏)とする議論もある。これを否定することはできない。オバマ大統領にとっては、11月に控えた大統領選挙で勝利することが最優先課題である。中国、イランに対して弱腰の姿勢を見せれば選挙戦で致命傷となる。従って、タフな外交政策をとらざるを得ない。その一方で、軍事費削減という問題に直面して、米軍をペーパー・タイガー(張り子の虎)としてしまう可能性もある。これは日本に即座に跳ね返ってくる問題――米国が日本に提供する抑止力の信憑性が低下する――である。
このコラムについて
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著者プロフィール
川上 高司(かわかみ・たかし)
拓殖大学教授
1955年熊本県生まれ。拓殖大学教授。大阪大学博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、(財)世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官、北陸大学法学部教授などを経て現職。この間、ジョージタウン大学大学院留学。
RAND研究所客員研究員、日本国際問題研究所客員研究員などを兼務。また現在、参議院客員調査員、神奈川県参与、日本国際フォーラム政策委員、国際情勢研究所委員、フレッチャースクール外交政策研究所研究顧問、中央大学法学部兼任講師などを兼務する。
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