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(回答先: 投稿者 ダイナモ 日時 2011 年 7 月 22 日 18:40:21)
http://www.awa.tohoku.ac.jp/rcns/wp-content/uploads/2011/07/b25972d0893851ffccb32fcaaa2eb6d2.pdf
国立大学法人東北大学ニュートリノ科学研究センターは、液体シンチレータ反ニュートリノ
観測装置カムランド(※1)での長期観測により、地球内部の放射性物質起源反ニュートリ ノの測定精度を大幅に改善しました。地表での熱流量(※2)との比較から、放射性物質が 地熱の生成に占める割合は半分程度であるということを世界で初めて実測し、地球形成時の 原始の熱(※3)がいまも残っていることを示しました。この成果は、7月18日に Nature GeoScience 電子版に掲載されました。
発表論文タイトル:“Partial radiogenic heat model for Earth revealed by geoneutrino measurements”
「放射性物質起源の熱生成は地熱の一部に過ぎないことを地球反ニュートリノ観測で解明」
論文著者:カムランドコラボレーション(※4)
【研究の背景】
地熱は、地磁気生成やマントル対流、ひいては地震や噴火の原因であり地球のダイナミクス を理解する上で大変重要です。また、宇宙の塵から現在の地球へと形成・発展していく過程で も重要な役割を果たします。それにもかかわらず、地球内部の熱生成を直接調べることは難 しく、主要な熱源と考えられていた放射性物質が地熱の生成に占める割合は、隕石測定など の間接的な手法に頼らざるをえませんでした。一方カムランドによる原子炉反ニュートリノ 観測でのニュートリノ振動の詳細な研究により、反電子ニュートリノの伝搬が解明されまし た。これをうけ、ニュートリノの高い透過性を利用して、光で直接観測することの出来ない 天体内部の観測へのニュートリノの応用が考えられるようになりました。 地球内部に分布し熱生成の原因となる放射性物質ウラン・トリウムも、反電子ニュートリノを 放出します。反電子ニュートリノに特別の感度があるカムランドは、平成17年には世界初 の地球反ニュートリノ観測に成功し、新分野である「ニュートリノ地球物理」を開拓しました。 これにより、ニュートリノ観測という全く新しい独立手法で地球物理における重要な知見を 得るために、さらなる研究の進展に期待が集まっていました。
【研究の成果】
カムランドでは、継続的にデータを蓄積すると共に、大規模な液体シンチレータの蒸留によ り放射性不純物からのバックグラウンドを 20 分の 1 にも低減し、地球ニュートリノ観測の精 度・感度を向上させました。今回の成果では、これまでに蓄積した合計 7 年 8 ヶ月分のデー タを解析し、106(+29 〜 -28) の地球反ニュートリノ事象を観測できました。この事象数は、全ての 放射性物質を考慮すると 21 兆ワットの放射性物質起源の熱生成に相当し、隕石の分析結果に もとづいた地球進化モデルの推定値 20 兆ワットと良く一致するとともに、地表での熱流量 44.2 兆ワットと比べて半分程度にすぎないことを意味します。地球反ニュートリノ観測によ って、地球の誕生・発展の理論や現在の地球のダイナミクスの理論に対して直接的な測定に よる強い裏付けを与えるとともに、ついに地熱の生成源を全て放射性物質に求める理論(fully radiogenic model)を排除したことになります。地表での熱流量から放射性物質起源の熱生成 を差し引いた残りは地球形成時の熱であり、原始の熱がいまも残存し、地球が徐々に冷えて いるということも自然に導出されます。今後は、さらに観測精度を高めることで、マントル の一様性などさらに詳細な地球内部の解明が進むものと期待されます。
(※1)神岡鉱山の地下 1000 mに設置され、直径 18 m の球形タンク内壁に張り巡らせた光センサーで、タンク 内に設置された 1000 トンの液体シンチレータで起こる素粒子反応を捕らえます。極低放射能の液体シンチレータ を実現したことで、低エネルギーの現象、特に反ニュートリノ反応に高い感度を持っています。2002 年に観測を 開始し、ニュートリノ振動現象の精密測定や、世界初の地球反ニュートリノ観測による「ニュートリノ地球物理」 の創出に成功してきました。現在は、宇宙開闢時に反物質が消えた謎やニュートリノの質量構造を究明するため の「ニュートリノを伴わない二重β崩壊」を研究するプロジェクト「カムランド禅」が進行中です。
(※2)地表での多地点ボーリング調査で温度勾配を測定し、地球全体での熱流量を算出できます。H.N.Pollack らの分析により、(44.2±1.0)兆ワットと計算されています。 H.N.Pollack, S.J.Hurter & J.R.Johnson, “Heat flow from the Earth’s interior: Analysis of the global data set.” Rev. of Geophys. 31, 267-280 (1993).
(※3)宇宙の塵から形成された地球はいったん溶融し、鉄を主とする重い成分の沈降により核が形成されまし た。その際解放された重力エネルギーが地球形成時の原始の熱(primordial heat)であり、その後の地球の進化に 大きな影響を与えます。
(※4)東北大学ニュートリノ科学研究センターを中心とし、東京大学数物連携宇宙研究機構、米国の12の研 究機関、オランダの研究機関からなる国際共同研究グループです。
赤線は地表の熱流量が全て放射性物質起源であった場合の地球反ニュートリノ流量(ニュートリノ振動の効果は 考慮済み)です。観測点(誤差棒付き黒点)は、明確に赤線より低い値を示しています。左図 a では、地殻とマ ントルのモデル予測も併記してありますが、観測データと良い一致を示しています。右図 b は、マントルからの ウラン・トリウムの寄与だけを取り出しました。地球反ニュートリノ流量から逆算したマントルでのウラン・ト リウムの熱生成量が 10 兆ワットであり、地殻のウラン・トリウムから 7 兆ワット、またカリウムなどから 4 兆ワ ットの熱生成があり、放射性物質起源の熱生成は合計 21 兆ワットであることが判明しました。
おおまかには、地表での熱流量(地球が宇宙に放射する熱量)44.2 兆ワットから放射性物質起源の熱生成 21 兆ワ ットをひいた残りが地球形成時の原始の熱となります。
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