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米国の戦略変更、日本に大きなチャンス到来 アジア太平洋重視の軍事戦略に旋回する米国
2011.12.26(月)
鈴木 通彦
1 米軍事戦略の旋回軸
米軍がイラク撤退を完了、開戦から9年近く
12月18日、イラクに駐留していた米軍最後の部隊がクウェート国境を渡り撤退を完了した(写真は国境を渡り手を振る米兵士)〔AFPBB News〕
米国は最近、旋回軸あるいは要点を意味する「Pivot」という言葉をしきりに使う。似た意味合いで、「Keystone(要石)」あるいは「Cornerstone(隅石)」という語を、日本、特に沖縄に対して使う例が長く続いていた。
後者が、大陸に睨みを利かせる扇の要を意味するのに対し、前者は戦略の大きな転換(旋回)を示唆し、地域としての太平洋・インド洋、そしてその旋回軸としての東南アジアを感じさせる。
米国の軍事戦略は、大幅な財政赤字による国防予算の縮減、アフガニスタンを含む中東での軍事的混迷、および中国など新興大国の軍事力増強を受け、大きな岐路に立っている。経済の低迷で人気に陰りの見えるバラク・オバマ政権への共和党の政治攻勢がこれに拍車をかけている。
戦略の転換方向は、「アジア太平洋重視」だが、その視野に中国が好悪両面で大きく屹立している。
従来から、中国が米国益に大きく絡み、特に2000年以降、世界に責任を持つ期待感から主に対話を通じ「責任ある利害関係者(Responsible Stakeholder)」になることを促してきた。
しかし、COP(締結国会議)15におけるオバマ大統領と温家宝首相との実りのないやり取り、元の切り上げに対する非協力的な姿勢、一方的で不透明な軍事力強化、東・南シナ海での力を背景にした強い自己主張、あるいは国内の人権問題やチベット問題に対する強圧姿勢を見るに至って、対話主体には限界があると、力をより前面に出す方向に転じた。
その戦略は、中国との経済的な相互依存関係が極めて深いので、冷戦時代にソ連に対したような「封じ込め(Containment)」ではなく、あくまでも動かぬ「垣根(Hedge)」で進出を抑制するとともに、軍事と外交を併用し「不透明な軍事力の拡大をそれ以上進めず、責任ある利害関係者になれ」、そして「世界標準へ統合(Integrate)せよ」と促すものである。
封じ込めは包囲環を徐々に狭める攻撃的戦略であるが、だからこそそれと異なる共存を前提にした防御的なヘッジ戦略をとろうとするのである。
中国を世界標準に関与させ、Win-Winの関係を構築しようとするこの戦略は、方向性において間違っていない。
しかし、ダーウィンへの海兵隊の配備、ミャンマーへの政治的接近、沿岸戦闘艦のシンガポール配備に見られる南シナ海問題への介入などを、急速かつ一挙に進展させることで、中国にはあたかも封じ込めに見え、また周辺諸国に不必要な米中対立になると懸念する声も聞かれるようになっている。
さらなる問題は、この戦略転換が、必要で十分な資源投資を保証するものでなく、また大局的で長期的な国家戦略というよりも、次期大統領選を強く意識した政治的意味合いもあることであろうか。
2 世界関与戦略を維持できるかどうか瀬戸際の国防費の削減
2012年国防予算は、その厳しい事態が8月の国債発行額の上限引き上げで消滅したように見えた。
しかし、条件に付された10年間でさらに国防予算を含む1.2兆ドル削減の両党合意がならず、こと国防予算に関しては当初の4500億ドルに加え、予算統制法に基づくトリガー条項の発動によって、さらに5000〜6000億ドル、10年間で合計1兆ドル程度の削減が求められる異常事態に陥った。
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大統領提案が12年間に4000億ドルの削減を見込んだ穏当なものであったことを考えると、この削減額がいかに大きいか分かる。
しかし、9.11以降の国防予算の伸びは著しく、イラクやアフガニスタンでの作戦経費の増大と新兵器の高騰で、2001年予算の3160億ドルから、2011年には7080億ドルまで増大した。
この国防予算の肥大化が、財政赤字の元凶であることに変わりはない。その結果、大統領提案は、基本(Base)予算が5531億ドル、海外遠征予算が1178億ドル、合計6709億ドルで、ピークの2011年から少し減少する転換期の予算になった。
新アメリカ安全保障センター(CNAC)は、「厳しい選択:緊縮時代の責任ある国防」報告書で、最大限工夫しても、10年間に5000〜5500億ドルの削減が限度で、それを超えると、空母機動群や海兵隊などの海外展開戦力を削減せざるを得ず、結果として「世界関与戦略」の放棄を余儀なくされると述べる。
米国にとっての地域的重要性は、アジア太平洋、インド洋、中東、地中海周辺の欧州地域、地中海、南米、アフリカと続く。予算が削減されれば、後者への軍事プレゼンスが犠牲になる。
それでも、政権はもとより、民主党も共和党も世界関与戦略を放棄する意思はなさそうなので、実際に1兆ドルの削減には至らず、その半分程度がめどであろうか。いずれにしても大統領選向けの政治抗争の気配が強く、当面、政治の混迷は続く。
3 中東からの撤退と新たな混迷の懸念
オバマ大統領は、6月に、2014年のアフガニスタンへの権限移譲をめどに、駐留米軍10万人のうち、2011年末までに1万人、大統領選直前の2012年9月までに3.3万人を撤退すると発表した。
一方、北大西洋条約機構(NATO)各軍も、英軍が今年から2015年にかけ全面撤退、ドイツ軍が撤退完了時期は明示しないものの今年から撤退開始、フランス軍が2014年末までに全面撤退、オランダ軍がすでに撤退完了、そしてポーランド軍が2012年末までに全面撤退の予定である。また、12月15日には大統領自身がイラクからの完全撤退を宣言した。
しかし、これらは政治的意味合いの濃い撤退計画で、その後の安定に道筋がついたとは言えず、さらに混迷を深める可能性が高い。
11月に生起したNATO軍によるパキスタン軍誤爆事件が契機となり、パキスタンとの関係悪化もこれに拍車をかけている。これらから、「米国は政治的、軍事的な目標を達成せずにアフガニスタン−パキスタン地域を放棄しようとしている」との酷評も当たっている。
中東・南アジアを作戦区域とする中央軍司令部がカタールのアルウディード空軍基地にありプレゼンスを示しているが、一部の駐留部隊をアフガニスタンに残し、クウェートに再配置することで解決したいとしているものの、肝心の中東諸国はこれを歓迎していない。
イランの核開発は米国とイスラエルにとって深刻で、無理をしても対応せざるを得ないが、アフガニスタンやパキスタンには、当面、距離を置き、最小限の陸軍兵力とインド洋上からのプレゼンスという守勢にならざるを得ないのではないか。
4 中国・インドの軍事力増強と新たな火種
中国とインドという新興大国の軍事力増強が顕著である。特に中国の軍事力増強は、透明性が著しく欠け、海洋や宇宙、あるいはサイバースペースなど共通領域への節度のない進出が顕著である。
中国初の空母、「軍事力強化が目的ではない」 国防省
大連港に停泊中の中国初の空母「ワリャーグ」〔AFPBB News〕
そして、米中間の軍事対話は、経済的な相互依存の進展にもかかわらず、全く進展していない。
これに加え、日中間で尖閣問題が事案化し、南シナ海でベトナム、フィリピン、マレーシアなどと領土と資源問題が激化し、またメコン川流域の水問題で周辺諸国の対中嫌悪感も高い。
太平洋地域における、日本−沖縄諸島−台湾−フィリピンを結ぶ第1列島線および日本−小笠原諸島−グアム−ニューギニアへ連なる第2列島線での米中の軍事的攻防に加え、ミャンマーでは中国の港湾開発やガス輸送路、ダム開発の進展に攻勢をかける米国の政治的接近が見られ、さらにインドとベトナムがベトナム沖の資源探査・開発で協調するなど、米中に加えインドも参入し、南シナ海からマラッカ海峡へ焦点も拡大しつつある。
中国によるインド周辺国に艦艇の寄港地を確保する「真珠の首飾り」戦略に対し、アフリカ東部や東南アジアと連携を強化するインドの「ダイヤのネックレス」戦略も動き始めた。
オバマ大統領にとって、華々しく打ち上げたグリーン・ニューディール政策がほとんど成果を見せず、6000人以上の戦死者をイラクとアフガニスタンで見るに至って、米国民に明るい政策を提示しない限り、再選が危ういと懸念してもおかしくない状況にある。
米国として4年ごとの国防計画見直し(QDR)で打ち出した、中国の対アクセス/領域拒否戦略に対抗するエアシーバトル構想の具体化こそ、力に裏付けされた対中戦略を成立させる唯一の手段になるが、厳しい財政事情がその実現に大きく立ちはだかっている。
5 アジア太平洋地域重視戦略と日本
ヒラリー・クリントン国務長官が、雑誌フォーリン・ポリシー(Foreign Policies)11月号に寄稿した論文「太平洋の世紀にいる米国」が現政権の政策を端的に表している。
オバマ米大統領と中国の温首相が会談
インドネシアのバリ島で開かれた東アジア首脳会議で会談するバラク・オバマ米大統領と中国の温家宝首相〔AFPBB News〕
論文の主旨は、米国がグローバルなリーダーシップを取り続けるカギが、アジア太平洋地域に外交的、経済的、戦略的に投資することだ、というものである。
その重心は、太平洋とインド洋という2つの大洋を結ぶ地域にあり、この地域には中国、インド、インドネシアのような重要で強まりつつある国家が多数存在する。
まさに、そこが「Pivot」だということになる。そしてこの地域に対するスマートな戦略が必要だと言う。
これに呼応し、11月にインドネシアのバリ島で開かれた東アジア首脳会議(EAS)、東南アジア諸国連合(ASEAN)と米国との首脳会談、ハワイでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、大統領が重要な役割を演じ、アジア太平洋地域重視姿勢を力強く打ち出した。
その内容は、経済と軍事両面の米国益がこの地域にあり、厳しい財政状況にもかかわらず、積極的にこの地域に関与し、軍事投資を減らすことは絶対にないというものであった。
クリントン国務長官は、「日本、韓国、オーストラリア、フィリピンおよびタイとの同盟条約は、アジア太平洋における米国の戦略転換の支点(fulcrum)だ」として、北東アジアの日本や韓国から、太平洋とインド洋を含む広域に重視地域を拡大する意向を見せた。
これに伴い、米国は、(1)豪州のダーウィンへの海兵隊部隊の駐留、(2)ミャンマーへの経済制裁解除を予感させる政治的接近、(3)共有資産である南シナ海の航海の自由問題への軍事的関与を発表した。(3)はシンガポールへの沿岸戦闘艦の配備やフィリピンなどとの軍事演習を含む。
これらは、環太平洋戦略的経済連携協定TPPなど米国主導の自由貿易体制の構築、および中国の節度を欠く軍事進出に対抗するアジア太平洋地域重視の軍事戦略という大きな戦略転換である。
しかし、中国との経済的な共存による繁栄が大前提にあり、決定的対立に至ることはあり得ない。それゆえ、従来以上に軍事力を前面に出してはいるものの「責任ある利害関係者」へ中国を誘い込む戦略であることに変わりはない。
米国は、中国が第1列島線をある程度支配し、第2列島線に徐々に拡大しようとする今、北の日本、特に沖縄、および太平洋とインド洋の接点を睨む豪州北部を2つの前方展開基地として確保し、後方のグアム、ハワイと連携する大きな三角形で対中軍事戦略を構築しようとしている。
これにより、空母機動部隊、潜水艦戦力、戦闘機部隊などの海空戦力でプレゼンスを確保するエアシーバトル構想が可能になる。
しかし、膨大な資金が必要で、「世界関与戦略」と「アジア太平洋重視」という軍事戦略を米国だけで成立させるのはかなり難しい。周辺の同盟国との協調が欠かせない。
「対中安全保障戦略は、経済戦略の一部である」と言うほど中国に近かった豪州が、中国の節度を欠いた動きを懸念し、ダーウィンへの米海兵隊配備に同意するなど、米中の力を含めたバランサーになろうと戦略を修正した。
豪州が南のバランサーなら、日本は北のバランサーとして有利な地位を生かせる場所にいる。米中をうまくバランスさせ、日本にとっても有利な方向へと誘うカード、すなわち沖縄を含む世界最大の米軍基地を有し、中国と同規模の先端技術に優れた経済を持っているのである。
目覚めよ日本!!
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