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オバマ大統領がいらだっているワケ
CIAの秘密基地でテロ
CIAの秘密基地でテロ
アフガニスタンで米政府関係の施設に対するテロが立て続けに起きている。言うまでもなく、外交関係施設が集まる地域、とりわけ米国政府の関係する施設には、最大限の厳重な警戒体制がしかれている。しかし、その超厳重な警備の網をすり抜けて、反米武装勢力はテロを仕掛け、しかも成功させている。
9月10日、アフガニスタン中部のワルダク州にある米軍基地に大量に爆薬を積んだトラックが突っ込み、米兵77人が負傷し、アフガン人2人が死亡する自爆テロが発生した。またその3日後の9月13日には、首都カブールで武装勢力のメンバー数名が、建設中のビルから近くの米国大使館やNATO(北大西洋条約機構)軍司令部にロケット弾を撃ち込むという大胆な攻撃を行った。アフガン治安部隊はNATO軍の支援を受けて20時間近くもかけてやっと武装勢力を鎮圧した。
さらに9月20日には、カルザイ大統領を支える重鎮の一人で、タリバンとの和平交渉を担当する高等和平評議会の議長をつとめたラバニ元アフガニスタン大統領が自爆テロで暗殺された。カルザイ政権との和平に興味を示すタリバンの交渉者と称する「テロリスト」がラバニ元大統領の自宅を訪れ、同元大統領と握手を交わした瞬間に頭部のターバンの中に仕掛けていた爆弾を起爆させ、元大統領を含む数名を殺害した。ターバンの中に仕掛けた爆弾で要人を暗殺する自爆テロは、ここ数カ月で3度目となる。
9月26日には、カブールのCIA基地で、CIAの現地スタッフが基地内で銃を乱射し米国人を殺害する事件も勃発した。CIAの基地でテロが発生したのは2009年12月に次いで2度目となった。
アフガニスタンでもっとも警戒が厳重な首都カブールやその周辺で次々に起こされるド派手なテロに、オバマ政権は強い苛立ちを見せている。オバマ政権は「アフガニスタンでの軍事作戦は順調に進んでおり、タリバンの勢いは弱まっている」として、この7月に米軍の撤退を開始した。しかし、このオバマ政権の行動を嘲笑うかのように、米政府やアフガン政府に対する大掛かりで派手なテロが次々と起こされているのだ。
米政府はこうしたテロのインパクトを小さく見せようとしているが、そもそもテロとは政治的な目的でなされるため、「タリバンの力は衰えていない。カブールだろうとどこだろうと好きな時にテロを起こせる」という印象を世界に植え付けただけで十分に成功だと言える。
米政府高官の爆弾発言
一向に収まるところを知らない武装勢力のテロを受けて、オバマ政権は怒りの矛先をパキスタンに向け、猛烈な勢いでパキスタン政府を糾弾し、米・パ関係はまたもや崩壊寸前の危機に陥っている。
今年に入ってから、レイモンド・デービス事件やビン・ラディン暗殺事件を通じて米国とパキスタンの関係は悪化の一途をたどっていたが、さらに火に油を注ぐようなパキスタン批判が米政府高官から飛び出したことで、パキスタンでは米国と決別するかどうかを国の指導者たちが真剣に議論する事態にまで発展している。
「ハッカーニ・ネットワークは長きにわたりパキスタン政府の支援を受け、その庇護下に置かれており、多くの点でパキスタンの諜報機関ISIの戦略部隊だ」
9月22日、マイク・マレン米統合参謀本部議長が米上院軍事委員会でアフガニスタン情勢の現状について報告し、その中でアフガン・タリバンの一部として反米武装活動を続ける過激派グループ「ハッカーニ・ネットワーク」が、「パキスタン政府の手先となってアフガン軍やアフガン市民、それに米兵に攻撃を仕掛けている」と述べ、米国に対するテロ攻撃の責任がパキスタン政府にあることを明確にしたのである。
ハッカーニは、アフガン・タリバンのネットワークの一部として反アフガン政府・反米武装闘争を続けるグループで、アフガン東部から南部に広範な活動基盤を築き、今やアルカイダをはるかに凌ぐ強力な武装集団として米軍がもっとも手を焼いている勢力である。これまでも、パキスタンの諜報機関ISIがアフガン・タリバンやハッカーニに「聖域」を与え、様々な支援をしているという指摘は米政府から出ていたが、マレン議長のこの発言は、これまでのいかなるコメントとも比較にならないほど大胆かつ明確にパキスタン政府と反米武装勢力との緊密な関係を明らかにした。パキスタンとの関係をぶち壊しにする爆弾発言と言える。
「パキスタン政府がこうした勢力を、積極的か消極的にかにかかわらず支援をするということは、米国の利益を損ない、国際的な規範に違反し、潜在的には制裁に値するような深刻な問題である」
マレン議長は、「パキスタン政府がアフガニスタンにおける対米テロに責任がある」「パキスタン政府はテロ支援国家だ」と明言してしまったに等しい。これまでも水面下では米軍やCIAとパキスタンのISIは激しい暗闘を展開し、米国はパキスタンによるタリバン支援をやめさせようとあの手この手で圧力をかけてきたが、失敗に終わっていた。そしてアフガニスタンの治安が悪化していく中で、オバマ政権は遂にパキスタンを名指しで批判し、最大級の圧力を与える作戦に転じたようだ。
中国とパキスタンが大接近
しかし、パキスタンでは、このマレン議長の爆弾発言は、パキスタンを敵視する事実上の宣戦布告だと受け止められ、激しい反米感情を巻き起こしている。パキスタン軍トップのカヤニ大将は、「マレン議長の発言はたいへん残念なものでまったく事実無根である」と述べ、カル外相は、「責任をなすりつけ合うことは問題の解決に結びつかない。我々はそんな他人の責任を糾弾し合うゲームには乗らない。我々は成熟した責任ある国家でありたいからだ」と堂々と述べて米国の批判に対抗した。
私は9月26日、急遽イスラマバードへ飛んで現地の状況を取材したが、パキスタン国内はこのマレン発言を受けて蜂の巣をつついたような大騒ぎであった。911以来の米国との同盟関係を続けるべきなのかどうか、はたまた米国の下を離れるべきなのか、米国がパキスタンに軍事進攻してきたらどう対応するのか等々、国を挙げて大々的な議論を展開していたのだ。
パキスタンの大手新聞The Nationの記者カスワル・クラスラ氏は、「米国はアフガニスタンで失敗した。軍事的にもタリバンを屈服させることに失敗したが、もう資金もなくなり、大統領選挙もあるため、米軍を撤退させなければならない。自分たちの失敗の責任を転嫁するため、パキスタンをスケープゴートにした、と多くのパキスタン人が考えている」と述べた。
「米国がこれ以上パキスタンに圧力をかけ、パキスタンを敵視するのであれば、我々は米国との関係を見直し、中国との同盟関係を強化する。今、この国でこうしたコンセンサスが出来つつある」
クラスラ氏はこう説明した。ちょうど私のイスラマバード訪問と同時に、中国の孟建柱国務委員(副首相級)・公安相が中国の代表団を引き連れてイスラマバードを訪問していた。この中国政府の代表団は、米国との関係悪化を受けてパキスタン政府の要請に従い急遽実現したものだという。9月27日のThe News紙の一面には、ザルダリ・パキスタン大統領と孟氏が笑顔で握手する大きな写真が掲載され、「中国はパキスタンを支持する」と題した大きな見出しが躍っていた。
この記事によると、中国は、武装勢力との戦いや地域の安定と平和のために努力しているパキスタンを中国がこれからも支持することを再確認し、パキスタン政府は中国が「あらゆる大問題においてパキスタンを支持していること」に対して感謝の意を表したという。両国はまた、経済援助、技術支援、救援物資の提供や人道支援、復興支援などでも多くの合意に達し、中国がパキスタンに2億5千万ドルの緊急援助をすることも決まった。
ザルダリ大統領は、「中国はこの地域における安定の源であり、新しい時代の南アジアの平和と安定のための重要な存在だ」と述べ、孟公安相も「中国はいかなる時でもパキスタンの側に立って支える」ことを確認したと伝えられた。
パキスタン政府は、オバマ政権からの猛烈な圧力を受けて、米国に対するカウンターバランスとして中国との関係を強化して、米国の圧力に屈しない構えを見せて牽制をしているのである。一方の中国も、そうした役割を喜んで買っているようだ。
吹き荒れる対米テロ
パキスタンは911以降、10年間にわたり米国の対テロ戦争のパートナーであった。アルカイダを匿い、タリバンに聖域を与えながら、対米関係と自国の国益のバランスを巧みに保ちながら、のらりくらりと米国との同盟関係を続けてきた。
米国がパキスタンのそんな「ダブル・ゲーム」を許容してきたのは、パキスタンの協力なしにアフガニスタンでの軍事作戦が出来ないからだった。米国やNATO軍のアフガン作戦は、パキスタンからの兵站支援がなければ事実上遂行困難である。要するに米兵が必要な燃料や食糧をパキスタン経由で運ばなければ米兵はアフガニスタンで作戦を続けることができないのである。
中央アジアを使った北部輸送ルートも存在するが、パキスタンのカラチからアフガニスタンまでの輸送ルートに比べるとはるかにコストがかかる。ただでさえ戦費の捻出に苦しむ米国が、すべての物資輸送を北部ルートに頼ることは困難だろう。米国がパキスタンの「ダブル・ゲーム」を知りながらも、これまで関係を切れなかったのは、パキスタンなしにアフガン作戦の遂行は困難であり、しかも核を保有するパキスタンを失敗国家にしたり敵にすることは米国の利益にならないと判断していたからだ。
しかし、10年に及ぶ対テロ戦争の行き詰まりと一向に改善しないアフガン情勢を受けて、米国は非常に微妙かつ繊細なパキスタンとの関係を保つための一線を越えて、従来のパキスタンとの関係をぶち壊しにするところまで足を踏み入れてしまった。これにより過去10年間のアフガニスタン、パキスタン、米国の関係を維持してきた微妙なバランスが崩れ、南アジア地域は非常に不安定にならざるを得ない。しかも中国はその空白を埋めに入ってくる。
パキスタンの反米感情はもはや押さえることのできないほど熱く燃え上がっている。タリバンやハッカーニへの支援は止まらず、アフガン国内の治安はさらに悪化せざるを得ないだろう。ここで米国がパキスタンに対してさらなる圧力や限定的な軍事行動をとったとすれば、国内分裂傾向の激しいパキスタンは反米過激路線で完全にまとまってしまうだろう。
「米国はパキスタンが祖国とその独立を守りたいと願うパキスタン人の感情をまるで無視している。米国はわれわれと共に歩むことも、われわれなしで歩むことも出来ない」とパキスタンのギラニ首相は述べている。パキスタンは今、独立をかけて米国に対抗しようとしている。
オバマ政権の対テロ戦争は完全に行き詰まり、米・パ関係の悪化はさらにアフガン情勢の悪化を招くことになろう。今秋、アフガニスタンでさらに激しい対米テロが吹き荒れることになるだろう。
【参考文献】
“Statement of Admiral Michael Mullen, U.S. Navy Chairman, Joint Chiefs of Staff before the Senate Armed Services Committee on Afghanistan and Iraq ”, September 22, 2011
“Pakistan Knocks Back US Accusation of Militant Ties”, The Wall Street Journal, September 24, 2011
“Pakistan rejects US allegations about aid to insurgents”, The Washington Post, September 24, 2011
“Afghan gunman kills one at CIA base”, The Washington Post, September 26, 2011
“China stands by Pakistan: vice PM”, The News, September 27, 2011
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110928/222866/?P=1
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