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11月にも報道されたが13日の毎日新聞によると、原発関連施設の法定検査機関である独立行政法人「原子力安全基盤機構」の検査が、検査対象の事業者が作成した検査原案を丸写しした検査手順書(要領書)を基に、実施されていたことが明らかになったそうだ。この機構が発足した03年(平成15年)からだと報じられているが、それ以前の旧通産省時代のある時期からだと言っていいだろう。
原発関連施設で、核燃料を安全に使用するための法律として、「核燃料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」がある。国による安全検査を受け合格しなければ、核燃料物質を使用することが出来ないという法律である。この法律に基づいて、原子力発電の草創期から経産省原子力安全・保安院の前身である通産省の検査官が、核燃料工場や原子力発電所に赴いて検査していた。
処が、02年8月に起きた「東電原発トラブル隠し事件」*を契機として、経産省が主導して03年10月に、新たに設立したのがこの「原子力安全基盤機構」である。その後は、この機構の検査官が原子力安全・保安院に替わり検査することとなった。その実は、経産省がこの不祥事を奇禍として、新たな天下り先を創設したもの。いわゆる「焼け太り」である。だからこういうことがあっても不思議ではない。
原子力安全・保安院は、原子力だけに専任している訳ではない。原発以外の電力、鉱山、ガス、火薬などエネルギー関連の安全も所管している。当然、検査官はこれらの分野をローテンションする。しかも、いわゆるキャリアではなく、工業高校・高専卒のノンキャリアで、化学、機械、電気などで原子力を専攻した者はほとんどいない。そういう実態を引き継いで設立されたのが、この機構である。
福島原発事故を契機に、経産省原子力安全・保安院の組織見直しが言われている。その関連報道の中で、新人検査官が、原子力のイロハからを、メーカーの技術者から教えて貰っているとの記事があった。また、福島第一原発に常駐していた経産省の役人(=検査官クラス?)が、原発事故が発生した時、全く役に立たなかったことも報道された。彼らにはその任に堪える知識・能力が無かったと言うことになる。
この背景を理解するには、原子力発電所を自動車に譬えると良く分る。電力会社は自動車の運転手、発電所を建設し、核反応の設計をするGEや東芝(=WH)などは、自動車メーカーに当たる。核燃料製造企業はガソリン精製所で、検査機関である基盤機構はさしずめ車検工場になる。原子力安全・保安院の技官には知識はあっても、実務経験はない。言うなればペーパードライバーである。
日本での原子力の研究開発が始まってから60余年。本格的な原発の商業炉・軽水炉による発電が70年に始まってから40年余が経過。また、日本の大学に原子力工学科が設けられたのが60年である。原発の草創期である70年代に、日本の原発を推進した中心は、物理、電気、機械、化学、材料など多くの科学分野からの研究者・技術者の集団であった。今の原発関連諸機関では、原子力技術者が中枢を占めている。
処が実務を司る検査官は、必ずしも原子力を専攻した者とは限らない。原発の操業開始から40年も経過している。この間、経産省が検査の重要性を認識していたなら、国税庁が税務大学校を設け、国税専門官を養成しているように、原子力関連施設専門の検査官養成学校が、設立されていても不思議ではない。原発草創期に、僅か5年だが通産検査業務を経験した筆者でも、その程度のアイディアは浮かぶ。
今回、核燃料の製造・加工業者の検査要領書を丸写ししたことが明らかになったが、それが直ちに安全を損ねたとは思わない。それより問題が深刻なのは、安全検査をする能力を原子力安全基盤機構が有していないことである。財務・会計学を基礎とし、税の専門知識が無くて国税専門官は務まらない。それと同じだ。原子力工学を基礎とし、品質管理・材料・機械等の知識が無くて原子力施設の検査官は務まらない。
国民から徴税するための役人を育てる学校は設けるが、国民の安全を守るための役人を育てる学校は設けない。だが、天下りの機構だけは設ける。こういうことが問題だと、このニュースをみてつくづく思うのである。
*注:「東電原発トラブル隠し事件」とは、00年7月に東電の原発13基の点検作業を実施した米国GEの技術者が、その結果を基にして、原子炉内のトラブルを通産省に内部告発したことに端を発する。告発を受けた経産省が、東電に点検書の提出を求めたが、東電は「記録はない」と言って事実を隠した。紆余曲折があって、02年8月、東電が事実を認め当時の社長などが辞任した事件である。
http://www.olivenews.net/news_30/newsdisp.php?m=0&i=1
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